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30.あなた、Aランクですか?

大きなトカゲの魔物に襲われ、ぶっ倒れている冒険者に話をかける。


「どうしました?大丈夫ですか?」


返事はないが、屍でもない。

冒険者の頭上には、3羽のヒヨコがピヨピヨと鳴きながらくるくる回っている。

これは気絶しているというギミックか?古典的だな。


【低級回復薬】を取り出し、冒険者に振りかけてあげた。


「ううう・・・」

「あ、大丈夫ですか?ここで気を失っていたようですが。」

「あ!山トカゲは?あれ?いない?」

「はい、ここには何もいないですよ?」

「あ、まだ完全に回復しているわけじゃなさそうなのでよかったらこれどうぞ。」


俺は【低級回復薬】を渡す。


「すまない、あなたは命の恩人だ。」

「いえいえ、困ったときはお互い様です。」


【低級回復薬】を服用し、歩ける程度には回復したようだ。


「いや、それは災難でしたね。ところでこんな山道で何をしてたんですか?」

「たぶん、あなたと同じ目的ですよ。」

「そこに山があったからですか?」

「え?」


この冒険者の話によると、この山の山頂付近に天国樹というものがあるらしく、そこから乳香が採取できるとの事だ。

イベントがなかなか進まないことに痺れを切らした運営が、Twitterで流したヒントだそうだ。


しかしまだ、誰も採取した人はいないらしい。


「6人のパーティーで臨んだんだけど、生き残ったのはオレだけだ。」

「そうなんですか。」

「もっと強くならないと、難しいな。」

「じゃあ、頑張って強くなってくださいね。」

「手っ取り早く強くするには、課金なんだけどねー。もう今月はかなり突っ込んだからなあ。」

「課金ですかー、それは気乗りしませんねー。」

「ちょっと前に噂になった、Aランクがいるってやつも、競争心を煽って課金させようって魂胆じゃないかって言われてるよ。」

「じゃあ、Aランクの噂は、運営が流したってこと?」

「わかんないけどな、勝手な想像だから。」


まあAランクがいるっていうのは、本当なんだけどね。

ん?なんか引っかかるな。もしかして・・・。


「でも、Aランクがいたら、ギルドカードの色でバレバレじゃないの?」

「そうなんだけどさ、Aランクが何色かわかってないからな。」

「そうなんですか?」

「あれは、渡されて初めてわかるんだよ。今わかってるのはFが白、Eが黄色、Dが水色、Cが緑色までだ。」


まてよ。

怪しい2人組だが、誰も知らないAランクのギルドカードの色を知っている感じだった。

誰も知らないAランクのギルドカードの色を知っていて、そしてAランクの噂の出所が運営だとしたら、その2人組は運営だったんじゃないのか?

ってことは、俺は運営にマークされかけてる?

