21.これから雨になるみたいだわ
さて、屋台村に到着だ。
ピザの屋台あったよな。えーとここだ。
なんてことだ、今日に限って行列ができてやがる。
仕方なく並ぶが
「お客さんすみません、こちらの人で終了なんですよ」
なぬー!売り切れだと?sold-outですか!
そうえば、王都にイタリア料理店みたいなのがあったな。
そこに行ってみるべし!とぅ!
そこは、白亜の城を思わせるような豪華な店舗だった。
パルテノン神殿のような白い円柱が等間隔で並び、入り口にはスーツを着た店員が二人並んでいた。
いかにもドレスコードがありそうな店だ。
自分の姿を見直す。
【布の服】【布のズボン】【布の靴】
入店拒否されそうな予感を持ちつつ、門番のように待ち構える店員に声を掛ける。
「すみません、この店にピザって売ってますか?」
「もちろんございます。最高級のピッツァをお楽しみいただけます。季節によって素材を厳選し・・・」
「あのー、それ、持ち帰りできますか?」
「申し訳ございません、当店はお持ち帰りはご遠慮いただいております。」
「そんなー」
「焼き立てでお召し上がりいただくのが当店のこだわりでございます。」
「あ、俺、冷えたピザも好きなので気にしません。」
「最高の状態のピッツァをお楽しみいただきたく、ご理解をお願いいたします。」
けっ、何がピッツァだ!お高くとまりやがって。ピザでいいじゃないか。
こだわりが強すぎる店に来ちまったようだ。
もっと庶民的な店ってないのかな?
ここに来て、俺の行動範囲の狭さに後悔する。
食事はだいたい家で食べてたし、たまに外で食べるとしても、屋台かギルドの食堂。
一度だけ【猫の隠れ里】って店に行ったが、ピザを売るような店ではなかった。
あとはケーキ屋ぐらいしか行ってない。
そういえば、あのケーキ屋はドリーから指定された店だったな。
あいつらなら意外と知ってるかも。
やばい、時間が結構経っている。
素早く自宅に飛びましょう。ひゅぃ!
1階のホールに入ると、ちょうどお昼ご飯の準備中だったようだ。
今日の食事担当はアリス。他の3人はいないな。
「ねー、アリスたーん。」
A「ちょっと気持ち悪い呼び方しないで?今、忙しいんだから。」
「お手伝いしますよ?料理はできませんが、力仕事なら任せてください!」
A[じゃあ、この生地こねてくれる?私はソース作るから。」
「この小麦粉か何かを混ぜた塊をこねこねすればいいんですね?」
A「均等に混ざったら、4等分に分けてくれる?」
「お安い御用で!」
ここで恩を売っておけば、教えてくれやすくなるだろう。
言われた通りに、こねて4等分ぐらいに分けておいた。
この先は調理フェーズに入るので、俺の手伝うのは不可能だ。
アリスは生地を円形に伸ばし、そこにトマトベースと思われる赤いソースを塗る。
その上に、野菜やチーズを載せて窯に投入。
あとは待つだけで完成するそうだ。
どんな料理になるか、楽しみだな。
・・・ってこれピザじゃん!
「アリスたーん。このピザ1枚もらってもいいですか?」
A「だからその呼び方やめて。1枚じゃなくて2枚あげるわよ。」
「うぉぉぉぉ、神だ!女神がここにいる!」
A「4枚全部私たちだけで食べると思ったの?」
「はい、1人1枚が基本かと。」
A「どんだけピザなのよ。ジュラシックパークで最初に恐竜に食われるアメリカ人じゃあるまいし。」
「それはアリスのイメージでしょ?」
A「ほら、早くしないとピッツァが冷めちゃうわよ。」
「お前もか。」
A「なんの事?」
おっと、ゴルゴーン三姉妹を待たせるわけにはいかない。
30分以上待たせると、次回から使える500円割引クーポンを渡さないといけなくなる。
急ぐんだ。とりゃ!
【ヘスペリデスの園】のゴルゴーン三姉妹の家に飛んだ。
両手には焼き立てのピザが乗せられている。結構熱いんですけど。
「ピザをお持ちしました。」
メ「やったー!」
エ「ピザは久し振りね。」
ス「3人でこの量は多いから、一緒に食べない?」
「いいんすか?マジすか、ヤバいすね。」
このピザ、美味いな。
やっぱり自分が作ったから美味く感じるのかな?
