13.これは新しいバグ技だな
【デコンブ】を使ったタイミングで、合成物が素材に戻るが、なぜか自分も【合成】した場所に戻ってしまう。
メカニズムは不明だが、このバグを利用すれば、移動手段として使えるのではないだろうか?
実験だ!実験だ!
【合成】する手段を変えてみる。
さっきは【リモコン】で作ったものを【デコンブ】したが、合成装置で作ったものがどうなるかの実験だ。
地下の工房に行き、新たに【低級回復薬】を作る。
《合成装置》
【薬草】と【ロッソベリー】を認識しました。
合成することで【低級回復薬】になります。
合成しますか? <Yes> <No>
出来上がった【低級回復薬】を【アイテムボックス】に入れ、外に出る。
さあ、ここで【デコンブ】したら、どうなりますかね?
《デコンブ》
【低級回復薬】が【薬草】と【ロッソベリー】に戻ります。
デコンブを実行しますか? <Yes> <No>
合成物は素材に戻ったが、自分のいる場所は外のままだ。
つまり、移動するのは【リモコン】で作ったものだけが対象となるわけだ。
今度は【リモコン】を使う場所を変えてみよう。
地下の工房に行く。
なぜ地下に行くかというと、某PRGは地下や洞窟では移動系呪文が使えなかったことがあったからだ。
合成装置が目の前にいるけど、贅沢にここで【リモコン】を使ってやるか。
《リモートコンバイン》
【薬草】+【ロッソベリー】で【低級回復薬】ができます。
合成しますか? <Yes> <No>
あとは<Yes>を選択するだけだが、ふと合成装置を見てみた。
すると、不思議なことに装置の上に【薬草】と【ロッソベリー】があった。
謎の力によって転送されたのだろう。
そして合成装置の画面にはこんな表示があった。
《合成装置》
リモートコンバイン魔法によって操作中。
【薬草】+【ロッソベリー】で【低級回復薬】を作成中です。
転送地点は以下になります。
(地図)
現在、魔法操作者の入力待ちです。
今はたまたま目の前で魔法使ってるけど、本来いらない表示だよね?
親切設計なのかな?
そうか、忘れかけていたが、この合成装置は、基本的にギルドの裏手にある工房にあって、多数の人が共用しているものだ。
だから、【リモコン】使用中であることがわかるように、こうして装置側でも表示させてるのか。
転送先の地図まである。
縮尺が大きすぎてよくわからないな。
もしや?と思い、地図上でCtrlキーを押しながらマウスのホイールを動かしてみた。
おおお!縮尺が変わるぞ!最大限までズームして、やっとわかったことがある。
地図上に黄色いスポットと赤いスポットのアイコンがある。
さっきまでは重なっていてわからなかったが、黄色が合成装置の場所を表し、赤が自分の居場所を表すようだ。
これさ、マウスがあるから縮尺が変えられたけど、マウスがないギルドの工房だと縮尺変更は無理だよね?
あ、そうか、こんな近くで使う魔法じゃないから、気にしなくてもいいのか。
そんなことを考えながらマウスを動かしていたところ、マウスカーソルが変更するポイントがあった。
通常は矢印の形をしているアイコンだが、自分の居場所を示す赤いスポットマークの上にカーソルを乗せたとき
マウスカーソルが手の形になるのだ。
赤いスポットの上でクリックすると、何かを掴むように、開いていた手のアイコンが閉じられた。
そのまま動かすと、スポットも動く。
あれれ?動かせたらダメじゃないの?
赤のスポットを家の玄関前あたり移動させ、クリックボタンを離した。
いわゆるドラッグアンドドロップという操作だ。
特に変化はない。なんだこれ?
疑問は残るが、そのままにしておこう。
当初の目的通り、【リモコン】で合成するか。
<Yes>を選択すると、風景が一気に変わった。
C「ちょっとあんた、びっくりするからやめてちょうだい。」
「うん、俺もびっくりしてる。」
C「一体さっきから何やってるの?」
「ちょっと実験を。もう一回驚かせると思うけど、気にしないで。」
俺はなぜか玄関前にいる。
そう、さっき地図上でドラッグアンドドロップした場所だ。
さっきの操作を思い出そう。
合成装置の前で【リモコン】を発動した。
すると、合成装置に地図が表示され、転送先の場所がアイコンで示されていた。
そのアイコンが、なぜかマウス操作で動かせたので、玄関前に設定し【リモコン】を実行。
なんと、動かした場所に合成物だけでなく俺までもが移動しているではないか。
・・・という状況だ。
これは新しいバグ技だな。
この状態で【デコンブ】をすると、どうなるんだ?
