表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/53

41.メイメイノート

理由もなく第3部隊から解雇された傭兵仲間。

その不自然な動きに興味が湧いた。


「残った第3部隊の奴らは、何をしてたんだろうな?」

「・・・ここだけの話だけどな」


男は、急に声を潜めて話だした。

傭兵と兵士の関係は、言わば戦友のようなものだ。

男は第3部隊の兵士から聞いた話を教えてくれた。


「ある作戦の訓練をするとか言ってたんだよ。」

「その訓練に、傭兵は邪魔だって事なのか?」

「どうやら国家機密らしくてな、傭兵なんかには教えられないみたいだ。」


どんどん核心に近づいている。

そう感じながら、男の話に耳を傾ける。


「教えてくれたのは、何か大きな仕事をするための訓練だとさ。」

「どんな仕事だ?」

「教えられないが、今にわかるさって言われたよ。」

「それってもしかして・・・」

「ああ、敵軍の撤退に関係するのかもな。」


オレは一つの仮説を立てた。

今回のアルガルゲへの奇襲攻撃は、第3部隊によって実行された。

しかし、その時期は国境付近には軍隊がいる。


空からか?地中からか?

とにかく、国境警備隊の感知できない方法でアルガルゲの施設に潜入した。

そして、誰にも見つからずに撤退した。


そんなことが可能なのだろうか?


オレは男に礼を言ってその場を離れた。

その足で向かったのは、市場だった。

多くの行商人が露店を開いているその場所で、目当ての店に向かう。


そこは骨董品などを扱う店だが、実はアルガルゲと繋がっている。

オレは、そこの露天商にさっきの話を告げた。


「第3部隊ですか。でもそりゃ、少々無理がありませんかい?どうやって現地に乗り込んだんでしょうな。」

「モグラみたいに、土の中から攻めて来たりしたかもよ。あいつらそいういのが得意だからな」

「その線はすでに調査中でございやして、地面が掘られた後は見つかっとらんのですよ。」

「じゃあ空か?何かの飛行隊で近づいて・・・」

「無理なのわかってらっしゃるでしょ?まず空から落ちたら、その時点で死んでしまいまっせ。」

「空飛ぶ魔道具みたいなやつが開発されてたとしたら、どうだ?」

「そういう可能性を言い出したら、キリがありませんなあ。」


とりあえずオレは、第3部隊が関与した可能性があることだけを、国に伝えるよう依頼した。

もし第3部隊だとして、どうやって侵入したのか・・・。

謎は深まるばかりだ。


夜になり、オレは情報屋との待ち合わせの場所に向かった。

さて、どんな情報を持ってきてくれますかね。


「ひひひひ、旦那、早いでやんすね。」

「お前が遅れてきたんだろう。いいからさっさと情報をよこせ。」

「せっかちでやんすな。女に嫌われまっせ。」

「口の減らない奴だ。二度と口が利けないようにしてやろうか?」

「おっかないでやんすなー。そんなことしたら、貴重な情報が話せなくなるでやんすよ?」


やっぱりオレはこいつが嫌いだ。

今のオレに、女の話は厳禁だぞ。


「それで、どうだった?」

「怪しい動きを見つけたでやんす。」

「第3部隊だろ?」

「ひひひ、旦那も調べてたでやんすね。」

「ある訓練をしていたらしいな。」

「こりゃまいったでやんす。あっしの話すことがなくなってしまうでやんす。」


ふふ、気分がいい。

この調子で、オレの仮説を披露してやるか。


「その訓練は、ずばり!空飛ぶ魔道具を操作する訓練だ。違うか?」

「ひーひっひっひ。旦那、カッコ悪いでやんすよ。」


どうやら違ったらしい。

調子に乗ったことを反省する。


「で、どんな訓練なんだ?」

「さすがに国家機密で、それはわからなかっでやんすよ。」

「なんだよ!それなら空飛ぶ魔道具の可能性もあるじゃねぇか!」

「あっしは、別にそれが間違ってるなんて言ってないでやんすよ。」


くそ。

こいつと話していると腹が立つ。

何も情報がないなら、前金を返してもらうぞ!


