表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/53

45.吐き気がするほど

「あたい、告白なんてされたことがなかったから、舞い上がっちゃってさ。」

「いや、きっと今まで何度も告白めいたことがあったと思うぞ?気付いてないだけで。」

「そりゃ、食事や買い物や旅行に誘われたことはあるけど、告白って決まったわけじゃないし。」

「その誘いは、全部断ってたのか?」

「当り前じゃないか。二人きりで話すことなんてないし、緊張するだろう?」

「おい、二人きりで食事とか旅行とかに誘われてたのか?それは告白されるって思うだろう?」

「そうなのかい?知らなかったよ」


まあ、そのおかげで、今の自分がいるんだがな。

過去の男たち、残念だったな。


「スラッシュはあたいを、まるで鈍感な人のように言ってるけどさ、スラッシュもひどいよ。」

「ん?そうか?」

「だって、あたいの書いたラブレター、読んでくれなかったじゃないか。」

「普段、物書きなんてしないから、引き出しなんか開けないよ。せめて机の上においてくれよ。」

「そんなの、恥ずかしいじゃないか。」


彼女は、オレの部屋に移動した机の引き出しに、オレ宛の手紙を入れていた。

オレの部屋に机が移動したその日にだ。


「不安だったんだよ。スラッシュの反応が変わらないから。」

「そりゃ、手紙なんて読んでないからな。変わらないさ。」




オレが本国に調査内容を報告てから数日経っての事だ。

報告結果を聞くために行った骨董屋で聞かされたのは、オレの処分の内容だった。


『虚偽報告および精神状態不安定、重度の妄想癖のため国外追放を科す』


虚偽報告は本来は重罪であるが、オレが私利私欲のために行ったものではなく、頭がおかしくなったからだと判断。

情状酌量で処罰はしないが、もう使い物にならないから捨てる。

そういう判断だった。


何度も骨董屋に真実であることを伝えたが聞く耳を持ってもらえなかった。

そしてオレは身分証明書を没収された。


信じていたものに裏切られたショックは大きく、生きている価値を失ったオレは、自害する道を選んでしまった。

しかし、誰かに本当の事を知ってもらいたく、遺書を残すことにしたのだ。




「驚いたぜ、遺書を書こうと引き出しを開けたら、手紙が入ってたんだからな。」

「結果的に、最高のタイミングで読んでもらったのかもね。」

「だから、オレは、本当の意味で、死ぬ気でお前に告白できたんだしな。」


そして、今日に至る。


『二人で力を合わせて温かい家庭を築こう。』


これが彼女からのプロポーズの言葉だった。

オレは、「お、おう」としか答えられなかった自分が情けなく、何度も壁に頭を打ち付けた。


「新郎様、新婦様、式の準備が整いました。」


係員の呼び出しで、会場に向かう。


「スラッシュ、こういう時は手を繋ぐもんだよ?」

「そ、そうか、気が利かなくて悪いな」

「スラッシュ?」

「なんだ?」

「幸せにしてくれるかい?」

「ああ、吐き気がするほど、幸せにしてやるぜ。」

「ふふ、一緒に幸せになろうね。」

「お、おう。」


オレたちは、会場までの長い廊下で、永遠の愛を誓った。




***** ヨシュア視点 *****


今日は、家のローンを支払う日だ。

こういうイベントがないと、まったく家から出ない生活になっている。


C「やあ、珍しく出かけるの?」

「うん、ちょっとギルドまでね。」

C「もっと、外に目を向けてみたら?家に籠ってても不健康よ?」

「今日はちょっと冒険してみるよ。」

C「あら、お気をつけて。お土産まってるねん。」


玄関先でチャミに声を掛けられた。

そう、今日は冒険するんだ。

俺はあえて、自分の足で、歩いてギルドに行くことにした。

どうだ、冒険だろう。


家を出て、大通りを数十メートル。

ギルドに到着だ。

我ながら、これでは冒険にならないと反省。

帰りは、頼まれたお土産を探しがてら、通ったことがない道を歩いてみるか。

うん、今日は大冒険の日だ。


難なくローンの支払いが終わり、ギルドから出る。

左に行けば家までの最短距離だが、右に進んだ。

俺ってアウトローだな。


俺は、マップを見ずに、知らない道を突き進む。

同じ場所を何度も歩いている気がするが、きっと気のせいだ。

マップは見ないぞ!そう決めたんだ。


完全に迷子になっているのだが、それを認めず歩き続けていた時

俺の耳が、か弱い鳴き声を検知した。


「ミィー、ミィー」


子猫だ!子猫ちゃんの声だ!


