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1. このままじゃ終わらせませんよ?

VRMMOのゲーム『Jobs Life Online』

通称『Jolin(ジョリン)』と呼ばれるゲームのサービスが開始された。

ゲーム自体は無料で楽しめるが、課金アイテムなども存在する、ソシャゲの要素を持つゲームだ。


ゲームを提供する会社は、その名も『Jolin』である。

このゲームを作るために立ち上げられた会社のようで、気合が入っている。

大手メーカーでもないのに、サービス開始前からYoutubeなどの動画共有サイトで広告を流しまくっていた。


その広告で流れているムービーの完成度の高さに、サービス開始前から話題が集まった。

俺は事前にダウンロード予約し、サービス開始と同時にゲームを起動したのだった。





起動すると性別を聞かれ、その後キャラクターエディット画面になる。

性別は迷ったが、女にすると色々とトラブルが考えられたので男にする。

キャラクターは、パーツをどう組み替えてもイケメンになってしまう仕様のようだ。

選択肢が多すぎて作るのに時間がかかったが、自分には似ても似つかない、塩顔イケメン細マッチョができあがった。

もしオフ会があったら、詐欺師といわれる可能性が高いので、参加は自重しよう。


『キャラクターはこれでいいですか? <Yes> <No>』


もう、同じ苦労はしたくないので、<Yes>を選択するとオープニングムービーが始まる。


ムービーによると、自分は小さな乗合船に乗って移動中のようだ。

そこは海の上か?それとも広い川か?進行先に陸地と思われる景色が見える。


あと数分で船旅が終わるかと思ったそのとき、突然船が大きく揺れ、目の前に壁が現れた。

いや、それは壁ではない。首長竜のような魔物だ。

魔物の咆哮が吐かれた瞬間、ムービーは別のシーンに切り替わる。




砂浜のような場所で倒れている男がいる。おそらく自分だろう。

倒れた男を猫人族と思われる猫耳の少女が発見し、ダッシュで画面から消える。

数人の大人の獣人と一緒に戻ってきた猫耳少女。獣人たちは自分と思われる人物を囲んで覗き込んでいる。


そこでムービーは終わる。





目の前が真っ暗になった。徐々に明るくなり、青空と獣人の顔が見えた。

ああ、ムービーの続きか。


「・・・ぶですか?大丈夫ですか?」


少女の声も聞こえてきた。猫耳の少女だ。


「大丈夫だけど、ここは?どうして俺はここにいる?」


俺はそう言いながら体を起こしている。

まだ自分で操作はできない状態だ。


猫耳少女と大人の獣人の話によると、ここは【クリマ】という港町だとか。

ということは、さっき魔物に遭遇したのは海の上ということになる。

船が魔物に襲われ、俺は運良くここに流れ着いたということだろう。


猫耳少女は「私はリム。あなたの名前は?」と聞いてきた。

名前入力モードになるようだ。俺は【ヨシュア】と入力した。

本名の善哉(よしや)をちょっと変えたもので、ゲームでいつも使っている名前だ。


「ヨシュアね?間違ってない? <Yes> <No>」


ここで変更できるようだが、Yesを選択する。


「うん、覚えた。困ったことがあったら何でも聞いてね!」


明るい笑顔で去っていった。

語尾は「にゃ」にならないのか・・・。




ようやく自分で操作が可能となった。

しかし、いきなり困った。

自由度が高いゲームというのが売りだが、自由すぎて何をしていいのかわからない。


荷物は何も持っていない。

何かないかと考えながらポケットに手を入れると、【アイテムボックス】という画面が開いた。

なるほど、そういう作りなのね?試しにポケットに手を入れずに、何かないか考えただけでも開いた。


アイテムボックスの【持ち物】の欄に【薬草×2】【10,000ガル】が表示された。

このガルというのが金の事だろう。1万ガルがどれぐらいの価値があるのか不明だ。


アイテムボックスには【装備】の欄もあり、【初心者の短刀】【布の服】【布のズボン】【布の靴】が表示されている。

え?短刀?腰にホルダーとともに短刀があった。これが初期装備のようだ。


で、俺はこれからどうすりゃいいの?

とりあえず聞き込みかな?




「すみませーん。」

「あら、あなたはさっきの倒れてた人じゃないか。」


どうやらさっき俺を囲んでいた獣人の一人らしい。恰幅の良いおばちゃんだった。熊の獣人と思われる。


「あんた、ギルドには行ったかい?」


こっちから何か聞く前に、答えが返ってきた。

何を言っても、そう答えるようにプログラミングされているのだろう。


「いえ、まだ行ってないです」

「だったら、ギルドに行って、ギルドカードを作った方がいいよ。身分証明になるしね。」

「行けば、もらえるんですか?」

「何かの職業に就かないとダメよ。働かざるもの食うべからずってね。」


とりあえず、何かの職業に就けということらしい。

このまま村人Aで過ごすのもいいかと思ったが、生活するには金が必要だ。


ギルドまでの道を教えてもらった。

といっても一本道だ。というか、すでに見えている。

小学校の体育館ぐらいの大きな建物がギルドのようだ。


ギルドに到着し、中を覗いてみる。

まるでショッピングセンターのフードコートのような作りだ。

壁際にいくつものテナントが並んでいる。

冒険者ギルド、商人ギルド、生産職ギルドといった各種ギルドであったり、商店、食堂、診療所、不動産屋、保険屋、占い処なども並んでいた。


入ってすぐのところに、白いロボットがあった。

胸元にはタブレット端末がある。どこかで見たことがあるようなフォルムだ。

近づくと、音声が聞こえる。


『こちらはギルド総合案内窓口です。ご用件をお話しください。』


話しかければ、いいのかな?


