表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/53

9.常時クエストになってますよ?

そもそも、依頼はどうやって発注されるのか思い出してみる。

冒険者、商人、生産職が、それぞれに出し合うシステムだったと思う。

例えば生産職が【ロッソベリー】が欲しければ、生産職は商人ギルドに発注する。

商人は在庫があればそこから払い出すが、ない場合は、冒険者に素材採取クエストを依頼する。

こんな流れだ。


逆に考えよう。

生産職ギルドに【低級回復薬】の作成依頼を発注するのは誰だ?

言い換えれば【低級回復薬】が必要なのは誰だ?

主に冒険者だろう。


冒険者は【低級回復薬】が欲しかった場合、商人ギルドに発注する。

商人は在庫があればそこから払い出すが、ない場合は、生産職に作成クエストを依頼する。


ということは、だ。

俺が商人ギルドに発注すれば、それがそのまま生産職ギルドへの依頼になるのか!

ちょっと遠回りだが、これでやってみよう。


商人ギルドにて。

「すみません、依頼を発注したいんですけど。」

「それでは、こちらの用紙にご記入し、ギルドカードと一緒に提出してくだい。」


生産職ギルドに発注したときと同じセルフだな。芸がない。

俺はさっき『【低級回復薬】30個の納品』と書いた紙を、そのまま渡した。


「少々お待ちください。」


お、これは成功か?


「お待たせいたしました、【低級回復薬】30個になります。お確かめください。」


違う違う、そうじゃ、そうじゃなーいー


上手く行かないもんだな。

どうやら在庫があれば、その場で払い出されるみたいだ。

【低級回復薬】なんて大量にストックがありそうだよな。

ストックを全部買い取れば、何とかなるかもしれない。

財力に物を言わせてやってみてもいいが、きっと悪目立ちする。

なんでそんなに金を持ってるか調べられたらアウトだな。

派手な行動をするのは控えよう。


作戦を考えるんだ!


これまでの行動で、俺から発注することは不可能と考えた方がいい。

誰かに生産職ギルドに発注をしてもらうようお願いするしかない。

ぱっと思いつくのは家の居候達だが、発注時にギルドカードの提出を求められている。

あいつらがギルドカードを持っているとは考えにくい。


次に思いつくのは青鬼さん。

でも彼はギルド職員。

ある種、不正とも思える行為なので、きっとやってくれないだろう。


あとは、こんな依頼が頼めそうな人っているかなあ?

商人に頼むのがベストだが、俺の知り合いに商人なんて・・・


いた!


そうだ、あいつだ!名前忘れた奴隷商。あいつを使おう!


ギルド職員に、奴隷市場の場所を聞いた。

すると、俺を嫌なものでも見るような目で見ながら教えてくれた。

この世界でも、奴隷を買う人に対しては、良い感情はないのかな?




教えてもらった場所に行った。

中心街から少し離れた場所にあり、近くにはスラム街のような場所がある。

怪しさ満点の場所に、怪しいテントがあった。

テントというより、サーカス小屋に近いだろうか?

