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第136話 ヒミリナ

★★★★ ★★★★ お知らせ★★★★ ★★★★


いつも本作品を読んでいただき、ありがとうございます。


現在連載している以下作品において、本作に描かれている人物が登場予定となっています。


よければ、こちらもお読みいただければ嬉しいです。


※私が投稿している作品の世界は全て繋がっています。全ての作品を読んでいただくことで、一層今読んでいる作品の理解が深まると思います。



《作品名》

2つの勇者パーティーを追放された太っちょ勇者 〜脂肪蓄積•脂肪分解スキルで敵を倒していたのに誰も見ていなかった。追放は契約書を交わしたから問題ないけど、異世界には大きな問題が発生していた〜






フシアナ、キャサリン達と別れ、私はヒナを連れてシンプリースト共和国にやって来た。



今は、ヒナと手を繋いだ状態でシンプリースト上空から街を見下ろしている。

前もって聞いていた話では、シンプリーストは人間国でも有数の人口が多い国だと聞いていた。



だが、眼下に移る景色は崩壊している建物や道、人が疎に歩いているだけで、一見廃村と見間違えそうな様相をしている。




歩いている人々を目で追うと、皆、一様にある建物に向かって歩いていた。

その建物は街のシンボルのように一際大きく、一際煌びやかなものであった。


そんな建物には大勢の人が集まっており、鍬やツルハシを使って建物を解体しようとしている。




私は隣で手を繋いでいるヒナを見つめると、黙ったまま頷いた。


生まれた場所、母親と過ごした場所、そして母親を亡くしたこの街に、降り立つ決心はできているようだ。




私は煌びやかな建物と少し離れた場所に降り立つと、ヒナの手を繋いだまま歩き出した。




「見覚えある?」


「わ、分かんない」



ヒナは街をキョロキョロと見渡しながら答えた。

ヒナは、どこか知っている場所はないか、思い出せそうな場所はないか、必死に首を振りながら探している。





「か、神様!!」



後ろからそう呼ぶ声が聞こえ振り返ると、そこには草臥れた信者服を来た老婆がいた。


因みに、シンプリーストの多くの人に私の顔を見られているため、『認識阻害スキル』を使わず悪神の姿でいる。




「来ていただけたのですね」


老婆はその場に両膝を着き、額を地面に当てながらそう言った。




「頭を上げて下さい」


「このような老いぼれに声をかけていただき、何と申したら良いか」



老婆は恐縮しながらも頭を上げると、私とヒナを交互に見た。




「少し聞きたいのですが、ヒミリナという人物をご存知ですか?」


「ヒミリナ様•••。もしや、隣にいらっしゃるのはご息女のヒナ様でしょうか?」


「知っているの?」




老婆は首を上下にゆっくり振ると、顔を覆い、声を上げて泣き始めた。




「ヒナ様なのですね!!ご無事で、本当に何よりでございます」


「知ってるんですね」


「はい。ヒミリナ様にはよくしていただきましたので。ヒミリナ様が事故で亡くなり、母親を追いかけたヒナ様が行方不明になったと聞いていましたので、本当によかったです」



老婆は瞳から大粒の涙を流しながら、ヒナを見つめている。




「ヒナとヒミリナが住んでいた場所は分かりますか?」


「は、はい」


「場所を教えてもらえますか?」


「もちろんです。よろしければ、ご案内いたします」



老婆は涙を拭い、家がある場所まで案内をしてくれた。

草臥れた衣服からも想像はできたが、老婆は痩せ細り歩き方は辿々しく、ここでの生活が豊かではないことが分かる。



勝手に老婆と言っているが、声の質からすると、40代位かもしれない。



神官長であったイオセシルは衣服も上等な物を身につけて、体型もふくよかな方であった。

上が私服を肥やす典型的な国だったのかもしれない。




5分程歩くと、最初に確認した大きく煌びやかな建物の裏にあたる場所に出た。

老婆は建物の外壁に沿って歩くと、少し離れた場所に壊れかけた木造の家が見えた。




「ここでございます」


「あ、あ、あ•••」


「ヒナ?」



ヒナは言葉にならない声を上げ、崩れかけた家の中に入って行く。

壁が所々壊れているため、中の様子が伺えるが、そこには古びたテーブルと暖炉が見えた。


中はボロボロの状態ではあったが不思議と埃は溜まっておらず、家具が散乱しているということもない。






「こ、ここで、ご飯、食べた」


ヒナは古びたテーブルを触りながら言うと、引き寄せられるように奥の部屋に進んだ。




「こ、ここ、お母様が、仕事、してた」


「ここで?」


「う、うん」



そこは6畳程の小さな部屋で、神官長であったヒミリナがここで仕事をしていたとは思えなかった。

もっと大きな、隣に立っている煌びやかな建物のような場所で信者の相談に乗ったり、多くの幹部を従えて仕事をしていのではないのだろうか?




「ヒミリナ様は、一切贅沢をせず、全て民のことを考え、動いてくれていました」


「あの隣の建物は?」


「あれは、元神官長のイオセシルが作ったものです。民から入信代と称して多額のお金を巻き上げ•••」


「入信代•••。ヒミリナの時は、信者はいなかったのですか?」


「はい」




それから老婆は詳しく話してくれた。

王国から独立しているシンプリーストでは、家畜を育て、田畑を耕して野菜を育て、自給自足の生活をしていたそうだ。


神を崇めていたのはヒミリナ時代から行なっていたそうだが、「信者」という制度が出来たのは、イオセシルが神官長に就任した時からということだった。





「イオセシルが神官長になってから、民は苦しみ、儀式の名の下に多くのものが亡くなりました」



老婆はその場に膝から崩れると、自然と目から涙が溢れた。




「神のお告げを信じた私達が悪いのです。ヒミリナ様が生きていれば、さぞ、この現状に嘆いたでしょう」



「そ、そんな、ことない」



ヒナは老婆の背中を摩りながら言った。




「き、きっと、謝ってる。そ、それと、これから、って、思ってる」


「ヒナ様•••」



ヒナは老婆の背中を摩りながら、自分の目から流れ出した涙を必死に拭っている。

大好きな母親がシンプリーストを不幸にしてしまったことに責任を感じ、それと同時に復興の希望を捨てていないことを小さな体で受け止めているのだ。





「ヒナ、お母さんは凄い人だったんだね」


「う、うん。ま、マリー?」


「んっ、何?」


「お、お母様に、い、いつか、あ、会えるかな?」




ヒナの目からは先ほどより大粒の涙が溢れていた。

そんなヒナに、私はこう答えた。




「どんな形かは分からないけど、会えるよ」



悪神である私の頭の中に浮かんだ言葉は、決して嘘ではない。

人は輪廻を繰り返す。


その中で徳を積み、神々に愛された者には必ず祝福があり、必ず報われる。





「きっと、会える」





私はヒナを抱き締めると、もう一度、力強く答えた。






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