34. 情けなくって涙が出てくらぁ!
俺は、シオリからの父親を探して欲しいとの依頼を受けた。
流れ着いたボトルメッセージを解析し、そこからの情報から【ワイハ島】に住むカカシという名の人物が事情を知っていると判断。
そうしてこの島に来たわけだが・・・。
「お忙しいところ、すみません。」
「あぁん?忙しいのがわかってんなら聞くんじゃねぇ!」
「邪魔だからあっち行ってろ!」
こんな風に、邪険に扱われてしまったわけです。
そんな俺に救いの手が。
「お前たちがそんな態度だから、海の男は野蛮だと思われるんだぞ?」
「あぁん?あ!圭さん!」
計算?
「すみやせんでした!圭さん!」
計算?
「いや、すまんね。みんな言葉は荒いが、悪いやつじゃないんだよ。」
計算と呼ばれた男が俺に話しかける。
腕を組んで片足をアンカーに乗せるマドロスさんスタイルだ。
それって計算ですか?
「失礼ですが、お名前が計算さんなのでしょうか?」
「さんは2つもいらないぞ?」
「あ!じゃあお名前はケイってことですね?」
「そりゃそうだよ。計算なんて名前、普通ないだろう?」
シロクマのまさこを見てきたせいか、どんな名前でも驚かなくなってきた。
もう、この世界の常識がわからん。
「錦織圭とか田中圭とか保田圭とかのケイですね!?」
「最後のやつは知らないが、俺は明石だ。明石圭。よろしくな」
おい、錦織と田中は知ってるのか?
っていうか、保田圭の扱い酷くないですか?
「ところで、何か聞きたいことがあったんじゃないのかな?」
おっとそうだった。圭さん、サンキューです。
「人を探していまして、もしご存じでしたら教えて欲しいのですが。」
「どんな人かね?」
「恐らく船乗りで、名前はカカシといいます。」
「船乗りのカカシねぇ。聞いたことがないなぁ。おい、おめえら、カカシってやつ知ってるか?」
「「知らねーっす」」
圭さんはポケットからパイプを取り出し、口に咥えた。
「悪いが、力になれないようだな。」
「いえ、ご協力ありがとうございます。」
「なあに、お安い御用だ。カカシなら港じゃなくて畑に行けば見つかるんじゃないのか?(ニヤリ)」
圭さん、ボケましたよ。
完全に計算ですね。
「そうですね!カカシなら畑にいるかもですね。ありがとうございます」
「おい!突っ込めや!」
圭さんは、錦織でも田中でも保田でもなく、清水圭に似てるな。
え?それも知らない?忘れないでよー。
今回は手掛かりはなかったが、一発目から当たりを引くなんて、そうないだろう。
落ち込まずに次だ!
さっきは同業者から情報が出ないか探ってみたが、今度は噂好きそうな人にしてみよう。
噂好きと言えば、女性だ。それも、おばちゃんと言われるような世代だろう。
俺は、港から離れ、市街地へと足を進める。
どこかにおばちゃんいないかな?できれば複数がいいな。
そんな都合よく・・・いた!
海鮮料理店の前で、貝の身を殻から外している4人の女性がいる。
ものすごい勢いで身が剥がされているが、口も止まらない。
よくもまあ、ベラベラ喋りながら作業ができるもんだ。
おっと、感心している場合じゃない。
聞き込みだ!
「お仕事中すみません、ちょっと人を探してるんですが。」
おばちゃんたちの会話が止まった。
しかし手は止まらない。
高速貝の身剥き作業は継続している。
「あら、見ない顔だね。」
俺を見ただけで、他所者だと判断できている。
これは期待できるぞ?
「カカシさんという方を探しているんですが、ご存じないですか?」
「変な名前ね。私は知らないけど。」
「私も知らないわ。そんな珍しい名前なら、覚えているはずだもの。」
「お客さんに知ってる人がいるかも。余裕があれば聞いてみるわね。」
「お店はお昼から開店するから、あなたもよかったらどう?」
うーむ。UUUM。
もしかして、カカシさんがいるのって、この近くじゃないのかな?