まずいじゃん。


で、さっきの会話で思い出したが、イベントがあったんだ。

あれ、まだやってたんだね。

いつでもクリアできる状態だったんだけど、忘れててよかった。

これでクリアできちゃったら、完全に運営からターゲット・オンだな。

危ない危ない。


そういえば、初期のイベント発生時に、なんとかイベントを阻止してやろうと躍起になっていたな。

運営としては、高い賞金を餌に課金を増やす目論見だろう。

もし簡単にクリアしてしまえば、課金する人も減ってしまう。

それはそれで楽しそうだが、このゲームの存続にかかわる問題かもしれない。

誰かが課金してくれれば、このゲームもしばらくは楽しめそうだ。

このまま放置しよう。うん、そうしよう。

みんな、俺のために課金してね。


そんなことを考えていると、冒険者が話しかけてきた。


「これから、何か予定ありますか?」

「いや、特に。ただ山があったから登っただけですので。」

「こんなお願いをするのは申し訳ないのですが、一緒に街まで帰ってもらっていいですか?」

「はい、いいですけど。」


そんな返事をしながら、正直めんどくせーと思っていた俺がいる。

多少は回復したものの、まだ足元がおぼつかない。

こんな状態の人と一緒に歩くとなると、何時間かかるやら。


「お礼は街に帰ってからしますので、よろしくお願いします。」

「お礼なんていいですよ。あ、メシおごってください。」

「そんなので良ければ向こう一週間分の食事をご用意しますよ。命の恩人ですから。」

「いやいや、1食だけでいいですって。」

「足りません。全然足りません。せめて3食を。」


くだらない。

こんなやり取りしている暇があったら歩いてくれ。


「ま、詳しい話は街に戻ってからにしましょう。すみませんが先行してもらいますか?」

「そうですね。では先に歩きます。」


山から下山するが、やはり遅い。

【千里眼鏡】を駆使し、襲ってきそうな魔物がいたら、指から小石をデコピンではじいて追い払っていた。

命までは奪いたくないので、調整が難しい。


あー、面倒だ。

一気に街まで飛びたい。


そんな時、【千里眼鏡】に1匹の魔物が正面から襲ってくるのを捉えた。

デコピンアタックで追い払ってもいいが、あえて襲われることにした。


「ギヤー!ま、ま、まものがー!」


冒険者が発見したときは、すでに目の前に迫っていた。

棍棒のようなものを持った魔物が1匹現れた。

これはオーガだな。


棍棒が冒険者に振り下ろされる。

それが頭に当たる瞬間、俺は右手で棍棒を払いのけ、左手で冒険者の首物を軽くチョップする。


昔よくドラマで、首をチョップして気絶させている描写があった。

本当にこんなので気を失うのか?と思ったものだが、頸動脈を強めに打つと血流が止まり、本当に気絶することがあるようだ。


ゲームの世界では通用しないと思うが、ちょっと俺の力加減が悪かったのか

一気にHPが削られ、頭の周りにヒヨコが飛ぶエフェクトが発生している。

とりあえず、気絶したんだろうな。


俺はオーガを前蹴りで吹っ飛ばし、気絶している冒険者を肩に担いで街の近くまで飛んだ。

冒険者を地面に寝かせて、回復するのを待つ。

相変わらずヒヨコが飛んでいる。ピヨピヨ。


しばらくすると、HPが自然に回復し、ヒヨコの数も減っていった。

ヒヨコがあと1羽になった時点で、俺は冒険者をおんぶして歩き出した。


ピヨピヨという鳴き声が聞こえなくなり、冒険者は目を覚ましたようだ。


「あ、ここは?あれ?あ!すみません!歩けますので下ろしてください!」


冒険者を下ろし、一緒に歩きながら、これまでの経緯を説明した。

もちろん作り話だが。


「そうですか、オーガに・・・」

「ええ、一瞬のことでした。」

「どうやってオーガを倒したんですか?」

「倒してないですよ。お弁当を持っていたので、それを投げたらオーガがそっちに行ったので、その隙に走って逃げました。」

「私をおぶってですか?」

「火事場の馬鹿力ってやつですかね?お互い、命があってよかったですね。」


冒険者は感謝しているようだが、ちょっと様子が違った。

何かを疑っているようだ。


「オーガの足は、速いです。人間を背負った状態で逃げ切れるとは思えません。」

「ああ、あの弁当ですが、3日前の物で、たぶん腐ってたんじゃないですかね?」

「オーガは腐肉も食べる魔物です。弁当ぐらいで当たるとは思えません。」


ん?何が言いたいんだ?


「あなたは一体、何者ですか?」

「俺は・・・、通りすがりの登山客ですよ。」

「武器も持たず、軽装で、しかも1人で魔物が多い山中を歩くなんて普通じゃないです。」

「それは・・・。」


やばいぞ、打ち負かされてる。

言い訳も厳しくなってきたな。


「それに、ここはもう街の目の前ですよね?」

「はい、もうすぐ着きますよ。」

「一体どんな脚力してるんですか?山からここまで、走っても2時間はかかる距離ですよ?」


何も言えず、無言になってしまった。

数秒間の沈黙ののち、冒険者は俺が恐れていた言葉を口にした。


「もしかして、あなた、Aランクですか?」

「いやいや、Fランクですよ。ギルドカード、白いでしょ?」

「さっきからそのギルドカードが、太陽の光反射して光ってるんですよ。」

「え?」

「それ、ただの白じゃないですよね?」

「デザイン変わったんですかね?最近始めたもので。」

「ボクのパーティーにも、最近始めたFランクの人がいますが、そんなに光らないです。」


えーっと、どうしようかな?


  【巻戻の指輪】時間を最長で1時間前まで戻せる

  【忘却の香水】相手の記憶を最長で1時間消すことが可能


こいつらに頼るか。


まず【巻戻の指輪】を使う。

すると、画面にシークバーのようなものが現れた。

左側にスライドすると、時間が戻っていく。


俺は、冒険者がトカゲの舌攻撃で吹っ飛ばされたところまで戻した。

冒険者の頭上には、ヒヨコが躍っている。

巻き戻した時間は12分25秒だ。


おっと、トカゲが俺に襲い掛かってきた。

軽く顎を蹴り上げたら、ギャーギャー言いながら転がって行った。


その状態で【忘却の香水】を使う。

記憶を消す時間は、同じく12分25秒に設定。


よし、これで俺の存在は知らないことになる。

このまま放置でいいかな?

