表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/53

52. 見えない物を見ようとする誤解 全て誤解だ

そんなこんなで、家に着いた。

あ!これからの事を話そうと思ったのに、忘れてた。

あとでみんなの意見を聞きつつ決めて行こう。


8人そろっての楽しい昼食会はなかなか終わらず、そのまま夕食会に突入するのであった。

そのな楽しい宴も終わりを迎える。


Y「私は仕事がありますので、そろそろ失礼しますわ。」

E「えー、ママ帰っちゃうのー?」

F「今度はいつ来てくれるの?」


すっかり甘えん坊になってしまった子供たちだ。

そんなことを言われたら、ユミンは迷惑だろうと思ったが、嬉しそうに微笑んでいる。


Y「エリザもフリオも、いい子にしてるのよ?」

EF「はーい。」


そしてユミンは俺に視線を向ける。


Y「すっかりお邪魔しちゃって、ご迷惑をおかけしました。」

「いえいえ、2食分も作てもらって、ありがたいです。」


ユミンは何も言わず、子供たちを見ている。

子供たちは、不思議そうにユミンを見上げていた。


しばしの沈黙の後、ユミンが言った。


Y「ご迷惑でなければ、また子供たちに会いに来てもいいですか?」

「ええ、ノープロブレムですよ。モーマンタイ、モーマンタイ。」

Y「ありがとうございます。ではまた近いうちに。」


彼女からは、何かを我慢しているような様子がうかがえる。

その内容は予想できるが、俺が提案するのも、変だしなぁ。


A「一緒に住んじゃえばいいじゃん。」

「アリス?」

A「2階のエリザの隣の部屋を、ユミンの部屋にしちゃえばいいのよ」

「そこ、俺の寝室なんだけど。」

A「あなたはここで立ったまま寝なさい。」

「はひーん」

A「それに、あなたが買い物に行ったときにフリオに聞いたわ。ゼロが監視しているから間違いは起こさないわよね?」

「間違いって?」

A「もういいわ。」


こうして7人目の居候が増えたのであった。

もうこれ以上増やさないぞ。

増えないよね?




家の模様替えは即時に行われた。

俺が寝室として使っていた2階の部屋がユミンの部屋となり、2つあったベッドのうち、ひとつが1階の書斎へと運ばれた。

運んだのは、俺だけどね。


書斎と言いつつも、十分な広さがあるので文句はないのだが、窓からの景色が見られなくなるのが残念だ。

そうそう、窓と言えば、出窓の部分にドリーの盆栽が置いてあったのだが、なぜかそれも書斎に移動した。

この部屋は、あんまり日当たり良くないけど、いいの?


ドリー曰く

D「家族水入らずを邪魔しちゃ悪いじゃん。」

だそうだが、俺の邪魔はしていいのか?

理不尽だ。


模様替えは、ベッドを動かすだけでは終わらず、2階の寝室を生活空間にする必要があり

住民総出で急ピッチに部屋作りが行われた。


Y「本当にみなさんありがとうございます。」

B「いいって、それに敬語はやめてね。」

Y「うれしいわ。娘が増えたみたい。」

C「娘って・・・。たぶん私たちの方が長く生きてるわよ?」

Y「じゃあお母さん?」

A「やめてー。急に老けた気がするから。」


ユミンは住民として認められたようで、仲良くやっている。

女性は3人集まれば派閥ができると聞くが、どうやら我が家は平和なようだ。


「じゃあ、俺はギルドに住民登録してくるよ。」

Y「私も同行した方が良いですか?」

「いや、書類提出するだけなので、大丈夫ですよ。」

Y「ご面倒をお掛けします。」

「いえいえ、これも家主の仕事ですから。」




ギルドで住民登録とローンの支払いを終えて家に帰る。

2階に行くと、さっきまでの平和な空気はどこへやら。

何やらとげとげしい雰囲気になっていた。


こんな時は、悔しいがフリオに聞くのがいいだろう。


「フリオ君?何かあったのかね?」


Z「待ってくれ、フリオに戻す。」


あれ?ゼロモードだった。

これは何かあったに違いない。


ゼロがフリオに戻るのを待っていると、エリザが1枚の紙を俺に叩きつけた。

そこには、こんなことが書いてあった。




 『振り向かないあなた』


 私はいつも、あなたの背中ばかり見ている。

 私の気持ちを知らないあなたは、振り向いてくれない。

 

 私はいつも、あなたの背中ばかり見ている。

 決して振り向いてくれないけれど、私はずっとついて行く。


 いつか振り向いてくれる日が来ることを信じて。


 あなたの影が、私に伸びている。

 悔しいから力いっぱい踏んでやった。

 

 あなたの影が、私に伸びている。

 私の影をあなたの影にに重ねるの。


 いつか、そうなることを信じて。 




うわ!これは恥ずかしい!

