33.ヤスやんけ
少女から渡されたボトルメッセージを開く。
『*さこ*ん、シ*リち**ヘ
ア**んは、生き**る。
*所は【*イ*島】*。
私**上で見*け**きは、瀕**状*だ**。
一命**り留*て**が、*憶*失**いる**だ。
*し【ワ**島】*来**とができ**、私*訪***しい。
この**が**こ**信*て。
kakashi』
うーん、読めん。
ところどころは想像できるが、確証がないな。
「最初の1行目なんだけど『まさこさん、シオリちゃんへ』って書いてあると思うの。」
「え?誰?」
「あ、言ってなかったね。お母さんがまさこで、私がシオリ。」
「まさこ・・・」
「変かしら?」
「とんでもございません。」
この世界で日本人っぽい響きの名前が出てくるのが最初で、しかもそれがシロクマだったから、ちょっと意表を突かれてしまった。
あの外見でまさことは。
やばい、笑いをこらえられるだろうか。
「2行目の『ア**んは、生き**る。』は『アジさんは、生きている。』と思いたいわ。」
「アジさんっていうのが?」
「そう、お父さんよ。」
名前だけアジなんだよね?
見た目も鯵だったりしないよね?
ついつい、鯵が2足歩行しているところを想像してしまった。
まさこさん(笑)も人間って言ってたし、大丈夫だよね?
「【*イ*島】と【ワ**島】が出てくるから、足せば【ワイ*島】になると思うのよね。」
「うん、1回目と2回目の島の名前が、同じ島を指していればね。」
「そこは同じだと信じたいわ。」
俺はマップを開き、ワイなんとか島を探す。
手作りの船だ。そんなに遠くへは行かないだろうと思い、この周辺を探したが、そんな島はなかった。
「『私』が、この手紙を書いた人のことだと思うの。」
「それが誰かが問題だよね。」
「最後に書いてあるkakashiじゃない?」
「これって本当にkakashiって書いてある?」
「うーん、ギリギリだけど、それ以外に読めない気がして。」
「読み方はカカシでいいのかな?」
「そうだと思うわ。」
カカシ(仮名)がアジさんをどこかで見つけて、ワイなんとか島で預かっている。
だからワイなんとか島にきたらカカシ(仮名)を訪ねてくれ。
そういった内容だろうか。
「つまりこれって、カカシって人がお父さんを預かってるってことなのかな?」
「私は、そう解釈したわ。」
「俺への依頼は、ワイなんとか島に行って、カカシさんを探せばいいって事だね?」
「そう!そしてお父さんを見つけて欲しいの!」
少女の瞳は、この島の空気のように澄み切っていた。
こんなお願いをされて、断れる人がいるだろうか。
俺は、快く返事をした。
「お、おう。」
さて、マップ検索に戻ろうか。
この近辺に、ワイなんとか島はなかった。
もうちょっと広域に探す必要がありそうだ。
『私**上で見*け**きは、瀕**状*だ**。』
シオリには言わなかったが、この部分は『瀕死の状態だった』じゃないだろうか。
きっとシオリも気付いているだろうが、あえて言葉に出さなかったんだろう。
前半部分をどう考えよう。
私はカカシのことだとする。
私はカカシ。
テレシコワか!
いかん、考えが飛んでしまった。
『私』のあとに入るのは『は』『が』『の』『を』ぐらいだろう。
どれも可能性がありそうなので、ここは置いといて、次を考える。
『*上で見*け**きは』
後半が『瀕死の状態だった』だとすると、ここは
『*上で見つけたときは』
とならないだろうか?
『私[は|が|の|を]*上で見つけたときは、瀕死状態だった。』
文法的に、私の次は『が』か『の』に絞っていいだろう。
『私が*上で見つけたときは、瀕死状態だった。』
『私の*上で見つけたときは、瀕死状態だった。』
『*上』は二字熟語だろうな。
いろんなケースが考えられる。
地上とか陸上とか海上とか。机上ではないだろうな。
アジさんは手作りの船で航海中だったのだから
『私が海上で見つけたときは、瀕死状態だった。』
『私の船上で見つけたときは、瀕死状態だった。』
などではないだろうか?
