25.メドゥーサには同情するね
さて、3つの素材を採取しましょう。
まず【ステンノの血】だけど、ステンノは不死身の体。
ナイフでちょっと傷つけたぐらいでは、すぐに傷が回復して、血が流れることはない。
かなり大きな傷をつける必要があり、当然痛みを伴う。
キッチンで、肉切り包丁を取り出す。
しばらく使ってないから、刃が錆ていた。
砥石で研いで、切れ味を上げる。
ステンノは、自らの腕に包丁を食い込ませた。
刃に沿うようにして、赤い血液が流れだした。
ス「っつー」
近くであいつが寝ている。
大声を出したくなる激痛なのに、起こさないように声を押し殺した。
メ『ごめんね。私の我が儘のせいで痛い思いをさせて。』
ス『いいのよ。私も同じ気持ちだから。』
次に【エウリュアレの涙】だが、気丈な彼女は感情的に涙を流すことが少ない。
採取するには、涙腺を直接刺激して、涙を誘発する必要がある。
これも当然痛みがあるし、失明の危険性も伴う。
エ『やっぱ煙かな』
魔物除けに使われる、刺激的な煙を出す小枝に火をつけた。
外に漏れないよう、風を操作し、直接眼球に当たるように調整する。
一瞬のうちに目が真っ赤に充血し、大粒の涙がこぼれた。
メ『痛い?わよね。ゴメンね。』
エ『なんであんたが謝るのよ。私は少しすれば直るけど、あなたは違うじゃん?』
最後に私の【メドゥーサの蛇髪】だけど、これは厄介だ。
確かに私の髪の毛は蛇でできている。
でも、普段は術を使って普通の髪の毛にしているのだ。
一旦、元の姿に戻したら、そこから普通の髪の毛にするまで3年ほどかかる。
私は3年もの間、醜い姿になってしまうのだ。
肉体的な苦痛はないが、精神的に苦しい。
そして、こんな醜い姿を、あいつには見られたくない。
つまり、蛇髪を採取するということは、あいつとしばらく会わなくなることを示すのだ。
私は、久し振りに本来の姿に戻る。
頭には無数の蛇が脈動していた。
私は心の中で謝りながら、一本の、いや一匹の蛇を抜き取った。
こうして採取した3つの素材を瓶に入れる。
あとはあそこで爆睡しているやつに渡すだけだが、今の私の顔は見せられないし、顔を見たら決心が揺らぎそうだ。
私は自室に戻り、手紙を書くことにした。
えーっと、あ、そういえば、あいつの名前知らなかった。
こんなに近いのに、遠く感じる。
『意気地なしの腰抜け野郎へ』
よし、これでいいだろう。
なるべく感情を出さないように書こう。
感情的になったら、違う文章になってしまいそうだ。
ス「ねえ、これもあげてみたら?」
ステンノ姉が持ってきたのは、巻物だった。
以前に一度だけ素材を提供した人物が置いて行ったものだ。
中身は、その人物が独自に開発したレシピで、門外不出のものらしい。
使い方によっては、この世界の戦闘を根底から覆すものになりえる。
持っていると危険だからと渡されたが、扱いに困ってしまう。
ただ、これを渡せば、必ずもう一度ここに帰ってくる。
そして、その後は気軽に会話ができるようになると言っていた。
意味はわからないが、そういうアイテムらしい。
もし、アイテムを戦闘などに使わず、有効利用してくれそうな人物がいたら、そいつに託して欲しいと言われたのだ。
よし、これも一緒に渡してしまえ。
もうどうなっても、知らないんだから。
また会話ができるなら、絶対使えよな。
結局私は一睡もできないまま朝を迎えた。
あいつが起きたようだ。
物音を立てないように動いている。
どこまでお人好しなんだ。
「あのー、短い間ですが、お世話になりました。楽しかったですよ。素材ありがとうございます。では失礼します。」
これでお別れなのね。
そう思うと、私は耐えきれず、ドアの前まで行き、ドアノブを握りしめた。
これを開けてもいいことはない。
自分の感情を押し殺し、泣き声を押し殺し、立っていることもできず、地べたに座り込むしかなかった。
***** ヨシュア視点 *****
でや!
