20.あらやだ、お上手ね。
俺は、ゴルゴーン三姉妹に会いたい理由を、嘘でごまかそうとした。
「俺なら、俺なら石化しないので、友達になれるんじゃないかと思います。」
「なに?お前は友達が欲しくてあいつらに会いたいのか?」
「自らの体質を悲観して、心も体も殻に籠っている人たちのお役に立ちたいのです。」
「ふん、隠れている理由も知らんかったやつが、怪しいのう。」
(ギクッ)
「まあええわ、試験に合格したら、場所を教えてあげようかの。」
「試験とは?」
「私たちから眼鏡と入れ歯を奪ってみよ。」
結局原作通り取らされるのかよ。
俺の敏捷性は255ある。これは余裕だ。
「では行きますよ?いいですか?」
「いつで・・・フガッ」
「はい、入れ歯は取りました。あとは眼鏡ですね」
「フ?フガガガガ?」
どうやら入れ歯は不意打ちだったから成功したが、眼鏡がなかなか取れない。
老婆とは思えぬ動きで捉えきれない。
しかも3人で華麗にパスするもんだから、誰が持っているかも目が追い付かない。
「フガガ、フッガガフガ」
誇らしげに何か言ってる。
これはアイテム案件かな?使う候補はこれだ。
【半速目薬】相手の動きが通常の半分の速度に見える
【金縛り笛】笛の音色を聞いた対象は、動作不可となる
ここは相手に影響のない【半速目薬】を使うか。
アイテムを<使う>を選択すると、目薬を差す必要もなく、すぐに有効化された。
おお、動きがスローに見える。
しかし、自分の動きもスローになる。
これ、半分の速度に見えるだけであって、自分の動くスピードも半分になるのか。
でも、動きがゆっくりになってわかったぞ。
ただ素早くパスしてるだけじゃなくて、フェイントや緩急をつけて翻弄しているのだ。
絶対的なスピードは俺の方が早い。
抜群のチームワークだったが、禁忌アイテムの前では通用しない。
俺は眼鏡を手渡しするフェイクの動きを読み切り、眼鏡を奪うことに成功した。
あ、いけねえ、アイテムの効果を無効にするか。
【無効水】を使って元に戻した。
「フグ、フガガガッガ」
あ、ごめんなさい。入れ歯と眼鏡はお返しします。
「うむ、見事じゃった」
「これで、教えてもらえますか?」
「あいつらなら、ずっと西におる。この世の西の果て【ヘスペリデスの園】に住んでおる」
ずっと西に行ったら、東になるよ?
だって 地球は まるいんだもん!
そんな歌があったな。相当古い曲だが。
「あいつらの居場所は他言無用じゃ。わかっておるな?」
釘刺されちゃいました。まあ、誰にも言うつもりはないですけどね。
そんなことより、ここで言うところの西の果ては、マップ上の一番左を言うんだろう。
左端には大陸はなく、いくつか島が点在していた。
比較的大きな島があったのでズームしてみると【ヘスペリデスの園】と表示された。
そこにはNPCを表す◇が3つあり、【ステンノ】【エウリュアレ】【メドゥーサ】の3名が確認できた。
俺はグライアイ三姉妹にお礼を言うと、お土産のお返しが貰えた。
「あいつらは人との関りを拒否する傾向がある。この手紙を渡せば大丈夫じゃろ」
《Information》
【グライアイの紹介状】を入手しました。
何やら、重要アイテムを入手したようだ。
これがなかったら、自力でゴルゴーン三姉妹の場所を見つけても入れなかったのかもね。
じゃあさっそく【ヘスペリデスの園】に飛ぼうか。
いや、先ほどの経験で、女性は甘いものを与えれば軟化することを学習した。
一度、王都にでも寄って甘いものを調達するか。
俺は、王都で人気の『なめらかフルフルプリン』を3つ入手した。
念のため今のうちに【無敵の実】を使っておこう。
【瞬移の羽】で【ヘスペリデスの園】に向かう。
転移先は、マップで三姉妹がいる場所の近くを指定した。
【ゴルゴーンの国】は寒かったが、ここは暖かい。
でも暑すぎず、快適な気温といったところだ。
その島は平坦な草原地帯だが、島の中心に木があり、一つだけ黄金の実がなっていた。
これ、食べたらアカンやつだよな。その木には蛇がいてこっちを監視している。
近づかないようにしよう。
目の前には古ぼけた建物がある。
平屋の小さな家だ。
敷地内に入り、入り口と思われる扉の前に立つ。
(ノックした方がいいのかな?)
