46.こうかは ばつぐんだ
《イベント通知》
イベント名『傾国の美女を救え』
王太子が寵愛する側近の【ガーネット】が行方不明になった。
ショックを受けた王太子は、部屋に閉じこもり、王政に影響が出ている。
【ガーネット】を救って、王太子を部屋から出すのだ。
達成者には、イベントでしか手に入らないレアアイテムが贈呈される。
なお、【ガーネット】の容姿等については、現在のところ非公開となっている。
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これ、イベントだったんだ。
というか、プレミアム会員への誘導だよね?これ。
浦島太郎や海外の童話だけでなく、日本書紀の要素も入ってるのか?
アメノウズメが裸踊りする展開か?
それより、イベントの通知が遅くないか?
ガーネットの話では、追い出されたのは数日前だ。
なにか、運営側の思惑がありそうだな。
でもまあ、イベントとわかって安心した。
王城まで連れて行けば、あとはなんとかしてくれるんだよね?きっと。
「じゃあ、王城に行こうか!」
G「え、でも。」
「どうやら、王太子が部屋に閉じこもって、国が動いてないらしいよ。」
G「どうしてそんなことをご存じですの?」
「あ、いや、ちょっと情報が入ってさ。」
G「でも・・・怖いんです。」
「きっと、行けば何とかなるさー。なんくるないさー。」
綺麗なオッドアイを潤ませて、上目遣いに俺を見る。
こうかは ばつぐんだ!
「そ、そうだよね。まだ心の整理ができてないもんね。」
G「ごめんなさい。ご迷惑をおかけして。」
「いーっていーって、落ち着くまではこの家にいていいから。」
G「本当に、なんとお礼をいって良いやら・・・」
この時俺は気付かなかった。
ガーネットの口角が、ほんの少し上がったことに。
俺が根城としていた1階の応接室を、ガーネットの仮住まいとした。
着替えなどはないが、魔法でどうにかなる世界なので、きっと大丈夫だろう。
俺の憩いの場は、書斎になるのかな?
G「本日は本当に助けていただきありがとうございました。」
「お礼はもういいって。ゆっくりしていってね。」
G「あなた様のような、お強い冒険者様に見つけていただいたことに感謝いたします。」
「あ、俺、冒険者じゃないんで。」
G「まあ、そうでしたの?」
「一応、生産職って事になってる。何も生産してないけどね。」
G「生産職のご家庭だったのかしら?」
「乗っていた船が魔物に襲われて、この街に流れ着いたんだ。」
G「まあ、大変でしたわね。」
「身分証明も何もないから、ギルドカードを作るためにギルドに行ったら、何か職に就かないとダメって言われて。」
G「それで、生産職を選んだわけですか。」
「うん。冒険者は危険だし、商人は頭使いそうだからね。」
G「ゼロからのスタートで、このような大きなお家まで持てるなんて、素晴らしいですわ!」
「いやいや、ガーネットなんて頭良さそうだから、商人になったら大儲けできるじゃない?」
G「あらまあ、お上手ですわ。」
俺とガーネットで楽しい会話をしていたんだが、周りの目が痛い。
会話してるだけだよ?悪いことしてないよ?
B「ねえ、ガーネットは色々あって疲れてるでしょうから、部屋で休んでもらったら?」
G「お心遣い、痛み入ります。それでは、お部屋で休ませていただきます。」
ああ、ガーネットは行ってしまった。
部屋について行こうとしたら、頬っぺたをつねられた。
もうちょっと優しく止めてくれませんか?
ホールに集まるBCD。そして俺。
今後についての話し合いが始まる。
あれ?アリスがいないな?ま、いいか。
B「さて、どこかのチョロさんのおかげで居候が増えたわけだが。」
C「あの子、貴族の子でしょ?料理とか作れないよね?」
D「きっと掃除とか草取りもできないだろうな。」
女性社会は難しいようで、働かざるもの食うべからずの図式があるようだ。
つまり、ここに住むからには、何か仕事をする必要があるらしい。
「まあ貴族だからできないのは仕方ないとして、誰かが教えながらやらせればいいんじゃない?」
D「誰が?」
「みんなで?」
BCD「えー」
B「元はと言えばさ」
C「誰があの子を拾ってきたんだっけ?」
「すんません、俺っす。」
という経緯で、俺が教育係になったようだ。
でも、料理は教えられんぞ!
パリーン!
