12.なんて素敵なバグなんだ
窓から降り注ぐ朝日で目が覚めた。
ベッドで上半身だけ起こして背伸びする。
今日は何すっかなー。
まず気になるのが地下室だ。
そこを捜索してみるのもいいだろう。
昨日うっかり発見してしまったレベルを上げる方法。
ちょっと遠慮して12レベで止めたが、もっと上げてもいいかな?
こうなったらレベルもカンストしちゃいます?
レベルが上がると、魔法も覚えるみたいだし。
あ、魔法!
そういえば、昨日レベルアップしたとき、新しい魔法を覚えたようなインフォメーションがあったな。
ちょっと確認してみるか。
俺はステータス画面が展開する。
自分の魔法リストを表示させようとしたが、画面右下で小さなアイコンが点滅しているのに気付いた。
これ、メールのマークだな。
誰か俺にメールを送ってきたって事だよね?
心当たりがないんだが・・・。
一応開いてみるか。
《イベント通知》
イベント名『魔物の群れから王都を守れ』
王都【ヨマシティ】に魔物の群れが押し寄せている。
冒険者諸君、直ちに迎撃するのだ。
王立魔物観測所からの情報では、魔物の群れは正午に王都に到着するとの予想だ。
それまでに十分な準備を整えておくのだ。
なお、依頼は王都のギルドで受注すること。
運営からのイベントのお知らせでした。
これ、冒険者向けのイベントだな。
ってことは、俺はイベントには参加できないのか。
納得いかん。これは差別だ。人民の自由はどこに行った!
さ、イベントは放置して、魔法を確認しますよ?
《魔法リスト》
ファイア
ウォーター
ライト
クリン
ドライ
エージング New!
ディジェネ New!
セントリフュー New!
リモコン New!
デコンブ New!
リストア New!
新たに覚えた魔法は5個あった。
その効果を確認してみる。
【エージング】素材を熟成させる
【ディジェネ】素材を腐敗させる
【セントリフュー】素材を遠心分離する
【リモコン】離れた場所から合成が可能となる。
【デコンブ】合成したものを、元の素材に戻す
【リストア】破損・劣化した物を新品同様にする(Lv10到達特典魔法)
やはり生産職だけあって、主に【合成】が便利になる魔法が準備されているようだ。
いまいち【エージング】と【ディジェネ】の使い分けがわからんな。
まあ、そのうち必要になるのだろう。
気になるのが【リモコン】だ。
わざわざ装置の前に行かなくても【合成】できるようだ。
これはさっそく試してみたいが、その前に朝食だな。
ついでに庭で【低級回復薬】の素材でも貰ってきますかね。
1階に降りると、何かがふわふわ浮いてる気がしたが気にせず外に出る。
【ロッソベリー】はたくさん実をつけていた。
もっと増えるといいですね。
早く新しい魔法を使いたいので、朝食は簡単に屋台で済ませよう。
屋台のある広場に行き、適当に選ぶ。
今日は焼きそばのような何かだ。
食事をしながら周りを眺めていると、見慣れないものがあった。
大きな馬車があり、『王都【ヨマシティ】行き』と書かれている。
王都までの定期便だろうか?乗合馬車ってやつかな?
リアル社会の路線バスのようなものなのだろう。
その馬車は20人程度乗れそうだが、すでに満員だった。
乗れなかったと思われる人たちが道路に数人いる。
みんな王都を目指すのか。イベント目的だろうね。
まあ、俺には関係ないが。
馬車の前をスルーしようとしたとき、中から声が掛けられた。
「ヨシュアさん、こんにちは。その節はお世話になりました。」
声の主は、以前オーガに襲われていた冒険者だった。名前なんて覚えてないが。
「これから王都ですか?」
「はい、イベントに参加しようとおもって。」
「あー、あれね。」
「ヨシュアさんは参加しないんですか?」
「あ、えっと、俺、冒険者じゃないんで。」
「そうでしたね(笑)。イベント参加できなくて残念でしたね(笑)。」
悪気はないのだろうが、ちょっと引っかかる。
お前には無理だと言われている気がするんだよね。
「あ、馬車が出るみたいなので、また今度~」
「ご安全に!」
「なにそれ(笑)。じゃあね~」
まったく。(笑)ってつければ許されると思うなよ。
気に入らない。
まったく気に入らない。
イベントには正式には参加できないが、無性に邪魔したくなった。
どうやったら邪魔できるか、妄想して気を晴らそう。
邪魔するには王都に行かなきゃいけないのか。
乗合馬車に乗るのが効率的なんだろうな。
次はいつ来るんだ?