意外と広い島だから、もう少し探して見つからなかったら、他の場所を探してみよう。
その後、老若男女問わず聞いてみたが、誰も知らないようだ。
しかし、収穫がゼロというわけではない。
サトウキビ農園の農夫から、ひとつのヒントをもらった。
「名前までわかってんなら、ギルドで聞いてみな?住民登録から探せっから。」
そうだよ!その手があったよ!
なぜ最初からそこに気づかなかったのか。
自分の馬鹿さ加減に、情けなくって涙が出てくらぁ!
「え?どういう事ですか?」
「そのままの意味ですよ。カカシという名前は、住民登録されていません。」
ギルドで住民検索をしてもらった結果がこれだ。
登録がないってどういうこと?
暴れて、はっちゃけるぞ!
「あ!カカシじゃなくてkakashiで探してもらえますか?」
「はい、その方法はすでに試していて、見つかっていません。」
「そうなると、ワイハ島じゃないのかな・・・。」
最悪のシナリオだが、ワイなんとか島が、ここワイハ島じゃない可能性を考えた。
また、マップとのにらめっこに逆戻りか?
「この住民台帳は、全世界分が網羅されていますよ。」
「え?本当ですか?」
「ええ、例えばあなたの名前で探してみましょうか?」
「はい、ヨシュアでお願いします。」
「えーっと、はい、ヨシュアさんはクリマで住民登録されていますね。」
なんてこった。
この世界にカカシという人物がいないということになる。
ちょっとあのボトルメッセージが劣化していたから、本当はkakashiじゃない可能性もあるなぁ。
「住民登録されていないとなると、そのお名前が愛称やあだ名とかではないでしょうか?」
ギルド職員がアドバイスをくれた。
確かにその可能性もある。
身近なところでは、ドライアドはドリーと呼ばれている。
まあ、精霊は人間じゃないから、住民登録なんてしてないだろうけどね。
「あっ!人間じゃない?」
「どうかされました?」
カカシさんが人間じゃない可能性もある、
人間以外でも、住民登録されてるのか確認してみよう。
「何度もすみません、まさこで検索してくれますか?」
「まさこさんですね?えっと、あー、サウスアン島にいらっしゃいますね。」
まさこという名前は住民登録されている。
でも、まさこって結構一般的な名前だよね?少なくとも日本では。
同じ名前の別人って可能性もあるか?
「えっと、そのサウスなんとか島って、どこにありますか?」
「えーっと、南の端にある島のようですね。」
「その人の種族というか種別と言うか、そういうのってわかります?」
「ええ、獣人のようですね。」
なるほど、人間以外でも住民登録されているわけか。
そうなると、カカシさんが人間じゃない場合でも、登録されているだろう。
名前がニックネームだった場合【千里眼鏡】でも見つからないだろうな。
地道に聞き込むしかないのか?
うちの居候のような存在の場合もあるしなぁ。
ギルドから再び港方面に足を延ばす。
もう少し聞き込みをしてみて、結果が出なければ、場所を変えようかな?
すると、向かいから二人組の男性が歩いてきた。
作業着を身にまとい、口には爪楊枝を咥えている。
昼食を取り終え、作業場に戻る途中だろうか。
「すみません、人を探しているんですが。」
「ん?人探しかい?」
「はい、カカシさんという方を探していまして。」
そういうと、二人の男は顔を見合わせた。
お!これは今までにない反応だ!期待できるかな?
「そんな奴は知らないが、あんたもカカシとかいう人を探してるのかい?」
あんたも?
俺以外にもカカシさんを探している人がいる?
ということは、カカシさんは伝説上の生き物ではなく、実在するのか?