でも、それだとこの人がなんか可哀そうだなぁ。


それに、トカゲはまだここにいる。

顎の一撃から復帰したようで、再びこちらに突進してきた。

例によって【亜空間扇】で飛ばしてもいいが、ちょっと利用してやろう。


  【服従液】その液体をかけることで、相手を服従させる


これをトカゲに振りかける。

すると、急におとなしくなり、俺の前でお座りの姿勢だ。

お手でもしそうな雰囲気だな。


俺はトカゲに、その冒険者を咥えて、山道を下山するよう命じた。

ちょっとしたアイデアがあるんだが、上手くいくかな?


俺は再び透明化し、空中を浮遊しながら様子を見ることにした。

トカゲは俺の姿が消えたのに不思議がっていたが、匂いで察知したようだ。

俺、臭いのかな?


トカゲは冒険者を咥えたまま下山する。

途中で冒険者が気絶から復帰したようだが、トカゲに咥えられていることに気づき、再び気絶してしまった。

大丈夫かこの人?

妙に洞察力は鋭かったが、冒険者としてはイマイチのようだな。


しばらく進むと、そこには別の冒険者パーティーがいた。

よし、ここで作戦実行だ。


トカゲには、軽くやられた振りをして冒険者を置いて逃げるよう指示を出した。


「うわー!山トカゲだ!逃げるぞ!」

「ちょっと待て、山トカゲの口元を見ろ!」

「ダメだ、見捨てろ!とにかく逃げるぞ!」


おいおい、待てよ。

見捨てるなって。

俺の緻密な作戦が水の泡じゃないか。


その時だった。


「斧斬投!」


冒険者パーティーの一人が、何かのスキルを使ったようだ。

投げられた斧が、トカゲの右足に直撃している。


「何してんだよ!そんなことして怒らせたらどうする!早く逃げるぞ!」

「オレは!オレは見捨ん!」

「馬鹿!お前も死ぬぞ!オレらは逃げる!勝手にしろ!」


お!なんかドラマですね。

臭いセリフですね。

そんなことを楽しんでる場合じゃない!

トカゲさん?攻撃食らったんだから、打合せ通りにしてよ。


トカゲは、思い出したかのように、急に足が痛い振りをし始めた。

うん、あなたが痛がってるのは左足ですよ?当たったのは右足ですから。


トカゲさんの迫真の演技は続く。


「グオォォォ!」


悲鳴なのかな?とにかく声を発したので、口が開いて冒険者は自由の身となった。

トカゲさんは、そのまま山中へ逃げて行ったとさ。めでたしめでたし。


「はあ、死ぬかと思ったぞい・・・。」


斧を投げた男は、腰が抜けたように座り込んだ。

あれ?よく見たら、あいつ、とんかつ野郎じゃないか。


まあ、ヒヨコ祭りの冒険者さんと運命的な出会いをしましたね。

いい感じにハッテンしちゃったりして。

あとは若い二人に任せるとして、俺は自宅に戻ろうか。




D「おかえりー」

「ただいま。」


畑仕事をしているドリーとあいさつ。

野菜を収穫しているようだ。


D「どうしたの?元気ないみたいだけど」

「そうかな?まあ、そうかも。」

D「元気になる葉っぱがあるけど、どう?」

「それに頼ることはしたくないかな。」

D「あら?気分が晴れるのに、残念ね。」


ドリーさん、それ、日本じゃ違法なやつですから。

あ、所持が違法で、使用は合法だっけかな?

栃木出身のラッパーが、撲滅を訴えて炎上してたので、やめときます。


すでに定位置となった応接室のソファーに寝転がる。

今日の反省点を振り返る。


[問題点]

Aランクだとバレた。


[原因]

調子に乗って人助けをした。


[対策]

人助けはしない。


うーん、なんとも幼稚な分析だ。

目の前で襲われている人がいたら、ついつい助けちゃうのはしょうがないよね。

今回はやり方が悪かっただけだ。

時間を戻してからの対応は上手くいったのだと思う。


[対策]

よく考えて行動しよう。


よし、これていいや。

はい、反省会終了。ロケット団並みの短さだが気にしない。

ゲームなんだし、楽しまなくちゃね。

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