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43.アデュー!

俺は、メイメイやスラッシュがいた世界で、あの転移方法が何度も可能かを確認した。


「おい中二!」

「なんだい?」

「俺の作った【瞬移の羽】は、向こうの世界で再現できるものか?」

「うーん、きっと作れないと思うよ。ボクが無理なんだから、他の人には無理だね。」

「随分と自信満々だな。」

「これでも勇者召喚された能力者だからね。それも魔法技術極振りのね。」

「そうか、じゃあ安心かな?」


俺たちの会話に、スラッシュが割り込んでくる。


「なんだその勇者召喚とか、能力者とか。」

「ヒ・ミ・ツ。スラッシュも、ボクに何か隠してるでしょ?」

「ちっ!」


くやしいのうwwwというAAを付けたくなるほど悔しがるスラッシュは放っといて、話を続ける。


「俺が渡した【瞬移の羽】って何個ぐらいあった?」

「12個もらってて、ボクが帰るのに1個使って、第3部隊の訓練で2個使ったから、9個残ってるはずだよ。」

「そうなると、2回の襲撃で2個、いや往復だから4個使ったから、残りは5個か。」


アイテム残数の計算をしていると、スラッシュが割り込んできた。


「いや、最初の襲撃は火をつけるだけだから1人で十分だが、2回目は最低でも3人は必要だ。」

「ほほぅ、詳しいね、スラッシュくん。」

「もう察しが付いてるんだろう?オレは否定も肯定もしないよ。」

「つまり、襲撃で8個を使い、残りは1個ってわけか?」

「たぶんな。だから3回目がないんだろう。残った1個は、研究用に取っておくだろうからな。」


スラッシュは、芋虫のような太い指で鼻の下を自慢げにこすっている。

かわいくないぞ。


「オレが知ってる情報はここまでだ。これでオレを返してくれるか?」

「条件として、渡せる【瞬移の羽】は1個だけだ。いいな?」

「ああ、十分だ。そんなおっかねぇアイテム、持っていたくないからな。」

「じゃあメイメイ、返還の準備だ!」


俺とメイメイは、スラッシュを元の世界に戻すべく、準備を始める。

スラッシュが持ってきたインクと筆を使って魔法陣を2つ書く。

マップ用とアイテム起動用だ。

スラッシュさん、ちゃんとインクと筆を持ってきてよかったね。

これがなかったら、簡単に帰れなかったよ?


「準備完了っ!じゃあスラッシュはこっちに来てくれるかい?」

「なあ、お前はもう、帰れないんだよな?」

「うん、そうだね。でも、スラッシュがこっちに来ることはできるよ?」

「いや、もういいや。そうだ、このノート、返しとくな。」


スラッシュがノートを返すということは、もう二度とこっちに来ないという意味だろう。

魔法陣が光を放ち、スラッシュを包み込む。


「ねえ、そろそろマップが見えてこないかな?」

「すげぇ、地図だ。こりゃ便利だな。で、どうすりゃいいんだ?」

「こっちの小さい魔法陣に向かって両手を出して。」


もう一つの小さな魔法陣の上に置かれた【瞬移の羽】からも光が立ち上る。

その光は、スラッシュの両手に吸い込まれていく。


「お?なんだ?場所を選ぶように言われてるぞ?」

「うん、そしたら帰りたい場所を強く意識するんだ。」

「俺が帰りたい場所は、ふっ、ここ以外ないな。」

「わかった。あの宿でしょ?なぜか気に入ってたみたいだしね。」

「お前、最後に殴らせ・・・」


スラッシュの体は光に包まれ、やがて消えてしまった。

なんか、最後に物騒なことを言ってたような気がするなあ。


「なあ、なんか殴られそうになってなかったか?」

「心当たりはあるけど、ボクを殴っても、何も解決しないんだけどね?」

「なんか楽しそうな話だな。」

「スラッシュが、あと一歩踏み込めれば、悪いようにはならないと思うんだけどね。」

「なんだ?女絡みか?」

「ご想像にお任せしま・・・痛て!何するんだい?」

「むしゃくしゃしたからやった。今は反省している。」


スラッシュが来た理由って、謎任務だけじゃない気がするな。

何やら、甘酸っぱい何かが関係しているのだろう。

あいつ、不器用そうだから、なかなか進展しなさそうだ。


「じゃあ、ボクはそろそろログオフするよ。」

「そうかい、じゃあリアルを頑張ってくれ。」

「この系のゲーム得意じゃないから、あまりログインしないと思うよ。」

「まあ、気が向いたら、俺の暇つぶしに付き合ってくれよ。」

「うん、じゃあギルド職員に捕まる前に帰るね。」

「ばいばいきんとか、言わないのか?」

「ガキじゃあるまいし。じゃあね!アデュー!」


いきなりフランス語かよ。子供の成長は早いな。

サリューじゃなくてアデューか。

このゲームで、数少ない知り合いのプレイヤーがいなくなったことに、多少の寂しさを感じていると


A「帰った?」

C「プハー。隠れてるの疲れたよ。」

D「あれ?ベリーは?」


そうだ、こいつらなぜか隠れてたな。

メイメイだったら、別に姿を現しても害はないと思うけどね。


「ベリーなら、診療所に行くとか言ってたぞ。」

D「あー、今日はその日だったか。」

A「そろそろ帰ってくる時間なのに、今日は遅いわね。」

C「心配でしょ?ちょっと見てきてよ。」


あれ?それ、俺に言ってます?

