26. お前、頭いいな
「順序って?先に渡さなきゃいけない人なんて、いるっけ。」
C「重症だわ。ホント呆れる。」
B「死んだら直るなら殺してやるけど、死んでも直りそうにないわね。」
A「お手紙、覚えてないの?」
【テレパシーの指環】を居候たちに渡そうとするが、先に渡す人がいると指摘され、まったくもって心当たりがないため、確認しただけなのだが、酷い反応だ。
それに手紙だと?何だ手紙って。
あ・・・。
俺は巻物と一緒に置いてあった置手紙をもう一度読んだ。
その行動を見て、全員が溜息をついたのは気にしないようにしよう。
『その巻物は必ず利用するように。そうしないと許さないんだから。』
これって、そういうことか。
巻物を使って【テレパシーの指環】を作って持ってこいって事か。
便利だもんね、そりゃ欲しいよな。
「回りくどい文章だからわからなかったけど、あの三姉妹が欲しいってことか。」
A「やっとわかった?ならすぐに持っていきなさい。」
「彼女たちじゃ巻物だけ持っていても、作れないもんね。」
B「ん?まあ、そうだけど・・・」
「最後まで人使いが荒いやつらだ。じゃあ行ってくるよ。」
俺はさっそく三姉妹のもとに飛んだ。
再びみんなの溜息が聞こえた気がしたが、気のせいだろう。
C「だめだ、あいつ全然わかってない。」
D「指環を作ってほしいんじゃなくて、いつでも会話したいから巻物渡したんだろうに。」
E「溜息しか出ないわね。でも、この指環だけど、私たちも貰って置いた方がいいかもね。」
B「その心は?」
E「石化は体が固まってるだけで、意識は正常だったの。」
D「つまり、石化状態でもテレパシーなら飛ばせるってこと?」
E「そのはずよ。」
C「あいつがいくらグズでも、そう何回も石化する・・・かもね。」
E「石化だけじゃなくて、あの性格だから、今後も変なことに巻き込まれる可能性あるよね。」
B「巻き込まれ属性強そうだもんね。」
E「だから、今後の事も考えて、みんないつでも会話できる状態にしておいた方がいいかと。」
A「あなた、子供なのに気を遣いすぎよ?」
失敗した!
三姉妹の家の前に飛ばなきゃいけないのに、家の中に飛んでしまった。
ここはキッチン。
いくら一晩お世話になったとはいえ、女性だけの家に勝手に入り込むのはまずい。
誰にも見られてないよな?隣を確認すると・・・
メ「あ・・・」
「あ・・・」
俺の顔には、クリームパイが投げつけられた。
「すみません、ちょっと飛び先を間違えちゃいまして。」
メ「いや!だめ!見ないで!こっち見ないで!今すぐ出て行って!」
「は、はひぃぃぃ」
俺は玄関前に飛んだ。
顔に付いた生クリームを食べながら拭っていると、玄関が開いた。
エ「もう、いきなり家の中に入らないで!」
ス「これでもレディの家なのよ?」
エ「で・・・、何か、見た?」
やばい。本気で怒ってる。
っていうか、焦ってる感じか?
「ホントすみません、一瞬しか見てないです。」
ス「何が見えたのかしら?」
すぐにパイが飛んできて、よくわからなかったのが事実だ。
「なんか、ニョロニョロしたものが。蛇っぽい何か?」
エ「あとは?」
「クリームパイが至近距離で見えました。」
ス「そう、それだけね?」
「あと、メドゥーサの声が聞こえました。」
そういえば、メドゥーサいないな。
まだキッチンかな?
