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31.いでよ!シェンロン!

しかしまあ、今日は大変だった。

危うくAランクとバレるところだったしな。

いや、実際バレたが、強引に3,2,1・・・ポカンしたんだったな。

しばらくは、街の外から出ないようにしよう。




いつもと変わらない朝を迎えたある日、こんなインフォメーションが届いた。


 《イベント通知・終了報告》

  イベント名『王太子の子の誕生を祝福せよ』


  本イベントが、期日までに達成したことを報告する。

  見事、贈り物を納品したプレイヤーは以下となる。


  ・没薬:ぶらっく

  ・乳香:ぶらっく

  ・黄金:じゃっく


  王族の方々は、皆お喜びのご様子だ。

  なお、ぶらっくには2千万ガル、じゃっくには1千万ガルが与えられた。


あ、イベント終わったんだ。

なんだ、達成しちゃったんだ。つまらんな。

よく見たら、今日が最終日じゃないか。

この2人はギリギリセーフで滑り込んだわけだな。

どちらかがAランクじゃないか?っていう疑惑が深まって欲しいね。

運営さん!あいつらが怪しいですよ!




***** 運営視点 *****


「橋本君?これで良かったのかな。」

「誰も達成してくれないだから、これでいいべ。」

「イベント失敗にしても、良かったんじゃない?」

「いや、賞金をもらって羨ましいって感情を煽らないと。」

「そんなもんかな?」

「実際に誰かが手にしてると、次は俺が!って思うんじゃないか?」

「宝くじみたいなものかな?この売り場から1等が5人出ました的な?」

「まあ、そんな感じ。」


難易度の高いイベントを発生させて、課金者を増やすという作戦は、ある程度は成功したようだが、目標値には達しなかった。

このままではイベント失敗となるが、僕たちで達成させたことにしてしまった。

これってきっと、なんちゃら委員会みたいなところに見つかると、処罰の対象だよね?

橋本は、わかっているのかな?


「でだ!次のイベントなんだが、田中は何か案はあるか?」

「うーん、1回目は防衛、2回目は採取だから、3回目は討伐かな?」

「討伐かぁ。そうすると、一部のレベルが高いプレイヤーに偏らないか?」

「うん、だから強くなるために課金する人が増えてくれるかな?って思ってね」

「それもいいが・・・あ!思い出した。」


橋本の言葉が、どうも芝居じみている。

きっと、前から考えていたであろう案を、今思い出したかのように言い出している気がする。


「この前さ、このゲーム作成の一部をアウトソーシングした協社さんと飲む機会があったんだけどさ。」

「あれ?何社かあったよね?」

「おう、飲んだのは街マップを作ってくれた会社だよ」

「ああ、『アルファベットエンジニアリング』だね?」

「そうそう、で、その人から聞いたんだけど、こっそり【クリマ】にお化け屋敷作ったんだってさ。」

「え?勝手に?」

「酒の勢いって怖いな。秘密にするはずだったらしいが、つい言っちまったって反省してたよ。」

「反省するのはそこじゃない気がするなぁ」

「案件になかったけど、ちょっとした遊び心だってさ。俺、嫌いじゃないぜ。」

「そんなの作ってる暇があったら、もっと納期を早くしてくれれば・・・。」


こういうのって、良くある話なのだろうか?

いや、絶対ないな。あっちゃいけない。


「だからさ、今度のイベントは、『お化け屋敷の探索』にしないか?」


橋本の話によれば、そのお化け屋敷には、お化けのような存在の他に、精霊も棲み付いており、外から入ってくるプレイヤーを脅かすよう設定されているらしい。

捕まれば、ロープで拘束され、窓から放り投げられるとか。


「それで、イベントの達成条件は何にするの?」

「どうやら精霊とかお化けは、設定上不死身らしいから、お化け退治はできないんだよ。」

「じゃあ、どうするの?」

「宝探しにするか。」


橋本の案では、家の中に7つの宝玉をばらまき、全部集めると願いをかなえるとか、そんな形にしようかと考えているようだ。


「さっそく、宝玉のデザイン発注だな。玉の中心にはそれぞれ1から7の星を入れよう」

「それ、著作権大丈夫?」


きっとあれだ。7つ揃えると龍が出てくるんだな?