何もしてないけど、なんか疲れてるんですよね?


D「今日の料理当番はベリーなのよね。遅くなると、それだけ食事が遅くなるわね。」

「心配なので、様子見てきます!」




というわけで、ギルドに来ました。

診療所には営業終了を示す「Closed」の看板が出ているが、まだ中に人がいるみたいだ。

治療が長引いてるんですかね?


扉に近づくと、中から大きな声が聞こえた。


「何よ!いつも同じ薬ばかり。これじゃ治らないって言ってるでしょ?」


女性の声が聞こえる。

治療方針に納得がいかないようだ。


「それでは、今回は新しい薬を出しますが、強い薬ですので、直ったらすぐにやめてくださいね。」

「良かった。これで治るといいわね、チーちゃん。」

「では、お大事に。」


扉から出てきたのは、4歳ぐらいの女の子を抱っこした女性だった。

会話の内容から、この女の子が病気なのだろう。


女の子が、母親の腕の中で暴れている。


「チーちゃん、あるくから、おろして。」

「あのね、チーちゃんは病気なんだから、ママが抱っこするわ。」

「チーちゃん、あるけるのにぃ。」

「あなたは病気なの!じっとしてなさい!」


随分と過保護に思えるが、それも子を思う親の気持ちなのだろうか。

でも、叱るのは違うと思うなぁ。

母子の関係に、ちょっとだけ違和感を覚えた。


さ、とっとと料理当番を連れ帰りますかね。

診療所の裏手にある従業員通用口付近の椅子に座って、ベリーが出てくるのを待つ。


そういえば、精霊って透明にもなれるし空も飛べる。

もしかして、もう家に帰っちゃってるのかも。

診療所のスタッフに聞いてみるか。


スタッフー!

なんて呼ぼうとしたところ、従業員通用口から3人の女性が出てきた。


「ねえ、さっきの患者さんに、どんな薬出したの?」

「単なるビタミン剤よ。同じ薬は受け取ってくれないし。」

「プラシーボ効果ね?もう万策尽きたから、やってみる価値はあるかも。」


ダメですよ、そういう話を公共の場所でしちゃ。

何の病気か知らないが、ベリーの魔法でちょちょいと治っちゃうんじゃないのか?

あ、そうだそうだ、ベリーを探しに来たんだった。聞いてみますか。


「すみません、診療所の方ですよね?」

「はい、そうですが、どうかしました?」

「あの、今日の診療所にベリーがいたと思いますが、もう帰りましたか?」


3人の女性は、俺を頭の悪い人を見るかのような目で見ている。

女性の心を代弁するならば「何言ってんだコイツ」である。


「申し訳ありませんが、患者さんのに関する情報については、ご遠慮いただいています。」

「あ、いや、患者じゃなくて、治す方で。」

「こちらにベリーさんという名の医師はおりませんが?」


なんだベリー。お前、名乗ってないのか?


「ベリーって精霊ですよ。水の精霊。今日、いましたよね?」

「精霊?ですか?」

「はい。青い髪で、ちょっと生意気そうな顔をしたやつです。」

「そうですか、精霊が見えるんですね?本日の診療は終わりましたので、明日お越しください。」


あれ?俺が病人扱いされてる?

そんな、可愛そうな人を見るような目で見ないでください。


俺は、逃げるようにギルドを後にした。

ベリーが家にいなければ、また探せばいいか。




「ベリー帰ってきた?」

C「まーだだよー」

「あれ?診療所はもう終わってたし、ギルドにベリーいなかったよ?」

A「うん、ちょっと気になる患者がいるから見てくるってさ。」

「へ?どこからその情報が?」

D「あなたが私にくれたもの♪テレパシーができる指環♪」

「へったクソな替え歌だな。」

A「つまり、テレパシーで連絡が来たって事ね。」

「俺がギルドに行った意味は?」

C「ちっちゃいことーは気にするな!それワカチコワカチコ~」


ふざけすぎだよあんたら。

こいつらの思考回路のアップデート間隔は長いのだろうか?

基本的にネタが古いぞ?