さっきからこの二人、顔を合わせながら不自然な動きをしている。
フリオがテレパシーで会話していたときに似てるな。
エ「あの蛇は、私たちの昼飯なんだ。」
「あ、そうでしたか。」
ス「そうよ、毒蛇だから危険だから逃げてってこと。手荒くしてゴメンね。」
「いえいえ、命の恩人です。」
そういえば、酒にも蛇が入ってたしな。食べても不思議じゃないか。
しかし、タイミング悪かったな。メンゴメンゴ。
「あ、そうそう、これを渡しに来たんです。」
俺は【テレパシーの指環】を3つ取り出した。
「貰った巻物で作りました。みなさんでどうぞ。」
ス「ちょっと待ってね。」
ステンノは玄関を開けて、メドゥーサを呼んでいる。
エ「作るの早かったね。もっと時間かかるかと思ったんだけど。」
「ええ、ちょっとしたコツがありまして。」
そんな話をしていると、玄関のドアが少しだけ開いた。
そこから手だけが伸びてる。
まるで青銅のような色の手だ。
メ「こ、これは蛇に噛まれないように腕を魔法で変化させてるの。」
メドゥーサの声だ。
そうか、これはメドゥーサの手だったのか。調理中にすみませんね。
エ「指環、つけてやってよ。」
「俺がつけていいんですか?」
ス「この指環のサイズだと、薬指にしか入らないわね。」
メ「み、右手は蛇を抑えてるから、自分じゃ付けられないから、つけて欲しいなって。」
俺はメドゥーサの変色した手を掴む。
メドゥーサの手がビクっと反応した。そんなに怖がらなくてもいいのに。
言われた通り、薬指に指環を入れる。
すると、手はすぐに引かれ、玄関のドアは固く閉ざされた。
エ「蛇は鮮度が重要だからな。」
メドゥーサは調理に戻ったようだ。
気を付けてさばいてください。
ステンノとエウリュアレも、手を差し出して待っていた。
同じように薬指に入れる。
「あの、この指環なんですけど、テレパシーが使えるようになるんですよ。」
エ「あ、うん。知ってるよ。」
「ですよねー。」
ス「たまには私たちにもテレパシー送ってね。」
「そうですねー。」
そんな乾いた会話をしていると、テレパシーが送られてきた。
メ『私からも送るから、スルーしないでよね。』
『うん、今度来るときは、テレパシー飛ばしてからにするよ。』
メ『来てくれるの?あ、だめ、ここは気軽に来る場所じゃないから。』
『そっか、じゃあ呼ばれたら行くようにするよ。』
メ『はぅ!』
妙な奇声と共に、テレパシーは切断された。
蛇にでも噛まれたか?
「へんなタイミングで来てすみませんでした。じゃあ、帰りますね。」
ス「はいはーい。」
エ「おう。」
俺は、逃げるように三姉妹の元から飛び立った。
家に帰ると、またABCDEFがお待ちかねだ。
何があったかをしつこく聞かれる。
指環を渡しただけだ、面白い事なんてない。
「何って、ただ指環を渡してきただけだよ。」
A「どうやって渡したの?」
「いや、つけろっていうから、つけてきた」
B「どの指?どの指?」
「薬指しか入らないっていうから、薬指にしたけど?」
C「キャー!右手?左手?」
「そんなん覚えてないよ」
D「重要なんだから思い出しなさい!」
「たしかメドゥーサは、右手で蛇を抑えてたから、左手だったかな?」
E「・・・っ。」
「なんでエリザが泣いてるの?フリオのが感染した?」
C「ほかの二人は?」
「えーっと、こうやって、こう付けたから、右手かな?」
ABCDEF「なるほどー」
何納得してんだこいつら?
それにしても、よくよく考えたらメドゥーサは左手の薬指になってしまったんだな。
でも、不可抗力だよね?
右手は蛇をおさえてたし、指環は薬指にしか入らないサイズだったし。
そもそも、このゲームの世界に、左手の薬指とかいう概念ってあるのか?