「さっき飯食った店で、店員のおばちゃんに聞かれたんだよ。」
「その店って?」
「ああ、あそこの海鮮料理屋だよ。」
そこは、俺が立ち寄った、貝から身を高速剥がししていたおばちゃんたちの店じゃないか。
そういえば、お客さんにも聞いてみるとか言ってくれてたな。
なーんだ、ちょっとがっかり。
作業服の男たちは『ワイハ漁業協同組合』と書かれた建物に入って行った。
漁協の職員さんだったのか。
そんなことより、海鮮料理屋だ。
ちょっと行って確かめてこよう。
「いらっしゃい!」
おばちゃんの元気な声がする。
「さっきここから出たお客さんに聞きました。カカシさんのこと、探してくれてたんですね?」
「あら、あんたかい。まあ座んなよ。」
店の中に漂う匂いにつられ、俺の腹時計もお昼を告げた。
わざわざお客さんに確認してもらったんだ、お昼ぐらい食べて行かないとね。
「すみません、日替わり定食ください。」
「はいよ!日替わり一丁!」
日替わり定食で何が出てくるかはわからない。
でも、予想できるぞ?
さっき剥いてた貝だろう。これは期待できる。
「はい、日替わりの牡蠣フライ定食ね!」
「いやっふー!牡蠣だー!」
「食べながらでいいんだけどさ、カカシって人、誰も知らないみたい。」
「ぼぶばんべぶば。」
口に牡蠣フライをぶち込みながらしゃべったので、変になってしまった。
慌てて飲み込んで言い直す。
「そうなんですか。聞いていただいてありがとうございます。」
「力になれなくて悪いわね。」
おばちゃんは申し訳なさそうにしているが、とんでもないです。
聞いてもらっただけでありがたいです。
おばちゃんは、何かを思い出したかのように、こう告げた。
「港にいる圭さんに聞いてみるといいよ。あの人顔が広いから。」
「あちゃー。圭さんにはすでに確認済でして。」
「そうかい。人探し頑張ってね。」
圭さんってば、有名人だったのね?
本名じゃない可能性が高いので、その点でもう一度圭さんに聞いてみるか。
とりあえず今は、目の前の牡蠣フライに挑もう。
空腹を満たした俺は、港に向かった。
圭さん、いるかな?
残念ながら圭さんはいなかったが、最初に声を掛けた二人組がいた。
圭さんの居場所を聞いてみよう。
「お忙しいところ、すみません。」
「あぁん?忙しいのがわかってんなら聞くんじゃねぇ!」
「邪魔だからあっち行ってろ!」
またこの展開ですか。
さっき圭さんに怒られたのに、学習しない人たちですねぇ。
むしろ、清々しさを感じますよ。
「そんなこと言ってると、また圭さんに怒られますよ?」
「なんだてめぇ。」
「あ、お前はさっきの。」
思い出してもらえたようだ。
これで質問に答えてくれるかな?
「人を探してるんですが。」
「カカシとかいうやつなら知らねぇって言ったじゃねーか。」
「何回聞いたって、答えは変わらんぞ。」
「いえ、今回は圭さんを探してるんです。」
「「はあ?」」
二人の雑魚キャラからの情報で、圭さんは漁協に行ってるらしいことがわかった。
さっき声をかけた、作業服を着た人たちが入って行った建物だな。
なんか、同じ場所を行ったり来たりしてる気がする。
漁協に行くと、さっきの楊枝を咥えた二人組がいた。
「お、人探ししてる兄ちゃんじゃないか。」
「どもっす。」
「今度は何の用だい?」
どうでもいいが、まだ爪楊枝を咥えてるの?
有名野球漫画に出てくる、悪球打ち名人の一番打者のようだ。
ヘルメットを被らずに、学帽で打席に立ってたけど、高野連は何も言わないのか?
おっと、また思考が明後日の方向に行ってしまった。
「圭さんはいますか?」
「なんだ、今度は圭さんに用事か。」
「圭さんなら、裏の生け簀にいると思うぞ?」
漁協の裏手には、魚を入れる生け簀が並んでいた。
何人かの職員が、生け簀の手入れをしている。
その人たちに指示を出している圭さんがいた、