27.解せぬ
さあ、昇格審査のアイテムを作りますよ?
合成装置に素材を3つのせて蓋をします。
《合成装置》
【ステンノの血】【エウリュアレの涙】【メドゥーサの蛇髪】を認識しました。
合成することで【ゴルゴーン酒】になります。
合成しますか? <Yes> <No>
とりゃー
俺は<Yes>を選択!
蓋が開くと、そこには【ゴルゴーン酒】があった!ヤフー!
合成された【ゴルゴーン酒】は、透明の液体の中に蛇が入っていた。
見るだけでアルコール度数の高い酒であることがわかる。
ん?これ、俺がさんざん飲んだやつじゃないか?
もしかしてさ、こんなめんどくさいことしないで、酒だけもらってくれば良かったんじゃない?
もー、脱力感だ。
よし、今日のテレパシーのネタはこれだ!文句言ってやろう。
それよりまずはAランクに昇格してこよう。
ギルドに飛ぶぞ。
とりゃ。
「生産職ギルドへようこそ。ご用件をお伺いいたします。」
「昇格審査を受けててですね、その課題の物が作れたんで、持ってきました。」
「それでは、ギルドカードと生産物をお預かりいたします。」
俺はギルドカードと【ゴルゴーン酒】を手渡した。
白いギルドカードはこれで最後かと思うと、少し寂しい。
Aランクは何色になるんだろう?
たしかEランクが黄色、Dランクが水色だと思った。
ギルドを見渡すと、緑色がちらほらいる。これがCなのかな?
それ以外の色は見ないから、まだプレイヤーでBランクやAランクはいないようだ。
そんなことを考えていると、職員が戻ってきた。
「生産物が【ゴルゴーン酒】であることは確認が取れましたが、精密検査をしますので、少々お待ちください。」
「精密検査ですか?」
「はい、具体的には品質と純度を確認します。」
「それは、どうしてです?」
「自分で【合成】しないで、既製品の劣化素材で作った【ゴルゴーン酒】を持ってくる人もいますので。」
「あー、なるほどね。確認にはどれぐらい時間がかかりますか?」
「30分程度かと思われます。」
「じゃあ、それぐらいにまた来ますね。」
「お待ちしております。では、一時的にギルドカードをお返しいたします。」
危なかった。
もしゴルゴーン三姉妹の家にあった【ゴルゴーン酒】を持ってきてたらアウトだったな。
でもあれって劣化素材で作った既製品だったのかな?素材元が持ってるんだから、高純度な気もするが。
しかしまあ、中途半端に暇になったし、どうしようか?
あ、そういえば、朝からバタバタしてたせいで、今日はまだ何も食べてなかった。
ギルドの食堂で飯でも食うか。
まだモーニングセットを提供している時間だろう。
というわけで食堂にきたのだが、剣呑な雰囲気だった。
アメフトのディフェンスラインの選手のような大男が暴れている。
2m200kgぐらいありそうだ。
暴れている相手は、か弱い女性と痩せこけたご老人だ。
アイコンからその2人はNPCで、食堂のウェイターとコックだとわかった。
「おいおい、今日のとんかつはいつもより小せぇじゃねえか!客をバカにすんなよ!」
「いえ、いつもと同じ量のはずで・・・」
「ふざけんなよ!俺は毎日このとんかつを食べてるんだ!大きさの違いはわかるんだよ!」
「毎回、グラム数を測ってから揚げてますので・・・」
「じゃあ測り方を間違えたんじゃねえのか?殺すぞ!」
なんて低レベルな主張なんだ。
もう見てられませんね。
「すみません、ちょっといいですか?」
「なんだお前。」
「朝からとんかつって、重くないですか?」
「はあ?」
「もっと胃に優しいものがいいですよ?」
あれ?場の空気が変わった?
なんか変な事言ったかな?
すると、コックの男性が、一歩前に前進してこう言った。
「うちのとんかつは、衣を薄めにしてますので、重すぎず、朝からでもお楽しみいただけます。」
「あ、そうなの?じゃあ俺も食べてみようかな?」
よし、一気に和やかムードに変更することに成功だ!
