表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

追放された悪役令嬢は断罪を満喫する

作者: ミズメ

初投稿です。読んでいるうちに、悪役令嬢ものを描きたくなったので……!

 


「お前との婚約を破棄する!」


 煌びやかな学園の卒業パーティの会場に、そう告げる殿下の声が響き渡る。


 先ほどからのわたくしへの断罪を聞き漏らすまいと会場は静まりかえっていて、会場中の人にわたくしへの沙汰は聞こえているでしょう。


 目の前にいる殿下――わたくしの幼い頃からの婚約者――は、鋭い眼光でわたくしを睨みつけている。

 金髪碧眼の、まさしくオウジサマな外見の殿下は、そんな表情もキラキラしい。


 殿下の傍らには、定番のピンクブロンドの髪をふわふわとゆらしながら、眉を下げ、大きなまんまるの瞳にうるうると涙を浮かべた少女がぴっとりと張り付いている。


 そして殿下と少女の背後には、殿下と同じくらいキラキラしいカラフルな髪色の殿方が戦隊ヒーローのようにずらっと並んで、殿下と同じようにわたくしを忌々しいものを見る目で睨んでいる。


 そのメンバーの中には、なんとわたくしの弟までいるのだから、世も末ね。


 そんな人たちの前に、わたくしは独りで立たされているわけなのだけれど。


(あーもうホント、定番中の定番って感じよねー)


 顔面には無表情を貼り付けたまま、心の中でそう感心する。


(乙女ゲーム的には、あの子の逆ハーレムエンドなのかしら?みんなでひとりの女の子を愛するってどんな状況なのかしら?彼らの中にはドロドロの愛憎劇は無いのかしら?わけわからん)


 そんなわたくしの胡乱な気持ちが顔に出ていたのか、殿下はますます目尻を吊り上げて、怒って何か言っている。


 多分、わたくしがあの子をいじめたとかなんとかかんとか。

 もはやテンプレすぎて何も頭に入って来ない。


 えーと、次の展開はなんだっけ、と別のことを考えていると、殿下の発言に今まで静まりかえっていた会場が俄かにざわめくのを感じた。


 え?何言ったの?聞いてなかったんだけど……



『私』には、前世の記憶がある。

 日本という国で、一般家庭に育ち、大学を出た後は地元の公務員になった。


 自分で言うのもなんだけど、それなりに普通に成長して、ブラックでもない部署で働き、毎日大体定時に帰ってのんびり過ごしていた。


 スマホアプリの乙女ゲームにハマって、課金するかどうか毎日悶々と悩みながら過ごしていたある日、唐突に『私』の人生が終わった。


 次に目が覚めたとき、わたくしは『私』の記憶を持ちながら、ある王国の侯爵家の長女として生を受けていた。


 おう、これがあの異世界転生……?私が?社畜でもなかったし、社会への不満も無かったし、まあ死ぬのは思ったより早かったけど、転生して記憶持っとくほどの執着はないんだけど……とそれなりに混乱したものの、元々のあっさりした性格が功を奏したのか、最終的にはまあいっか、楽しもう!って結論に至った。

 そんな赤ちゃん嫌だ。お父様お母様ごめんなさい。


 最初は自分を鏡で見ても特に何も思わなかったのだけど、10歳のある日、開催された王子さまの誕生日パーティに参加して、金髪碧眼の少年を見たとき、ものすごい既視感に襲われた。


 ……そういえば、わたくしの名前も、殿下の名前も、聞き覚えがある。それも前世で。

 あら?殿下の隣にいる赤髪の少年も、反対側にいる紺色の髪の少年も、見たことがある。あら、そういえばうちの弟って……

 あれ?あれ?あれれれれれ?


 ――こうしてわたくしは、『私』だった頃の記憶をフル回転させ、この世界がハマっていたスマホアプリの乙女ゲームだったことを思い出した。そして自分が悪役令嬢で、最終的に断罪されて娼館送りになることまで。



 そこからの流れはまさにテンプレだった。

 そのパーティの後、わたくしはあれよあれよと殿下の婚約者となり、厳しい王妃教育を受け、学園に入学し、ピンクブロンドの男爵令嬢と殿下が出会い、愛を育み……殿下の取り巻きたちも彼女に夢中になり……以下略。

 はいはい、テンプレテンプレ。


 いや、途中何回か婚約者やめようとしたんだよ?だけどさ、なんなのかな、ゲームの強制力なのか、婚約破棄のその日まではどうしても抗えないみたいで。

 唯一抗えたのは、わたくしがゲームの中のワガママ高飛車お嬢様ではなく、庶民感覚のあるご令嬢として成長したことくらい。


 もちろんピンクブロンドさんに嫌がらせなんてしてないけど、他のご令嬢のやったことやピンクブロンドさんの自作自演がわたくしのやったことになるのはお約束。

 殿下を奪われて嫉妬に狂った侯爵令嬢として、今現在絶賛断罪中なわけなのだけど。


 そこの銀髪の弟よ!学園に入るまでは、姉上〜って慕ってくれてたのに、いつの間にかヒロインに籠絡されちゃって最近では家でも無視される始末。攻略対象者だし、強制力だから仕方ないけれど、お姉さまはそれなりに傷ついてるわ、ぐすん。