乗り損ねた人に聞いてみよう。
「次の馬車は、いつ来るんですか?」
「時間は決まってないんですよ。馬車は1台しかなく、今行った馬車が戻ってくるのを待つしかないですね。」
「それってどれぐらいですか?」
「片道30分だそうなので、1時間程度ですね。」
「うわ、長いですね。それまでどこかで時間潰すしかないですね。」
「今から並んでないと、乗れない可能性がありますよ。」
これは、超絶めんどくさい。
ここで小一時間ずっと待ってろと?
耐えられない。
ダメだ、楽しいことをしよう。
そう、新しい魔法の確認をするんだった。
家に帰り、さっそく庭で素材を入手する。
【薬草】は適当に一掴み。今や貴重品の【ロッソベリー】はたくさん実っていたが、2粒ほどいただいた。
歩けばすぐの距離だが、この場所から【合成】してみよう。
俺は【リモコン】の呪文を選択した。
目の前に文字が流れる。
《リモートコンバイン》
対象の合成装置が登録されていません。
合成装置にて登録後に実施してください。
リモコンってリモートコンバインの略だったのか。
リモートコントロールかと思ってたよ。
そんなことより、合成装置の登録が必要なようだ。
しゃーない、地下に行くか。
地下にある合成装置を起動する。
相変わらずの画面だ。
《合成装置》
ようこそ!合成装置へ
どれを合成しますか?
【低級回復薬】
【劣化毒消し】
これ、どうやって登録するんだ?
ここで【リモコン】使えばいいのか?
使ってみるとこうなった。
《リモートコンバイン》
対象の合成装置が登録されていません。
合成装置にて登録後に実施してください。
近くに合成装置を検知しました。
この装置をリモコン対象装置に登録しますか?<Yes> <No>
はいはい、登録しますよ。
そう考えたことがYesを選んだことと判断されたようで、画面が遷移した。
《リモートコンバイン》
リモコン対象装置が登録されました。
初期登録が完了しました。利用時は再度魔法を使用してください。
魔法は終了してしまった。
なんだよ、もう一回魔法使わなきゃいけないの?
まあいいか、場所を移動しよう。
装置の目の前でやっても、意味ないしね。
再び庭に戻った。
「じゃあ魔法を選択しましょうかね。」
盛大に独り言をつぶやいたところ、上から声がした。
C「何してんの一人で。」
チャミがふわふわと浮きながら声を掛けてきた。
そういえば、あなたたち空を飛べたんでしたね。
「ちょっと魔法の実験でね。」
C「ふーん、独り言は不気味だからやめてね。」
あのね、やろうとしてやってるわけじゃないんですよ。
無意識に出ちゃってるんですよね。
一人暮らしが長いと、どうしてもね。
うん、現実は忘れよう。
ここはゲームの世界だ。
気を取り直して魔法だ。
【リモコン】を選択する。
《リモートコンバイン》
リモートコンバインによる合成を開始します。
合成する素材を選んでください。
すると【アイテムボックス】の画面が自動で開き、素材名の左側にチェックボックスができあがっていた。
合成したい素材をチェックするようだ。
どうやってチェックするんだこれ?まずは【薬草】をチェックしたいんだけど。
そう思うと【薬草】がチェックされた。
するともう一つ画面が現れ、使用数を入力する画面になった。
1個だ1個!と頭の中で念じる。使用数に11個と表示された。
あちゃ、1個を2回念じたので11になっちゃたのか。
なんだよもー。これどうやって直すんだ?