「すみません、職業を決めたいんですけど。」

『初期の職業選択でしょうか?転職でしょうか?』

「あ、初期です。」

『職業についての知識はお持ちですか?』

「いや、何も知らないです。」

『案内を表示します。ご確認ください。』


ロボットのにあるタブレット端末に職業に関する情報が表示された。

それによると、初期の職業選択によってステータスが決まるようだ。

冒険者なら攻撃力や防御力など、商人なら知力、生産職なら器用値などが高めになるようだ。

また、自分で自由にステータスを変更できるポイントが初期は10ポイント与えられ、その後はレベルアップ時に好きな値を増やせるらしい。


初期値に差が出るだけで、職業の縛りはないようだ。

例えば冒険者を目指したが、クエストがつらいから商人になることも可能だそうだ。

ただ、転職後にステータスの再割り振りはできない仕様らしく、初期の職業を続けるほうが良いとのこと。


冒険者の初期ステータスは、こうなっている。


  攻撃力:7

  防御力:6

  敏捷性:5

  器用値:1

  知力:1


ふむふむ、合計20ポイントですね。脳筋な感じがしますな。


次に商人を見てみる。


  攻撃力:2

  防御力:3

  敏捷性:3

  器用値:5

  知力:7


頭脳労働者ですね。知力が高いことによって、売り上げにどう貢献するかは不明だ。


最後に生産職だ。


  攻撃力:3

  防御力:2

  敏捷性:3

  器用値:7

  知力:5


運営手抜きか?商人のステータスを入れ替えてるだけじゃないか。


ゲームにありがちなHPやMPの項目がない。

ステータス上は見えているので、これはレベル固定なのかな?


それぞれの職業について聞いてみた。


「冒険者って何する人ですか?」

『ギルドに依頼されたクエストをクリアすることが目的です。』


まあ、思った通りだな。冒険者については、特に追加質問はない。

次に商人について聞いてみる。


「商人って何する人ですか?」

『ギルドから依頼された商品を納めるが基本です。』

「商品は、どうやって入手するんですか?」

『自分で入手できればいいのですが、基本は冒険者ギルドか生産職ギルドに発注することになります。』

「自分で店を持つことはない?」

『はい、ギルドに納品し、販売はギルドが行います。』


依頼を受けて達成するのが目的。

手法は違うが、冒険者と変わらないシステムのようだ。


では、最後の選択肢である生産職について聞いてみる。


「生産職って何する人ですか?」

『武器、装備品、アイテムなどを生産するのが主な仕事です。』

「生産したものを売る場合は、どうするんですか?」

『商人からギルドに依頼が来ますので、その依頼を受ける形で生産し、納品します。』

「生産職が、直接誰かに売ることはできないのですか?」

『はい、店舗機能はギルドが一任していますので、商品をお金に変換することはできません。』

「ということは、無料で渡したり、物々交換するのは可能ということですか?」

『違反行為ではありませんが、クエストクリアにはなりませんので、あまりメリットがありません。』

「生産するために必要な素材は、どうするんですか?」

『素材はフィールドや魔物から採取できます。危険を伴うので、冒険者ギルドに依頼するのが一般的です。』


なるほどね。

冒険者、商人、生産職が、それぞれ欲しいものを、それぞれに依頼するって仕組みですね。


ここで俺は考える。

多くのプレイヤーは、冒険者になるだろう。

ゲームの世界なんだから、現実離れしたいと思う人が多いのではないだろうか。

俺はね、結局それは、ゲームの中でも普通の人と同じことをしているだけだと思うんですね。

だから、普通の人とは別のことがしたい。


商人は、なんとなく仕事を思い出すのでいやだな。

ゲームは現実逃避するためのツールだ。

だから商人は却下。


残るのは生産職だ。

これも微妙に仕事を思い出しそうだが、現実にありえないものを生産するのだろう。

俺は深く考えずに、消去法で生産職を選択した。


『職業は生産職ですか? <Yes> <No>』


Yesを選択だ。

もう、後戻りできない。


『それではこれがギルドカードになります。このカードを使って初期ステータスを割り振ってください。初期ボーナスポイントは10です。』


ロボットからギルドカードを手渡れた。

それ、どこから出てきたの?


ギルドカードを覗き込むと、仮想ウインドウに情報が表示された。


 《ギルドカード》

  名前:ヨシュア

  職業:生産職

  レベル:Lv1

  ランク:F


ランクが上がるとギルドカードの色も変わるそうだ。

今は白い。初心者の証だな。


ギルドの中に、銀行のATMのような機械がある。

ここでポイントを付与するようだ。

もしかして、レベルアップ時も、ここに来て割り振らなきゃいけないの?