そう考えていたところ、中から声がした。
???「何用だ?ここは関係のない人間が自由に出入りできる場所ではない。立ち去るがよい。」
門前払いですね。
これを解除するために、さっきのアイテムが必要なんだろうな。
俺は【グライアイの紹介状】を取り出した。
「グライアイ三姉妹からの紹介状をもらってきました。お話ししたいことがあるんですが、いいですか?」
???「何?その紹介状とやらを扉の下から入れよ」
言われた通り、扉の下に差し込むと、シュっと紹介状が引っ張られた。
中から3人の話す声が聞こえる。
お行儀が悪いが、扉に耳を当てて聞いてみた。
???「ステンノ姉、ちょっとそれ見せて。」
ステンノ「うん、私が見る限り本物っぽけど、エウリュアレちゃんはどう思う?」
エウリュアレ「この癖のある字は本物だし、僅かに臭いも残ってるわ。」
メドゥーサ「私にも見せて。相変わらずへたくそな字ね。」
ステンノ「あのグライアイが許可したんだから大丈夫じゃないかしら?」
メドゥーサ「石化しないって書いてるよ?本当かな?」
エウリュアレ「どうする、入れちゃう?」
メドゥーサ「それで石化されたら、ショックでかいよね?」
エウリュアレ「それは向こうの問題でしょ?ウチら悪くないし。」
メドゥーサ「ねえステンノ姉、開けてきてよ。」
ステンノ「久し振りの殿方ですもの、私が権利を奪っちゃうのは悪いわ?」
メドゥーサ「じゃあ間を取ってエウリュアレって事で。」
エウリュアレ「なにそれ、公平にじゃんけんで決めようよ。」
あれ?さっきまでのイメージと違うんだけど。
大丈夫かな?
????「お前、石化しないというのは誠か?」
キャラ作りも大変ね。
まあ、付き合いますか。
「はい、大丈夫なはずですよ。」
すると、重厚な扉がゆっくりと開いた。
俺のイメージでは、髪の毛が蛇だったり、下半身が蛇だったりを想像したんですが
そこにいた3人は、普通の女性だった。
やべ、偽物つかまされたか?
念のため【千里眼鏡】で確認したところ、目の前にいるのが【エウリュアレ】
奥にいる大人の色気が漂うのは【ステンノ】
その隣で不安な顔をしているのが【メドゥーサ】であることがわかった。
エウリュアレ「して、我らに話とは、何ぞや?」
人違いでも昇格試験は合格になるのかな?
一応マップ上には名前が表示されてるけど、名前が同じだけで違う人って可能性もあるのか?
必要素材に【メドゥーサの蛇髪】ってあるけど、蛇じゃないから入手できないんじゃない?
メ「ねえ、反応ないんだけど。」
エ「やっぱ石化しちゃってんじゃねえの?」
ス「緊張されているのよ、きっと。」
やばい、考え事をしていたから、固まってた。
復帰しよう。
「あ、すみません、みなさんがあまりにも美しいので、固まってしまいました。」
エ「え?まじ?あ・・・うむ、本当に石化はしないようだな。」
「もう遅いですよ。疲れるのでやめましょう。」
まあ、甘いものでも食べて落ち着きましょうや。
俺は王都で買った『なめらかフルフルプリン』を手渡した。
「これ、王都で人気のプリンなんです。お口に合えば幸いです。」
俺はプリンを3人に配ったが、袋の中にスプーンが入ってなかった。
あの店員め、スプーン入れ忘れやがったな。
「すみません、スプーンが・・・」
メ「なにこれ、プリンってこんなになめらかだった?」
エ「んー、お口の中でとろける~」
ス「ちょっと甘すぎるかと思ったけど、下のカラメルと一緒に食べると絶妙ね。」
3人とも、瓶に指を突っ込んで食べてました。
なんてワイルドな。
こういうところが、普通の女性とはちょっと違うところなのかな?