まあ、嫌だったら外すか他の指にするだろう。
D「それで、私たちの分は?」
「あ、そうだった。忘れてた。」
C「忘れてた?どういう神経してんの?」
「いや、蛇とかパイとかいろいろあってね。」
B「何の話?」
「まあ、とりあえず指環だ。ほら、みんな付けて。」
俺が手のひらに5個指環を乗せて差し出す。
みんなそれぞれ手を出してくるが、指環を取ろうとしない。
え?つけろって言ってる?
妙なところで張り合うなぁ。
「どの指に付けるの?」
ABCD「薬指」
E「中指」
「えーと、右手?左手?」
ABE「右手」
CD「左手」
C「違うわよ。ほら、私、右手が金属アレルギーだから。」
D「私は右手で土を弄ったりするから、左手の方が都合がいいから。」
そんな言い訳しなくてもいいよ。
わかってますから。
しかもこれ、気持ちのこもった指環じゃなくて、テレパシー用のアイテムだからね。
これで俺が勘違いすると、痛い目を見るのは過去の経験から学んだ。
女の思わせぶりな態度に惑わされてはいけない。
俺は、全員に指環を装着していった。
ただアイテムを渡しているだけなのに、緊張するのはなぜだ?
いかん、惑わされるな。女は魔性の生き物だ。
こら、お前ら満足そうな笑顔を見せるな。
惚れてまうやろー
「じゃあ実験するね?まず、俺とフリオだけテレパシーするよ。」
俺は、フリオに念を送るようにテレパシーを飛ばした。
『こちらヨシュア、聞こえますか?』
F『聞こえるけどさ、何も感じないわけ?』
『ん?ちょっと指がもわっとするな。』
F『そういう意味じゃないんだけど。』
1対1の通話は確認済だ。
では、1対多を確認してみよう。
「じゃあ、ここに全員追加してみるよ。」
今度はABCDEにもテレパシーを送ってみた。
『聞こえたら返事してください。』
ABCDEF『聞こえるよ。』
『ちょ、全員一緒に話したらわからんだろ!』
E『じゃあ、聞こえた人は手を挙げればいいんじゃない?』
『お前、頭いいな。』
全員が手を挙げているのを確認した。
1対1も同時通話もできることがわかった。
うん、便利だ。
でも、いつ使うんだろう?
A『たしかにこれは危険なアイテムね。』
B『こんなのが世の中に蔓延すれば、安心して暮らせないね。』
『何が危険なアイテムなんだ?ただの便利グッズでしょ?』
俺は、携帯電話や電話会議システムが手軽にできるぐらいしか思ってないのだが。
こいつらの考えていることは、わからん。
E『そういう発想しかないからこそ、巻物が貰えたんだろうね。』
なんか一同納得の表情だけど、俺は褒められてるのか?
『実験終了です。じゃあテレパシーは切るね。』
携帯電話がないこの世界では便利だと思うが、俺は瞬間移動できるアイテムがある。
今のところ使う予定はないが、頭の片隅にでも入れておくか。
あれ?なにか重要なことを忘れている気がするな。
あ、ゴルコーン三姉妹だ。
なんかテレパシーを送って欲しそうにしていたから、あとで送ってみるか。
といっても、何も会話のネタがないんだよな。
で、なんでゴルゴーン三姉妹に会いに行ったんだっけ?
・・・あ!
目的を忘れかけるところだった。
地下室で合成するぞぃ!
さて、おさらいしてみよう。
Aランクへの昇格審査内容だ。
《昇格審査》
生産職Aランクへの昇格審査内容
・達成条件:昇格試験専用アイテムの納品
・期限:審査開始より1週間以内
・必要素材:【ステンノの血】【エウリュアレの涙】【メドゥーサの蛇髪】
・生産物:【ゴルゴーン酒】(合成成功率=器用値×0.4%)
必要素材は集まった。
あとは合成するだけだが、合成成功率は器用値×0.4%だ。
俺の場合は255×0.4=102%なので、必ず成功する。
よし、やってみるか。