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19.丸投げかい!

『こちらは、ギルド総合案内窓口になります。ご用件をお話しください。』


入り口にいるロボットに話しかける。


「今日配信されたイベントの納品場所ってどこになります?」

『右手にある冒険者ギルドになります。』


ロボットの胸のタブレットには、ギルド内の地図が表示され、赤く点滅している場所があった。

親切ですね。


「すみません、納品なんですけど、いいですか?」

「納品は、こちらの端末で行ってください。」

「あ、いや、依頼を受けたんじゃなくて、イベントの納品なんですけど。」

「失礼しました、話は伺っています。ではこちらでお預かりいたします。ギルドカードをご提示ください。」


俺がギルドカードを出すと

「冒険者ギルドに登録のないお客様ですので、お預かりできません。」


なぬ?

俺は誰に対して文句を言えばいい?


たぶん、これ以上粘っても無駄だろう。

生産職ギルドで預かってもらえないかな?


「すみません、納品なんですけど、いいですか?」

「納品は、こちらの端末で行ってください。」


ここまではテンプレか。


「あ、いや、依頼を受けたんじゃなくて、イベントの納品なんですけど。」

「イベントですか?それでしたら冒険者ギルドになります。」


きたこれ。

たらいまわしだ。

また報復か?運営に報復が必要か?

今回は、どうやって妨害してやろう。ふっふっふ。


「どうしたの?なんかすごく悪い顔してるわよ?」


そうか?そんな悪い顔をしてたか?ってあなた誰?

あ、えっと、名前忘れたけどオーガに襲われていた人だ。


「おお、前に馬車で見かけて以来だな。順調かい?」

「まあそれなりに。それよりイベント見た?」

「見たけど・・・」

「参加するの?」

「あれって冒険者ギルドに納品でしょ?俺生産職だから納品できないからねぇ。」

「え?登録してないの?」

「何を?」


ヘリーネ(っていう名前だった)によると、他の職業でも違うギルドに登録できるようだ。

例えば、生産職がある素材が欲しい時に、冒険者ギルドに依頼を出すことになる。

その依頼を出すためには、登録が必要で、ほとんどの生産職は冒険者ギルドに登録しているとか。


「逆に、いままで登録してなかったのが不思議なんだけど。」

「いや~、素材は自分で確保してたんでね。」

「あんまり依頼を受けてないでしょ?」

「え?」

「だって、まだギルドカードが白いわよ。Fランクでしょ。」


そういえば、ランクでギルドカードの色が変わるんだった。

白いカードをぶら下げてるっていうのは、初心者マークを付けているようなものか。


「ヘリーネは水色だけど、それってランク何?」

「水色はDランクよ。さっき昇格したばかりだけどね。」

「へー、みんなランク上がってるんだね。」

「あなたが遅いだけじゃない?」


ギルド内を見回すと、白いギルドカードは少数派だった。

水色が一番多い。次に黄色。これがEランクかな?それ以外の色は見かけない。


「Fランクだと、何か問題あるの?」

「Fランクは、Fランクの依頼しか受けられないのよ。」

「でもほら、俺は生産職だから。」

「ランクは各職業で共通よ?Fランクなら、Fランクの各ギルドの依頼が受けられるの。」


まったく、そんなことも知らないの?と言わんばかりの顔で見られた。

なんだその制度は。

例えば生産職でAランクになったら、冒険者のAランクの依頼が受けられるって事か?

なんかそれ危険じゃない?

そんなことより、冒険者ギルドへの登録が先だ。


「悪いんだけどさ、冒険者ギルドへの登録方法おしえてくれない?」

「彼が詳しいわよ。」


彼女が指さしたのは、タブレットを胸に付けた白いロボットだった。


丸投げかい!


『こちらは、ギルド総合案内窓口になります。ご用件をお話しください。』

「冒険者ギルドに登録したいんだけど。」

『右手にある冒険者ギルドの受付窓口にお進みください』


丸投げかい!


冒険者ギルドの受付に向かうと、5人程度の行列ができていた。

もしかして、イベント絡みかな?もう納品している人がいたりして。

スタートダッシュにしくじったことを悔やむしかない。


やっと自分の番になった。

「すみません、あの・・・。」

「イベントでしたら、受注は不要です。素材が手に入りましたらお持ちください。」

「あ、いや、冒険者ギルドに登録にきたんですが。」

「失礼しました。ギルドカードをお預かりいたします。」


さっきの行列は、イベントのために受注しようとした列だったのか?

