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24. Even if...

三姉妹による酔ったふりの猿芝居に付き合ってあげましょうかね。


「お水、用意しましょうか?」

エ「ダメ、酒がまずくなる。じゃなくて、あ、じゃあ、お水をいただこうかしら?」

ス「そ、そうね、酔い覚ましには水よね。みなさんお水をいただきましょう。」


だめだ、見てられない。

俺はつい言ってしまった。


「妙な芝居はもう大丈夫ですよ。俺、女性が酒が強くても、なんとも思いませんから。」


ステンノとエウリュアレはバツが悪そうな顔をしているが、メドゥーサだけは真剣な表情だった。


メ「なんとも思わない?」

「はい、なんとも。」

メ「じゃあ、どうしたら、想ってくれるようになるの?」

「へ?」


メドゥーサだけは、本当に酔ってるのかな?

顔が赤いし、何言ってるのかわからない。


ス「ごめんなさいね。メドゥーサちゃんは、色々と酔ってるみたいなの。」

エ「そりゃかなり酔っ払っているけど その責任は君なんだから。」


Even if...

エウリュアレさん、なぜ突然歌いだすかな?

なんでその歌知ってるかな?

なんで俺に責任があるのかな?

あれだな、石化しないアイテムを切らしたせいだな。

もう何度も謝ってるじゃないか。勘弁してくれ。


「責任は感じてますが、どうしたら許してくれますか?」


ステンノとエウリュアレが肘でメドゥーサを小突いている。

何かを言わせようとしているようだが。


メ「こここ今晩、ここに泊まってください!」


なんだ、そんなことか。

別にいいけど、さらに顔が赤くなってますよ?

明日に残らなければいいですね。


この家は、あまり広くない。

三姉妹はそれぞれの寝室があるようだが、客用はない。

俺は、今いるこの部屋で寝ることになる。

大丈夫。椅子が3脚あれば熟睡できる体です。ひじ掛けがあると、寝にくいですけどね。


ス「一緒に寝てもいいのよ?」

エ「エウリュアレのここ、空いてます。」

メ「これで襲わなかったら、とんだ腰抜け野郎よね。」


なんだなんだ?みんな挑発的じゃないか。

そんなことしたら、命がいくつあっても足りない。

いのちだいじに。


「みなさん、薄々気付いていると思いますが、俺が石化しないのはアイテムの効果なんですよ。」

エ「だろうね。」

「そのアイテムには制限時間があって、時間が経過すると、さっきみたいに石化しちゃうんですよ。」

ス「つまり、寝てる間に効果が切れるから、一緒に寝ることはできないって事ね?」

「あい、とぅいまてん」

エ「石化したらさ、またぶっ壊せば戻るんでしょ?」

メ「・・・やめて。もう二度と、石化はさせない。」


メドゥーサのいきなりのマジモードで、すっかり場が冷めてしまった。

俺はとりあえずこの部屋に泊まることになる。

みなさん安心してください。俺は腰抜け野郎ですから。




深夜。


俺はかすかに聞こえる物音で目が覚めた。

キッチンのあたりから聞こえてくるその音は、何か金属をこするような音だ。

包丁を研ぐときの音に似ている。

君たち、実は山姥じゃないよな?その研いだ包丁で、俺を襲ったりしないよな?


??「っつー」


声を押し殺しているので、誰の物かはわからないが、何かに耐えるような声がした。

本当に、何してるんだろう?

覗いたら「みーたーなー」とか襲われそうなので、じっとしてよう。

あ、ついでにドーピングしておくか。朝起きた瞬間に石化とか、シャレにならん。

エウリュアエあたりに、あら朝からカッチカチ。中学生か!みたいに突っ込まれそうだ。

色々と気になるが、眠気には勝てず、そのまま寝落ちした。




朝になった。

並べた椅子から起き上がる。

中学生ではないので、朝からカッチカチじゃなかった。


部屋には俺しかいない。

夜中に何か作業してたみたいだったから、みんなまだ寝てるのかな?

