そのラブレターは偽物です!
「なろうラジオ大賞2」応募作品です。
テーマは「偽物」。
とある土曜の昼下がり。私は自らが通う高校の玄関の上から三段目、左から四番目の靴入れを凝視していた。
なぜこんな怪しい真似をしているのかというと、友達に頼まれたからだ。
友達がサッカー部の森先輩にラブレターを書いたけれど、恥ずかしいから代わりに靴入れに忍ばせて、先輩がちゃんと受け取ってくれるのを見届けてほしいと言われたのだ。
そうして私は頼まれた通り靴入れにラブレターを入れ、こうして先輩の訪れを待っているという訳だ。
そろそろ部活を終えた先輩が来るはずと思っていると、案の定、玄関へと近づいてくる足音が聞こえてきた。私は見つからないように身を隠しつつ様子をうかがった。
するとそこには、まさしく目当ての靴入れの前でラブレターを片手に首を傾げる和服姿の男子が──。
えっ、なぜ和服? サッカー部だよね?
しかもよく考えたら靴入れの場所は上から四段目、左から三番目だったような……。
やばい、間違えた!
重大な誤りに気づいた私は、慌てて飛び出して叫んだ。
「待ってください! そのラブレターは偽物です!」
和服の先輩は驚いた様子でこちらを振り返って聞き返した。
「え、偽物?」
しまった。焦って訳の分からないことを言ってしまった。こうなったら正直に話すしかない……。
「すみません。友達に頼まれて森先輩の靴入れに手紙を置いたつもりが、場所を間違えたみたいで……」
恐縮しながら説明すると、和服の先輩は柔らかい笑顔を浮かべた。
「そういうことか。じゃあ、これは森の靴入れに入れておこう」
そう言って、思わず見惚れるくらいの綺麗な所作で、手紙を正しい場所に置いてくれた。
ありがとうございますとお礼を言えば、和服の先輩はくすくすと控えめな笑い声を立てた。
「初めてのラブレターかと思ったけど、偽物だったなら仕方ないね」
おかしそうに笑う表情がとても上品で大人っぽく見えて、ドキドキしてしまう。
恋の予感と、学校に和服男子という非日常感に私の頭はどうかしてしまったのだろう。自分でも正気を疑うような言葉が口をついて出てきた。
「今度、本物を持ってきます」
「本物?」
「はい、本物のラブレターを書いてくるので、お名前とついでに部活も教えてください」
何てことだ。私ってこんなに肉食女子だっただろうか。
「……瀬田勇人。茶道部の部長だよ」
「私は木村彩乃です。瀬田先輩、待っててくださいね!」
私が満面の笑顔でそう言うと、瀬田先輩はまたおかしそうに笑うのだった。
瀬田先輩は茶道の家元のおうちのようです。
学校で和服姿だったのは、茶道部員に和服の着付けのお手本を見せてあげたからだとかなんとか。(あと、作者の趣味です)