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ひだまりと悪魔  作者: 兎角Arle
第一章 私の住みか
24/102

24.お洒落は誰が為でなく

 向日葵が部屋へと戻ると、フェロメナは本日二度目の悲鳴を上げた。


「髪が乱れて葉っぱがくっついちゃってます〜!」

「えっ! 気づかなかった」


 向日葵を鏡の前に座らせて早速に髪を解いて結び直そうとするフェロメナを横に、アヤメはクスクスと笑いながら「向日葵様は見かけによらずお転婆さんですのね」と。

 今回は本当にヴェロニカが抱きついて倒れたせいなのだが、黙っておくことにした。


「そうですわ。フェロメナ、どうせ編み直すならばこう言うのはどうかしら?」


 何事か思いついたアヤメがフェロメナへ耳打ちをする。

 その内容は向日葵に聞こえなかったけれど、嬉々としたフェロメナの顔を見れば、また更なる改良が待っていることはありありと伝わってきた。

 今度は何をされるのか身構えていると、アヤメは「用意してきます」と言って部屋を出て、フェロメナは「待ってる間に髪を梳いておきましょうね〜」と丹念に櫛を入れる。


 アヤメが戻るとその手には何かの包みがある。


「髪飾りの色に合わせて、淡い色合いのものをルカに切ってもらいました」


 包みを開くと白や薄ピンクの薔薇の花。トゲはきちんと処理されている。

 何に使うのか不思議に思っていれば、その色のチョイスを褒めながら、フェロメナは編み始めた髪へ花を挿し、飾りのように編み込んでゆく。


「頭につけるなら、葉っぱよりお花が良くてよ、向日葵様」

「こういうの、映画の中で時々見ましたけど、実際にされるとは……」

「今日一日だけのスペシャルアレンジです〜!」


 結び終わったフェロメナは三面鏡を広げて向日葵に仕上がりを見せた。

 これからパーティーに行くのかとでも言うような華々しい仕上がりに、若干落ち着かないが、せっかく綺麗にまとめてくれたので「ありがとう」とだけ返す。


 髪を整え直したら、フェロメナとアヤメと共に、花を用意してくれたルカの元へお礼に向かう。

 そこでは四人で他愛のない世間話を広げ、そうこうしていると夕食の時間となった。

 アヤメに「そろそろ参りましょう」と促されて初めて時間の経過に気づいた向日葵は、あることをすっかり忘れたままにダイニングへ入る。

 中にはすでにアスラがいたが、落ち着かない様子でまだ席にかけていない。彼は向日葵に気づくと小走りで詰め寄った。


「うん? また少し飾りが変わっているな。今日は随分と身嗜みに気を付けているのだな」

「乱れてしまって、直すときにまた遊ばれてしまいました」

「華やかさが増して、これもまた似合っているよ」


 彼は、そっと髪に挿した薔薇の花弁を撫でる。

 そのまま手を彼女の背へ回して隣へ寄せると、席まで解放されることのないままに歩かされた。

 先ほどから彼の足取りが軽く、とても楽しそうというか、鼻歌が聞こえてきそうな程の上機嫌さに、向日葵は引っかかりを覚える。

 何かを忘れているような気がしつつも、思い出せない。


 もはや定位置となった席へ掛けたら、残る二人が来るのを待つ。

 夕食は必ず揃って食べるからだ。

 これも明確な決まりがあるわけではないのだが、昔からそうだから、自然と一緒に摂らなければ落ち着かないのだそう。

 とはいえ、各々が自由に過ごすからこそ、共有の時間を一時でも用意することは合理的かもしれない。報告したいことがあればこの場で必ず話すことができるだろう。


 さて、アスラは一体なにをそんなに浮かれているのだろう。

 尋ねようとしたときに丁度扉が開き、待ち人が訪れる。ヴェロニカと、彼に連れてこられたらしいアリオだ。

 庭で逃げるように吐き捨てて別れたことが気まずいのか、アリオは向日葵と目を合わせようとせず、若干視線をそらしたままに席に着く。ヴェロニカはそれを気にした風ではなく、「お待たせ」と。けれどふと、アスラの様子に気づいた彼は問う。


「いやに上機嫌だけど、いいことでもあったんですか?」

「さあ?」


 うん? と向日葵は聞き覚えのあるアスラの返答に眉間にシワを寄せた。

 意識の外へと追いやっていた記憶を引っ張り上げ、逆再生する様に出来事を回想していくと、はたと思い出す。


 そういえば、彼はサプライズのプレゼントを楽しみにしていたのだ!