俺の後ろにも行列ができていた。

男女二人のペアだった。爆発しろ。


『なあ、今回のイベントって無理ゲーじゃね?』

『聞いたことがないアイテムだし、相当攻略進めないと手に入らないんじゃないかな?』

『期間が1ヶ月というのが、長いのか短いのか。』

『攻略を急げって運営が言ってるのかもね。』

『イベントクリアしたやつがいたら、一気に有名人だな。』

『課金しないと無理よ。』

『それが運営の狙いだろうな。』


うむ。今回のイベントは課金に導くための難易度高めの内容らしい。

すでにクリア条件は揃ってるんだが・・・。

ここは自重するのがいいかな?


「冒険者ギルドへの登録が完了しました。ギルドカードをお返しいたします。」


この勢いで納品する予定だったが、予定変更。

変に目立つのは良くない。

難易度を高くしたイベントを初日にクリアされたら、運営から嫌がらせを受けそうだ。


ということで、ゲームの原点に立ち返ろう。

目標はランク上げだ。

と、その前に、今日はまだ朝食を食べてなかったな。

ギルドの食堂で軽く済ませるか。


俺は、ギルドの食堂で朝定食を注文した。

カリカリベーコンとボイルソーセージとスクランブルエッグ。

それにミニサラダとトーストとコーヒーが付く。

ちょっとしたホテルの朝食だが、値段はなんと500ガル。


お手頃ワンコインモーニングを堪能したあと、生産職ギルドへ向かう。


「すみません、ランクを上げたいんですけど、どうしたらいいんですか?」

「昇格審査に合格する必要があります。」

「それって、いつ受けられるんですか?」

「常時受付可能です。」

「では、さっそくお願いしたいんですけど。」

「承知しました。ギルドカードをお預かりいたします。」


俺は首から下げているギルドカードを渡す。

白いそれをみて、一瞬だけ笑った気がした。

笑ったなー!このー!


「ヨシュア様ですね?現在Fランクですが、どのランクの昇格審査をご希望でしょうか?」

「え?飛び級ってできるんですか?」

「はい、冒険者は命の危険があるため1つずつの昇格となりますが、商人と生産職は自分に合ったランクに昇格できます。」

「最高ランクって何になるんですか?」

「Sが最高ですが、昇格審査はAまでとなります。」

「Sになるには?」

「ギルド長からの推薦が必要になります。」


どうしよう?

いきなりAランクにしちゃおうかな?

でも、ゲーム的には一つずつあげるべきだよね。

うーん、悩む。いや、本当は悩んでない。俺の答えはこれだ。


「では、Aランクへの昇格審査を受けます。」


Aランクの昇格審査の内容が通知された。


 《昇格審査》

  生産職Aランクへの昇格審査内容

  ・達成条件:昇格試験専用アイテムの納品

  ・期限:審査開始より1週間以内

  ・必要素材:【ステンノの血】【エウリュアレの涙】【メドゥーサの蛇髪】

  ・生産物:【ゴルゴーン酒】(合成成功率=器用値×0.4%)


さすがAランクだけあって、難しそうな内容だ。

1週間という限られた期間で、如何にも採取が難しそうな素材を3つも集める必要がある。

集めたところで、合成成功率は器用値の0.4倍だ。

例えば器用値が10の人なら4%の確率となり、かなり厳しいだろう。

ところが俺の器用値は255だ。255×0.4=102%

うん、絶対成功するね。


ところで、ステンノ、エウリュアレ、メドゥーサってギリシャ神話に出てくるゴルゴーン三姉妹だよね?

素材は一気に手に入りそうな予感。

ところで、この三姉妹って、どこにいるんだ?

聞けば教えてもらえるのかな?


「素材はどこで手に入れるんですか?」

「入手場所や方法については教えられません。それも含めて審査対象となります。」

「あ、素材は冒険者ギルドに依頼するのもアリですか?」

「はい、問題ありません。ただし、相当な報酬を支払う必要があります。」


なるほどね。

まあ、冒険者に依頼するつもりは最初からないけどさ。


どうもギルドは落ち着かないので自宅へ飛ぼう。

ゆっくりと考えるんだ。

え?イベント?とりあえず放置で。




自宅にもどり、1階の応接室のソファーに寝転がる。

必要な素材を手に入れるために、アイテムを駆使しよう。


作戦としては

【千里眼鏡】でゴルゴーン三姉妹を探す

【不可視薬】で自分を透明にして

【瞬移の羽】で三姉妹の場所に飛ぶ

【金縛り笛】で動きを封じて素材を入手する。


うん、シミュレーションは完璧だ。


まずは【千里眼鏡】だ。

マップを開くと、いたるところに点がある。

三姉妹はNPC扱いなら◇になるが、魔物扱いなら▼になる。

マップを拡大すれば◇や▼に名前が出るのだが、広大なマップ上で探すのは困難だ。


だめだ、いきなり詰んでる気がする。


ギリシャ神話ではどうだったんだ?

