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ひだまりと悪魔  作者: 兎角Arle
序章 ようこそ最愛の君
1/102

1.アンダーランド

20/08/07 挿絵を足しました。

"Down the Rabbit hole"


 という言葉を、園田 向日葵は想起していた。

 これはかの有名な"不思議の国のアリス"第一章の副題で、主人公アリスが兎を追いかけ穴に落ちワンダーランドへ至る事から転じて、予想もつかない物事のはじまりなどに使われる比喩表現だ。


 しかし、向日葵にとっては比喩表現などではなく、御伽噺さながら実際に落ちてしまっていた。

 まさか兎を追いかけていたら本当に穴に落ちてしまうなど思ってもみなかった。


 落下の恐ろしさできつく瞼を閉ざすとともにショックで意識が飛んでいたらしい。

 彼女が再び、意識を闇の底から汲みあげた時、瞼の外に光を感じると共に何やら物々しい喧噪が鼓膜を震わせた。

 身体を起こしていまだピントの合わないぼやけた視界を声の方へと向ける。


 向日葵に背を向け三人が並び立ち、一人の女性を囲み叱責しているようだった。

 中央に立った黒髪の男性は、怒りと嘆きを含んだ声で言った。


「誰か今すぐこのぼんくらの首を刎ねろ」


 左に立つ金髪の青年は呆れたような息を漏らし、壁に立てかけてある手斧を持った。

 まだ明瞭にならない向日葵はぼんやりそのやり取りを眺めていると、叱られている女性とばっちり目が合ってしまう。

 斧を向けられているというのに、彼女はのんびりとした口調で「あのぉ」と口にした。


「言い訳無用。今回ばかりはフェロメナが悪い」

「そうじゃなくて――」


 女性が言い終える前に、金髪の青年が斧を彼女の首めがけて振り下ろした。

 勿論、とんだ首は床に転げ落ちる。


「え……?」


 一部始終を見てしまった向日葵の微かな呟きが落ちると、それまで一人の女性を糾弾していた三人が一斉に振り返る。

 それぞれが異なる表情をしていたけれど、首を刎ねろと命じていた黒髪の男性は蒼褪めた顔をしていて絞り出すように言葉を紡いだ。


「あ、ああぁ……アリオ、目、目を。向日葵の目を……」

「潰せばいいんですか?」

「馬鹿がっ! 刺激が強すぎるから塞げと言っている!」

「ああ、なるほど」


 これまで事態を静観していた赤髪の女性は、納得したように頷くと命じられた通りに向日葵へと近づく。

 しかしこの異様な状況の中、彼女が大人しくそれに従う訳もなく震えながら地を這い後退ると、指先が何かに触れた。

 驚きでそれに視線を向けると、其処には先程刎ねられた女性の頭部。

 それだけでも血の気が引いていくというのに、転がった首は向日葵と目が合うとにっこりと笑みを浮かべた。


「ですからぁ、向日葵ちゃんがお目覚めですよって言いたかったんじゃないですかぁ」

「ひっ?!」


 刎ねられて尚口を開くその顔に今度こそ卒倒し、またしても意識を手放した。



*****



 園田 向日葵は、何処にでもいるごく平凡な高校生だ。

 家から近いという理由でなんとなく決めた大学進学へ向けて勉強に励み、特別可もなく不可もない生活を送っていた。


 齢十五の冬、捨てられていた兎を拾って、茶色い毛並みから「ちょこ」という有り触れた名前を付けて飼いはじめ三年。

 それまで大人しかったちょこが彼女の十八の誕生日を迎えると妙に行動的になり、果てには家を飛び出したのだった。

 可愛がっていた愛兎が交通事故に遭うことを心配して、向日葵はすぐにその後を追いかけたが、どういうわけか御伽噺の様に大きく深い穴へと落ちてしまった。

 そして目覚めた先で見た恐ろしい光景に気絶してしまった向日葵は、柔らかな自室のベッドで目覚め胸をなでおろした。


「夢……夢だよね、うん。夢だ」


 指先に触れた女性の頭部の感覚は妙にリアルだったけれど、全て夢なのだと自らに言い聞かせる。

 何より、目覚めた部屋が見慣れた自室そのものだったのでちょこが逃げ出したのも全部おかしな夢なのだと純粋に思った。

 気が抜けると、どっと疲れが押し寄せてきて、再びベッドに横になろうとする。

 けれど彼女の束の間の心の平穏は直ぐに崩れる事となった。


「夢ではないよ、向日葵」

「っ」


 部屋の入口に、先程の黒髪の男性が立っている。

 整った顔には申し訳なさそうな色を映し、ゆっくりと彼女の傍へと寄った。


「ふ、不法侵入ですよ。それに名前、なんで知ってるんですか」

「先に一つ言っておこうか。此処はキミの部屋ではあるけれど、キミの家ではない」

「どういう……」


 ふと、開け放たれたままの扉へ目が行く。

 自室の外にあるはずの廊下の様相が、彼女の知る自宅の物とはまるで違っていた。


 まだ夢を見ているのだろうか?


 今すぐにでも布団を被ってこれは夢だと唱えたい気持ちになるけれど、目の前にいる人物がそれを許さない。

 彼は向日葵の手を取ると「そして」と。


挿絵(By みてみん)

「恋人の名前は知っていて当然だろう?」

「……なんて?」

続きが描けるか分からないけど、自分の尻たたき感覚で載せました。

考えながらゆっくり描けたらいいなと思います。

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