2.さて、設定をいじりましょうかね
再度、端末にギルドカードを入れる。
ステータス設定画面になるが、割り振れるポイント欄は0となっている。
ここで、Ctrl+Cを押す。
先ほどと同じように、#のプロンプトが表示された。
念のため、先ほどと同じ確認をしてみる。
# ls
status_menu.sh
status.ini
では、さっき気になったstatus.iniというファイルを見てみましょうかね。
# less status.ini
別にcatでもいいんですが、lessを使うのは単なる癖です。
表示されたのは
left:00
attack:05
defense:04
agility:05
dexterity:09
intelligence:07
leftは余っているポイント。それ以外は、そのままってところでしょう。
素晴らしい。これはいじりたくなる。
二桁で表示されているから、最高は99なのかな?
さっそく変更したいが、まずはバックアップを取っておこう。
# cp status.ini org_status.ini
status.iniと同じファイルを、org_status.iniというファイル名で複製した。
何かあった場合はこれを使って戻せる、と。
さて、設定をいじりましょうかね。
# vi status.ini
viは、ファイルの中身を編集するモードに入るコマンドだ。
Windowsで言えば、テキストファイルをメモ帳で開いたようなものだ。
最初は様子見で、leftだけを変えてみよう。
そうだな、軽く10にしてみるか。
left:10
attack:05
defense:04
agility:05
dexterity:09
intelligence:07
:wq!で保存!
再びstatus_menu.shを起動して<ポイント付与>画面を表示する。
《ポイント付与》
割り振れるポイント:16
攻撃力:5+_
防御力:4+_
敏捷性:5+_
器用値:9+_
知力:7+_
<実行> <キャンセル>
実験成功!やはりleftは割り振れるポイントだったか。
ちゃんと増えてますね。
あれ?
割り振れるポイントは10にしたのに16になってるぞ?
そのからくりはすぐに想像できたが、裏を取っておこう。
切り分けも兼ねて、16ポイントを攻撃力に10、防御力に6ポイントに割り振る。
《ポイント付与》
割り振れるポイント:0
攻撃力:5+10
防御力:4+6
敏捷性:5+_
器用値:9+_
知力:7+_
<実行> <キャンセル>
これで実行すると、こうなるわけだ。
《ポイント付与》
割り振れるポイント:0
攻撃力:15+_
防御力:10+_
敏捷性:5+_
器用値:9+_
知力:7+_
<実行> <キャンセル>
さっき、2だけ増やしたときは感じなかったが、不思議な感覚に襲われた。
力がみなぎってる感じだ。
これがステータスが上昇した感覚なのか?
さて、再びCtrl+Cしてからstatusファイルを見てみよう。
攻撃力が0F、防御力が0Aと表示されれば俺の想定通りになる。
# cat status.ini
ファイルの行数が少ないのでcatにした。
catだろうがlessだろうが、ファイルの中身を見るコマンドであることに変わりはない。
その結果は
left:00
attack:0f
defense:0a
agility:05
dexterity:09
intelligence:07
大文字と小文字の違いはあるが、想定通りだ。
16進数と10進数の違いってやつですよ。
我々が日常生活で使っているのは、主に10進数。
0から1ずつ増え、9を超えたところで、つまり10個増えたタイミングで桁があがり10になる。
16進数は、0から1つずつ増え、16個増えたタイミングで桁が上がり10になる。
でも、数字は0~9の10種類しかないので、11個目以降はアルファベットで表現する。
つまり
0,1,2,3,4,5,6,7,8,9の後がA,B,C,D,E,Fになり、次は10になるわけだ。
だから、16進数のFは、10進数の15になり、16進数のAは、10進数の10ということになる。
さてこのファイルだが、0fとか0aのように、二桁で表示されている。
つまり、二桁まで入力できるということだろう。
それ以上の桁数を入力すると、何が起こるかわからないので、やめておこう。
10進数の場合、二桁の最大数は99になるが、16進数の場合は・・・。
いっちょやったるか!
left:ff
attack:ff
defense:ff
agility:ff
dexterity:ff
intelligence:ff
:wq!で保存だ!
保存した直後、急にめまいを起こした。
頭がガンガンする。立っていらず、その場に座り込んでしまった。
急激な体温の上昇が感じられ、体中から汗が染みだす。
30秒程度その状態が続いただろうか、今度は急激に体温が下がるような感覚に見舞われた。
しばらくじっとしていると、なんとか立ち上がれる状態まで復活した。
まだ、自分の体が制御できていない。
震える指先でstatus_menu.shを起動し、ギルドカードを端末に入れる。
<ポイント付与>画面を見ると、予想通りの表示結果となった。
《ポイント付与》
割り振れるポイント:255
攻撃力:255
防御力:255
敏捷性:255
器用値:255
知力:255
<戻る>
16進数のFFは、10進数なら255になる。
さっきまでは増加分を入力するスペースがあったが、なくなっていた。
実行やキャンセルボタンもない。
これ以上増えないようだ。オーバーフローの動作が働いているんだろう。
つまり、カンストってこと?
