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パーティーをクビになったおっさんは、魔族少女と世界を巡る  作者: 内藤 京
第一章 おっさんは、故郷を目指す
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返事を聞く必要はないだろう?

「こんな時間に来てもらってすまぬな。街の為に力を貸してくれんかの」


 冒険者ギルドに案内された俺たちにギルド支部長が頭を下げている。本来ならもうギルドは閉まってる時間だというのに呼ばれた上にこれだ。よっぽどのことが起こったのは聞かなくても分かる。


「いきなり頼まれても困る。事情を説明してもらえないか?」

「うむ。実はヒフキドリが街の近くに現れおってな」

「昼にギルド職員もそんなことを言ってたな」

「それで腕利きの冒険者を集めて調査に向かわせたんだが、どうやらヒフキドリは卵を探してるらしいということじゃ」

「なんだって?!そりゃ大事(おおごと)じゃないか」


 メリッサはどういう事か理解できていないようで、俺の服の裾を引っ張って「どういうこと?」と小声で訊いてくる。


「ヒフキドリってのは異常なまでに仲間意識が強くて、産卵するときも集団でまとまってするんだが」

「うん、それは聞いたことがあるよ」

「卵を守る為には、群れの雌鳥全部が命がけで戦うんだ」

「ヒフキドリって温厚なだけでもの凄く強いんじゃなかったっけ?」

「そう、だから盗んだ卵を持ってる奴を見つけたら。それがドラゴンの群れでも殺されちまう」


 俺とメリッサのやり取りを聞いていたギルド長が絞り出すように言う。


「それがのう…… どうやら盗まれた卵がこの街に持ち込まれたようなのじゃ……」

「もし、ヒフキドリ達がこの街に卵があると気づいりしたらまずいぞ」

「この街は灰になるじゃろうな……」


 想像以上の大事になっているようだった。確かにヒフキドリの卵を食べると一つにつき寿命が二十年伸びるとも言われている究極の珍味ではある。しかし、その珍味を得る代償として命を失っては何の意味もない。そのくらい危険な相手だからギルドも少しでも人手が欲しいのだろう。


「で、俺たちって訳か」

「そうじゃ。平和な街じゃしランクの高い冒険者はほとんどおらんからのう。有名なスコット・クラークさんがたまたま街に居るなど、不幸中の幸いじゃ」

「ん?有名ってどういうことだ?」

「文句なしのSランクだったパーティーが、スコットさんが抜けたあとはクエストも失敗吊続きで、今じゃBランクになっとるとか言う話での」

「なんだって?」

「抜けたスコットさんが大黒柱だったのだろうと、もっぱらの噂なのじゃ」

「えっ?」


 キリアン達の現状をこのような形で聞かされるとは。子供の頃の事を聞かされているようなどうでもよい事としか感じられなかった。


「そういう訳なんじゃが、力を貸してもらえるかの?」

「返事を聞く必要はないだろう?」


 言うまでもなく放ってはおけない事態になっている。断る事など考えられない。




 ギルド支部長に案内された建物の中には、既に衛兵や選りすぐりの冒険者たちが集まっていた。


「スコットさんのパーティーも協力してくれることになったぞ」

「できる限りの事はするつもりだ、よろしく頼む」


 挨拶を終えると今後どうするべきかの話し合いが始まる。俺とメリッサはあくまでも手伝うだけのつもりだったのだが、アドバイザーのような事をすることになった。対策を衛兵隊長と話し合う。


「既に持ち込まれている可能性もあるが、持ち込ませないのが一番だな」

「出入りする人間の持ち物検査を徹底します」

「街の南北にある門の所に荷馬車でも丸ごと入るくらいの天幕を張るんだ」

「それは何のために?」

「ヒフキドリってのはとんでもなく目が良いからな。見張りが見つけられない遠くからでも卵を見つけるかもしれん」

「なるほど、早速手配します」


 街への出入りを完全に禁止してしまっても良いのだが、そうすると何か問題が起こっていることが一般市民達にも知れ渡ってしまう。混乱状態になって収集がつかなくなるのを避ける為の苦肉の策だ。