顔から火が出るとはこの事か!


E「ねえ、これ知ってる?」


俺は反射的に首を激しく横に振った。

こんなの知らない!知らないぞー!


俺が否定したことを確認したエリザは「そうよね」と言って部屋作りを再開した。

それを見て、他のみんなも部屋作りを始めた。

しかし、みんな無言だ。

怖いよー


F「兄ちゃん、ちょっとこっち来て。」


フリオに連れられてフリオの部屋に移動した。

助かった!ありがとう!


F「実は兄ちゃんが出かけたあとね。」


こうしてフリオにより真相が語られた。


きっかけは、フリオが床に落ちていた紙を拾ったことに始まる。

それは、動かしたベッドの場所にあったものだ。


F「あれ?この紙なに?」

E「便箋みたいね?書きかけの手紙とか?」

F「ママかパパが、昔書いたやつかな?」

Y「私は書いた記憶はないわねぇ。」

E「何が書いてるの?」


ちょっと!他人の手紙読んだらダメでしょ!

俺がその場にいたら、力ずくでも止めてたぞ!


A「えーと、なになに?プッ!これ手紙っていうかポエムじゃない?」

B「見ている方が恥ずかしくなるわ」

C「でも、この内容は見過ごせなくない?」

D「ものすごく恥ずかしい内容だけど、ちょっと共感できるのが悔しいのよね。」

E「ねえフリオ、その手紙、どこにあった?」

F「兄ちゃんのベッドがあった場所だよ?」

E「なるほど。」


なぜか納得するエリザ。名探偵エリザの推理ショーが始まるのであった。


E「偶然ベッドの下に入り込むのは考えられないわ。つまり、誰かが意図的にベッドの下に置いたってことよ。」

A「誰かって?」

E「書いた人か、読んだ人でしょうね。」


この時点で、読んだ人は俺と思われてるんだろうな。


B「もし、もしもだよ。この手紙をもらったらさ、無造作にベッドの下になんかに置くかしら?」

C「こんな重い内容の手紙を読んで、ベッドの下に放り込まれたらショックだわ。」

E「そう、つまり、書いた人が置いたというのが濃厚ね。」

A「でも、どうしてベッドの下なんかに?」

E「手紙の内容にも共通するけど、いつか発見される日を信じてって感じじゃないかしら?」


想像が想像を呼び、勝手に状況が整理されていく。

ここでフリオが爆弾を投入した。


F「この手紙、誰が書いたんだろうね?」


この言葉がきっかけで、犯人捜しが始まってしまった。


A「言っとくけど、私じゃないわよ。」

B「そうかしら?ここにあったベッドを1階に動かそうって言ったのアリスだよね?」

C「そういうベリーも怪しいわよね。手紙を見て一番恥ずかしがってたし。」

D「あら?ベッドの下に置かれたらショックだって言ったの誰かしら?」

E「ドリーは共感できるって言ってたわよね。それに口数が少ないのも怪しいわ。」

F「お姉ちゃんは逆に、嘘つくときは口数が多くなるよね。」

Y「どこかでラブレターを貰って、捨てるのも忍びないからベッドの下に隠したとか・・・」


さっきまでの平和な空気はどこへやら。

険悪な空気に包まれていた。

ユミンだけは、読んだ人をゼロと考えているようだ。


Z「待て待て、俺はお前一筋だ。」


ついにゼロまで登場し、混沌とする。

女性陣は犯人の擦り合いをはじめ、ゼロは身の潔白を訴える。

ゴールのない話し合いは長くは続かず、最終的には全員が沈黙する事態となった。

そんな時、俺が帰ってきたそうだ。


F「兄ちゃん、あの手紙に心当たりある?」


俺がどう返答しようか考えていると、部屋がノックされた。

アリスが一人で入ってきた。


A「あの手紙を見て、どう思ったの?」

「ど、どうって?」

A「手紙見たとき、動揺しているように見えたから。」

「そ、そうかなー」

A「バレバレよ。すぐに顔に出るんだから。」

「あー、バレちゃってますか。」


冷静に質問を投げかけるアリスが怖い。

すべてが見透かされているようだ。