うーん、何か有名な漫画のパクりのような気がするな。

橋本はしきりに「パクリじゃなくて、オマージュな」とか言ってるが。


「でもさ、その宝玉を、どうやって家の中に隠すの?」

「あ・・・。」

「考えてなかった?」


橋本は腕を組んで念仏を唱えている。

その効果か、妙案が浮かんだようで、眩しい笑顔をこっちに向けてきた。


「田中君?ちょっと相談があるけど、いいかな?」


橋本が僕に君付けで呼んできた。

嫌な予感しかしないよ。




***** ヨシュア視点 *****


ある雨の夜だった。

雨が窓を叩く音がする。


あれ?俺、寝てたはずなのに、なんで起きてるんだ?

雨音のせい?そんなので起きるタイプじゃない。

寝起きが悪いんだ。俺の安眠を邪魔するやつは、折檻ですよ!


F『ねえ、起きてってば!』


あ、おれはフリオに起こされたのか。

あのクソガキめ!直接攻撃を食らわないようテレパシーで起こすとは、なかなかの策士だ。


F『家の中に誰かが入ってきてるんだってば、もー。』


なぬ?侵入者だと?

俺は【千里眼鏡】を使って家の中を確認する。

2人のプレイヤーが家の中に潜入していた。

名前は『ぶらっく』と『じゃっく』だ。

なんか、見覚えがあるなぁ。どこで見たんだっけ?


『おい、誰か家の鍵をかけわすれたか?』

F『なんだ、起きてたのか。この家はオートロックで、ボクたちは鍵がなくても出入りできるよ。』

『じゃあ、その侵入者は、どうやって入った?扉でも破壊したか?』

F『ちがう。普通に鍵を開けて入ってきたよ?』


確かこの家は、ギルドカードと照合して鍵が開くシステムだった。

つまり、俺しか開けることができないはず。

俺は胸元を確認する。ちゃんとギルドカードは存在した。

となると、誰かがギルドカードを偽造したってことになるな?

そんなことできるやつ、いるのか?


A『犯人は2人組の男性。1人はキッチンを物色中。』

B『もう一人は、お風呂場で何かしてるわ。』


こいつらの目的が知りたいな。

殺さず捕獲して欲しい。


『みんなにお願いがあるんだが、この二人を束縛できるか?』


C『お安い御用よ。あなたには失敗したけどね。』


あ、そういえば、俺もロープで縛られそうになったんだっけ。

力ずくでねじ伏せたけど。


D『今は2人がバラバラだから、一緒になったタイミングを狙うわよ。』

E『私とフリオで驚かせて、廊下の突き当りにでも誘導するわ。』

ABCD『ラジャー』




というわけで、俺の目の前には、ロープで縛られた二人組がいる。

うちの居候たちの総力戦の成果です。みんなありがとう。


俺は顔を見られないよう、透明化しておく。

プレイヤーとの交渉役は、ちょっと不安だがエリザに頼んだ。


『こいつらに、何の目的で家に入ったかを聞いてくれ。』


エリザは両手を腰にあて、束縛されて床に座らされている二人に、文字通り上から話しかけた。


E「他人の家に土足で入ってきて、タダで済むとは思わないでね?」

『おい!俺の話を聞いてるのか?』

E『私なりのプランがあるの!邪魔しないで!』


うーん、人選ミスかな?


「田中、あ、じゃない、じゃっく、この状況はまずいよな?」

「まずいなんてものじゃないですよ。これから僕たち、どうなるんですか?」

「縛られて、窓から放り投げられる仕様だってさ。」

「んもー、橋本君が大丈夫っていうから付いてきたんですよ?」

「お前も呼び方、いつも通りになってるぞ?」


この二人、リアルで知り合いっぽいな。

そんなことより、目的を聞いてくれ。


E「ごちゃごちゃ言ってないで!この落とし前、どうしてくれるの?」

「お金なら払います。今、二人合わせて3千万ガルもあるので、お好きなだけどうぞ。」


ほほー、君たちお金持ちだね。

でも、お金はいらないんだよね。


『金はいらないから、目的を聞いてくれってば。あと、どうやって鍵を開けたかとか。そういえばさっき、窓から放り投げられる仕様とか言ってたけど、どこからの情報とか。あと・・・・』

E『うっさいわね、わかってるわよ!』


ひどいです。ドイヒーです。


E「お金の問題じゃないの。そもそも、あなた達は、何をするために入ったの?」

「あの、あれです。金目の物がないか物色してたんです。」

E「あら、あなた達、大金を持っているようじゃないの?それなのに物取りの犯行とは思えないわね。」


2人は何も答えない。

黙秘権の行使ですか。さて、我慢比べですかね?