料理当番はチャミが代行することになり、食事の準備が整った頃、ベリーが帰ってきた。


B「ただいま。」

ACD「おかえりー」

「おかえりベリー。どうした?眉間にシワが寄ってるぞ?」

B「今日、気になる患者がいたから、ちょっと家まで付いて行ったんだけど。」

「ストーップ!色々突っ込みたいし、長くなりそうだから、食事の後にしようか。」


チャミが20分で仕上げたシチューのような料理を食べる。

心なしか、ベリーの食べる速度が、いつもより遅い気がする。

ベリーがここまで思いつめるなんて、珍しいな。


食事を終え、ベリーの報告タイムとなった。


B「さっきも言ったけど、気になる患者の家に行ったのね?」

「それは、合意の元?」

B「もちろん!」

「ならいいけど。」

B「もちろん合意なんて取ってないよ。大丈夫、姿も気配も消したから。」

「大丈夫じゃねーし。」


ベリーが付いて行った患者というのは、俺も見たあの母子だそうだ。

過去に何度も診療所に来ているが、全く治らず、お手上げ状態となっている。


A「その患者さんって、どんな症状なの?」

B「4歳の女の子で、腹痛と吐き気が主な症状。」

C「それは、ベリーの魔法で治してるのよね?」

B「私は診察の能力はないからわからないけど、魔法で楽になってるみたいだから、治ってるはずよ。」

D「でも、しばらくすると、また症状が出るってわけか。」


ベリーの魔法で一旦は症状は緩和するが、またぶり返す。

それを何度も繰り返すのだ。


「魔法の知識ないけどさ、ベリーの治癒魔法って、症状を緩和するだけ?」

B「違うよ。原因まできっちり排除してくれる。それだけに不思議なのよね。」

C「不思議なのはわかったけど、なんで家まで付いて行く必要があるのさ。」

B「ひとつの可能性が考えられるから、それを確かめたくて。」

A「可能性って?」

B「虐待よ。」


ベリーの考えも頷ける。

何度原因を排除しても、また再発するということは、生活習慣が関係している可能性がある。

ある程度、年を取っていれば暴飲暴食などがあるが、今回の患者は、まだ4歳だ。

親、もしくは同居者が関係していることも考えられるだろう。


D「で、家まで行って、何かわかった?」

B「それがね、虐待の真逆だったの。」

「つまり、過保護ってことか?」

B「そう。よくわかったわね。」

「その母子なら見かけてね、子供が歩きたいっていうのに、母親がずっと抱っこしてたから。」

A「4歳なら、もう抱っこは卒業よね。」

B「それでね、家の様子なんだけど・・・」


ベリーが見た光景は、異常なほどの過保護だった。

子供にはなにもやらせず、すべて母親がやっている。

靴を脱ぐのも、服を脱ぐのも、食事も母親が手伝っている。


「それは異常だな。父親は何も言わないのか?」

B「父親は、いないみたい。母子家庭のようね。」

A「それだけに、子供に依存しちゃってるのかしら。」

B「そうだと思うわ。だから虐待は、ないだろうなって思って、悩んでいたのよ。」

C「母親じゃないとしたら、近所の人とかが虐待してるとかは?」

B「近所関係も悪くないみたいよ?余ったおかずとか、貰ってたし。」


極度の過保護は虐待になりうるんだけどな。

それと病気は因果関係はないのか。

でも気になるんだよな。ギルドで見たあの光景が。

歩こうと主張する娘を叱りつける姿が、何かひっかかる。


B「症状も徐々に悪化してるみたいで、今回は血尿まで出てたみたい。」

「診療所って尿検査までするのか?」

B「違うよ。母親が持ち込んだんだ。」

A「あれ?母親は、どうして血尿が出てるってわかったのかしら?」

B「ほら、過保護だから何でも母親がやってるって言ったでしょ?」

C「トイレまで付いて行くか、それは異常だな。」

B「おなかが痛いっていうから、試しに尿を採取したら、赤かったから持ってきたってさ。」

D「まるで、血尿が出るって予感していたみたいね。」


過保護・・・近所からの施し・・・血尿・・・

心の中で引っかかっていたものが、やっとわかった気がする。

これまでの内容から、俺は一つの結論を下した。


A「代理?」

B「ミュンヒ?」

C「ハウゼン?」

D「症候群?」


「そう、代理ミュンヒハウゼン症候群」

B「何それ、聞いたことないよ?」

「まあ、虐待の一種だな」

C「それは、どんな症候群なの?」

「えと、自分は病弱な子供を介護している可哀そうな母親なの。みんな同情して?っていう気持ちが止まらない病気。」

D「じゃあ、病気は子供じゃなくて母親の方だったのか。」

「断定はできないけど、その可能性が高いんじゃないかな?」

A「それを断定するのって難しくないからしら?」


これが日本であれば、いくらでも調べる方法はある。

でも、この世界の医療レベルがわからない。

何かいい方法はないだろうか。

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