正解はわからないが、海で遭難していたアジさんをカカシさんが、自分の船で救助したと考えるのが素直だと思う。
そしてワイなんとか島に運んだんだろうな。
カカシさんの船の性能はわからないが、遠くに行ってる可能性がある。
俺は【千里眼鏡】を使用して、マップ上にアイコンを表示させる。
無人島は候補から外し、アイコンが表示されている島を虱潰しに探していった。
あー、目が疲れた。
しかしこの世界、島が多いな!
真ん中が赤道だとして、南半球の捜索は終了。
ワイなんとか島は、まだ見つかっていない。
視点をマップから切り替えると、目の前には料理が置いてあった。
外はすっかり暗くなっていたので、これは夕食だろう。
「あまり熱中するのも体に毒よ?よかったらご飯たべてちょうだい。」
シロクマさん、あ、いや、まさこさんが料理を勧めてくれた。
夕食は、なんと肉だった。
魚介類を想像していたので、ちょっと驚きでした。
おそらく海獣か魔物の肉なんだろう。
素材は聞かないようにするか。
食事は手短に済ませ、また島の探索に戻る。
赤道付近から再開するんだが、細かい島がいっぱいある。
これ、今日中に終わるかな?
何時間経過しただろう。
俺はやっと、ワイなんとか島を見つけた。
それは、6つの島が連なる諸島の一つ。
その諸島の一番南側に位置し、一番面積の広い島。
その名も【ワイハ島】だ。
うん、どうみてもハワイです。
それに気づいていれば、もっと早く見つかったんじゃないか?
俺のバカ!運営のバカ!カカシのバカ!
南極付近で救助した人を、ハワイまで連れて行くなよ!
マップでハワイ島を拡大したが、アイコンが大量にある。
ここからアジさんを探すのも困難だな。
もう、現地に飛んだ方がいいんじゃないかと。
とりあえず、島を発見したことだけ伝えるか。
マップから視点を戻すと、シオリはまさこさんの膝枕で寝ていた。
俺は小声でまさこさんに伝える。
「島が見つかりました。今から島に移動したいと思います。」
「あら、こんな夜中に?今日は泊って行ったら?」
「いえいえ、でしたら一旦自宅に戻りますよ。」
そういうと、まさこさんは寂しそうな顔をした。きっとそうだ。
微妙な見た目の変化がわかるようになったぞ。
まさこさんは、シオリの頭を撫でながら言った。
「この子が寂しがります。明日、お見送りさせてあげてください。」
そう言われちゃうと、帰りにくくなるよね。
お言葉に甘えて、泊まりますか。
「良かったら、こちらのベッドをお使いください。」
案内されたのは、部屋の奥にあったベッドルームだ。
やたらとデカいベッドだ。
それこそ、シロクマでも寝られるぐらいのサイズになってる。
「いや、ここを俺が使っちゃうと、まさこさんが寝る場所ないじゃないですか。」
「あらやだ、一緒に寝ればいいじゃないの。」
「あらやだ。」
俺は、シオリをそのベッドに運び、シオリが寝ていたスペースで寝ることにした。
シロクマ相手に間違いを起こすと考えたわけじゃない。保身のためである。
トントントントン
包丁が奏でるリズミカルな音で目が覚める。
外はまだ暗いが、朝なのだろう。
「あ!お母さん、お兄ちゃん起きたよー」
俺が目覚めたことを知らせるシオリ。
まさこさんは、エプロン姿で調理に取り組んでいた。
よく考えれば、男の憧れである裸にエプロン状態だな。
などと、どうでもいいことを考えていると、すでに料理の準備ができていた。
朝食も肉だったが、なんと生肉だ。
野菜や果物が育たない環境のため、ビタミンを生肉から摂取するのだとか。
何の肉か不明だが、さっぱりとして食べやすい肉だった。
その肉の隣に、何やら怪しい物体があった。
おそらく魚なのだろうが、強烈な異臭を発していた。
くさやのようなものなのだろうか?