「スコットさん、ヒフキドリの卵とはどのようなものですか?」

「ん、ああ見たこと無いのが普通か」

「ええ……卵を探すにしてもどんなものを探せばよいのか」

「ヒフキドリの卵ってのは人の頭ほどもある大きさの卵だから、見ればすぐに分かるはずだ」

「なるほど、衛兵全員に知らせておきます」


 衛兵隊長が去っていったのを見て、メリッサが話しかけてくる。


「そんなに目の良い鳥からどうやって卵を盗むの?バレずに近づくなんて無理だよね?」

「それが犯人をさがすヒントだな。気づかれずに盗むには幻術を使うしかない」

「幻術使い……結構いっぱい居るから探すの大変そうだね」

「確かにそうだが、他に手がかりもないしなあ」


 幻術は軍などで諜報任務につく者は必ずといっていいほど身に着けているし、いろいろと便利な使い方もできるので冒険者にも習得者が多い。正直なところ幻術使いというだけでは手がかりとして心もとないが贅沢を言える状況ではない。犯人捜しを請け負った冒険者組の人数で押し切れればいいのだが。


 最後に衛兵隊長から全員にくれぐれも市民達に悟られないよう注意してほしい。という話があって解散になった。




 俺とメリッサは朝から分かっている範囲での幻術を使える人間のリストをあたっていた。しかし、手がかりを掴めないまま昼になってしまったのでいったんギルドへと戻る。こういった場合、情報交換が重要になる為昼には全員ギルドに集まる事になっている。


 ギルドに戻って情報交換を行うが、どのパーティーも犯人を特定できるような成果は上げられていなかった。衛兵隊もまだ卵を発見できていない。昨日のうちに既に卵は持ち込まれてしまっているのかもしれなかった。


 重苦しい雰囲気に支配されかかっていたギルドに、一人の見知らぬ男が入ってきた。茶色の短髪で長身のその男はガチャガチャとプレートメイルの音を鳴らしながら冒険者たちの中心にやってくる。


「騎士団から派遣されてきたグレッグ中尉だ。これからは俺の指揮に従ってくれ」


 そう宣言すると冒険者たちを一望して俺とメリッサのほうへと歩いてくる。


「あんたがスコット・クラークか。よろしく頼む」

「こちらこそよろしく頼む」

「今では騎士団の世話になっているが、俺も元Sランク冒険者でな。冒険者時代にヒフキドリと戦ったこともあって派遣されてきた」

「それは頼りになるな。それにしても来るのが早すぎないか?俺たちが話をきいたのは昨日の夜だぞ?」

「ヒフキドリの目撃情報自体は一週間ほど前から出ていたからな。調査のために即日派遣がきまったのさ」

「なるほど、そういうことか」

「ああ、卵が盗まれていると知っていたら部隊全員引き連れて来たんだが……」


 ヒフキドリとの戦闘経験者が増えるのは素直にありがたい。俺がリストを眺めながら午後の予定を考えていると、メリッサが不意に話しかけて来た。


「ねえねえ。ヒフキドリの卵ってもの凄く高いんだよね?」

「そうだな。最低でも金貨一〇〇枚は下らないだろう」


 そこまで言って俺はメリッサの言いたいことを理解した。ヒフキドリの卵を盗んだ人間よりもそれを買い取れる人間のほうが格段に少ない。


「買える人間を探すか」

「うん、そのほうが良いかなって」

「確かにそのとおりだ。支部長に心当たりを聞いてみるか」


 支部長に尋ねてみると、そんな大金を払えるのはこの街には一人しかいなかった。それは昨日食べたお菓子を売っている露店の傍にある宝石店の店主だ。


「俺も一緒にいこう」


 そういってグレッグが同行を申し出て来た。冒険者だけで行くよりも騎士団の人間が一緒の方が問題が起こらないだろう。ありがたくついてきてもらう事になった。宝石商の店で卵が発見できれば良いが、まだ手元に渡っていない可能性もある。俺たち以外の冒険者は引き続き幻術を使える人間をあたることになった。