そうだ、朝食を準備してあげよう。

といっても俺が作るわけじゃない。

屋台で適当なものを買っておけばいいか。


そんなことを考えながら部屋をウロウロしていると、テーブルの上にあるものがあるのに気付いた。

3つの瓶と、巻物のようなものと手紙があった。


『意気地なしの腰抜け野郎へ』


そう書いてあったので、間違いなく俺宛の手紙だろう。


『【ステンノの血】【エウリュアレの涙】【メドゥーサの蛇髪】を与える。』


やった!この瓶がそうなのかな?

これはありがたい。さっそく【アイテムボックス】に放り込む。

あれ?この巻物はなんだ?


『巻物は、お前のような人間が現れたら渡すようにと、ある人物から託されたものだ。』


よくわからないけど、見てみようかな?

なになに?だめだ、読めない。

どこかで見たような幾何学模様が描かれているだけだ。


 《Information》

  新たに【テレパシーの指環】のレシピを覚えました。

  合成装置に手を乗せると、レシピリストが表示されます。


あ、これはあれか?自宅の地下にある本と同じやつだ。

よくわからないけど、新しいレシピを覚えたみたいだ。ラッキー!


『その巻物は必ず利用するように。そうしないと許さないんだから。』


なんか文面がちょっと感情的になったぞ?


『これでお前の用事は済んだはずだ。とっとと出て行け。』


泊まれと命令したり、出てけと命令したり、情緒不安定か?

でも挨拶もなしに出ていくのもなぁ。


「あのー、短い間ですが、お世話になりました。楽しかったですよ。素材ありがとうございます。では失礼します。」


誰もいない部屋に声を掛ける。

返事はないが、ゴトンと小さな音がしたような気がした。

あれ、起こしちゃったかな?メンゴメンゴ。


では、家に戻りますかね。




***** メドゥーサ視点 *****


あいつは出て行ってしまった。


追いかけることもできずに

引き止めることさえももできずに

閉じたドアーの前で、こらえた涙に震えてた。


あいつが石化したときはショックだった。

今まで平気だったのに、外から帰ってきたら、石化するようになってしまった。

意味がわからない。パニックだ。


あいつが石化した時、姉たちが何かしゃべっていた。

神々なら石化の解除方法を知ってる?


私は居ても立ってもいられず、外に飛び出して神と交信した。

神は私に石化という迷惑な能力を与えた存在だ。

二度と話なんてしたくないと思ったが、今は背に腹は代えられない。

癪に障るけど、石化の解除方法を聞いてみた。


すると、石化の状態を見ないとわからないと言い出す。

使いを出すと言っていたが、来たのはガキ二人だった。

しかも、あの男と知り合いらしい。

嫉妬?わからない。でも悔しいという感情が溢れ出した。


エ「それで、どうやったら石化は直るの?」

E「それなんだけど、石化を直す泉があって、そこに長時間漬け込めば直るかもしれない。」

メ「どこにあるの?今すぐ行くわ!早く教えて!」

E「そんなにがっつかないで。怖いから。問題は漬け込む時間なの。」

ス「どれ位かしら?」

E「ざっと200年。」


バカじゃないの?

