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ひだまりと悪魔  作者: 兎角Arle
第三章 hide-and-seek
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68.枝葉末節の問題

「なぜ向日葵は私を頼らない?」

「来て早々なんですか……先に解決すべきことがあるのでは?」


 アスラの部屋を訪れて、とても深刻な様子で主人が口を開いたかと思えば、出てきた言葉はそんな他愛もない話だった。

 思わずヴェロニカも呆れた息が漏れてしまう。


「向日葵は私を避けているように思うのだが、どう思う?」

「さも重大なことのように聞かないでほしいな……。自然なことじゃないですか? 僕と貴方で比較するなら、僕の方が向日葵さんへ無害なのは明らかでしょう」

「私は彼女に危害を加える気は無い」

「うーん、害という言い方は適切ではなかったですね」


 ヴェロニカは頭を掻き、言葉に悩む。


「多分、向日葵さんは誤解されたくないんでしょう」

「ふむ?」


 ピンと来ていないアスラの様子に、ヴェロニカはやむなく続ける。


「例えば、向日葵さんから好意を告げられたら、アスラ様はどう思いますか?」

「嬉しいに決まっている」

「ああはい、そうだろうね。……そうではなく、ううん、こう言い換えましょう。向日葵さんは、何故、どういう意味で、好意を告げたのだと思います?」

「それは、……好んでくれているからだろう?」

「ええそうです。が、しかし、それはどんなふうに? もしや、アスラ様が向日葵さんへ抱いているものと同じだとお思いで?」


 アスラは「違うのか?」と言いかけて口を噤んだ。今それを具体的に言葉にすることは出来そうにないが、僅かな違和(いわ)を自身で感じたのだ。

 その様子に、ヴェロニカはふっ、と表情を緩めて頷き「変わりましたね」と。

 言葉を受け取り、アスラは眉間に皺を寄せ、無言でその意味を促した。


「以前の貴方なら、その好意に含まれた成分なんて、気にも留めなかったでしょうね。純然たる悪魔として生きるならば、それで事足りたことでしょうし」

「回りくどいぞ。何が言いたい」

「そうは言うけどね、アスラ様のような方には、どうとでも解釈できる言葉での説明は不十分だと思うんですよ。感覚で理解できるよう、ご自身で考えていただくのが最も適していると思うな」


「ふん」とアスラは息を吐き、いけ好かない魔法使いから顔を背けて腕を組んだ。


 とはいえ、答えは既に出ていたのだ。

 この魔法使いが失笑して、変わったなどと(のたま)うものだから、(いささ)か話が逸れてしまったが、彼の話に口を(つぐ)んでしまったことが、そのままアスラの答えである。


 静かに、アスラは思考する。

 彼女のこととなると、浅慮(せんりょ)になってしまうのはアスラの悪いところだろう。冷静に考えてみればなんてことはない。

 友人に対して(むさぼ)るような口付けを行おうと思わないように、好意的だからといって、それが必ずしも恋愛を示し、助長しているわけではないのだ。


 しかし悪魔というものは、相手がどういう意図で吐いた言葉であれ、自分に都合よく解釈して、絡め取っていくもの。手に入れて仕舞えば、真意などさしたる問題ではない。

 彼女からの好意を、(まさ)に都合よく受け取ってしまう自身のそれは、その本能的な思考に毒されているだけに過ぎないのだ。


 それに思いあたれば、向日葵が「誤解されたくない」という言葉の意味もすんなりと理解できるだろう。

 彼女がアスラへ素っ気ないのは、正しい意味で伝わらない相手へ、そもそも伝えようなどと思わないからだ。

 アスラは深く息を吐いた。


「わかっていても、自らの性質を改めるのは容易(ようい)ではない」

「ならせめて、その自覚を忘れないことです」


 ヴェロニカの忠告を聞き流し、アスラはデスクの上に放っていたカードを手にすると、それを無言のままに彼の方へと投げた。

 うまくキャッチしたヴェロニカ。内容を確認して「これが例の……」と。

 やっと本題に移ったことに、内心ほっとしながらも、トーンは低く、真剣である。


「頼みたいことは二つ。奴の目的と、この手品の仕掛けだ」

「取引はどうします?」

「その場で応答せず適当に(にご)しておけ」

「それで(かわ)せますかね」

「知らん。それは自分でどうにかし給え」


 アスラからのおざなりな返しに、ヴェロニカは胸中(きょうちゅう)で「何かあったら絶対この悪魔に放り投げてしまおう」と決意した。

 ただでさえこれから会わねばならない相手に対して憂鬱だというのに、この館の主人はまるで手を貸そうなどと思わないのだ、それくらいの画策を胸に留めておくくらいは許されてもいいだろう。


「では、指定の日時までまだ時間があるので、それまでに色々と準備を済ませておきますね」

「嗚呼……」


 短い返事を受け取って、部屋の扉へと手をかけると「いいや、待て」と呼び止められた。

 何事かと言葉なく視線のみを向けてみる。

 するとアスラは、聞く耳を持ったヴェロニカへ続きを口にするのだ。


「向日葵の予定が決まったら私にも報告するように。それだけだ」


 相変わらず、愛変わらぬ主人(あるじ)の言葉に、気の抜けた魔法使いは呆れて大きなため息をついた。

他のことが楽しいあまり続きを書いていませんでした。お久しぶりです。

今回少し短めですが、些細な枝葉のような……閑話的な部分なのでまあいいのかなと思いました。

次も書くのに時間がかかりそうですが、地道に最後まで書き綴れるように頑張ります。

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