俺は自宅に戻った。
玄関を開けると、うちの居候のABCDEFが勢ぞろいだった。
あれ?EFは朝だけど大丈夫なのか?
C「昨晩はお楽しみのようでしたね。」
え?死にかけたけど?それがお楽しみなのか?
エリザが事実を捻じ曲げて伝えてそうで怖いな。
「うん、石化して、粉々に砕け散って、蘇生してきた。」
A「ふーん、で?そのあとは?」
D「午前様ですわね。いいご身分だこと。」
あれ?あれ?
俺、何か悪いことしたの?
B「ねえ、私が丹精込めて作ったハッシュドビーフは誰が食べたのかしら?」
あいたたた。
それは、料理センスのない俺が悪いのだ。
ABCD「説明してくれるわよね?」
こ、怖いです。
というわけで、俺は昨日の出来事を、余すことなく伝えたのだった。
E「でね、このバカタレは、何も気づいてないのよ。」
C「鈍感だと思ってたけど、ここまで鈍感だとは。」
A「これが計算だとしたら、女泣かせよね。」
なんでしょう?責められてますよ?
そりゃ、ピザやビーフシチュー(偽)を持って行ったのは悪いかもしれなけど、一応、了承を得てから持って行ってるよね?
B「ま、こいつに言ったところでわかんないだろうから、このままにしとくか。」
D「メドゥーサには同情するね。」
意味はわからないが、ディスられているってことだけはわかる。
もっと労わってほしいね。俺、家主なんだしさ。
F「でさ、もらった巻物ってなんなのさ。」
あ、そうだそぅだ。
それは俺も気になっていた。
というわけで、地下室に来たわけさ。
新たに覚えた【テレパシーの指環】を作ってみよう。
あ、ついでに昇格審査のアイテム作りもね。
あれ?どっちがついでないんだ?
《合成装置》
ようこそ!合成装置へ
どれを合成しますか?
【低級回復薬】
【劣化毒消し】
【全快玉】
【無敵の実】
【不死の首飾り】
【蘇生粉】
【千里眼鏡】
【不可視薬】
【半速目薬】
【金縛り笛】
【服従液】
【致死毒】
【天使の翼】
【瞬移の羽】
【巻戻の指輪】
【忘却の香水】
【亜空間扇】
【破滅の結界】
【無効水】
【テレパシーの指環】
お、ちゃんと【テレパシーの指環】が増えてるな。
んじゃ、必要素材でも確認しますか。
一応ね。
《合成装置》
・低級回復薬=薬草+ロッソベリー
・劣化毒消し=薬草+にがり草
・煙幕玉(小)=火薬石+けむり草
・全快玉=岩竜の心臓+ユニコーンの角
・無敵の実=麒麟の髭+マッカムの実
・不死の首飾り=不死鳥のくちばし+太古の鎖
・蘇生粉=地獄樹の没薬+天国樹の乳香
・千里眼鏡=ギガンテスの目玉+天空竜の爪
・不可視薬=変色龍の皮膚+千日悪草の露
・半速目薬=爆走怪鳥の肝汁+海竜の鱗
・金縛り笛=暴君蜥蜴の声帯+月のしずく
・服従液=鵺の尻+黄金
・致死毒=ヴェノムフロッグの毒袋+ポイズンスコーピオンの毒袋
・天使の翼=イカロスの堕翼+死神の蝋燭
・瞬移の羽=時空鳥の羽毛+女王魔蜂のプロポリス
・巻戻の指輪=火車の肉球+クロノスの指輪
・忘却の香水=誇張茗荷の新芽+海中鹿の香嚢
・亜空間扇=羅刹女の扇+青狸猫の衣嚢
・破滅の結界=エデンの杭+アンゴルモアの涙
・無効水=聖水+トリケシ草
・テレパシーの指環=ユリゲラの匙+ゲルマニウム鉱石
ふむ。【テレパシーの指環】に必要な素材は確認できた。
探すつもりもないので、例の手順で作ってしまおうか。
《合成装置》
【ユリゲラの匙×100】と【ゲルマニウム鉱石×100】を認識しました。
合成することで【テレパシーの指環×100】になります。
合成しますか? <Yes> <No>
貴重なアイテムっぽいけど、100個も作っちゃっていいかな?