人間が200年も生きられるわけがないのに。


私は自分の感情も力もコントロールできず、クソガキに掴みかかってしまった。

あいつは砕け散り、そして蘇った。


そこから頭の中が真っ白になった。

少しの間の記憶がない。

姉の話では、私がクソガキに殴りかかっていたようだ。


しばらく言葉も出なかった。

もちろんあいつが戻ったことは嬉しかった。

でも、石化させてしまった罪悪感であったり、感情的になってしまったことへの反省など、いろんな感情が渦巻いていて、自分の中で整理がつかなっかった。


やっと言葉が出たのは


「これ、厳密にはビーフシチューじゃないけど、これで良かったですか?」


こんな優しい言葉に「うん。」と返すのが精いっぱいだった。


「そういえば、デザートなかったですね。買ってくるのでちょっと待っててくださいね。」


ダメ。

またあいつが出て行ってしまう。

帰ってきたら石化しちゃうのが怖いの。

そう思うと、体が勝手に動いていた。

あいつがどこにも行かないように、しがみついてしまった。


姉たちに引きはがされ、やっと冷静になれた。

自分のした行為に赤面した。


テレパシーが飛んでくる。


エ『ねえ、酒に酔わせて既成事実作っちゃおうよ。』

ス『あらやだ、肉食系女子ね。』


私たちは、体質的に酒に酔わないのだ。

飲み比べをすれば、確実につぶせる。

でもそれって、相手の感情を無視してない?そんなの、やだ。


エ『あいつ、お人好しだから、既成事実作ったら責任取ってくれそうだよ。』


なんてゲスい姉なんだ。

でも、その作戦に便乗してしまおうとする私も、ゲスい女だな。


エ「足んないね。追加だ追加。」

メ「秘蔵の酒、出しちゃおうか?」

ス「そうね。メドゥーサちゃんの記念日だもんね。」


一体、何を記念する日にするつもりなんだ?

想像はできるが、それだけで顔が熱くなる。


かなりキツめの酒を用意した。

とても貴重な酒だが、飲んでも酔わない私たちにしたら、持っていても仕方がない。

こんな時にしか使わないのだから、全部飲んでしまえ。

しかし、ステンノ姉が余計なことを言う。勘弁して欲しいものだ。


エ『ねえ、あいつ酒強いよ?酔わせて既成事実作っちゃう作戦は失敗じゃない?』

メ『エウリュアレ姉の発案でしょ?私はそんなつもりなかったんだからね!』

ス『この酒を飲んでも平気だなんて、素敵ですわ。』

エ『仕方ない、Bプラン(私酔っちゃった作戦)に移行するわよ。』


テレパシーで作戦変更だ。

酔ったふりをしていい感じに流れを作る予定だったが、すぐに芝居とバレた。


「妙な芝居はもう大丈夫ですよ。俺、女性が酒が強くても、なんとも思いませんから。」


ごめんね、お芝居へたくそで。

お酒が強いと、なんとも思わないの?

じゃあ、どうだったら、あなたは想ってくれるの?

感情のまま、言葉が出てしまった。


メ「なんとも思わない?」

「はい、なんとも。」

メ「じゃあ、どうしたら、想ってくれるようになるの?」

「へ?」


感情のまま言葉にしたので、全く伝わっていないようだ。

でも、素直に自分の気持ちを伝えるのは憚れる。


「責任は感じてますが、どうしたら許してくれますか?」


エ『作戦通りにはいかなかったけど、チャンスありそうだよ?』

ス『メドゥーサちゃんがどうしたいか。それをお願いしてみたら?』


私は、どうして欲しいんだろう。

まだ自分の気持ちがわからない。

いや、わかっているのに、わからない振りをしているだけなのかも。


メ「こここ今晩、ここに泊まってください!」


私の出した答えは、あいつの要望に応えることだった。

寝ている間に準備することはできる。

私、無理してるな。

ちょっと心が痛む。




あいつはリビングで寝ている。

こっちの気持ちも知らないで、いい気なもんだわ。


ス「ねえ、メドゥーサちゃん。本当にこのままでいいの?」

エ「今からリビングに行って、襲っちゃえば?」


二人の姉が、お節介な言葉を口にする。

私が泊って欲しいと言ったのは、既成事実を作るためじゃない。

あいつの望みを叶えてやることだった。


メ「ステンノ姉、エウリュアレ姉、お願いがあるの。」

ス「わかってるわ。協力するわよ。」

エ「あいつからのお願いなら断るけど、かわいい妹の願いだからね。」

メ「お姉ちゃん...」


二人の姉は、私が言うまでもなく、私のお願いを察していた。

あいつが望む3つの素材。それを提供することだった。

すなわち【ステンノの血】【エウリュアレの涙】【メドゥーサの蛇髪】のことだ。


これを提供するには、苦痛と覚悟が伴う。

そのため、本当に信頼できる人にしか渡していなかった。


これを渡せば、あいつは喜んでくれるだろう。

でも、それはあいつが出て行ってしまうことを意味していた。


私は自分の境遇を理解しているつもりだ。

人並みの幸せなんて、夢のまた夢だってことを。


さあ、気分を変えましょう。

あいつの喜ぶ姿を想像しながら、素材の採取にとりかかりましょうか。

なぜか私は、笑いながら泣いていた。

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