「おーい、子猫ちゃーん、出ておいでー。」


子猫の鳴き声がする方向に、驚く光景が広がっていた。

数十匹のネズミが固まっている。

いや、あれはネズミではない。魔物のアイコンになっている。ネズミの魔物だ!

その魔物の集団の真ん中に、姿は見えないが、NPCを示すアイコンがあった。


猫ってNPC扱い?まあプレイヤーでも魔物でもないからかな?

そんなことはさておき、子猫ちゃんが魔物に襲われている!助けなければ!


俺は最高速で近づき【亜空間扇】を一閃。

ネズミの魔物を消し去った。

なんか、亀を助けた浦島太郎になったような気分だ。


俺の足元には、痩せこけた小さな白猫が体を震わせていた。

目は左目が黄金色、右目が水色のオッドアイだ。

俺が手を近づけても、逃げようとはしなかった。


両手で掬うように持ち上げる。


「ミャー」


子猫ちゃんは、小さな声で鳴いた。

潤んだ瞳でこちらを見つめてくる。


どうする?

ここに放置するか?

否!

また襲われるかもしれない。保護が必要です。

そう、保護なんです。

この子が元気になったら、安全な場所に放してやるのだ。

そのときの事を想像し、すでに涙腺が崩壊しそうだ。




「ただいまー」

C「おっかえりー。お土産は?」

「あ・・・。」


子猫ちゃんのことで、お土産のことはすっかり頭から飛んでいた。

まあ、この子猫ちゃんの愛くるしい姿がお土産だと思ってください。


C「ちょっと、何拾ってきてんのよ!捨ててきなさい!」

「お前は俺の母親か!」

C「うちは猫なんて飼う余裕はありません!」

「じゃあ居候を間引くか。」

C「ミャーミャー」


チャミさん。プライド持ちましょう。


A「あら?どうしたのその子」

「魔物に襲われてたのを助けてきた。回復するまで家に置いておくつもりだよ。」

B「何かエサあげたほうがいいの?」

「エサじゃない!ごはんです!」

C「きもっ」

「猫ちゃんが食べそうな食材ない?」

D「今は長ねぎ、玉ねぎ、ニラ、ニンニクならあるけど。」

「それ、絶対あげちゃダメなやつ!」


子猫ちゃんは、俺の手の中で震えている。

大丈夫だよ?喧嘩してるんじゃないの。いつもこんな感じだから安心して?

あ、おなかがすいてるんだな?何かないかな・・・。

俺は【アイテムボックス】の中を物色する。


  【全快玉】HP/MP/状態異常をすべて回復


これ、食べる?

調子悪そうだから、これで治るといいよね。

でも、これをあげたら回復しちゃう。

回復するまで家に置いておくって決めたんだ。

これをあげることで、お別れが近くなってしまう。

あー、悩む。悩むが、子猫ちゃんの体と俺の欲望を天秤にかければ、当然、子猫ちゃんが最優先だ。最重要項目だ。


俺は、子猫ちゃんを床におろし、【全快玉】を手のひらにのせて近づけてみた。

最初は警戒して匂いを嗅いだりしていたが、空腹に耐えきれなかったのか、パクっとかじりついた。


「ウミャウミャ」


そんな声を出しながら、一心不乱に【全快玉】を食べる。

よほどおなかがすいてたんだね?誰も取らないからゆっくり食べるんだよ。


子猫ちゃんは、小さな口ですべてを食べきり、俺の手のひらをペロペロ舐めていた。

ザラザラした感覚が、ちょっとくすぐったい。


「これ、1個食べれば十分なはずだから、お預けだよ!食いしん坊さんだなぁ。」


ABCDは、そんな俺を見て完全に引いているようだ。

何がおかしい?これが正しい姿だろう?


俺は子猫ちゃんの頭をなでなでしながら、冷ややかな視線に耐えていた。

すると突然、子猫ちゃんの様子が変わった。


体が急激に大きくなり、尻尾が縮み、4足だったのが2足で立つようになった。

前進を覆っていた白い毛はなくなり、代わりに白いドレスになった。


??「襲われていたところを助けていただき、ありがとうございました。」

「し、し、しやべったーーー」




B「ねー、いい加減、現実を直視してよ。」

「子猫ちゃん・・・。」

C「しかし、面倒なのを拾ってきたわね。どうするつもり?」

「俺の子猫ちゃん・・・。」


俺が【全快玉】をあげたのは、小さなかわいい子猫ちゃんだった。

それがどうしてこうなった。

そこにいるのは一人の成人女性ではないか!

髪の毛が白いのと、瞳の色は同じだが、モフモフしてないじゃないか!