テントの近くには、豪華な馬車がいくつもある。

そうか、奴隷は基本的に金持ちが買うのか。


奴隷市場の中に入ると、ファッションショーの会場のように、舞台とランウェイがあった。

そこを歩かせて、値踏みするんだろう。


奴隷には興味がない。俺が用事があるのは、奴隷商だ。

係員らしき人物に聞いてみる。


「こちらの奴隷商の方とお会いしたいんですが、どちらに居ますか?」

「奴隷商は何人もいる。誰の事を言ってるんだ?」


おっ、なかなか挑発的な態度だな。

負けないもん。


「ちょっと名前は思い出せないんですけど、ちょっと小太りで、人の良さそうな感じの・・・。」

「あー、ハンネさんか。だったら外の馬車に居るはずだ。」


塩対応だったが、教えてくれたので感謝です。


外に出て、市場の裏手に回る。

見覚えのある馬車に、見覚えのある人がいた。


「ハンネさん、こんにちは。」

「はい、あっ!あなたは!この前の!あの!」

「ヨシュアです。」

「ヨシュア様の名前は、片時も忘れたことはありません。」


忘れてたよね?ま、俺も忘れてたのでおあいこってことで。


「奴隷のご購入ですか?少々売れてしまいましたが、まだ在庫はございますよ。」

「いや、奴隷はいらないんですが、折り入ってお願いがありまして・・・。」


俺は、ハンネさんに生産職ギルドへの発注を依頼した。

【低級回復薬】60個の納品依頼だ。

ハンネさんは、二つ返事で引き受けてくれた。


ハンネさんは、馬車に乗ってギルドまで向かう。

俺も一緒に乗るように誘われたが、一緒にいると怪しまれる可能性があるので、歩いていくことにした。




ギルドに入ると、ちょうどハンネさんが依頼しているところだった。

なにか揉めてる?なかなか発注されない。

あれ?ハンネさん、袖の下から何かを出したぞ?

すると、さっきの揉め事が嘘のように、クエストボードに依頼が張り出された。


誰かにとられる前に!俺はダッシュして、その依頼の紙を引きちぎるように取った。

やった!念願のクエストだ!


ギルドから出るハンネさんは、俺を見てウィンクした。

ウィンクで返す勇気はないので、軽く会釈しておいた。


依頼書を生産職ギルドに持っていく。


「すみません、この依頼受けます。」

「これですか。この依頼をした商人が、ちょっと変だったので、断ろうと思ったんですよね。」

「変といいますと?」

「いや、【低級回復薬】なんて、商人ギルドに行けば簡単に手に入るから、依頼は不要だといっても、きかなくて。」

「あー、なるほどー。」

「まあ、最後に私が根負けしたんですけどね。」


根負けじゃなくて、袖の下だろ?


「では、この依頼は俺が受けたってことでいいですか?」

「はい、そうですね。では1週間までに納品をお願いします。」

「今、納品してもいいですか?」

「え?」

「手持ちにあるので。」

「あ、そうですか、ではこちらの端末で処理してください。」


あれ?手渡しとかじゃなくて、端末処理なのか。

人件費削減のため、セルフ化が進んでいるのかな?


スーパーのセルフレジのような機械がある。

ガラス面に依頼書をかざすと、このように表示された。


 《納品》

  依頼者:ハンネ(商人)

  依頼内容:低級回復薬×60の納品

  達成ボーナス:600ガル

  取得経験値:60ポイント


さらに、このような表示がある


 《納品》

  依頼品を右側のカゴにお入れください。

  カゴに入らないサイズの場合は、職員をお呼びください。


俺は、カゴに【低級回復薬×60】を入れる。

すると、画面の表示が変わった


 《納品》

  納品数は60個でよろしいですか?<Yes> <No>


俺は画面の<Yes>をタップする。

あれ?

タップ!タップ!タップ!

もはや何度目かのパターンだ。もうわかるぞ、キーボードだ。

数字キーとTABキーとEnterキーだけが刻印されており、アルファベットの部分には何も書かれていないおなじみのやつだ。


TABキーを押してYesの項目が反転した状態でEnterキーを押す。


 《Information》

  依頼達成によりヨシュアのレベルが上がりました。

  新しい魔法を覚えました。

  クエスト達成報酬として600ガルを入手しました。

  ボーナスポイントが1ポイント付与されます。ポイントの割り当ては、ギルド端末から行ってください。


これを待ってた!俺は高々と両手を上げてガッツポーズ!