メニュー画面から外部の検索エンジンに接続して検索する。


ああ、ペルセウスが倒したんだな。

で、ペルセウスはグライアイ三姉妹の目と歯を奪って脅して居場所を聞き出したのか。


あれ?ペルセウスは、メドゥーサを倒すためにサンダルとか袋とか帽子とかも入手してるけどこれも揃えないとダメ?

まあ、まずはやってみるか。


そうなると、グライアイ三姉妹に会いに行く必要があるんだが、どこにいるんだよ。

Wikipediaでは『ゴルゴーンの国の入り口にある岩屋』って書いてあるけど、そんな場所・・・あった。

なんだよ、マップにあるじゃん。【ゴルゴーン国】が。

よし、飛ぼう。

あ、でも教えてもらうんだから、菓子折りの一つでも持って行った方がいいかな?

前にドリーに頼まれたミルクケーキでも持って行ってみるか。




飛んだ先は、山の斜面だった。

木はほとんどなく、ロッククライマーが挑戦しそうな垂直の壁がそそり立っている。

目の前には洞窟の入り口のようなものがあった。

おそらくこれに入るのだと思う。


「ここは【ゴルゴーンの国】だよ。」


親切に教えてくれる人がいる。いや、妖精か?


「グライアイ三姉妹に用事があるんですけど、いますか?」

「あ、おばあちゃんね。こっちこっち。」


無駄に明るい妖精が案内してくれたのは、岩を削って作られた小さなスペースだ。

そこに、3人の白髪の老婆が、ちゃぶ台を囲んで座っていた。

ちゃぶ台の上には眼鏡と入れ歯が1つずつ置かれている。


「おばあちゃん、お客さんだよ!」


一人が入れ歯を口に入れて言った。


「客とは誰だい?よく見えんな。」


そう言って、3人は一つの眼鏡を順番で使いながら俺の顔を確認していた。


「あんた知らん人だな?なんの用じゃ?」

「実はですね、ステンノさんとエウリュアレさんとメドゥーサさんにお会いしたいのですが、あいにく居場所がわからず、お三方ならご存じかと思い立ち寄りました。」

「まあ、知らないことはないねぇ。」


老婆の眼鏡の先は、俺が持っているミルクケーキの紙袋に向かっていた。


「あ、これ、つまらないものですが。」

「ほっほっほ、甘いものには目がなくてね。」


先ほどから入れ歯を入れて喋っていた老婆がまず食べる。

食べ終わると、入れ歯を隣の人に渡し、そのまま口の中に入れた。


いやね、眼鏡が共用なのはまだいいとして、入れ歯はどうなのよ?

仲の良い姉妹だとしても、これはちょっと引くわ。


原作のギリシャ神話では、1つしかない歯と目を姉妹で共用しているってなってるけど、それを具体化すると、こうなるのか?なんか違う気がするが。

で、原作通りに進めるのであれば、眼鏡と入れ歯を奪って居場所を聞き出すんだよな。

でもさ、なんか可哀そうだし、入れ歯を奪いたくないし、素直にお願いする方向で検討しましょう。


「お楽しみの所申し訳ないですが、ステンノさんとエウリュアレさんとメドゥーサさんの居場所を教えていただけますか?」

「あの3人が隠れてる理由を知ってるのかい?」

「極度の人見知りとか?」

「人見知りは否定しないが、それ以外の理由があるんじゃよ」

「そうなんですか。」

「あんた、石化に対する対抗手段は持っているかい?」


そういえば、顔を見たら石になるって逸話があったな。

ペルセウスは直接顔を見ないで、青銅の盾に映った姿を見ながら首を切ったってWikiに書いてあった。

石化の対抗といえば、これかな?


  【無敵の実】物理攻撃/魔法攻撃/状態異常がすべて無効


石化は状態異常の一種だろう。だったらこれで無効になるはずだ。


「はい、石化は大丈夫だと思いますよ。」

「ならいいのだが、あいつらは石化させてしまうことを恐れて、人里離れたところにひっそりと住んでいる」

「なるほど、周りの人に気を遣ってるんですね?」

「だから、興味本位で近づくのはやめて欲しいんじゃよ」


やばい、説得されてしまいそうだ。

心が苦しいな。

ここは素敵な嘘でごまかそうか。



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