いいともー!
【アイテムボックス】に【テレパシーの指環×100】が追加されたことを確認した。
さて、どんなものか、見ておくか。
《合成装置》
【テレパシーの指環】このアイテムを装着した者同士で会話を可能とする(距離無効・音漏れなし)
うん、やっぱりそうだよね。
テレパシーが送れる道具だよね。
実験したくなったな。上に戻るか。
「なんか、テレパシーができるアイテムが作れたんだけど、実験してくれる人ー!」
A「いいけど、それ指環だよね?」
B「ちょっと抵抗あるかなー?」
C「もっとロマンチックに渡してくれないかな?」
D「だめよ、こいつの神経を一般的なものさしで測ったら。」
E「私はいやよ。メドゥーサに殺される。」
なんか、女性陣はみんな怖がりだな。
そんなに未知のアイテムが怖いかな。
F「・・・なんでボクを見てるの?」
「はい、おてて出して?痛くしないから。」
F「ひぃ!」
「ほら入った。痛くないだろ?」
F「グスン。大切なものを失った気分だ。」
誤解を招きそうな会話だが、フリオに【テレパシーの指環】を付けることに成功した。
そして俺も装着する。
『フリオ、聞こえるか?』
F「あ、すごい、聞こえるよ。」
『おい、口に出さずにテレパシーで答えてくれよ。』
F『怒られたー、ワーン。』
『テレパシーで泣くな!』
その後、フリオに自室に戻ってもらい、テレパシーを試した。
問題なく通話することが確認できた。
なるほど、これは使い方によっては便利だな。
使い道が思いつかないが。
F「気持ち悪いから、もうこれいらない。」
「ちょっと待って、もう一つ実験したいんだよ。」
F「何するの?」
「複数の人が持っているときに、どうなるかを確認したいんだ。」
F「どうなるかって?」
「一人だけ指定して話るのか?とか、同時に複数人で会話できるのか?とか。」
俺が複数人での会話の実験をしたいと言い出したところ、何かを察知したのか、女性陣が動き出した。
A「さて、教会にでも行きましょうかね。」
B「ちょっと水回りの点検を。」
C「私も用事を思い出したぜ。行先は風に聞いてくれ。」
D「あら、雑草が伸びてるわ。手入れしなくちゃ。」
E「ああ、太陽がまぶしいわ。このままでは消えてしまう。」
逃げるようとする女性陣。
食い止める方法はないものか。
F『女は甘いものか美容グッズで釣れ。』
『は?』
F『あの態度は、何か見返りを希望してるんだよ。そんなのもわかんないの?』
『わかるかボケ。』
F『うわーん。』
『みんなには聞こえてないみたいだな。これが音漏れなしの効果か。』
俺は、なんとか実験に参加させようと、このアイテムの有用性をアピールする。
「女性のみなさん聞いてください。これ、使いようによっては便利ですよ?」
A「便利はわかってるよ。そういう問題じゃない。」
「俺が出かけてるとき、連絡できるんですよ?」
B「それが、何か?」
「いや、まあ、色々と・・・」
E「私たちに渡す前に、渡す人がいるんじゃないの?」
D「順序を間違えないように。まずはそっちから。じゃないと受け取れない。」
順序?なんだそれ?自慢じゃないが、俺は友達いないぞ?