【リモコン】を発動した場所が地下室なので、理論上は地下室に飛ぶことになる。
さて、どうなるでしょうね?
《デコンブ》
【低級回復薬】が【薬草】と【ロッソベリー】に戻ります。
デコンブを実行しますか? <Yes> <No>
うん。
地下室にいます。
えーっと、整理しよう。
2つのバグがあることがわかった。
ひとつは、【リモコン】で作った合成品を【デコンブ】すると、【リモコン】した場所に移動してしまうバグ。
もうひとつは、【リモコン】するときに、合成装置で自分の場所を変えると、そこに飛んでしまうバグ。
これ、めちゃくちゃ使えるぞ。
この遠くに行くときは【リモコン】を使い、戻るときは、その【リモコン】で作ったアイテムを【デコンブ】すればいいのだ。
間違ってアイテムを使わないようにしないとね。
絶対に間違って使わないようにしないとね。
これ、フラグじゃないよね?
移動方法と帰還方法が確立されたので、どこか遠くに行ってみたくなった。
そうだ、王都行こう。
そうだ、あの忌々しいイベントを邪魔するんだ。
じゃあ、【リモコン】で転移先を指定しましょうかね。
えーと、合成装置の目の前で【リモコン】を使うんだったな。
《合成装置》
リモートコンバイン魔法によって操作中。
【薬草】+【ロッソベリー】で【低級回復薬】を作成中です。
転送地点は以下になります。
(地図)
現在、魔法操作者の入力待ちです。
地図から赤いスポットを王都に移動させて、と。
あ、王都のどこに転移しよう。
知らない場所だからなぁ。
いきなり女子更衣室の中とか、女風呂の中に転移したらラッキー、いや大騒動になる。
自重して、王都の手前1kmぐらいにしておくか。
念のため、街道から離れた場所にしよう。
地図からはよくわからないが、この辺でいいか。
えい!
視点が変わる。
ここは森の中のようだ。
幸いにも、周辺に人はいない。誰にも見られてなかったようだ。
周辺に人はいないけど・・・魔物がいるよー。
その姿は狼のようだが、二本足で立っている。
手には粗末な石斧を持っていた。
その数4匹。
突然現れた人間に驚いたようだが、俺を敵と認識したのか、襲い掛かってきた。
やばい、逃げるぞ!
しかしまわりこまれてしまった。
4匹に囲まれている。
戦うしかないか。
1匹が斧を投げてきた。
それが合図だったのか、残りの3匹が一気に距離を詰める。
俺は飛んできた斧を腕て払った。
それだけで粉々になってしまったのだが、気にしないようにしよう。
さあ来い!
あれ?走ってきた3匹は?
斧の破片に当って大きなダメージを受けていました。
斧を投げたやつは、走って逃げて行った。
いや、逃げたのではなく、仲間を呼びに行くのだろう。
長居は禁物だ、ダッシュして森を抜けよう。
やっと森を抜けることができた。
振り返ったが、追っ手は来ないようだ。
街道を見つけ、街道沿いに王都を目指す。
大きな城壁がみえるので、あれが王都なんだろう。
途中で乗合馬車とすれ違った。
王都で人をおろして、戻る途中なのかと想定する。
しばらく歩くと、王都に入る門が見えた。
何人かの人が並んでいる。入国審査みたいなもんかな?
やっと自分の番がまわってきたのでギルドカードを提示する。
「クリマからか?」
「はい。」
「馬や馬車はないのか?」
「はい、歩いていたので。」
「あの距離を歩いてきたのか?途中で魔物に遭わなかったか?」
「魔物いましたけど、逃げてきました」
「お前、運がいいな。武器も持たず、その軽装でよくたどり着いた。自殺行為だから今後は控えるように」
「あい、とぅいまてーん」
最後の一言が効いたのか、説教が30分ほど追加されていしまったのは、いい思い出だ。
さてさて、イベントでしたね。
ギルドで依頼を受けるんでしたね。
俺は受けられないけど、ギルドの様子でも見てきますか。
どこにあるんだ?ギルドは。
探さなくても、プレイヤーらしき人が向かっている場所について行けば着くだろう。
なんとかなるサー
で、ギルドに着いたわけだが、建物の外まで行列ができている。
すごいな、これみんなイベントに参加するのか?