A「キッチンで見つけたわ。これは何かしら?」

B「お風呂場にもあったよ。」


アリスとベリーが見つけたのは、野球のボールほどの大きさの球体だ。

オレンジ色のガラスのようなものでできており、中にはいくつかの★があった。

うわ!四星球と七星球やんけー!


『おい!あと5個、同じようなものを持ってるはずだ!こいつらの荷物を調べろ!』


二人が持っていたバッグから、予想通りあと5個の球がみつかった。

7つを並べてみたが、何も起こらない。


『ねえ、「いでよ!シェンロン!」って言ってみて。』

E『いやよ、そんなの恥ずかしい』

『じゃあ「タッカラプト ポッポルンガ プピリットパロ」って言ってみて』

E『それだと、球の大きさが違うから、何も起きないわよ』

『何で知ってる?』


ずっと黙ったままの捕虜2人だが、あきらめたように相談し始めた。


「この状況、もう逃げられないですよね?」

「さすがの俺でも、言い訳が思いつかないな。」

「ここじゃログオフできないですし、どうします?」

「もうこの垢に用事はないな。」

「え?」


すると、一人のプレイヤーの動きが止まり、消滅してしまった。


「うわ、先に逃げた。じゃあ僕も。」


同じように、もう一人も消えてしまった。

残っていたのは、キッチンと風呂場で拾った2つのボールだけだった。

他のボールは、まだ向こうに所有権があったのかな?

こんなことなら【アイテムボックス】に入れておくんだった。

ああ、ギャルのパンティーが・・・。


おそらくだが、彼らがとった手段は、アカウント削除だ。

強制ログオフという機能もあるが、名前は途中で変えられないので、削除を選んだんだろう。

3千万ガルも持ってたのに、もったいないな。


ん?3千万?

その金額に見覚えがある気がするが、思い出せない。

まあいいか。とりあえず危機は去ったと思っていいよね。


「みんなありがとう。今回は助かりました。」

E「何言ってるの?自分たちの家を守るのは、当然じゃない?」

C「べ、別に、あんたのためにやったんじゃないんだからね!」


チャミさんのそれは、デレてるんですか?それとも本音ですか?

なんか、俺が居候みたいな扱いになってません?大丈夫ですか?俺。


窓の外はまだ真っ暗だ。大粒の雨粒が叩きつけられている。

こりゃ、今日は一日家の中に籠りっきりだな。

いや、今日もか。

そんな事を考えながら、二度寝するのであった。




チュンチュン。

小鳥の鳴き声で目を覚ます。

昨晩の雨が嘘のように、眩しい太陽が差し込んでいた。


俺を起こした犯人は、窓の外にあるちょっとしたスペースにいた。

つがいかな?2羽の小鳥だった。

1羽はちょんちょんと歩きながら、足元を突いていた。

虫でも食べているのだろうか?


もう1羽は、少し後方で前にいる1羽を見ている。

まだ角度の低い朝日が、小鳥たちの影を伸ばしている。

後方の小鳥は、前方の小鳥が作った影が面白いのか、小さな足で影踏みしたり

自分の影を重ねていたりした。


ひらめいた!

俺はベッドの脇机の引き出しに入っていた紙を取り出し、思いのまま筆をとる。

うん、我ながら良い出来た。

自分の作品に満足していると、突然ドアが開かれた。

見られるのが恥ずかしいので、布団の中に紙を放り込んだ。


C「おはー。朝ごはんできてるよ?」

「お、おう。」

C「ほらほら、早くしないと冷めちゃうよ。」


チャミは俺の布団を引っ張る。

やめろ、布団の中には見られたくないものがあるんだ!

俺が必死に抵抗していると


C「ははーん、そういうことか」

「へ?」

C「若いっていいわね。トイレ行って鎮めてきなさい」


盛大に勘違いされたが、そのおかげで部屋から出て行ってくれた。

それはそれで、ちょっと恥ずかしいのだが。


俺は作品をベッドの下に放り込むと、トイレに向かうのであった。


食卓に到着すると、俺を歓迎する声が聞こえた。


D「おお?朝立ちヤロウのお出ましだな?」


歯に衣を着せてくれませんか?

ああ、逃げ出したい。


俺は手早く朝食を済ませると、逃避行の計画を立てた。

こんな時は、海だ!南の海だ!波に向かってバカヤローと叫ぶんだ!

行くなら大陸じゃなくて島がいいな。

南国リゾートを満喫するんだ。


さっそくマップを開く。

南はマップでは下のはずだ。

マップの一番下のあたりに、小さな島があるのを発見。

俺は、このセクハラハウスから逃げるように、南の島に飛んだのであった。


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