まあ、生地をこねただけなんだが。
4人でMサイズのピザ2枚を完食です。
俺的にはちょっと足りなかったが、三姉妹は満足したようだ。
エ「うまかった、うまかった、余は満足じゃ。」
ス「久し振りに充実した食事だったわね。」
メ「これは夕飯も期待できるかな?」
え?夕飯もですか?
さっきから掃除と炊事をやらされているが、俺は家政婦か何かと思われてるのか?
まあ、それなりに楽しかったからいいんだけど。
目的を忘れかけていたが、ここには素材アイテムをもらいに来たんだ。
胃袋を掴んだ今がチャンスか?勇気を出して切り出してみようか。
「お食事に満足いただけて光栄です。それでですね、できれば・・・」
ス「あら、これから雨になるみたいだわ。」
「へ?」
ス「ほら、外をご覧なさい。鳥が避難してますもの。」
「はあ。」
エ「やだなー。最近、雨漏りがひどいんだよね。」
メ「エウリュアレが暴れて天井ぶち抜いたからでしょ?」
天井をぶち抜くって、どんな暴れ方したんだよ。
見た目は綺麗な女性でも、中身はやっぱ狂暴なんだな。
あれ?3人が俺を見てるぞ?顔にトマトソースでも付いてるかな?
エ「雨漏りを直してくれると嬉しいなー、なんて。」
ス「こういう時って、男の人がいると頼りになるわね。」
おいおい、あんたら天井をぶち抜くパワーがあるんだろ?
間違いなく俺より頼りがいがあると思いますが?
メ「早くしないと雨降ってくるから、直すのも大変だよ。」
追い打ちですか、そうですか。
わかりますよ、やりゃいいんでしょ?やりゃあ。
【天使の翼】飛行を可能とする
また、こいつのお世話になりそうだ。
俺は外に出て【天使の翼】を使い、屋根に降り立つ。
ス「あら、空が飛べるのね?便利だわ。」
エ「人間やめてる?」
メ「人でなし。」
最後のはちょっと違うだろう?
そんなことより、屋根の修復だ。
屋根はよくわからない素材でできていた。
木でもプラスチックでも金属でもない板が並んでいる。
その板は、1枚が縦2m、横1m、厚さ10cm程度のもので、結構頑丈そうだ。
屋根にはそれが規則的に並んでいるのだが、そのうち1枚がバラバラになっている。
おそらくこれが原因で雨漏りしてるんだろう。
どんな暴れ方をしたんだか。
壊れたタイルを取り除くと、部屋の中が丸見えだ。
どうやって直せばいいんだこれ。
とりあえずバラバラに砕け散ったタイルをかき集めて地面に降りた。
パズルのように組み合わせて、元の長方形にしようとするが、これがなかなか大変だった。
なにせタイルは無地だ。一面真っ白でどう組み合わせればいいのやら。
長方形に戻すことに時間を忘れて熱中してしまい、気が付くと周りが薄暗くなっていた。
やっと最後のピースがはまり、元通りにすることができた。
うん、達成感がすごいぞ。俺頑張った。
あとは接着剤でくっつければOKだね。
そうそう、接着剤だ。接着剤は・・・ないよね。
接着の魔法ないの?
え、魔法?
もしかしたら、あれが使えるかな?
【リストア】破損・劣化した物を新品同様にする
よし、やってみよう。【リストア】の魔法を使用した。
一瞬にして新品のタイルが出来上がったではないか。
すげー、まるで魔法だ。魔法なんですけど。
あれ?これで直るなら、パズルを組み立てる必要なかったんじゃないか?
俺は長時間かけて無駄なことしてたのか?
まあ熱中できたし、いいかな。うん。
板を屋根の上に乗せて修復完了。
屋根からは、きれいな夕焼けが見えていた。
おい!雨降んねぇぞ!
「屋根、直りましたよ~」
そういいながら、家に入る。
騙された気分だが、顔に出してはダメだ。
俺の体がさっきの板のようになりかねない。
エ「おう、ご苦労ご苦労。疲れただろう、風呂に入っていいぞ。一番風呂に入る権利をやろう。」
あらやだ。
意外と優しいじゃないの?
お風呂なんて気が利きますね。
風呂場まで案内してもらう。
脱衣所で全裸になり、風呂の扉を開けると!