一件落着。めでたしめでたし。
「おいおいおいおい!勝手に割り込んでくるんじゃねぇ!まだ話は終わってねぇんだ。」
あらあら。おとなしくしてればいいものを。
仕方がない、暴力で解決しますか。言葉の暴力でね。
「ほかのお客さんに提供されたとんかつと比べると、確かに小さく見えますね。」
「だろう?ほら、証人が増えたぞ!もっとでかいの寄越せ!」
「ただですね。」
「なんだよ。」
「厚さを見比べると、あなたに提供された方が厚みがあります。」
「あん?」
「肉って、固まりを輪切りにするように切るんですが、部位によって細くなるんですよ。」
「あ?何が言いてえんだ?」
「ですから、上から見たら小さく見えますが、その分厚みがあるので、グラム数は変わらないかと。」
はい論破。
じゃあ失礼しますか。
って、そんな訳にはいかなかった。
論破されたのが気に入らないようで、顔を真っ赤にして胸倉を掴まれた。
胸元にあるギルドカードが揺れる。
「てめえ、Fランクか!俺はCランクだぞ!」
俺の白いギルドカードを見て、見下すように言ってきた。
マウント取った気分なのだろうか?
「はあ、Cランクですか。それで?」
「Fランクってことは始めたばかりか。じゃあ知らねえのも仕方ねえ。この世界のルールを教えてやるよ。」
「あいにく取説とか読まないタイプなので、ルールは知らないですね。」
「取説なんかには書いてねえ!ランクが高い者がルールだ!わかったか!」
わかりませんね。
わかったのは、こういうのを脳筋って言うんだろうなって事です。
俺たちが揉めてるのを見て、食堂の人が助けてくれた。
「あの、とんかつをもう1枚サービスいたしますので、それで勘弁してくだい。」
「ったく、最初から素直にそう言えばいいんだよ。まったく腹立つな。」
その男は席に戻り、何事もなかったように食べ始めた。
こんな空気で食べても美味しくないよ?食事は楽しくとりましょう。
「あの、俺にもとんかつ定食ください。」
「は、はい、喜んで。」
俺の元に運ばれてきたとんかつは、通常の1.5倍ほどありそうだ。
『先ほどはありがとうございました』
というメッセージ付きだ。
美味しくいただきました。
ゆっくりと朝食を堪能し、すでに30分以上経過していた。
俺は生産職ギルドに戻り、精密検査の結果が出ていないか確認する。
「すみません、先ほど昇格審査の件で・・・」
「あ!ヨシュア様ですね?再度ギルドカードをお預かりいたします。」
俺はギルドカードを手渡す。
白いギルドカードはこれで最後かと思うと、少し寂しい。
あれ?思考がループしてるな。
「で、検査の結果は出たんですか?」
「はい、出たんですが・・・」
「え?ダメだったんですか?」
「私は知らされていなく、ヨシュア様が戻ったら、ギルド長室に通すよう仰せつかっています。」
え?ギルド長?
まったくいい予感がしないな。
「お連れ致しますので、こちらにどうぞ。」
職員の先導でギルド長室に向かう。
階段を昇り、3階の廊下を進む。
「何を聞かれるんですかね。」
「いやー、私には何も。」
俺と職員の声だけが廊下に響く。
1階の喧騒が嘘のように、3階は静まり返っていた。
廊下を行きかう人はおらず、普段は誰も近寄らないエリアなのだと想像できる。
2階は何があるんだろう?そんなことをぼーっと考えていたら、目的の場所に着いたようだ。
廊下の一番奥にある、一際豪華な扉の前で職員が止まった。
俺を一瞥してから、ドアをノックする。
「ヨシュア様をお連れしました。」
「通せ。」
短い返事のあと、扉が自動で開いた。
さすが、自動ドアか!と思ったら、中からメイド風の女性が開けていた。
メイドと入れ替わり入室する。
職員は一礼して去って行った。
広いギルド長室には、俺とギルド長と思われる人物の二人だけだ。
ギルド長は、トランプのキングのような顔立ちだ。
まだ名前は聞いてないが、キングと名付けよう。
でも、それだとちょっと偉そうだな。
「ここのギルド長をやっている、トランプだ。そこに掛けたまえ。」
キングじゃなくてトランプでした。
それだけで大富豪な気がしてしまう。
俺は勧められたソファーに座る。
キングは、あ、いや、トランプ氏は髭を弄りながら対面に座った。
「わしは回りくどい言い方は苦手だ。単刀直入に聞こう。」
いい予感がしないな。なんでしょうか?
