第135話 マリーの誓い
私に抱き着きながら、フシアナは涙を流している。
よく見ると、周りにはフシアナの部下達が数十人いて、この状況に戸惑い、慌てふためいていた。
魔王国ヴィニシウスの最高幹部の魔王、フシアナが子供のように泣いていれば慌てるのも無理はない。
私の横にいるヒナも目を見開き固まっている。
「フシアナ、どうしたの?みんな心配してるよ?」
「だって、だって、狡いのじゃーー!!」
フシアナは更に強く抱きしめ、上目遣いで見つめてくる。
私より身長の低いフシアナの涙で潤んだ上目遣い攻撃に、思わず抱きしめ返す。
「フシアナ、いつまでも泣いていては、マリー大魔王様に迷惑ですよ」
女子中学生と幼女が抱きしめ合っているおかしな空間に、色気の塊のような魔王国ブレイスワイトの魔王キャサリンと取り巻きのサキュバス達が近づいてくる。
私は行ったことはないけど、夜のお店はこんな感じなんだろうな。
「キャサリン!!お主には妾の気持ちは分からんのじゃ!!」
「フシアナ、私はあなたの方が余程羨ましく思いますよ」
「嘘はいらぬのじゃ!!プリンにステーキ、マリー大魔王様のぬいぐるみまで持っているお主に勝てるものなどないわ!!」
フシアナとキャサリンの会話を聞いていると、フシアナが泣いている理由は、どうやら私が魔王国ブレイスワイトにだけお店を開店させたことにあるようだ。
魔王国ヴィニシウスには、チョコレートの購入を優先してはいるが、確かに自領内にお店があるのとは異なるだろう。
「な、な、な、な、こ、これは!!」
フシアナが私に抱き着きながら、今度は左手を触り、変な声を出している。
「ゆ、指輪、ダイヤの指輪、なのじゃ」
「ふ、フシアナ!?」
その場に倒れそうになるフシアナを支えると、自然とお姫様抱っこをする体勢になったため、そのままフシアナを持ち上げた。
「な、何を!!マリー大魔王様!!」
「それですわ!!先程からマリー大魔王にベタベタと抱き着き、挙句、魔王のくせにお姫様抱っことは!!私だって、私だって•••」
キャサリンはゆっくりとこちらに歩み寄ると、顔を赤くしながら「えいっ!?」と言いながら腕に抱き着いてきた。
幼女をお姫様抱っこし、左腕には妖艶な大人の女性が抱き着いている。
この異世界に来てから、何度も言ってきたが、私は女の子だよ•••
「ま、マリー、も、モテモテ」
「男にはモテないけどね•••」
それから、フシアナに新作の『マカロン』や『ペアリングスキル』を付与したシルバーの指輪をプレゼントし、ようやくフシアナは泣き止んだ。
その反対に、キャサリンはやや不機嫌になったが、今は我慢してもらおう。
2人の相手をしている間に、取り巻きのサキュバス達が広場にテーブルと椅子を用意してくれていて、そこでお茶をしながら話をすることにした。
「びっくりしましたのじゃ。マリー大魔王様の子供かと思ったのじゃ」
「ふふふ。一安心ですわ。よろしくね、ヒナちゃん」
「う、うん。よ、よろしく」
ヒナを紹介すると、勝手に変な誤解をしていた2人は笑顔で受け入れてくれた。
「それにしてもじゃ、マリー大魔王様。この指輪、綺麗なのじゃ。一生大事にしますのじゃ」
「う、うん。喜んでくれてよかったよ」
「オッホン。それで、マリー大魔王様。本日、我がブレイスワイト、我がブレイスワイトにお越しいただいたのは、私に、私に会いに来てくださったのですね?」
「あ、う、うん。あと、少し大事な話もしておきたくてさ」
「だ、大事な話!!」
フシアナが口一杯にマカロンを頬張り、左手薬指にはめられたシルバーの指輪を見せびらかし、キャサリンを睨んでいる。
「うん。キャサリンにもフシアナにも聞いて欲しいんだけど、他の魔王国が不穏な動きをしているらしいの」
「他と言いますと、ドレインリスタン、エストアリスタの2国ですね」
「あの2国が•••」
キャサリンとフシアナは、瞬時に魔王の目に戻り、お互いに顔を合わせて何やら確認を始めた。
「最近、ドレインリスタンとエストアリスタの魔王同士が頻繁に会っていると聞いていますわ」
「そうじゃの。元々あやつらは嫌いあっていたはずじゃ。何か企んでいるやもしれんのじゃ」
「そうか•••。ねぇ、そこの魔王って、フシアナとキャサリンよりも強いの?」
「力では、敵わないかもしれません」
「うむ•••」
キャサリンとフシアナは静かに俯く。
「大丈夫だよ。何かあったら直ぐに呼んで。私が倒すから」
「「マリー大魔王様•••」」
2人は顔を上げ、微かに笑みを浮かべた。
「マリー大魔王様ーー!!見てくだせぇーー」
「俺も俺もーー!!」
広場で話していた私達の元に、魔族の男達がある物を持って近づいてくる。
モウモウ(A)を狩ってくれ、サキュバス達を守ってくれている男達だ。
前回来た際、妙に懐かれてしまい、私も少年をそのまま大人にしたような魔族の男達を可愛く思っている。
「2,000G使って、ようやく取れたんですぜ!!」
「俺は700G!!」
「毎日、枕元に置いてます!!」
数十人の男達が私に集まると、みんなアームゲームの景品となっている『マリーのぬいぐるみ』を持っていた。
「みんな取ってくれたのーー??ありがとうーーー」
自分のぬいぐるみを大事そうに持たれていると、少しむず痒くなったけど、素直に嬉しかった。
「あら、私達も持っていますから!!」
「私も漸く取れましたわ!!」
今度はサキュバスと、フシアナの部下の女達が『マリーのぬいぐるみ』を持って嬉しそうに笑顔を浮かべている。
いつの間にか、サキュバスと魔族の男達も仲良くなっていて、フシアナの部下達も馴染んでいた。
「私には、ここに、守るべきものがたくさんあるから•••」
呟くように、無意識に私は言葉を発していた。
「「マリー大魔王様•••」」
フシアナとキャサリンは席から立ち上がると、私に抱き着いてきた。
「さ、さっきから、ふ、2人、ず、ずるい」
ヒナも負けじとジャンプし、私の背中に飛びついてくる。
3人に抱き着かれた私の周りでは、まだサキュバス、フシアナの部下、魔族の男がぬいぐるみ自慢をしている。
あらためて心から思った
絶対に『この場所』を守らないと




