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ひだまりと悪魔  作者: 兎角Arle
序章 ようこそ最愛の君
14/102

14.部屋の中にあるものは?

「よかったじゃないですか」

「何もよくない! 嗚呼、中が心配だ……」


 部屋の前をウロウロと落ち着きなく歩き回るアスラ。

 追いついたヴェロニカは最悪の事態は免れていたことに安堵しつつ、今にも再び扉を開けてしまいそうなアスラを諫めている。


 おそらく時折中から漏れる楽しげな声に、若干の疎外感もあるのだろう。輪に混じれるとは思ってなどいないが、中で行われていることが見れない以上、何が起こっているのか気が気ではない。

 フェロメナが彼女へ害意を持つとはアスラとて到底思っても居ないが、あの兎は相当にドジで間抜けで浅慮(せんりょ)なのだ、不幸な事故が起きるかもしれない。少なくともアスラはそう認識している。


「そうだヴィー、今すぐアヤメを連れてこい! 中で危ないことがないか見張らせよう!」

「彼女は今休暇中だから戻るのは二年後です」

「だからお前が連れてこいと言ってるんだ」

「はぁ……。買い出しもそろそろ必要だから、ついでに探してみますけど、僕が戻る前に出てくると思いますよ」


「いいから早く行け」と促され、仕方なくヴェロニカはその場を立ち去った。


 一人になったためか、時の刻みが酷くのろまに感じられる。女子の身支度には時間がかかるものではあるが、今にも破裂しそうなほどに膨らむ不安を抱え苛立つアスラには、この待ち時間が一層長いものに思えた。

 そんな感情の機微故だろうか、早足でやってきたアリオが不満げに言い放つ。


「今は何がお気に召さないんです?」

「アリオ! いいところ来た、私に代わって中の様子を見てきてくれないか?」

「どうしてです?」

「向日葵が中で着替えてるがフェロメナと二人きりなのが心配でならない……! お前ならば女だし信用できる!」


 飴玉に目を輝かせる子供のように期待の籠もった目を向けられ、アリオは引き気味に冷ややかな表情を返す。


「懲りない男……」

「中に入るのは控えてるだろうが! 危険がないか見てくるだけでいい!」

「ああ、はいはい」


 そうすることで一時的にでも彼の機嫌が治るのであればそれに越したことはない。

 気は進まないけれど、アスラをドアの前から押し除け遠ざけると、ノックをせずに薄く開き、覗き見るように中の様子を睨め回した。


「ど、どうだ……?」


 アスラは問う。

 部屋の中を窺ったままうんともすんとも言わず固まっている。

 中から声が漏れ聞こえてきた。


「あらぁ? アリオ様〜、どうかしましたかぁ?」

「わっ、ごめんなさいアリオさん、気づかなくて!」

「別に。アスラ様に言われて危なくないか様子を見てただけだから。邪魔してごめんなさい」


 アリオはそれだけ言うと扉を閉じて、しばらくその場で目をまん丸にして自らが閉じたドアをぼーっと見つめていた。

 逸る気持ちから、アスラはさらに問う。


「それで? 中はどうだ?」

「……びっくりした。二重の意味で」

「な、何がどうなってる? 危険はないのか?」


 部屋に押し入らなかったことを思えば、大事はないのだろうけれど、それでも確かめずにはいられない。


 アリオは言葉をじっくり選ぶように間を置いてから、ニヤリと挑発するように「危険かもしれません」と。


「アスラ様が、ですが」

「私が? 何を訳のわからないことを言っている?」

「大人しく出てくるのをまっていた方が吉ですよ」


 普段なら用事さえ済めば部屋に戻る、一人を好むはずの彼女は扉の前から退くと廊下の壁に背を預けてた。どうやらアスラと共に、向日葵の着替えが終わるのを待つようだ。

 釈然としないけれど、アリオのことは古くからの馴染みの為、それなりに信用している。彼女はツンツンと素っ気なく無愛想ではあるけれど、根は良い娘なのだ。向日葵の身に何か危険があるならば、必ず止めに入っている。そうしないところを見るだけで、幾らか安心することができた。


 しかし、その上での危険とはなんだ?

 アスラは真剣な面差しでアリオを睨むが、彼女は既にいつもの仏頂面。それでも何かに期待しているのかどことなく雰囲気は浮かれているように見える。

 この扉が開いた時何がまっているのか、予想してみてはその泡のように脆い空想に自ら石をなげて弾けさせる。

 存外、一頻りファッションショーを二人で楽しんだらいつもの馴染みある姿で出てくるかもしれない。

 余計なことは考えず、大人しく待つしかあるまい。


 静寂の中、閉ざされた籠が開かれ愛らしい少女が羽ばたく姿を待ち望むと、ようやくと言うべきか、時計を見てみれば実はさして長くもないのだけれど、内側からその扉が開かれた。

 微かな音も逃さずに、アスラは顔を上げる。


 開ききった扉、部屋の中にあるものはなに?


「アスラさんにアリオさん? まさかここでずっと待ってたんですか……?」


「……いい」と無意識にこぼれ落ちた言葉にアスラは自分自身で驚き我に帰る。そして改めて言葉を紡いだ。


「ああ、本当に驚いた、二重の意味で。とてもよく似合っているよ。愛らしさのあまり見惚れてしまった」

「二重ですか?」

「フェロメナにこんな特技があったことと、それから……」


 意図して言葉を止めると、彼は近づいて彼女の手を取る。

 そのまま彼女の手を自らの口元まで運び、彼女の甲にそっと、けれどじっくりと、キスを落とした。


「キミがあまりにも美しいから」


 部屋の中には、宝石よりも美しく鳥よりも愛らしい、着飾るものの素朴さの抜けない愛しい少女が佇んでいた。

文章書くの大変だなあ、全然書けないなぁ、時間がかかるなあ〜って思っていたら、1話と新しい方で比べると圧倒的に文字数の平均がちがいました。

これは書くのに時間がかかるわけですね。納得です。

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