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ひだまりと悪魔  作者: 兎角Arle
番外編・挿話
102/102

102.魔の国3

 神と魔はその昔、唯一無二の友だった。

 だが、魔の裏切りにより決別してから、ずっと二人は争いを続けている。


 神は、裏切り者を屠るべく、自らの御使(みつか)い、天使を作り、天上に神の国を建てた。


 魔もまた、天使を退けるべく、自らの眷属、魔族を作り、暗がりに魔の国を建てた。


 その時、初めて作られた原初の悪魔は十一匹。

 今では魔王直属の幹部、十一柱と呼ばれている。

 邪竜デミア。

 夢魔リリン。

 妖精エルキュイ。

 魔人ジン。

 獣人ヴォルゴ。

 堕天使ヘルべ。

 亜人セーレーン。

 魔女フィリアステス。

 悪鬼シャジャールイカ。

 吸血鬼ドクトゥール。

 悪魔アスラ。


 それぞれが異なる種族を率いる将として、神と戦ったのは遠い昔のこと。

 最も苛烈を期した、記録上最後の全面衝突の折、邪竜デミアが討たれた。

 竜族の後継はなく、十一柱に空席ができると、表だった戦はなくなり、統率を取る必要も無くなった残りの十一柱たちは、各々の好き勝手に振る舞うようになったし、魔王もそれを放念していた。


 デミアが討たれたのは、神の聖樹を巡る戦い。

 神の国のはずれに、神の子が成る聖樹があった。定期的に神の神聖力を注ぐことで、少しずつ実り、成熟し、時期になれば新たな神が誕生する。天使とは違う、純粋なる神の力を継いだ御子だ。

 その話を聞きつけた魔王は興味を持ち、もしその樹に己の魔力を注いだらどうなるのだろうかと、思いついたら試してみたくなった。


 激戦の末、思惑は成した。

 魔王が御子を宿した実へ触れて、魔力を注げば、丁度、機は熟した。無論、遺棄されないように、あえてその時期を選んだのだが。

 誕生したのは、神王と魔王のどちらにもよく似た双生児。

 魔王によく似た見た目で、神の力を継いだ御子、シン。

 神王によく似た見た目で、魔の力を宿した御子、イツ。


 神聖力と魔力は相入れず、互いが互いに毒となるから、二人ともを連れて行くことはできなかった。

 魔王は魔力を持った我が子だけを連れて兵を引いた。


 十一柱の管理を放置したのは、魔王本人がさほど気にしないたちだったのもあったが、一番は、生まれたばかりのイツの面倒を見る必要があったからである。


 アスラは西へ向かう道中、過去を回想する。

 イツが魔王へ反抗することは度々あったし、アスラがソレイユと出会うよりも前にすでに二回、兵を集めていた。魔王は七回目と言っていたから、アスラがいない間にも、めげずに挑んでいたと思うと健気なものだ。

 そして今回は、十一柱までも引き込んだと聞けば、成長を感じて感慨深いものもある。


(とはいえ、あの子犬に王の座はまだ早い)


 子犬、というのは、十一柱たちがイツを揶揄した呼び名だ。獣人や亜人の身体的特徴を持って育ったイツには、狼の耳と尻尾がついている。

 明るい金の毛色に、魔族らしからぬ愛嬌がある顔立ちもあって、狼というより犬みたいだと、散々揶揄って小馬鹿にしたのは、アスラも身に覚えがある。


「ほう……?」


 目についたのは、広大な薔薇園。

 かつて夢魔リリンが治めていた砦は、一部が取り壊され、薔薇に埋め尽くされていた。

 魔力で模った翼で休みなく飛行しても、目的地まで三日はかかる。

 休息を取るならばこの砦がちょうどいいと思っていたが、変わり果てた様相に、運が良ければここで会えるかもしれないと、アスラはほくそ笑んだ。


 ドクトゥールは吸血鬼。吸血鬼は薔薇を大層好むのだ。

 現在、西を管理しているのが彼ならば、リリン亡き後この場所もまた管轄であってもおかしくはない。


 上空から花園を見下ろしていると、小さな影見つける。

 うっかりすると見落としそうな小柄な姿は、まさしく探していたうちの一人だった。


「やあ、ドクトゥール、相変わらず小さいな」

「生きていたんだね、アスラ。一千万年ぶりくらいかな」


 独り儚げに薔薇の手入れをしていたのは、声変わりもしていない子供。

 ペストマスクで顔を覆い、はみ出た短髪は白くさらさらとしている。質の良いブラウスとベスト、その上から、体格に見合わないサイズの黒い白衣を羽織って、裾を引き摺っていた。