ラッキーな展開は待っていなかった。
そこにあったのは、カビだらけの壁、ほこりまみれの風呂桶、ゴミが溜まった浴槽。
くそー、またやられた。【クリン】【クリン】【クリン】【クリン】
俺は全裸のまま、やけくそになりながら【クリン】を連発したのである。
やっときれいになったお風呂。
【ウォーター】と【ファイア】の魔法を使い、お湯を生成する。
うー、気持ちいい。
さっきの苦労があったためか、喜びが倍増だな。
俺は欧米人のように、浴槽の中で全身を洗う。
お湯を抜いて、浴槽を洗い、新しくお湯を足してから風呂を出た。
後に入る人の事も考えなくちゃね。
風呂を出ると、【ドライ】で全身を乾燥させ、【クリン】を施した服を着用する。
うん、すっきりだ。
「あの、お風呂ありがとうございます。次の方どうぞ。」
エ「あんがと。久し振りのお風呂だから、3人で一緒に入っちゃおうか。妹の成長も確認しないとな。」
メ「ちょ、何言ってんの!?」
ス「あらあら、お客様が興奮なさってますわよ?」
いかん、煩悩を捨てるんだ。
頭の中で、ものすごい風景が作られている。
だめだだめだ、こいつらは怪物だぞ!
エ「興奮を鎮めるためには、料理なんて作ってみたら?」
ス「そうね、そろそろ夕食時ね。」
メ「ビーフシチューを作ってくれるだなんて、素敵だわ。」
うう、想像が、妄想がっ。素数を数えるんだ。
え?料理?そうか、いち早くここから脱出しなければ。
ビーフシチューだと?また無理難題を。
また探してきますよ。とにかく現状から脱出するんだ!
俺は【猫の隠れ里】に飛んだ。
ここにあるという確信はなかったが、あの場に長くいることが危険だと感じたのだ。
【猫の隠れ里】は人気っぷりは衰えず、店の外に10名程度の行列ができていた。
店に顔を出すと、いつもの猫耳少女が反応した。
「いらっしゃいませ。今日も一名様ですか?」
『今日も』という言葉に他意はないと思いたい。ちょっとショックだし。
「今日のメニューはなんですか?」
「今日は特製ミートボールですよ!」
あれ?前もミートボールじゃなかったっけ?とにかくビーフシチューはないと理解した。
カウンターを勧められたが、丁重にお断りした。
うーむ、そうなると他を当たるしかないな。
王都はお高くとまった店が多いだろうから、持ち帰りなんてダメだろうな。
やっぱし、あの精霊4人衆に聞くしかないか。
自宅の前に到着。
家からいい匂いがしてくる。
この匂いはデミグラスソースの匂いだ!
俺は玄関を開けて台所にダッシュした。
夕飯の当番はベリーのようだ。
茶色い液体の入った鍋をかき混ぜてる。
「何たる偶然!いや奇跡!神に感謝を!ベリー様、このビーフシチューをいただいてよろしいでしょうか?」
B「これ?ビーフシチューじゃ・・・」
「タッパー!タッパーないの?」
B「わかんないけど、お皿によそってあげるから、ちょっと待ってなって。」
「いや、ここで食べるじゃなくて、ビーフシチューが食べたい人に持っていきたいんだ。」
B「だからね、これはビーフシチューじゃ・・・」
「あ!鍋!蓋がある両手鍋あったよね?あれに3人前ぐらい入れてくれないかな?」
B「まあ多めに作ったからいいけど、これはビーフシ・・・」
「あったあった、この鍋だ。すまないけどこれにお願い!」
B「これでよければいいけど・・・」
俺は熱々の鍋を片手に家から飛び出した。
【ヘスペリデスの園】に到着だ。
家に入るが、誰もいなかった。
浴室から声が聞こえる。
エ「やっぱりステンノ姉には勝てないな。」
メ「大きさじゃない!形が重要!」
エ「それに感度もな。グヘへ。確認してやろうか?」
ス「エロい顔になってるわよ?」
神様。耳栓はありませんか?
ここにいてはだめだ。
とりあえず鍋だけ置いて、ここから脱出だ。
炭水化物が必要だ。
個人的にはご飯が欲しいが、パンでいいだろう。
よし、王都にとぼおうと。
うん、末期症状だ。