「結局、お前も何もわかってないってことだな?」

「訓練の内容はわからないでやんすが、訓練の講師を突き止めたでやんす。」

「おい、それを早く言え。で、それは誰なんだ?」


情報屋は、ニヤリとした表情で右手を差し出した。

ここから先は有料ってことか。


「ひひひひ、まいどあり。で、その講師は・・・」




オレは急いで宿に向かう。

まさか、そんな近くにヒントがあるとは。

灯台下暗しとは、まさにこの事か。


「よう、今晩も泊めてくれ。」

「あらおかえり。どうしたの機嫌が良さそうね。」

「ああ、ちょっとな。お前さんは、どうだい?」

「あたいは、相変わらずだね。」


愁いを帯びた表情で返事をする。

早いこと復活して、幸せになってもらいたいもんだ。

いや、オレが幸せにさせたい。

オレ、この仕事が片付いたら、この娘に・・・

いかんいかん、こういうのは禁句だったな。


「いやだわ!お布団干しっぱなしだったよ。」

「いいよいいよ、オレが取り込んでおくよ。」

「ごめんなさいね、裏庭にあるのさ。」


宿屋の裏手に回ると、こじんまりとした裏庭があった。

そこに、布団が2組干してある。


どっちがオレのだ?

見た目は全く同じだから、どっちでもいいか。

そう思い、手前に干してあった布団を持ち上げると、宿屋の中から慌てる声が聞こえた。


「スラッシュのは奥のやつなの。そっちを持って行ってくれないかい?」

「そうなのか?どっちでも同じだろう?」

「手前のやつはね、あの子のだから。」


そういう事ですか。

はいはい、わかりましたよ。

でも、すでに手前の布団を持っちゃってるんだよな。


「もうこっちを取っちゃったからさ。」

「ダメよ。」

「いいから最後まで聞けって。ついでにあいつの部屋に運んでやるよ。」

「でも・・・」

「いいっていいって、これでも力仕事は自信があるんだからよ。」


彼女が「でも」と言った理由は、オレに遠慮しているものではないと理解している。

意地?嫉妬?わかんねぇな。ただ、面白くないってことだけはわかる。

オレはほぼ強引に、布団をあいつの部屋まで運んだ。

彼女は慌てて鍵を持って追いかけてきた。


「悪いわね、運んでもらっちゃって。」

「オレの方こそ、悪かったな。」


何とも言えない空気が流れる。

彼女は、こちらに振り替えることなく、鍵を開けた。


「ベッドの上に置いてくれればいいから。」

「オレが置いていいのか?」

「うん、もう、大丈夫。」


布団を抱えて、掃除の行き届いた部屋に入る。

もう戻ることはないだろう元住民のために、毎日掃除していることが想像できる。

布団をベッドに下ろし、改めて部屋を見回す。


「なあ、いつも同じ部屋を借りてたから知らなかったけど、この宿って全部の部屋が同じ構造じゃないんだな?」

「あら、同じよ?広さも備品も同じものがあるわ。」

「オレの部屋には、こんな机ないぞ?」

「あ、それは、あの子が持ち込んだ物なのよ。」


この部屋は、ただでさえ狭いのに、強引に低めの机が置かれていた。

椅子はなく、ベッドに腰掛けて使うようになっている。

やつめ、なかなか考えてるな。


「へー、こりゃ考えたね。なかなか使いやすそうじゃねぇか。」

「あの子、学者風だから、ここで勉強してたんじゃないかしら?」

「学者?オレにはただのマッドサイエンティストにしか見えなかったけどな。」


オレは、ベッドに腰掛け、机で文字を書くようなジェスチャーをしながら観察する。

机の上には何も置かれていない。

天板の下に、2つの細長い引き出しがある。

こいつを開けてみたいが・・・


「おっとそうだった、オレの布団も取り込まないとな!」


そういって、勢いよく立ち上がる。

その時、不意に(故意に)膝が引き出しに当たり、中身が露見した。

右側には数種類のインクと筆や羽ペンなどの筆記用具。

左側には紙の束があり、冊子のように製本されていた。


表紙には

『メイメイノート

見るな 見るな 他人閲覧禁止 マル秘ノートやでー!!』

と書いてあった。


(これか・・・)