 アスラの機嫌が良い理由に気づいたものの、なにも用意してなどいない。勿論、この後に彼へ差し出せるものなど何一つないのだ。しかし彼は期待して、彼女がなにをしてくれるのかを待っている。

 向日葵の体からスッと温度が引いていき、石になるような気さえするほど体が重く固まってしまう。


 待ち構えられてはなんのサプライズにもならないし、そもそもが今朝の今でそんなに早く何かを用意できよう筈もないので、彼の熱い視線に気づかない振りをして有耶無耶にしてしまっても構わないのだろうが、ここまで浮かれきった彼を無視するのは心苦しい。

 ほんの一瞬、こんな方便をついて余計な期待をかけさせたヴェロニカへ、恨みがましい視線を向けてから、彼女は咳払いをした。

 すでに食事を始めている三人の手が止まり、視線が集まる。


「あの、アスラさん。非常に申し上げにくいのですが」

「うん? どうした」


 言葉を区切った向日葵へ、アスラは不思議そうに続きを促した。


「ヴェロニカさんから伝わってる事は知ってますが、その……そんなに期待されても、まだ何もサプライズは用意できてませんよ」


 そもそも構えられてはサプライズになりません。と付け足す。


 彼の楽しみを裏切ってしまうような後ろめたさから、目を合わせられずにいたのだが、返事の遅いアスラが気になり、ちらりと表情を見ると、まさに、絶句というように言葉なく固まっているようだった。

 彼の大袈裟な反応に、アリオが思わず吹き出して、一生懸命笑いを堪えている。

 そんなアリオの背中をさすってやりながら、ヴェロニカもまた申し訳なさそうに苦笑していた。

 あまりにもショックだったのか固まったままのアスラへ、向日葵は「ごめんなさい」と頭を下げる。

 それを見てアスラは正気に戻り、けれどどこかいじけたように「いや、」と。


「わ、私こそ、浮かれるあまり余計な気苦労をかけたな……」


 子供っぽい返しに再びアリオが吹き出すと、アスラはふてくされたようにそっぽを向いた。

 その様が余計おかしくてアリオは必死に笑いを堪える。

 居心地が悪いのか、アスラは食事を流し込むように済ませると、そそくさと退室する。

 引き止めようかと思った向日葵だったが、いまはそっとしておいたほうがいいかもしれない。


 可哀想な悪魔がいなくなると、気を使う必要のなくなったアリオは盛大に吹き出して大笑いしだし、ヴェロニカがそれを宥めようと背中をポンポンと叩いていた。


「はー、面白すぎ! いい気味ね!」

「アリオは昔っからアスラ様を揶揄(からか)うの好きだよね」

「もう……ヴェロニカさんがあんなこと言うから変に期待させちゃったんじゃないですか」


 向日葵は不満げに口をつく。


 アスラはもっとさらりと流してくれると思っていたのであんなにがっかりさせてしまうとは思わなかった。極めつけにアリオが笑い出してしまうものだから、完全に話すタイミングを見誤ったと反省している。

 しかし、それもこれもヴェロニカの根も葉もない方便がきっかけなのだから、少しくらい恨み言を言っても許されるだろう。

 彼は「まさか早速あそこまで期待するとは思わなくて」と申し訳なさげに微笑した。


「向日葵さんがあの後服を着替えたから何かあると思ったのかもね」

「う……やっぱりそれもありますよね……」


 埃を被ったばっかりに。

 何にせよそれほど楽しみにしていたらしいアスラに、申し訳なさが募る。

 アリオは「気にしすぎ」と思い出し笑いを堪えながらバッサリと言ってくれたが、一応、後で改めて彼の様子を見つつ謝罪をしようと思った。


 今日はなんだか忙しない一日だと思いながら、向日葵は食事を終えてアスラの寝床へと向かう。

 ノックをすれば少しの沈黙の後に入るよう促され、彼女は「失礼します」と悪魔の棲みかの扉を開けたのだった。

別件の創作の打ち合わせなどをしてもりもりやる気抜群です!

新しい作品形態への挑戦でワクワクドキドキで作業にあたるのが楽しみです!へへ!

ちょこーっとだけひだまりと悪魔にも登場しそうな内容になると思います。自作品クロスオーバー大好きなので、ぜひ気が向いたら他の作品も見てみてくださいね!

おすすめは夢喰姫って言うフリーノベルゲームシリーズです!よしなに!!(ダイマ)

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