それがなかなか複雑な話でな
おっさんと卵騒動の上、1行だけ修正してあります。
遺体の血の乾き具合などから殺害されたのは昨日の午前中だと推測された。つまり、既に街中に卵が持ち込まれている可能性が高いということになる。
ギルドに戻るとすぐ衛兵隊長も呼ばれて会議が開かれることになった。
「すぐにでも住人を避難させるべきだ」
「ヒフキドリの事を話すのか?それだとパニックが」
「何か適当な理由をでっちあげて避難すれば?」
「それより先に男神教徒の捜索を!」
会議は混乱を極め、喧喧囂囂としてまとまりを見せない。結局のところ、取り合えず住人には秘密にしておくこと。いざとなったらヒフキドリの話をして住民を避難させる。という内容でまとまった。
翌朝、冒険者と衛兵が練兵場に集められ作戦が伝えられる。最後にグレッグが壇上にあがり檄を飛ばす。
「事は重大だ。引き続き俺が指揮を執る。皆で力を合わせれば必ず勝利できる。俺たち全員で街を救おう」
グレッグの言葉で冒険者たちに気合が入る。衛兵たちは休日返上で全員で避難計画を立てる。俺たち冒険者は男神教徒を探すことになった。
俺とメリッサも男神教徒を探すことになったのだが、これが実に厄介な問題だった。
「しかし、男神教徒ってどうやって探せばいいんだ?」
「うーん……」
街行く人に、あなたは男神教徒の過激派ですか?などと聞いて回るわけにもいかない。それに、男神教自体は一般的なもので信徒の多くは真面目な一般市民である。ごく一部の過激な狂信者だけを探すとなるとお手上げ状態だ。
あてもなく街をうろうろしていると、一人の男が目についた。小声でメリッサにも確認してもらう。
「メリッサ、前を歩いている黒い上着の男見覚えがあるんだがどうだ?」
「あ、あの人。教会に行ったときに石を投げて来た人?」
「やっぱりそうだよな……弱体を掛けるから捕まえてくれ」
「うん、わかった」
俺は魔力を練り上げ弱体魔術を放つ。動きが遅くなった男はメリッサに全くかなわず簡単に捕らえる事ができた。
「お前、先日俺たちに石をなげただろう」
「なんだ!女神教徒に石を投げて何がわるい!」
反抗的な態度を見せているので、ちょっとキツめに尋問してやる。すると男はすんなりと男神教徒過激派のリーダーの名前と居所をはいた。これで解決が一気に近づいたといえる。
俺とメリッサは聞き出した拠点のある場所へと急ぐ。たどり着いたアジトでついに過激派のリーダーと対峙することになった
「ヒフキドリの卵を使ってこの街を破壊する計画は分かってる。諦めろ」
「なんの話だ?この街を破壊して俺に何の得がある?」
「とぼけても無駄だ」
「そもそもヒフキドリってのが分からねえよ」
話が全くかみ合わない。とりあえず捕らえて話を聞いてみるが、やはりこの男が首謀者だとはとても思えなかった。
「街を破壊しても金にはならないだろ」
「女神教徒を憎んでるんじゃないのか?」
「狂信者どもを上手く煽ってやると、活動資金にって寄付が大量にあつまるからな。金さえ入ればなんでもいい」
「森の傍に住んでた男は知ってるのか?」
「ああ、よそから来た男神教徒の連中に紹介した。まさかあいつら俺の商売を邪魔しようとするとは」
「そいつらの居場所は?」
「金を貰ってそれっきりだ。どこにいるのかなんて知らねえ」
とんでもなくクズな男だが、金に汚いクズなだけに逆に信用できる内容に思える。だがそうなると、捜索はまた振り出しに戻ってしまう。しかも、今度は街の住民ではない物を探すことになる。手がかりを探すのがより困難になるだろう。
その時、耳をつんざくような大砲の音が響く。まず一発、続いて二発。教会に異変があったという合図だと分かる。俺とメリッサは過激派のリーダーを縛って転がしたまま放置して女神教会を目指す。
教会へたどり着くと既に何人かの冒険者が駆けつけてきていた。俺とメリッサを見つけた冒険者が教会の尖塔を指さして状況を教えてくれる。
「みてくれ、あの尖塔のところ。あれがどうやらヒフキドリの卵らしい」
「あれが卵……」
「よそ者の男が押し入ってきてあそこに置いたって話だ」
確かに尖塔の上に丸いものが見て取れる。
「あれ、ヒフキドリじゃないか?」
別の冒険者が指さす方向には確かに巨大な鳥が飛び回っている。そこへ、遅れて駆け付けて来たグレッグも尖塔の上に置かれた卵を確認する。
「間違いない!ヒフキドリの卵だ。すぐに住民を避難させろ!!」
グレッグが大声で衛兵たちに指示をだす。それを聞いた衛兵たちは住民を避難させるため素早く街へと散らばっていく。
卵を置いた人物を見たという住人に話を呼び止めて詳しく話を聞く、その人物は街の東側へと逃げて行ったらしい。その話をきいて俺は一つの考えに思い至る。
街全体が蜂の巣をつついたような混乱に包まれていく。我先にと逃げる住人達が将棋倒しや暴力沙汰を起こしていないところをみると、衛兵たちが上手く誘導しているのだろう。そんな混乱の中俺は行動を起こすべくメリッサに確認する
「メリッサ、俺の勘を信じてくれるか?」
「うん」
「間違ってたら、それこそ命の危険もあるぞ」
「いいよ。信じる」
方針は決まった。あとはやれることをやるだけだ。
結局、ヒフキドリの卵は石膏でできた偽物だった。半刻ほどで避難命令は解除され住人たちは街へと戻ってきた。
対策本部に戻ってきた俺たちはグレッグの元へと向かう。