列の最後尾には、エプロンをつけた受付嬢が看板を持って立っていた。
『回復薬ご購入の方の最後尾』
あちゃー
みんな、なんか、すまん。
ギルドに入り、白いロボットに教えられた冒険者ギルドに向かう。
イベントは受けられないことは想像できるが、ダメ元で聞いてみよう。
「すみません、イベントに参加したいんですけど」
「では、ギルドカードをご提示願います。」
俺は、ギルドカードを渡す。
すると、受付の人は表情を曇らせ
「今回のイベントは、ある程度の実力をお持ちの方だけを対象にしておりますので、お客様はちょっと・・・」
「生産職は足を引っ張るからダメってことですか?」
「予想以上に人が集まっており、冒険者でも、ランクの低い方はお断りしている状態でして」
「冒険者でもダメな人がいるんですか?」
「ランクの低い方はお断りしています。申し訳ありません。」
うん、やっぱり断られたか。想定の範囲内です。
でもまあ、せっかく王都まで来たんだ、ちょっとだけ王都ライフを楽しんでみるか。
まずは、そうだな。酒場だな。
来る途中に見かけた、西部劇に出てきそうな酒場があったので入ってみよう。
すでに何人かの客が入っており、昼間から酒を飲んでいた。
ちょっと荒れているようですね。
大声で愚痴を言い合っている。
「せっかく馬車代払って王都まで来たのに、イベント参加できないってなんだよ!」
「Fランクお断りなら、最初からそう言って欲しいもんだな!」
ちょっと割り込んでみるか。
せっかくだから、俺も酒を注文しよう。
出されたのは黒っぽいビールだ。地ビールかな?
「お話し中すみません。みなさんもイベント参加できなかった組みですか?」
「おうよ。だからここでやけ酒中だ。」
「そうですかー。イベント参加者はどこにいるんですかね?」
「魔物の群れは北の方から来るらしいから、みんな北の城壁やら北門やらに集まってるみたいだぞ」
「こっそり混ざったりしたらバレないですかね?」
「大人数いるからバレないとは思うけど、報酬もらえないのに参加する意味はないよ」
なるほど、混ざってもバレないか。
これはいいことを聞いた。
邪魔できそうだな。
で、どんなイベントだったっけ?
メールを見直すと魔物の群れが王都を襲ってくるから、王都で防衛戦をするってやつだった。
魔物の群れが襲ってこなければ、イベントは潰れるな。
よし、やってみよう。
目指せ、北門。
北門から出て北に向かい、魔物が王都に近づく前に殲滅しちゃえばいいのさ。
北門に行くと、軍隊ができあがっていた。
重厚な鎧に大きな盾を持ったNPCの兵士を何人も見かける。
プレイヤーは、戦闘タイプに分けられて整列しており、これから編成するようだった。
そんなところに、軽装で武器なしの俺がいると、やたらと目立つ。
居心地が悪いので、さっさと外に出ようかと北門に向かうと、止められてしまった。
危険だからここから出るなとのこと。
仕方がない、他の門を使うか。
王都には、東西南北に門があり、南門が一番大きくなっている。
俺が入ったのも、南門だ。
北に向かうのに南門から出るのは遠回りなので、西門か東門を使うことになる。
東門は、出たらすぐに森がある。西門は平地だ。
身を隠せる東門か、安全な西門か。
森はさっき襲われたから、ちょっと行きたくないな。
とりあえず西門に行ってみるか。
西門に行くと、驚くことに無人だった。
ギルドカードをセンサーにかざすと、門が開くシステムになっている。
さすがは王都だ、オートメーション化が進んでますね。
一路、北を目指す。
フィールドは基本的に平地だが、1時間程度歩くと、崖があった。
向こう岸まで渡るには、橋を渡る必要がある。
おそらく魔物はこの橋を渡って来るのだろう。
崖下を覗くと、谷底までは20m程度だろうか?
魔物なら落ちても死なないかもしれないが、簡単には上がって来れないだろう。
これはあれだ、魔物が渡り始めたら、橋を壊して魔物を落とすパターンだ。
よし、待ってろよ魔物。いや、待ってろよ運営。