第137話 始まり
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現在連載している以下作品において、本作に描かれている人物が登場予定となっています。
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※私が投稿している作品の世界は全て繋がっています。全ての作品を読んでいただくことで、一層今読んでいる作品の理解が深まると思います。
《作品名》
2つの勇者パーティーを追放された太っちょ勇者 〜脂肪蓄積•脂肪分解スキルで敵を倒していたのに誰も見ていなかった。追放は契約書を交わしたから問題ないけど、異世界には大きな問題が発生していた〜
ヒナが落ち着きを取り戻すと、老婆を交えてしばらくの間、思い出話に花を咲かせた。
カンッ
カンッ
話をしていると、金属で何かを叩く音が響いてきた。
恐らく、鍬やツルハシでヒミリナとヒナが住んでいた隣にある建物を解体しようとしている音だろう。
「建物を壊そうとしてるんですか?」
「はい。この建物がある限り、民はイオセシルの呪縛に取り憑かれたままです。前に進むきっかけとして、壊すことで、形が欲しいのです」
神に縋って生きることを止め、前を向いて歩くことを決めたとしても、辛い過去の象徴が妨げているのだろう。
それ位、神として手助けしても問題ないかな?
「私が壊しましょう•••」
「ま、マリー」
私が提案しようとした時、ヒナが話しかけてきた。
「ヒナ、どうした?」
「わ、私が、や、やる」
「ヒナ•••」
ヒナは真っ直ぐな瞳で私を見つめてくる。
その瞳は子供のものとは思えない、明確な志を持った大人の瞳をしていた。
「分かった。お願いね」
「う、うん。あ、ありがとう」
私は老婆に事情を説明して、建物の近くにいる人達に離れるよう伝えてもらった。
頃合いを見て建物の表側に移動すると、少し離れた位置に多くの人々が膝を着き、祈る態勢で建物を見つめていた。
私とヒナはゆっくりと歩き、建物の正面、10メートル程離れた場所に並んで立った。
人々から「神様」「ヒナ様」という声が聞こえてくるが、それに構うことなく、私は建物を見つめているヒナの頭を撫でる。
「ま、マリー」
「ヒナならできるよ」
「う、うん」
ヒナは建物に向けて、両手の指で三角形を作った。
同時に体から黄金色の魔力が溢れ出し、全身を覆い始めた。
人々から響めきが起こるが、ヒナな集中を続け、全身が完全に魔力に覆われた。
「お母様」
私は魔力で覆われたいるヒナの肩に手を置くと、静かに頷いた。
ヒナも頷き返すと、一気に魔力を解き放った。
『ヒナ•カースト』
ヒナが唱えた瞬間、小さな三角は数十メートルの大きさに拡大し、建物に向かって一直線に放たれた。
三角の光が建物に当たった瞬間、黄金色の光が上空に昇り、建物は跡形もなく散りとなった。
その光景を見ていた人々は、何か取り憑かれていたものが解けたように表情が晴れやかになっていた。
そのまま私やヒナに駆け寄ってくるかと思っていた人々は、静かに立ち上がると、その場で深々で一礼し、踵を返して歩き出す。
小さなヒナが頑張りを見せたことで、神に頼らず、自分達でどうにか生きて行こうと、改めて心に誓ったのかもしれない。
「ヒナ、よく頑張ったね」
「う、うん」
頭を優しく撫でてあげると、ヒナは子供らしい可愛い笑顔を見せてくれた。
ヒナが生まれた場所だし、神に依存しない決心をした今の状況であれば、人間のマリー•アントワネットとして、復興支援の手伝いをしても大丈夫かな。
私は復興支援の第一歩として、『復元スキル
』を使ってヒナとヒミリナの家を元に戻した。
『復元スキル』はMPの消費があまりにも大きく、この異世界に来た当初に使って以来、あまり使用していなかった。
ただ、悪神となった今、MPの消費は抑えられるようになっており、ヒナの大事な場所を取り戻すために久々に使用してみたのだ。
「ま、マリー。い、家。お、お母様と、住んだ、家だよ」
「うん。ヒナもそうだけど、街の人にとってもここは大事な場所だと思うから、ちゃんと直そうと思ってさ」
ヒナとヒミリナの家は、年月により所々崩壊はしているが、中に家具が散乱していることもなく、埃が溜まっていることもなかった。
これは、街の人が定期的に掃除をしていたに違いないだろう。
それだけ、この家は大事な場所なんだ。
「ま、マリー、あ、ありがとう」
「うん。さぁ、他に復興できることを考えようか」
「う、うん」
私とヒナは、復興支援に向けて街の中を歩いて確認することにした。
しかし、手を繋いで歩き出した時、地面が震えるのを感じ、足を止めた。
地響き以外に、悪神である私の耳は遠くで轟音が響いているの確認する。
更に耳を澄ませていると、私の左手薬指の指輪が光った。
フシアナからのペアリングだった。
「フシアナ、大丈夫?」
「•••」
「フシアナ!!」
「•••」
何度呼び掛けてもフシアナからの返答はなかった。
見た目は幼く可愛いフシアナだが、力は魔王というだけあり並の魔族を凌駕する。
そんなフシアナが苦戦するとすれば、同じ魔王だけだろう。
「ヒナ、今から魔王国ブレイスワイトに行くよ」
「う、うん」
「危険かもしれないし、ここにいてもいいんだよ」
「い、行く」
「分かった」
私はヒナの手を取ると、『転移スキル』を使って魔王国ブレイスワイトに転移した。
転移した先には、激しい炎と煙が巻き上がり、私のお店やアミューズメント施設を含めた建物が崩壊し、倒れている魔族の姿があった。