エ「ありがとう、おいしかったわ。」
メ「あと2,3個は食べられそうね。」
ス「これを届けるためにきたわけじゃないでしょ?何しに来たのかしら?」
やばい、理由を考えてなかった。
ランクアップに必要な素材をもらいに来ました!なんて言ったら、ぶっ飛ばされるだろうな。
どうしよう、どうしよう、あまり回答に時間がかかるとよくないな。
ここは即答で思いついたことを言おう。
「実はですね、この世界の『美女図鑑』を作ろうと思ってまして。」
エ「嘘ね。」
「え?もうバレた?」
ス「私たちは醜いという噂が流れているはずよ。」
「うっ」
メ「美女図鑑を作る目的でここに来るはずがないわね。」
「そうでした。でも、みなさんお綺麗ですよ。」
ス「あらやだ、お上手ね。」
ちょろいな。
でも、もう嘘はつけないだろうな。本当のことを言うか。
「いや、本当の事をいいますと・・・」
ス「【ステンノの血】【エウリュアレの涙】【メドゥーサの蛇髪】これが欲しいんでしょ?」
「ご存じでしたか。」
エ「もうこれで何回目かしらね?最近はなかったけど。」
メ「何かの試験に必要なんでしょ?こっちとしてはいい迷惑よ。」
ス「でも、これのおかげでギルドから定期的に報酬をもらってるんだから、文句は言えないわ。」
何だこいつら。ギルドとグルだったのか。
面倒なことになりそうだ。
「これまでに、この3つの素材を受け取れた人っているんでしょうか?」
スエメ「いるわよ」
スエメ「ハモったwww」
何が楽しいんだお前ら。
「えっと、それは何人ぐらいいます?」
ス「一人だけね。」
「それは厳しそうですね。」
エ「こっちとしてはさっさと渡してお引き取り願いたいんだけど、ギルドが難易度上げろっていうから。」
メ「そ、私たちが意地悪してるわけじゃないのよ?」
エ「まあ、大多数は玄関を開けた瞬間に石化して終了なんだけどね。」
ス「そういえばさ、5年ぐらい前に来た人は、面白かったわね」
メ「え?どんな奴だったっけ?」
エ「あれあれ、サングラス野郎でしょ?」
メ「はいはい、思い出した思い出した。」
3人は思い出話に花を咲かせ、俺を放置してマシンガントーク中だ。
いつ終わる?これ、待たなきゃだめ?これも達成条件なのか?
邪魔するのも悪いので、黙ったまま観察していた。
しかし、この家汚ねぇな。
汚れてるのもあるが、荷物がまったく整理されていない。
棚の中とか、分類されずに物が突っ込まれている。
だらしない3人だな。
その俺の視線に気づいたステンノがこういった。
ス「気になるかしら?でしたら片付けていいのよ?」
エ「でも、勝手に捨てないでね。」
メ「そのタンスの左上の引き出しは絶対開けちゃだめよ。」
エ「あんたそこに何入れてんのよ?へそくり?」
メ「違う違う、下着だって。」
ス「見せてあげればいいじゃない?減るもんじゃないんだし。」
メ「減るのよ。見たらきっと欲しくなっちゃうんだから。」
エ「誰があんたの汚い下着なんか欲しがるのよ。」
まだトーキングライブは続くようだ。
特に面白くもないので部屋を片付けますか。
よし、まずは床に落ちてるものや、テーブル・棚の上などに山積みになっているものを一ヶ所に集める。
棚の中身も一旦全部出す。
誰のものであるとか、使用頻度を確認し、分類わけを行う。
よく使うものは取り出しやすい位置に。あまり使わないものは上の方に収納する。
誰の物かわからないものや、全く使う予定のないものは断捨離候補として一箱にまとめた。
仕上げに【クリン】の魔法でぴっかぴか。
うん、我ながらよくできた。満足だ。
エ「あれ?きれいになってる。」
ス「それはありがたいけど、私の孫の手はどこにあるのかしら?」
メ「この状態を1週間キープできるかしらね?」
反応は三者三様だが、怒ってはいないようだ。
それと、さっきから気になっていた場所がある。
キッチンだ。
流しの中に、食器や鍋が山積みになっている。
この状態で平気でいられる精神状態が信じられないな。
「キッチンも荒れているようですが。」
メ「あれね。一種の我慢比べかしら。」
エ「耐えられなくなった人が洗い物をする。」
ス「我が家伝統の耐久レースね。」
「片付けていいですか?」
スエメ「はーい。」
流しの中は酷い惨状だった。
何日も放置されていたようで、調理器具や食器に汚れがこびり付いている。
【クリン】という便利魔法があるのがいけない。
まあ使うんですけどね。
【クリン】で汚れを落とし、水滴が残っているので【ドライ】で乾燥。
これだけで終わるのに、なぜやらないかね。
食器は食器棚へ、調理器具はシステムキッチンの下のスペースに格納。
よし、きれいになった。
俺が自己満足しながらキッチンを眺めていると
エ「綺麗になったから、これで使えるね?じゃあお昼ご飯作って?」
ス「食材は、その辺にあるものを、ご自由にお使いなさってください。」
メ「ピザがいいな。」
いや、それはできない。
【クッキング】って魔法はないのか?至急要求する!
だいたい、自宅でピザを作るのか?
あれはデリバリーするものだろう!
あ!デリバリーか。
どこかで買ってきて、俺がここまでデリバリーすれば解決だ。
飛ぶんだ!どこに?【クリマ】のギルドの近くにある屋台村ならありそうだな。
よっしゃ、いっちょUber EATSしますかね!