G「キャッ!ごめんなさい・・・」
「いいっていいって、それより怪我してない?」
G「わたくしは大丈夫です。でもお皿が割れてしまいました。」
「また買えばいいんだからさ。気にしないで。」
次の日の朝。
朝食を終えてから、洗い物のやりかたを教えていた。
魔法は使えないとの事で、手洗いだ。
ちょっと手が滑って皿を割っちゃったけど、これも勉強だね。
でも、5枚はちょっと割りすぎかな?へへ。
B『どう思う?』
C『天然か計算か、まだ判断はできないかな。』
D『計算だとしたら、わざと皿を割るメリットは?』
A『ドジっ子アピールなのかもね。』
ちょっとあなたたち、計算のわけがないじゃない?
それに、どうして俺に聞こえるようにテレパシーしてるの?
A『そのうちボロを出すわ。しばらく泳がせておきましょう。』
アリスたん、なんか怖いよー。
G「キャー!」
「え?え?どしたの?」
G「みみみみみみ」
「耳?」
G「ミミズがいますー」
「あー、土壌がいいから、ミミズも生息してるよ。」
G「死ぬかと思いました。」
「まったくガーネットは、可愛いなぁ。」
今度は家庭菜園の畑仕事だ。
じゃがいもの収穫をしていたら、ミミズが出てきたようだ。
貴族育ちには、ちょっと難しかったかな。
早く慣れて欲しいものだ。
B『どう思う?』
C『お貴族様だから、ミミズは慣れてないと思うけど、それよりもねー。』
D『教育係の甘さは、目に余るものがあるよね。』
A『うちらには厳しいのに、差別よね。』
あのー、聞こえてるんですけどー
でもね、あの潤んだ瞳で上目遣いで見られちゃうとね。
水・飛行タイプに10万ボルトなわけですよ。
昼食は、アリスがぱぱっと作ってしまったが、夕食作りはガーネットも参加させるそうだ。
エプロンをつけて腕まくりながら「わたくし、頑張ります」なんて言ってる姿が一番のごちそうでした。
B「じゃあさ、ガーネットは、このレタスをちぎって、サラダボウルに並べてくれる?」
G「手でちぎってよろしいのですか?」
B「うん、手でいいよ。」
G「大きさはどのようにしましょうか?」
B「あん?あなたが作るのはサラダだよ?サラダに入ってるレタスの大きさ位見たことあるでしょ?」
今日の夕飯担当はベリーでした。
ねーねーベリーさん、少しばかり厳しすぎませんか?泣いちゃいますよ?俺が。
G「できましたわ!」
B「全然足りないよ。何人分だと思ってんの?」
G「あとどれぐらいでしょうか?」
B「そんなもん、自分で考えてよ。」
めっちゃスパルタやん。
思わず助けに行こうとしたら、他の3人に止められた。
なんで?ねえ、どうして?
「うんめー!サラダ最高!」
ABCD「・・・。」
G「ありがとうございます。わたくしがレタスをちぎりましたの。」
「うんうん、レタス最高ー」
D「それ作ったの、私だよ」
「あ、そ。でもガーネットは料理上手だなー」
G「ちぎっただけですわよ?ウフフ」
A『やっぱり、なんか引っかかるわね。』
B『いや、馬鹿なのは知ってたけど、ここまで馬鹿だとは。』
C『度を超えてるよね。何か怪しいんじゃない?』
A『もう手は打ってるわ。』
D『アリス怖いわー』
ん?なんか言ってる?でも気にならない。今日は気分がいいのだ。
それはそれは、最高の食卓でした。
こんな日が毎日続けばいい。
『王城なんかには連れて行かないぞー!』
あれ、心の声が漏れちゃった。まいいか。本当の事なんだし。
***** アリス視点 *****
あいつの様子が変だ。
いや、いつも変なのだが、変のベクトルが違う。
いつもは異性に対して病的とも思えるほどの鈍感っぷりなのだが、今回は過剰に反応している。
絶対何か、裏があるはずだ。
昨日、ガーネットが早めに就寝するために部屋に戻った。
違和感を覚えた私は、2階に足を伸ばしたのであった。
E「それで、私の部屋に来たわけね?」
A「猫じゃなくなった瞬間は、全く興味を失っていたのに、急にガーネットを保護するようになったのよね。」
E「なにかきっかけはあったの?」
A「確定じゃないんだけど、ガーネットが見つめたときに、ちょっと様子が変わった気がする。」
E「見つめられて、おかしくなったか・・・」
気のせいかもしれないけど、そのときガーネットが笑った気がした。
笑ったじゃなくて、哂った感じ。
A「それで、あなた達の伝手を使って、あのガーネットって子を調べて欲しいのよ。」
E「ふ~ん」
A「なに?」
E「いや?別に?」
A「なによ、気になるじゃない。」
E「思わぬライバルの登場に焦っているように見えたからね。」
A「ちょ、そんなんじゃないわよ。」
トクリ。
胸の奥で、大きく何かが動いた。
エリザのやつ、変なことを言うから、意識しちゃってるじゃないか。
そんなんじゃないのに。
そんなんじゃない、はず。
ガーネットにデレデレしているあいつを見て、心が痛んだのは本当だ。
でも、焦っているわけじゃない。
あいつがおかしくなってるって心配しただけ。
そう、私は心配性なだけ。
そして今日、あいつの異常さは際立っていた。
「いいっていいって、それより怪我してない?」
「まったくガーネットは、可愛いなぁ。」
「あ、そ。でもガーネットは料理上手だなー」
『王城なんかには連れて行かないぞー!』
あいつの口から出てきた言葉とは思えない。
私はそんな言葉を掛けられたことがない。
うらやましい?嫉妬?