「あのヒフキドリの卵は偽物だったってことか。なら、男神教徒の狙いは何だったんだ?」
「それがなかなか複雑な話でな」
と、グレッグの問いに答えながら俺は体魔法を発動させる。暴れられると面倒な事になるのは目に見えている。既に事情を知っているギルド支部長と衛兵隊長は黙ってみている。
「なっ、なにをする」
「なにって今回の事件の首謀者を捕まえるんだよ」
メリッサはどこで覚えたのか見事な捕縄術でグレッグを縛り上げる。衛兵隊長もメリッサを手伝っている。
「最初におかしいと思ったのはあのヒフキドリの卵だよ」
「何がおかしい!」
「俺もヒフキドリの卵の実物を見たことがあるんだよ。とてもじゃないが見間違えるような代物じゃない」
そう、教会の尖塔に置かれた卵はヒフキドリの卵には似ても似つかないものだった。俺が本物を見たことがあったのが一つ目の綻びだった。
「それでどうして俺を捕まえるんだ」
「だって、その時に卵を置いた人たち、出口のない東側へ逃げて行ったんだよ?そんなの自分たちも死んじゃうよね。変だよ」
メリッサの言う通り卵を置いた後の男神教徒の行動はおかしかった。その一つ一つは大したことはない違和感が真実を気づかせてくれた。卵は街を破壊する目的ではなく、教会付近から住人たちを遠ざけるのが目的だと。
そして協会の近くにはこの国でも有数の規模を誇る宝石商が店を構えている。こうなれば真の目的を推理するのは容易な事だった。
「結局、この卵騒動は宝石商を襲うための計画の一部でしかなかったってことだ」
「うん、宝石店で金庫を壊そうとしてた人たち、ちゃんと捕まえたし」
「そいつらが話してくれたぞ?グレッグ殿がリーダーだって。宝石商の店でくまなく見てたのは下調べを兼ねてたんだな」
ここまで言うと流石に観念したのだろう、グレッグはうなだれた様子で連行されていった。俺はどうしてもまだ気になる事があってメリッサに聞いてみる。
「なあメリッサ、本当にグレッグが首謀者だったんだろうか?」
「ん?そうなんじゃないの?なにか気になる?」
「なんといえば良いのかわからんが、この複雑な計画を立てるのはグレッグには荷が重すぎないか?」
「うーん、わかんないや」
俺の考えすぎなのかもしれない。あまり考えすぎると毛根に悪影響を及ぼすかもしれない。まだまだハゲるわけにはいかないしな。
卵騒動から数日がすぎ、街はそんな騒動など全くなかったかのような喧騒をとりもどしていた。もはや俺とメリッサの間では定番となったラアメンを食べたあと。例の宝石商の店に来ていた。店主がどうしても一度寄って欲しいとしつこく宿へ使いを送って来ていたのだ。
二階にある応接室に入ると、既に店主が待っていた。相変わらず豪華な装飾品の置かれた部屋だ。店主はずっしりと重そうな大きな革袋を俺とメリッサに向かって差し出した。
「この度はお世話になりました。少ないですがお礼としてお納めください」
「金なら受け取らんぞ」
「そういわずにお納めくださいませんか」
「受け取れないな。商人に借りを作りたくはない」
そう、商人というのは損得で物を考えるものだ。何の役にも立たない死に金は絶対に使わない。王は力で支配し、商人は金で支配する。だからここで金を受け取ってしまうと、どんな無茶ぶりをされるか分かったものではない。
「いえ、借りにはなりませんよ」
「と、いうと?」
「むしろ店を盗賊どもから救ってもらった借りを返しておきたいのです。後になって店を救ってやっただろう?と言われるのは嫌でございますから」
「スコットさんの負けだね。もらっておこうよ」
やり取りを聞いていたメリッサが笑いながら言う。確かに俺の負けだここで受け取らないとかえって面倒な事になるかもしれない。
「それじゃあ、ありがたく受け取っておくよ」
「これで私どもとスコットさんたちの間に、貸し借り無しというこでよろしゅうございますね?」
「貸し借りなしだ」
その後少し雑談をして宝石商の店をでる。何かあればいつでも相談にのるとは言われたが、宝石商に相談するような事はまずないし社交辞令の一部だろう。
すぐそばにいつも出ている氷菓子の露店いつもより空いているからとメリッサが買いにいく。よっぽど気に入っていたのだろうが初日以来いつも混んでいて食べる機会が無かった。
巡回中だったのだろう衛兵隊長が俺を見つけて駆け寄ってくる。彼は今回の騒動の犯人を捕まえるのに貢献したということで階級が上がる事になったらしい。真面目に務める好青年の出世は俺にとっても嬉しいことだ。
衛兵隊長と世間話をつづけていると、メリッサが氷菓子を二つ持って帰ってきた。
「はい、スコットさんの分」
「俺は甘いものより酒がいいんだが……」
「わかってないなあ。私がどっちの味も食べてみたいんだよ。でも二つは食べられないからスコットさんの分なの」
「なるほどな」
先日のようにメリッサに味見をさせてやる。メリッサも俺に分けてくれる。
「こっちも美味しい!」
「もっと食え。俺はそんなにいらん」
「こっちも美味しいんだよ。食べてみて」
「おう、これはこれで深みがあっていいな」
「うがああああああ!!イチャイチャするなああああ!!彼女居ないぼくへの当てつけかああああ!!!!」
衛兵隊長の叫び声が街に響き渡り、冷静になった俺は恥ずかしくなってしまうのだった。
初投稿作品です。
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