ぎこちない足取りでギルドから出ようとすると、ロボットに回り込まれた。
こいつ、動くぞ!
『ポイントの割り振りは完了しましたか?いつでも割り振れますのでゆっくり考えてください。』
もう割り振れないっすよ。
『ギルドカード発行手数料として1,000ガルいただきます。』
あー、金かかるのね。
【アイテムボックス】には10,000ガルあることは確認できるが、どうやって払うんだ?
『このギルドカードは電子マネー機能も備えていますので、一度お金をギルドカードにチャージしてください。』
ほー、そういう仕組みなんだ。
金貨とか銀貨など、存在しない世界ってことですね。
もう何度目になるかわからないが、端末にギルドカードを入れた。
メニュー画面の中に<マネーチャージ>の画面がある。TAB&Enterで選択。この操作も慣れたものだ。
《マネーチャージ》
チャージ可能な額:10,000ガル
残高:0ガル+_ガル
<実行> <キャンセル>
これはもしや?
淡い期待を抱きながら、全額チャージした。
《マネーチャージ》
チャージ可能な額:0ガル
残高:0ガル+10,000ガル
<実行> <キャンセル>
チャージを実行すると、画面は以下のように遷移した。
《マネーチャージ》
チャージ可能な額:0ガル
残高:10,000ガル+_ガル
<実行> <キャンセル>
はやる気持ちを抑えて、精算を済ませます。
『こちらのカードリーダーにカードをタッチしてください。』
リアル世界の電子マネーと同じだな。
ピピッという音とともに、決済が終了したようだ。
生産職が直接売っても金に換えられないっていうのは、この装置がギルドにしかないからか。
レジのような画面には、1,000ガル支払われたことと、チャージ残高の9,000ガルが表示された。
まずい、残高が見られちゃうのか、自重が必要だな。
『生産職の詳細については、生産職ギルドでご確認ください。』
俺はその場を辞すると、まっすぐに生産職ギルド・・・ではなく、あの端末に向かった。
カードを入れて、<マネーチャージ>メニューに飛ぶ。
Ctrl+Cで止まるか?止まった。
# ls
charge_menu.sh
charge.ini
つくりは同じようだ。
charge.iniの中身を覗いてみると
# cat charge.ini
left:00000000
charge:00002328
計算していないが、10進数の9000は16進数の2328なんだろう。
もう確信しています。
ここは8桁あるのでFFFFFFFFが最大値になるのか。
それって10進数にすると、いくつになるんだ?
FFFFが65535になることは覚えているが、そこから上は必要がなかったので覚えてない。
計算すればわかるが、おそらく億は超えるだろう。
ここで最大値を設定することもできるのであろうが、さっきレジのような装置に残高が表示されていた。
億を超える残高を万が一誰かに見られたら、絶対に不正が疑われる。
まあ、不正してるんですけどね。
ここは現実的な値にとどめておこう。
現実世界とあまり変わらない金銭価値かと思われる。
なので、財布の中に5~6万ぐらい入っていても、疑われないだろう。
じゃあ、課金しましょうか。
# vi charge.ini
left:00000000
charge:00010000
これで65,536になるはずだ。2の16乗だ。これぐらい持っていても大丈夫であろう。
まてよ、チャージ可能額については、誰にも見られないのでは?
いちいちファイルをいじるのは面倒だ。チャージ可能額を増やしてしまえ。
left:ffffffff
charge:00010000
ははははは!
よし、保存だ!:wq!
端末で見直してみると
《マネーチャージ》
チャージ可能な額:4,294,967,295ガル
残高:65,536ガル+_ガル
<実行> <キャンセル>
残高は予想通りだが、チャージ可能額が、とんでもないことに。
いち、じゅう、ひゃく、せん・・・42億??
見間違いじゃないよな。どうしてこうなった?
そうか、俺か。俺がやったのか。
ゲーム開始から1時間足らずで、カンストしたステータスと、使いきれないほどの大金を手に入れてしまった。
データを書き換えた背徳感と達成感を抱きながら、次の行動を考える。
ここは受付ロボが言うように、生産職ギルドに行くのがいいだろう。
でも、何のために生産するんだ?
金のため?
使いきれないぐらい持ってます。
レベルアップのため?
ステータス値カンストしてます。
世のため人のため?
これだ!
誰もが欲しがる武器や防具、ピンチを救うアイテム、便利な魔道具。
そんなものを提供して、人々から感謝されるようなプレイヤーになろう。