――


 宝石店の店内は予想していたものとは全く違っていた。宝石も並んで居るには並んで居るのだが、店自体は狭く奥の加工場がほとんどを占めている。この宝石店の主な商いはこの店が所有する近くの鉱山で取れる宝石をカットして全国へ卸すというものだった。これなら支部長が言っていたようにヒフキドリの卵の一つや二つ買い取る位のことは朝飯前だろう。


 二階の高価そうな美術品の並ぶ部屋に案内される。暫くしてやってきた店主は予想とは違い地味で細身の老人だった。


「冒険者と騎士団の中尉殿が、このような場所へ何の御用でおいでになられたのかな?」


 一言目から俺たちの素性を見抜いてきた。この店主やはり只者ではない。こちらからも少し仕掛けてみるか。


「用事もないのに来るわけがないだろう?」

「あなた達に差し出すお金はありません。どうぞお引き取りください」


 その店主の言葉を聞いたグレッグが顔を真っ赤にして怒り出した。


「馬鹿者!名誉ある騎士団員が賄賂などせびるものか!」

「そのように怒鳴られましても、差し出すものはありませんので」


 このグレッグという男武勇は大したものなのかもしれないが、尋問などには向いていないようだ。俺はグレッグを落ち着かせるようにしながら店主に話しかける。


「違うんだ、賄賂をせびりにきたわけじゃない」

「では、どのようなご用件で?」

「卵の件だ」

「うちは宝石店で卵など取り扱ってませんが……卵なら雑貨屋に行かれては?」


 やり手のはずの店主の間抜けな返答にグレッグはまたも怒り出す。


「ふざけるな!雑貨屋などで手に入るものではない!」

「そう言われましても……」

「お前が幻術使いをやとって盗ませた事は分かっているんだ。さっさと白状しろ!」

「そんな滅相もない!」


 店主は自分が容疑者だということに気づいたのだろう。慌てて否定している。


「お前以外に誰が盗む!言ってみろ」

「盗んだ者はだれかわかりませんが、私には十分な資金がございます。卵が欲しければ盗みなどせず買い取ります」


 これで分かった。


「グレッグさん。まあ落ち着けこの人は犯人ではない」

「なぜそう言い切れる」

「なあ、店主。あんたは卵をなんだと思ってる?」


 俺の質問に店主は答える。


「なにかは存じ上げませんが、何かの卵なのでしょう?」


 やはり店主はヒフキドリの卵の話だとは知らないように見える。


「そうだ、ヒフキドリの卵が盗まれたんだよ」


 俺のいったヒフキドリの卵という言葉ですべてを理解したのだろう。店主はみるみる青ざめていく。


「まさか、それがこの街に……?」

「その可能性が高い」

「なんてことだ……」


 店主はそういったきり俯いて震えている。卵を盗むとどういうことが起こるか理解しているように見えた。


 グレッグはこのやり取りだけでは納得できなかったのか、店主に案内をさせ細かく調べていく。ひとしきり捜索し終わってやっと俺の言う事に納得してくれた。


 この店主、ヒフキドリの卵を入手して寿命を延ばそうと考えた事はあるのかもしれないが卵の買主ではないだろう。そうなると、他に卵を買い取れる程の資金を持っている人間は居ない事になってしまう。


 店主に固く口留めをした後、店を出た俺たちを待っていたのはギルド職員だった。職員は俺たちが期待した通りの台詞を言う。


「盗んだ男がみつかりました。街の外にある森の傍に住んでいる男です」


――


 俺たちが小屋にたどり着いた時には、既に多くの冒険者たちが小屋を取り囲んでいた。俺は手早く強化魔術をかける。包囲が完全に完了していることを確認してグレッグを先頭に俺とメリッサも小屋へと突入する。


「全員動くな。既に小屋は包囲されている!」


 グレッグがそう叫ぶが返事はなかった。それもそのはずで小屋の主は血まみれで床に倒れ事切れていた。小屋を捜索するが卵は見つからない。代わりに見つかったのは男神ヤニクを祀るための祭壇とヒフキドリを使ってウバース教会を焼き尽くす計画が書かれた書類だった。


「くそっ……最悪の展開だな……」

初投稿作品です。


最低でも一区切りつくまでは毎日更新頑張りたいと思っています。


よろしくお願いします。

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