面倒だなぁ。

ギルドカードをカード投入口に入れる。これもATMと同じだな。


画面に自分の名前が表示され、その下にいくつかメニューが表示された。

ATMで<お預入れ>とか<お引き出し>などが表示されるのと同じだ。

メニューの中に<ポイント付与>というものがあったので、画面をタッチした。

・・・何も反応しない。

何度も押すが、全然反応してくれない。

銀行やコンビニのATMも、たまに反応しないとき、あるよね?

とりあえず、端末殴っとく?


突き指しそうな勢いで、画面をつんつん突っつく。

端末が揺れるが、かまわず突く!突く!突く!

揺れた反動で、画面の下から引き出しのようなものが飛び出してきた。

よく画面をみると、『操作は下のキーボードをお使いください』と書いてあるではないか。


引き出しを引っ張ると、キーボードが現れた。マウスはない。

普通のキーボードと違い、アルファベットは書いてない。

キーに表示があるのは、数字とTABキーとEnterキーだけだ。

つまり、この3つだけ使えと。


TABキーを押してみると、メニューボタンの色が変わる。

<ポイント付与>の色が変わった状態でEnterキーを叩く。ターン!


画面にが<ポイント付与>画面に遷移した。

このように表示される。


 《ポイント付与》

  割り振れるポイント:10

  攻撃力:3+_

  防御力:2+_

  敏捷性:3+_

  器用値:7+_

  知力:5+_


  <実行> <キャンセル>


ここでは、TABキーでカーソルを移動して数値を入力。終わったら<実行>を選ぶようだ。

10ポイントか。考えるのが面倒だ。5項目あるから、すべて2ずつ足そうか。


TABキーを押すと、カーソルが動いた。

攻撃力の欄にカーソルが点滅している状態にして、2と入力する。

すると、割り振れるポイント欄は8に変化していた。

現状は、こうなっている。


 《ポイント付与》

  割り振れるポイント:8

  攻撃力:3+2

  防御力:2+_

  敏捷性:3+_

  器用値:7+_

  知力:5+_


  <実行> <キャンセル>


防御力の欄にカーソルが移動させ、再度2と入力する。


 《ポイント付与》

  割り振れるポイント:6

  攻撃力:3+2

  防御力:2+2

  敏捷性:3+_

  器用値:7+_

  知力:5+_


  <実行> <キャンセル>


あと3回、同じ動作をすればいいのだが、面倒だ。こんな時はコピペしょう。

今、カーソルは防御力の2の右側で点滅している。

Shiftとは書いていないが、Shiftキーと思われるボタンを押しながら左矢印キーを押すと、2が反転した。

お、選択できた。これならコピペできそうだ。

コピーのためのショートカットキーであるCtrl+Cと思われるキーを押したときに、事件は起きた。


見えていた画面の右下に^Cという意味不明な文字が表示された。

さらにその下には#というマークがある。

Enterキーを押すと、その押した回数だけ#だけの行が増え、入力画面は画面の上に消えていく。

つまり、こうなったのだ。


  防御力:2+2

  敏捷性:3+_

  器用値:7+_

  知力:5+_


  <実行> <キャンセル>

^C

#

#

#




やっちまったか!


Ctrl+CというショートカットはWindowsではコピーに割り当てられているが、UNIX系では処理をキャンセルするキーだ。

具体的にはSIGINTという信号を送信して、プロセスを終了させてしまう。

余談だが、UNIX系のターミナル上でコピーしようとして、選択するだけでいいのに、勢い余ってCtrl+Cを押してしまい地獄を見た人も多い。


今、目の前にある状態は、それに近い。ステータス割り振りが中断してしまったことを表している。

10ポイントを水に流すわけにはいかない。

隣の端末を使おうと思ったが、ギルドカードは機械に入ったままだ。

何とか打破しよう。


#の隣に、とりあえずコマンドを入れてみる。


# ls


このコマンドは、今いるディレクトリ配下にあるファイルを表示するものだ。

さあ、反応してくれ!



# ls

status_menu.sh

status.ini


おい、コマンドが有効じゃないか。

Linuxで動いてるのかな?

興味本位でunameとか打ちたくなったが、今は復旧が優先だ。


これを起動すれば復活するかな?


# ./status_menu.sh


コマンドを投入すると、自動的にギルドカードが排出され、カードを入れる前の状態に戻った。

よかったー。


さ、これでステータスが割り振れるぞ。

ギルドカードを入れ、再び<ポイント付与>画面を開く。

今度はちゃんと、全部に2を入れて<実行>を選択し設定完了っと。


その結果、こうなった。


 《ポイント付与》

  割り振れるポイント:0

  攻撃力:5+_

  防御力:4+_

  敏捷性:5+_

  器用値:9+_

  知力:7+_


  <実行> <キャンセル>


さあレベルアップさせて、どんどんこの数値を上げていこう!

・・・なんて、このままじゃ終わらせませんよ?


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