ちがう、そんなんじゃない。
あいつが、あいつでなくなりそうなのが怖いだけ。
夕食後、私は一人でエリザの部屋に向かった。
A「どう?何か分かった?」
E「聞いていた通り、男爵の次女で、王太子の妾っていうのは本当ね。」
A「それ以外に怪しい点は?」
E「つまんないぐらい、怪しい点はないわ。みんなに好かれるいい子ちゃん。」
A「まあ、今の感じなんでしょうね。同性から見るとイラつくけど。」
うーん、空振りだったか。
しかし、名探偵エリザは、有力な情報を持っていた。
E「彼女の親の男爵に、ちょっときな臭い噂があるわ。」
A「え?」
E「男爵なのに副隊長になってるのよ。」
A「なんか、上司に気に入られたとか、そんなことを言ってたわよ?」
E「その上司っていうのが女性で、どうやら恋愛対象として気に入られたようよ?」
A「それだけ魅力的な男性ってこと?」
E「いや、全然パッとしない人だったらしいんだけど、ある日突然、モテるようになったらしいの。」
まだ一等兵だった男爵が南部遠征に参加したときに事件は起きた。
南部の敵地に侵入した際、敵軍の規模を見誤ったことで、敗戦となった。
E「そのとき、男爵は捕虜として捕まってたらしいのね?」
A「まあ、貴族を捕虜にすれば、お金が取れるもんね。」
E「その通りで、お金と引き換えに釈放されたんだけど、そこからがおかしいのよ。」
今回の敵軍の規模を見誤ったのは、偵察隊となった男爵の見落としが原因の一つらしい。
本来であれば、罰則があってもおかしくないのに、なにもお咎めがなかった。
E「噂では、その時の隊長だった女性が、彼を庇ったらしいわね。」
A「その隊長が、副隊長に引き抜いた女性の上司ってこと?」
E「そう。彼は悪くない。情報を精査できなかった隊長である自分の責任とか言ってたらしいよ。」
A「まあ、それはそれで、正しいんじゃない?」
E「それだけならいいんだけど、男爵がその上司にお水を渡したとき・・・」
A「男爵の淹れたお水は美味しいなー、とか言った?」
E「なんでわかるの?」
A「さっき、似たようなのを見たからね。」
南部か。
そこに解決の道がありそうね。
A「悪いんだけどさ。」
E「南部の事なら調べてるわよ。」
A「さすがね。」
E「南部は古くから妖術が研究されているのは知ってるわね?」
A「知らないわよ。なに?妖術って。」
E「魔法は魔素を力に変換しているけど、妖術は妖物から力を借りてるの。」
A「妖物?よくわからないけど、良くない物のようね。」
魔法は、人々の暮らしが良くなるように研究されてきたものだが、妖術は、人に危害を加えることが前提のようだ。
A「それと、男爵が副隊長になったのがつながらないんだけど?」
E「鈍いわね。きっと妖術を使って上司を魅了したのよ。」
A「それって、南部の人から、男爵は妖術を教わったってこと?」
E「そう考えるのが自然ね。」
A「全然自然とは思えないけど、なんでそんなことするの?」
E「内部崩壊を狙ったんじゃないかな?」
そういえば、王太子が部屋に閉じこもって国が動いてないとか言ってたな。
人を簡単に魅了できてしまう術があれば、国力が落ちるかもしれない。
南部の人たちは、それを期待して、男爵という危険分子を放ったのかもしれない。
A「待って、妖術が使えるようになったのは男爵よね?ガーネットではなく。」
E「爵位を上げるために、王太子から寵愛を受られるよう、娘にも教えたんじゃないの?」
A「そう考えるのが、自然?」
E「ええ。」
この名探偵の推理が正しいかはわからないが、仮に合っていたとして、どうやってその妖術から逃れればいいの?