 闇医者の異名で知られる、吸血鬼族の主ドクトゥール。


 マスクのせいで顔色は窺えないが、彼はアスラに会釈をした。

 アスラは事情を知らぬふりをして何気なく問う。


「ここはリリンの領だったはずだが?」

「彼女は三千年前に亡くなった。今では僕の管轄」

「それで魔の国随一の花街が、今では薔薇農園か」

「こっちの花の方が綺麗でしょ? 前も悪くはなかったけど」

「とは言え、十一柱のお前が一人で土いじりに明け暮れるなど、落ちぶれたものだな。部下はどうした?」

「家族は皆出払っていてね、手入れをしないと枯れてしまうから、僕がやるしかない」


 血で眷属を増やす吸血鬼は、血で繋がった同族を「家族」と呼び、それに相応しく同族間での仲が良好だ。

 悪魔はあまり互いにつるむことがないから、昔のアスラにはその感覚がいまいちわからなかったが、長く館で過ごした今は少しだけわかる気がする。

 だから、妙な違和感があった。


「この広い庭をお前一人に押し付けて? 家族というくせに、誰も手を貸さないのだな」

「……ねえアスラ、きみはこの国の現状をどの程度把握してる?」


 声を低くして伺うドクトゥールは、わずかに警戒を示した。

 アスラは魔力だけを動かし、刃の形にしたそれを容赦なく叩きつけた。

 小柄な吸血鬼は両腕で防ぐ姿勢をとって後ろへ飛び退く。複数の蝙蝠に分裂し距離をとり、アスラの攻撃の届かない場所で再び元の姿に戻った。


「いきなり酷いな。僕は長らく戦いから離れてたっていうのに」

「私もさ。だからお互い準備運動にはちょうどいいだろう?」

「医者の僕が、きみに勝てるわけないだろ」

「勝ち負けは気にしなくていい。誰が相手だろうと私の勝ちは決まっているようなものだからな。言ったろう、ただの運動だ」

「ああ、もう、ったく、これだから好戦的な奴は……。気に障ったのなら謝罪する、僕は今きみと争いたくはない」


 対話を求める姿勢を崩さない様子に、アスラはつまらなそうに魔力を収めた。


 どの程度やり合えるのか、純粋に興味があったので乗ってこなかったのは残念だが、これで、反乱軍を指揮している割に戦意がないことが明らかになったから十分だろう。

 或いは、アスラが現状を把握していないのであれば、引き込める算段を立てている可能性も無きにしも非ずだが、それならそれで都合が良い。

 だからアスラは、何も知らないふりを続けた。


「全く面白味のない。まあ、情勢を尋ねるということは、何か思わしくない事情があるということか」

「三百年前、ジンとヴォルゴが天使に討たれて亡くなった。それで今、イツ様が弔い合戦をすべきだと奮起していてね」

「ふむ?」


 それがどうして、反乱という話になっている?

 興味深げに目を細めたアスラに、ドクトゥールは話を続けた。


「でも、戦える古参の魔族がもうほとんど居ないんだよ。アスラはもちろん、シャジャールイカは牢の中、武闘派のヴォルゴとジンも亡くなった今、天使と正面からやり合うのは明らかに分が悪い。魔王様もそれをわかってイツ様の嘆願を退けた」


 そうして、打倒魔王と相なった、と。

 実に直情的で頭の悪いあの方らしい、とアスラは呆れて息を吐いた。

 だが、人狼であるヴォルゴは獣人の特徴を持ったイツを大層可愛がっていたし、イツも彼には懐いていたから、復讐に燃える道理も理解できなくはない。


「なあ、ところで、関係のない話で悪いが、一つ気になったのだが」

「先に断りを入れてくるなんて、めずらしいな。なんだい?」

「お前、あの子犬を敬って呼べるくらいには気を許したんだな?」

「…………」

「それとも、今暴走しているだけで、私の知らぬ間に(かしず)きたくなるほどご立派になられたのか?」


 ドクトゥールはぴたりと動きを止めて、少しずつ、わなわなと体を震わせた。

 表情が見えないから、それがどう言った感情から来るのかは推し量れないが、小さな吸血鬼は人差し指をマスクの嘴の先に一本立てて、ゆっくり首を左右に振る。

 言葉は発せられない。

 ただその行動だけが答えだ。


 それは、「静かに」というよりは「言えない」という意味に思える。

 何やら常ならぬ事態を予感して、アスラは面白そうに口の端を上げた。

ツイッターの凍結騒動で好きなフォロワーさんがいなくなってしまい悲しみに暮れてました。さびしい……。

勢い余ってストーカーまがいにピクシブのDMに凸したりもしたなどしました。反省。

本当は102話は今日の昼間アップしたかったんですがメンテにぶち当たるなどで遅くなりました。

お話まだ続きます!よろしくね!

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