 他のカラフルな人たちとは極力絡まないようにしてたから知らんけど、宰相子息が紺、将軍子息が赤、公爵家嫡男が緑、商人の子がオレンジの髪色だってことは前世で知ってるから良しとする。


「……いっ、おい、聞いているのか、ディアナ!」



 殿下に名前を呼ばれて、思考の渦から呼び覚まされる。

 いいえ全く聞いていませんでした。

 そういえばわたくしの今世の名前は、ディアナと申します。


 わたくしの無言をどう捉えたのか、殿下は憐れみの表情のまま、ふ、と口の端から笑みをこぼした。


「まあよい。何度でも言ってやる。お前の学園での所業は目に余るものがある。婚約破棄では生温い。お前のような冷徹な女は、相応しい場所に追放することにする。そして、二度と侯爵令嬢を名乗るな……!」


 そう言いきった殿下は満足げにわたくしを見下ろし、隣の男爵令嬢の腰に回した手に力を込める。


 きゃ、とよろめいた少女は殿下の胸元に倒れこみながらもうっとりと頬を染め、上目遣いで殿下を見つめる。



「姉上。非常に残念です。まさか姉上がこのようなことをなさるとは……。同じ侯爵家の者として非常に恥ずべきことですが、寛大なる殿下は、姉上のみが貴族籍を捨てることだけで、わが侯爵家をお許しくださいました」


 いちゃラブする殿下たちを横目に見ながら、一歩前に踏み出してきた銀髪弟がわたくしを見つめる。


 いや、なんもしてないけどね!というツッコミは心の中でしておく。なぜならこの展開は知っているからだ。


 庶民落ちからの娼館送り。

 殿下エンドとハーレムエンドの悪役令嬢の結末だ。

 鬼すぎる。庶民落ちだけで良くない?貴族のご令嬢だよ?庶民になるだけで充分重い罰じゃない?


 赤髪子息は未来の王妃への不敬罪とかわけわからんこと叫んでるし。紺色は眼鏡をクイってしてる。緑はピンクの肩にそっと手を置いてる。オレンジは……何考えてるかわからん。


 そして弟よ。"わが侯爵家"とか言っちゃってるけど、あなた嫡男じゃないし、そもそも今日のパーティ自体、侯爵家当主のお父様と嫡男のお兄様が居ない隙にやっちゃってるよね。

 そして例に漏れず、陛下も王妃さまも、宰相も将軍も王弟殿下である公爵さまもいない。


 そんな狙いすまされた中の断罪劇なのよ。強制力と言わずしてなんと言うのかしら。


 ふう、とひとつため息をついて、わたくしはようやく口を開く。

 殿下たちも戦隊ヒーローも会場の皆さんも固唾を呑んでわたくしを見つめる。



「わたくしは、神に誓って彼女をいじめたりなどしておりません。ですが、皆さまがそう望まれるのであれば……謹んでお受けいたします。もう手筈は整っているのでしょう?今すぐにでもこの会場を出ていきたいとおもいます。

 皆さまがた、せっかくの卒業パーティを騒がせてしまい申し訳ありませんでした」


 そう一息に言い切り、笑顔で淑女の礼を取る。王妃教育の賜物ね。最後だから記念に過去最高に綺麗な礼を取ることを心がけたからか、最後に顔を上げた時、殿下たちがハッと息を呑むのが聞こえた。


(さようなら、殿下。まっっっったくお慕いしておりませんでした。ピンクちゃん後はよろしく)



 ―――――


 その後。用意されていた馬車で娼館送りされたわたくし。

 あはんうふんな日々になると思った方、甘くてよ。


 婚約破棄までの道のりはどう抗っても変えられなかったけれど、その後の展開は変えられると踏んだわたくしは、気付いた時からコソコソコソコソ資金を貯め、とある高級娼館を買い取り、オーナーになっていた。


 つまり。わたくしが連れていかれた娼館はわたくしのモノで。娼館送りになったものの、単に自分が経営するお店に来ただけなので、お姉さまがたとお茶をしながら、前から用意していた店舗内の住居でのんびり過ごしていますの。


 あの断罪劇から1週間。


 お父様や陛下たちが隣国から帰国されるのは、確か3日後。


 乙女ゲームは卒業パーティまでだったから、これからの展開はもう、わたくしには分からない。


(さあ、どうなるのかしら……?)


 自室で大好きなチョコレートを食べながらのんびりと考える。まあ、どうとでもなるでしょう。

 だってわたくしは、自由なのだから。


 その頃、娼館の前では。紺色眼鏡が緊張しながらお店に入ろうとしていたとかしていないとか。


 おわり


お読みいただきありがとうございます。


連載版『追放された悪役令嬢は断罪を満喫する』の執筆開始しました。良ければどうぞ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