「あの酒は、どうやって入手した?」
きたか。やっぱりそうなるよな。
「どうやってって、素材を【合成】したんですが。」
「ふ。素材はどこから入手した?冒険者に依頼したか?」
「いえ、自分で貰ってきました。」
「どこでだ?」
「その場所は、ある方から他言無用と言われておりまして・・・」
「グライアイ三姉妹からだろ?」
「あ、はい。」
「なるほどな。するとゴルゴーン三姉妹に会ってきたってことだな?」
「はい、そうしないと、素材はもらえませんから。」
今のところはボロ出してないな?
いいぞ、このまま行こう。
「石化の対策はどうしたんだ?」
やっぱ気になりますよね。
どうしよう。あのアイテムは禁忌ってことになってるし、これは伏せるべきかな。
「企業秘密です。」
「企業?単なる生産職じゃないか。」
「個人事業主は競争に負けたら後ろ盾はいません。お察しくださいませ。」
「ふん、気に食わんが、わからんでもないな。」
物分かりの良いギルド長で良かったです。
「では、ゴルゴーン三姉妹から素材をもらって、お前の力で【合成】したって事か?」
「はい、そうです。」
そのとき、一羽の鳥が窓際にとまった。
「さあ、お前の嘘がバレる瞬間だぞ?」
何を言ってるんだこいつ。
ギルド長のトランプ氏は、窓を開けて鳥を部屋に入れた。
よく見ると、足に紙が巻き付いていた。
ああ、伝書鳩ってやつかな?
その顔を見て、トランプ氏の表情が変化した。
驚く内容が書いてあったんだろう。
「うむ、にわかに信じられんが、本当のようだな。」
「それってゴルゴーン三姉妹からの手紙ですか?」
「そうだ。素材を渡したかを確認したものだ。確かに渡したと書いてある。」
「これで疑いは晴れましたね?それでは昇格ってことでいいですか?」
「うむむむ・・・。長年生産職からAランクは出ていなかった。わしの代で出るとはな。」
「Aランクが出ると、何か困ることでもあるんですか?」
「ちょっとした不都合があるんだ。お前にとってな。」
「俺にとって?」
「まあ、そのうちわかるだろう。」
トランプ氏は、何かを隠しているようだ。
そのうちわかるって言ってるから、そのうちわかるんだろう。
「ちょっと待ってろ。今、証書を書いてやる。」
羽ペンを取り出し、羊皮紙のような紙に何かを書いている。
それをもって、ギルド受付に行くのかな?
「そういえば。」
ペンを動かしながら、トランプ氏が聞いてきた。
「あれは合成成功率が極めて低かったはずだ。一発で成功したのか?」
「はい、素材は1つだけでしたので。運が良かったのでしょうね。」
「解せぬ。」
トランプ氏、俺が嫌いですか?
いいから早く証書をくださいな。
「ほら、これを受付に持っていけ。」
「ありがとうございます。では失礼します。」
「解せぬ。」
何が気に食わないんだ?
俺、頑張ったんだよ?
掃除とか炊事とか修理とか。
大変だったんだから。
ギルド長室のドアを開けると、メイドらしき女性が待っていた。
彼女に先導され、1階に降りる。
会話はなかった。自分のコミュ力のなさに嫌になる。
生産職ギルドの受付で証書を渡す。
「かしこまりました。今、ギルドカードを更新しますので、少々お待ちください。」
「ギルド長の書いた証書!渡し高揚!待つの少々!」
「いいライミングですね。」
「え?」
この職員とは友達になれそうだ。
新たなパンチラインを考えながら待つと、職員がカードを持ってきた。
「こちらが新しいギルドカードになります。」
渡されたギルドカードは、白かった。
え?Fランクと同じ?