A「あの手紙、っていうかポエムだけどさ、私が書いたわけじゃないど、あれを書いた人が、どんな気持ちで書いたか、わかる?」

「うん、理解してるつもりだよ。」


アリスはジト目で俺を見る。

ほんとにこいつわかってんのか?という目だ。


A「ポエムに出てくる『あなた』が誰だか想像できる。」

「そりゃ、わかるよ。」

A「そうよね。そこまで鈍くないわよね?」


おい、なんか失礼な物言いだな。

そりゃわかるに決まってんだろう?


A「それで『あなた』が振り向くのは、いつのなるのかしら?」

「振り向くことなく、どこかに飛んで行ってしまうと思うな。」

A「え?そんな。それは、悲しすぎる。」


なぜかアリスは泣いていた。

そんなに感情移入しなくたっていいじゃないか。


廊下で物音がした。

フリオがドアを開けると、ドタドタと女性陣が雪崩のように転がり込んできた。

こいつら、盗み聞きしてたな?


B「イタタ。ねえ!飛んでいくってどういう事よ?」

C「飛んで行ったら、もう戻ってこないの?」

D「どこに行くのよ!私たちはどうすればいいの?」

E「やっと理解してもらえたのに、それが答えじゃあんまりだわ。」

Y「確かにあの人は、飛んで行ってしまったわね。」


なんだなんだ?

そんなに重大な事だったのか?

仕方がない、正直に話すか。




そして俺は、床に正座をさせられていた。


F「じゃああのポエムは、兄ちゃんが書いたって事だね?」

「お、おう。正確にはポエムじゃなくてリリックな。」

E「カッコつけんな!どうして知らないって言ったのよ。」

「いや、恥ずかしくて、自分が書いたと言えなかったっす。」

D「んもー、どんだけヤキモキしたと思ってるのよ!」


おかしいぞ。

俺がこっそり書いたリリックを勝手に見られて俺が怒られてる。

この構図は正しいのか?


C「あの歌詞は、どこから思いついたの?自分の経験?」

「いや、寝室の窓に小鳥が2羽止まってて、その様子をリリックにしたんだ。」

B「え、小鳥?じゃあ歌詞に出てくる『あなた』は?」

「2羽の小鳥のうちの1羽だよ。歌詞というか、リリックな。」

A「振り向かないで飛んで行っちゃうっていうのは?」

「ああ、リリックを書いてるときに飛んで行っちゃったからだけど?」


みんな唖然とした顔をしていたが、これが真実だ。

恥ずかしいから、あまり掘り下げないでくれ。


F「ベッドの下にあったのは、どうして?」

「書いてる途中で誰かが部屋に入ってきたから、あわてて隠しただけだよ。ほら、あの時だよ、朝チャミが・・・」

D「あ!朝立ち疑惑のときか!」

「ちょっとだけオブラートに包んでもらっていいですか?」


そう、そのあとやけになって南の島に飛んだんだっけな。

今となればいい思い出だ。


E「で、どうしてそのままにしてたの?」

「いや、書いたことも隠したことも、すっかり忘れててね。」

C「あなたらしいわ。」


妙に納得されてるけど、とにかく一件落着でいいのかな?


Y「みなさん、振出しに戻ったようですし、お茶にしませんか?」


ユミンがきれいにまとめてくれた。ん?振出しってなんだ?


各々、好き放題言いながらテーブルに向かう。


A「私の純粋な涙を返して欲しいわね。」

B「あー、馬鹿らしい馬鹿らしい。」

C「ちくわ大明神」

D「見えない物を見ようとする誤解 全て誤解だ。」

E「しかし、絶妙に勘違いする歌詞よね。これが無意識とは。」

F「今回の一番の被害者ってパパじゃないかな?」


もう好き放題言ってくれ。それに、歌詞じゃなくてリリックと言ってくれ。

さて、俺もお茶しようかね。


Y「あら、あなたはもう少し座ってた方がよろしいのではなくて?」


ユミンの笑顔が怖い。

この家で一番怒らせてはいけない人ではないだろうか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