使用数画面の下に『OK』と『CANCEL』のボタンがあった。
キャンセルだ!と念じると個数の画面が消えたが、素材の選択も解除されてしまった。
なんだこれ、使い勝手が悪いな。
再度【薬草】を選択して、今度はちゃんと1個と念じる。
『OK』を念じて一つ目の選択完了。
同じ要領で【ロッソベリー】も1個選択する。
《リモートコンバイン》
【薬草】+【ロッソベリー】で【低級回復薬】ができます。
合成しますか? <Yes> <No>
やっとこの画面まで来たか。Yesと念じて選択する。
《リモートコンバイン》
【低級回復薬】の合成が完了しました。
自動的に【アイテムボックス】に転送されます。
ほほぅ。これで終わりかい?
念のため【アイテムボックス】を見ると、ちゃんと【低級回復薬】ができあがっていた。
「すごいぞこれ、操作は面倒だけど便利だな。でもいつ使うんだ?使うシチュエーションが思いつかない」
C「聞こえてますよー」
いかん、また独り言が出てしまった。
C「それに、ウロウロ動きすぎ。じっとしてられないの?」
言われて気付いた。
魔法を使うときは、玄関を出て少し歩いたところだったのに、今は花壇の近くまで来ている。
独り言を言いながら、庭を徘徊していたようだ。うん、なんか歩いていた自覚はある。
客観的に見ると、ただのアブナイ人じゃないか。気を付けよう。
さてさて、他の新しい魔法も試してみますか。
使ってみるのは【デコンブ】だ。
【デコンブ】合成したものを、元の素材に戻す
今作ったばかりの【低級回復薬】を【デコンブ】にかけてみる。
おそらく【薬草】と【ロッソベリー】に戻るはずだ。
魔法リストから【デコンブ】を選択する。
《デコンブ》
対象のアイテムを選択してください。
アイテムボックスが自動的に展開される。
デコンブが可能なアイテムだけが選択可能なようだ。
俺は、さっき作った【低級回復薬】を選択。
《デコンブ》
【低級回復薬】が【薬草】と【ロッソベリー】に戻ります。
デコンブを実行しますか? <Yes> <No>
ふむ。ちゃんと戻る素材も教えてくれるんだね。
迷わず<Yes>を選択だ。
《デコンブ》
デコンブが完了しました。
素材アイテムは自動的に【アイテムボックス】に格納されます。
さっきの【リモコン】と似たような感じか。
【アイテムボックス】を確認すると、ちゃんと【低級回復薬】がなくなり
【薬草】と【ロッソベリー】が1つずつ増えていた。
魔法の動作は理解したが、これこそ使う機会が見当たらないな。
C「ちょっと、今のが一番不気味だったわよ?やめてね。」
おや?今は独り言なんて発してないぞ。
だよな?
ちょっと自信ない。
もしかして徘徊していたか?
自分のいる場所を確認する。
「あれ?なんで俺ここにいるの?」
C「こっちが聞きたいわよ。」
状況を整理しよう。
俺は今、玄関の近くにいる。
ここで【リモコン】の魔法を使って、独り言をツイートしながら徘徊し、花壇の近くで【デコンブ】を使ったはずだ。
なのに、玄関の近くにいる。
無意識に歩いた?それは病気だろう。
自分が信用できなくなってきた。
再現試験を実施しよう。
今いる場所で【リモコン】を唱える。
成功したことを確認し、今度は家の中に入る。
念には念を入れて、2階の寝室に行こう。
ここで【デコンブ】を使ってみた。
瞬間的に、自分の体が玄関前に飛ばされていた。
これは・・・なんて素敵なバグなんだ。