何かの青魚が、漬け込まれているもののようだ。
「それ、臭いはきついけど、味は保証するわよ。」
悪気ではなく好意なんだろう。
でも、これって拷問ですよ。
俺は呼吸法を口呼吸にして、なるべく臭いを感じないようにして口に放り込んだ。
「うまい!」
「でしょ?お代わりあるから、遠慮しないでね?」
確かに、味は良かった。
でも、気を抜いて鼻呼吸に切り替えた瞬間、地獄の苦しみを味わう。
危険な食べ物だなこれ。
でも、お代わりもいただくよ!
「じゃあ、そろそろ行きますね。」
「もう、行っちゃうの?」
「頑張ってお父さんを探すから、お母さんの言うことを聞いて待ってるんだぞ。」
「言われなくても、そうしてるよ。子ども扱いしないで!」
そう言いながら、微笑むシオリ。
きっとアジさんが一番見たい景色だろうな。
「色々とお世話になりました。いい報告ができるよう頑張ります。」
俺は、まさこさんに向かって言った。
まさこさんは洗い物をしていたが、エプロンで手を拭きながら二足歩行で近づいてくる。
「何もおもてなしできなくてごめんなさいね。良かったら、これ、持って行って。」
袋に入れられたものを渡される。
開けなくても、そこから漂う臭いで、これが何かがわかる。
お代わりしたから、気に入ったと思われちゃったのかな?
正直、この臭いは苦手なんだけどね。
【アイテムボックス】に入れると臭いはなくなったが、臭い移りが心配だな。
二人に見送られながら家を出る。
寒ぃー!
忘れてた、ここは極寒の地だった。
つい、反射的に家の中に戻ってしまった。
さっき感動的なお別れをしたのに、恥ずかしい。
何か言わなきゃ。
「あ、あの、アジさんの特徴とか、ありますかね?」
咄嗟に思いついた割には、いい質問だと自画自賛する。
まさこさんは「そうねぇ」とつぶやきながら、ひとつの特徴を伝えた。
「目が綺麗だわ。」
いやいや、それは伝わらんよ。
逆に目が汚い人を探す方が大変だ。
「あの、もう少し身体的な特徴があるといいんですけど。」
「あら、とても目が綺麗なひとなのよ。」
「もっとわかりやすいのがいいですね。アゴにホクロがあるとか・・・」
「それなら、右肩に蝶の形のアザがあるわ。」
ヤスやんけ。
犯人はヤス。間違いない。
ふみえという妹はいませんかね?
「わかりました!頑張ってヤスさんを見つけます。」
「ヤスじゃないて、アジだからね。」
まさこさん、無理です。
もう俺の中で、アジはヤスに上書き保存されました。
勢いよく、家から出る。
寒ぃー!
俺は急いで【ワイハ島】に転移するのであった。
とぅ!
暑ぃー!
気温差60度ぐらいあるんじゃないか?
俺が飛んだ先は、ワイハ島の西側だ。
ハワイ島で例えれば、コナと言われる地域だろう。
なぜここにしたかというと、マップ上、ここに港があったからだ。
船でたどり着いたなら、港の近くにいるんじゃないか?という単純な理由だった。
港には、船に荷物を積んでいる屈強な二人組の男がいた。
ちょっと怖いけど、聞いてみるか。
「お忙しいところ、すみません。」
「あぁん?忙しいのがわかってんなら聞くんじゃねぇ!」
「邪魔だからあっち行ってろ!」
一発目からこれですわ。
もう、聞く気が失せますね。
俺が意気消沈していると、隣から声がした。
「お前たちがそんな態度だから、海の男は野蛮だと思われるんだぞ?」
「あぁん?あ!圭さん!」
計算?