それを冷やかな目で見るギルド職員。すごい温度差です。


「あ、レベルが上がったので、ついついうれしくなって。」

「おめでとうございます。でも、【低級回復薬】の個別クエストなんてわざわざ受けなくても・・・。」

「え?だってないから・・・。」

「【低級回復薬】のクエストは、常時クエストになってますよ?」

「へ?」

「ほら、クエストボードの左上にありますよね?常時クエストの欄が」


な、なんだってーーーー


俺の今までの苦労は、単なる俺の見落としが原因だったようだ。

このゲームで生産職を選んだプレイヤーは、最初は【低級回復薬】しか作れないので

当然そのクエストがないとゲームが進まない。序盤で詰むことになる。

だから運営側が常時クエストとして設置してくれているんだろう。

序盤のレベル上げとしての要素もあるのかもしれないね。


一気に疲れが出た。

とりあえず、ケーキ屋に寄って家に帰るか。


家に着いたのは、ちょうどお昼の時間だった。

ABCDの4人は仲良くランチ中だ。


ケーキの箱を見るや否や


A「ちゃんと買ってきてくれたんだ。言ってみるもんだね。」

B「でも、その箱のサイズだとホールじゃないんだね。わかってないな」

C「タイミング悪いなー、今は食事中だよ。考えてほしいもんだね」

D「え?なにそれ?私の分は?」


みんな素直じゃないなー。照れ隠しかな?

っていうことにしておこう。

あ、ドリーの分もありますよ。ピスタチオのショートケーキ。お口に合いますかね?


D「えらいえらい。ところで食事はまだ?余りものでよければあるけど。」


そういえば、昼飯の事は考えてなかった。

これは、ごちそうになりますかね。


ランチメニューは野菜炒めのようなものだった。

ドリーが家庭菜園で作った自慢の野菜だとか。

HPとMPの回復効果がある貴重な料理みたいだけど、両方満タンです。

これ、ギルドの食堂で売ったら、人気商品になりそうだな。

ま、教えてあげないけど。


午後は新しく覚えた生活魔法を試します。

まず、どんな魔法があるか確認。


 《魔法リスト》

  ファイア New!

  ウォーター New!

  ライト New!

  クリン New!

  ドライ New!


このように表示された。

魔法の名前から想像できるが、一応確認してみると


【ファイア】着火する魔法。攻撃には不向き。

【ウォーター】水を出す魔法。攻撃には不向き。

【ライト】光の玉を生成し、周囲を明るくする魔法。

【クリン】対象物の汚れを取る魔法。

【ドライ】対象物を乾燥させる魔法。


これは、生活に革命が起きますね。

さっそく【クリン】から使ってみますか。


よし、まずはこのホールから!

と思ったが、掃除が行き届いていた。


むむ、使いたい。使ってみたいのだ、魔法を。

そういえば、さっきの昼食の洗い物があるはず。

食器とか調理器具とか。

ごちそうになったんだから、お礼に洗い物しますよ?


台所に行くと、すでに洗い物は終わっていた。

みんな、意外としっかりしてるのね。


1階の各部屋をまわったが、汚れている部屋はなかった。

うぬぬぬ・・・

こうなったら、違う魔法だ!


何を使おうか考えながら廊下を歩いていると、この家の廊下には照明がなく

薄暗いくなっていた。

よし【ライト】を使ってみよう。


「我求めるは光の輝き。千の瞬きをこの地に与えよ!【ライト】」


B「何やってんの?見てる方が恥ずかしいんだけど」


いやん、見られてたの?

一度やってみたかったんですよ。

昨日、チャミに【クリン】かけてもらったときに、詠唱してないのは気付いてたけどさ

やっぱ、なんつーの、雰囲気って重要じゃん?


そんなことより魔法の効果の確認だ。

グレープフルーツぐらいの大きさの玉がフワフワ浮いている。

光の強さや玉の浮遊位置は念じることで調整可能なようだ。

廊下にほこりが溜まってないか、小姑のように調べよう。


廊下の突き当りまで探したが、汚れはなかった。

しかし、意外なものを発見してしまった。


今まで薄暗くて気が付かなかったが、もう一つ扉があった。

この扉の向こうがどうなっているのか、ベリーに確認しようと振り返ったが、もういなくなっていた。

よし、じゃあ開けるか。


ドアノブを引っ張ると、その先には地下に降りる階段があった。

おい、この家、地下室あったのかよ。

石でできた階段を下りると、四畳半ぐらいの小さな部屋がある。


しばらく誰も入っていなかったようで、ほこりが溜まっていた。

よし!これで【クリン】が試せるぞ!やふぅ


今度は無詠唱で魔法を使った。

なんということでしょう~、ほこりまみれの部屋が、一瞬で新築のように~

こりゃ便利だ。苦労してレベルを上げた甲斐があったってもんだ。


ところで、この部屋何だ?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