オレがそれを取ろうと手を伸ばすと、引き出しが勢いよく閉められた。


「だめよ、あの子のものを勝手に見ちゃ。」

「なあ、あいつに会いたくないか?」

「え?何言ってるの?」

「あいつの行き先が、この引き出しの中に隠されるとしたら?」


彼女は、怒ったような困ったような表情でこう言った。


「お客さんが来るかもしれないから1階に戻るね。ここの鍵はあとで返してちょうだい。」


さてと・・・

オレは机の中に入っている冊子を取り出す。

きっとここに秘密があるはずだ。


あの食えない情報屋の言葉を思い出す。


『その講師ってのが変なやつで、ピンクの髪で赤いローブを着た若い男らしいでやんす。』


そんな奴、この国中を探してもあいつしかいない。

あいつが消えた時期とも一致する。

そしてこの怪しい冊子。

さて、地獄の扉を開いてみましょうかね。




***** ヨシュア視点 *****


B「シールドアタック!」

「シールドトリガー発動。相手のタップされていないクリーチャーを1対破壊」

B「むむ!」

「さらに全タップ。」

B「ぐぅ。ターンエンド...」

「じゃあ俺のターンだな。」

B「あーーーーー!超手が滑った!」

「おい、カードをグチャグチャにするなよ!」


俺は暇にモノを言わせてカードゲームを自作した。

今のところ全勝だ。

キミたちとはキャリアが違うのだよ、キャリアが。


B「おっと、そういえば用事があるんだった。」(棒読み)

「おい、逃げるのか?」

B「いやマジで。今日はギルドの診療所に行く日なんだ。」

「どちたの?頭でも悪いでちゅか?」

B「それはあなたでしょ?私は治す側よ。治癒魔法使えるしね。」

「へー、そんなお仕事してたんだ。」

B「あなたがいつも食べてる食事は、誰のお金で賄ってるんでしょうね?」

「いってらっしゃいませ!」

B「うむ、見送りご苦労。」


俺は門扉の前まで見送り、ぺっこり45度のお辞儀をするのだった。

まるでヒモになった気分だな。


その時、遠くから走ってくる人物がいた。

ピンクの髪を振り乱し、赤いローブをなびかせながら全力ダッシュしている。


「助けてくれないかーい!」


またお前か。




「ハァハァハァハァ...」

「どうしたんだそんなに慌てて。」

「あの・・・、ハァハア、ちょっと・・まって。」


家に上げたものの、椅子に座ることもできずに、床に寝転がっている。

呼吸を整えるまで時間がかかりそうだ。


「もう話せるか?」

「み、みずをください。」

「ミミズなら庭にいるぞ。」

「ミミズは、いりま、せん。」


そういえば、日本に帰ったんじゃなかったっけ?

失敗したのか?


「ほらよ。魔法で出した水だから、味は保証しないけどな。」

「ありがとう、ございハァハァ。」

「その顔でハァハァ言うなよ。間違い起こしたらどうするんだ?」

「やらないか。」

「お前、本当に中2か?」


水を飲んで、やっと落ち着いたようだ。

メイメイを椅子に座らせる。


「あ!このカードって!?」

「ん?ああ、ちょっと作ってみた。」

「やらないか。」

「じゃなくて、色々聞きたいことがあるんだよ。」


しかし時すでに遅し。

カードを集め、最強のデッキ作りを始めてしまった。


「お前さ、日本に帰ったんじゃなかったのか?」

「フェアリーライフ4枚詰んでいいかい?」

「ダメ。」

「えー。」

「じゃなくて、日本に行けなくて、またここに飛んできたのか?」

「何このクリーチャー。知らないんだけど。」

「あ、それは俺のオリジナルだ。」

「スピードアタッカーでワールドブレイカーかい?でもコスト高いなぁ。」

「おい、カードを弄るのをやめろ!」


俺はメイメイの手からカードを取り上げる。

まったく、これがあると、いつまでたっても会話ができない。

オモチャを取り上げられたメイメイは、ひどく悲しげな顔をしていた。


あれ?


「おい、お前、アイコンがあるぞ?」

「グスン。そうだよ。だってプレイヤーだもん。」

「はあ?」

「日本に帰ってからキミを探そうとしたんだけど、手掛かりがなくてね。」

「だろうな。」

「で、このゲームを思い出して、ゲームの世界で会えばいいかと思ったのさ。」


エヘン!と言わんばかりに胸を張って答えるメイメイ。

そんなに偉くないぞ?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