A「ところで、あなた名前は?」

??「はい、わたくしはガーネットと申します。」

D「しかし、女の私が見ても、惚れ惚れするほど美人さんだよね?」

G「そんなことございません。皆様もお綺麗でございます。」

B「いやー、それほどでもー。」


こんなはずじゃなかったんだ。

子猫と俺の、楽しいニャンダフルライフが待っていたはずなんだ。

もしかしてこの、ガーネット?自由に猫化できたりしないか?

だったらずっと猫の姿でいて欲しい。


「ガーネットさんとやらに聞きたいのだが、どうして猫の姿をしてたのかニャ?」

C「ダメだこいつ。」

B「もともとダメだけど、さらに悪化したな。」

G「あの、よろしいでしょうか?」

A「どうぞどうぞ。」

G「わたくしは、呪いによって、猫の姿に変えられていました。」

「なん、だと?」

G「先ほどいただいたお薬で、その呪いが解けたようで、本来の姿に戻りました。」


ああ、呪いをかけた人!もう一度呪いをかけてくれ!

最初は浦島太郎みたいだと思ったが、どこか外国の童話も混ざってきたぞ?


G「一生、猫のまま過ごすのかと思い、絶望していました。」


俺は、現状に絶望している。

なんで【全快玉】なんて与えてしまったんだ!

俺の馬鹿!


A「で、どうすんの?回復するまでは家に置いとくって言ってたけど。」

「あ、ああ。そうだな。家に帰った方がいいな。」

B「なんか冷たくない?」

「いや、このままじゃ、俺が拉致したことになって、誘拐犯として捕まるだろ?」

C「あんたにしちゃ、冷静な判断できてんじゃん。」

「いやー、照れるなー。」

D「それ、褒めてないよ。で、ガーネットの家はどこなの?」


全員の視線がガーネットに集中する。


G「わたくしは、捨てられたのです。」


B「これまた厄介なの拾ってきたわね。しーらないっと。」

C「それで、捨てられたってどういうこと?」


G「話は長くなります。わたくしの父親は・・・」


こうしてガーネットの長い長い身の上話が始まった。

要約すれば、こんな感じだ。


男爵家の次女として生まれたガーネット。

父親である男爵は、王国軍の副隊長という役職だ。

男爵としてその地位は珍しく、上司から気に入られたことにより、異例の抜擢となったようだ。

そのコネと本人は濁したが、おそらく器量も良いことから、ガーネットは王城の女中として働くことになった。


ある舞踏会で、配膳担当として会場にいたところ、その姿を見た王太子がいたく気に入り、自分の側近にしたいと申し出があったそうだ。

いわゆる妾になるのだろう。

ガーネット本人も家族も大喜びだったが、それを面白く思わない人物がいた。

王太子の本妻、つまり王太子妃だ。


これは王太子が悪いのだが、王太子妃や生まれたばかりの子供をないがしろにし、ガーネットにばかり愛情を注いでいたようだ。

嫉妬で怒り狂った王太子妃は、術師に依頼し、ガーネットを猫に変身させた。

王城の衛兵は、まさかガーネットが猫になっているとは思わず、城内にいた猫を外につまみ出した。


A「それで?城を追い出されてから、どうしたの?」

G「しばらくは王城のまわりにいたのですが、父親ですら私に気づいてくれませんでした。」

B「まあ、そうだろうね。猫だし。」

G「数日後、空腹に耐えきれず、悪いこととわかっていながら、馬車の積み荷にあった食材を食べていました。」

C「なるほど!その馬車に乗って、この街に来たってわけね?」

G「はい・・・。」


で、街の裏路地でネズミの魔物に襲われていたところを、都合よく通りかかった俺が助けたってわけか。


G「王太子様は、情熱的な方なので、今頃わたくしを探し回っていると思います。」

D「で、あなたはどうしたいの?王太子の元に帰りたいの?」

G「わたくしが戻ると、そのせいで皆さんに迷惑がかかってしまいます。」


夫婦関係は、一度崩れると修復が難しいんだよねぇ。

国の事を考えれば、このままガーネットは、どこか遠いところでひっそりと暮らした方がいいのかもな。


ん?突然インフォメーションが来たぞ?


 《イベント通知》

  イベント名『傾国の美女を救え』


  王太子が寵愛する側近の【ガーネット】が行方不明になった。

  ショックを受けた王太子は、部屋に閉じこもり、王政に影響が出ている。

  【ガーネット】を救って、王太子を部屋から出すのだ。

  

  達成者には、イベントでしか手に入らないレアアイテムが贈呈される。

  なお、【ガーネット】の容姿等については、現在のところ非公開となっている。

  (プレミアム会員限定に毎週ヒントが通知されます。この機会に入会を!)

  

あちゃー。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