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パーティーをクビになったおっさんは、魔族少女と世界を巡る  作者: 内藤 京
第一章 おっさんは、故郷を目指す
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こっちも食べてみるか?

「ちょっと出かけてくる」

「どこへいくの?」

「今日は特に予定もないしな。ギルドへいって、そのあと適当にブラブラするつもりだ」

「あ、私もギルドよりたいし一緒にいっていい?」


 朝食中にこんな会話があって、俺とメリッサはギルドへやってきた。ギルドに入ると内部は騒然としていて職員が走り回っているような状況だった。何かあったのかと走り回っている職員の一人を呼び止めて話を聞いてみる。


「どうかしたのか?」

「ヒフキドリの群れを街の近くでみたって話が出てるんですよ」

「この季節にか?」

「ええ、それで調査の依頼がありまして手の空いている人に頼んでるところなんですよ」


 それだけいうと職員は急ぐからと去って行ってしまった。


「ヒフキドリってあれだよね?おっきな火を噴く鳥」


 不思議そうな表情を浮かべてメリッサが話しかけて来た。


「だな。見た事ないのか?」

「見たことはあるけど、臆病な鳥でこっちから手を出さないと襲ってこないんじゃ?」

「それもだが、今の季節は山の上のほうで産卵してる季節のはずなんだが……」

「街の近くに出るなんて、なにがあったんだろう?」

「それを調べに行くんだろう、まあ俺たちには関係のないことだ」


 俺はギルドの窓口で師匠に仕送りの手続きをする。師匠からはそんなものはいらないと何度も言われている。なかなか顔を見せに行くこともできていないこともあってせめて仕送りでもと続けているのだ。


 メリッサの用事は昨日のキノコで得た金貨をギルドに預ける事だったようだ。記入してもらった通帳を大事そうに袋へと戻している。


「お待たせしました。じゃあ街を散策しにいきましょうか」

「ん、ついてくるのか?」

「ダメなんですか?」

「駄目ってことはないが」

「じゃあ決まりですね」


 特に断る理由もなかったし、街を散策がてら次の旅に必要なものの買い出しをすることに決まった。この街ウバースの歴史は非常に古く女神リナーテをまつった教会を中心に発展した街だという。俺とメリッサはその街の名前にもなっているウバース教会の前まできていた。


「すごいですね」

「質素だが、歴史を感じる威厳のある建物だな」

「中もすごいんでしょうか?」

「折角だし入ってみるか」


 中へ入ってすぐ礼拝室になっていて何人かの信徒が熱心に祈りをささげている。俺とメリッサが入ってきた事に気づいたシスターが近づいてくる。俺もメリッサも特に女神リナーテを信仰しているという訳では無いのだが、シスターは丁寧に俺たちを案内してくれた。


「この教会は六〇〇年ほど前に、女神となった勇者リナーテとその仲間アナスタシアによって救われた村人が建立こんりゅうしたといわれています」

「へえ、六〇〇年ていうと相当なものだなあ」

「当時この辺りは邪竜が住み着いていて、逃げ出すことも戦う事も出来ない村人達は、年に一度生贄を差し出すことで生をつないでいました」

「当時にも冒険者達はいただろうに、そいつらは何をしてたんだ?」

「その邪竜というのが、とても強く多くの冒険者が返り討ちにあってしまったらしいのです」

「なるほどなあ」

「そこへ通りかかった勇者リナーテ様とその仲間アナスタシア様が邪竜を退治してくれたのです」


 シスターによると、その後も各地で人助けをしたリナーテ様は天使に迎えられ天に昇り神の一員になったのだということだった。


「この礼拝室は一〇〇年前に再建されたものです。その時にステンドグラスも作られました」

「すごーい」


 驚きの声を上げるメリッサが見上げる天井は、一面の美しいステンドグラスになっている。


「光の入る時間帯によって部屋の雰囲気も全く変わるのですよ。良ければまた時間帯を変えてきていただけると喜んでもらえると思います」

「なるほどなあ」


 俺とメリッサはシスターにお礼を言い、寄付を入れる為の籠に銀貨を一枚入れた。教会から出ようとしたその時、拳ほどもある石がうなりをあげて飛んできた。何とか避けると、石は教会の分厚い板の扉に当たり大きな音を立てて地面に落ちた。


 音を聞いて集まってきたのか教会の中から足音が聞こえてくる。俺は石の飛んできた方向へ目をやる、一人の男が背中をみせて走っていくのが見える。今から追いかけても間に合わないだろう。


 先ほど案内してくれたシスターも青い顔をして駆け寄ってきた。


「お怪我はありませんか?」

「ああ石は避けたからな」

「それは良かったです。ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありません」

「それは問題なかったんだが、石を投げられるのは日常茶飯事なのか?」


 そう、教会の扉には先ほどの投石で着いたのと同じような傷がそこかしこについている。


「申し訳ありません。彼らは男神ヤニクの信徒だと思います」


 シスターが語ってくれたことによると、男神ヤニクもまた人間から神になった英雄なのだが、女神リナーテとは常にぶつかり合う敵同士だったらしい。それで今でも信徒同士がぶつかり合っているということだった。


「迷惑な話だな」

「私たちは自分の信じる女神に祈り続けたいだけなのですが……」


 そう言って悲しそうな顔をするシスターが印象的だった。



 教会を離れて大通りに入ると活発な商人たちの呼び込みが聞こえてくる。


「ねえ、あれ食べてみない?」

「どれだ?」


 メリッサの指さす先には、練った小麦を糸状に伸ばした物をスープに入れた変わった食べ物を売っている屋台があった。


「確かに旨そうだな。昼はあれにするか」

「でしょでしょ」


 俺とメリッサがその屋台に行くと何人か並んで居たが、料理ができるのが早く食べるのもまた時間が掛からないのですぐに俺たちの番になった。


「そのラアメンとかいう奴をくれ」

「私も同じものを」


 見事な手さばきで小麦を練った生地が引き延ばされ糸状に伸びていく。店主はその糸状の生地を包丁で一定の長さに切り分けるとお湯に入れゆで始める。それは瞬くうちに茹で上がりスープに入れられ目の前に並べられた。


「へい、おまち!」


 俺とメリッサの前に出されたその料理は、もはや単純に美味いとしか言えない素晴らしい味だった。メリッサも同じ感想のようで黙々と食べ続けている。


「どうだい?おれっち考案のラアメンは?」

「最初は単純な料理だと思っていたが、びっくりするくらい美味いな」

「はい!美味しいですう」

「だろう?おれっちの夢はこのラアメンを大陸全土に広めて歴史に名を残す料理人になることなんだ」


 食べながら聞いていたらしい常連客たちは「また言ってるよ」「もう聞き飽きたぜ」などと話している。どうやら初めての客には必ずその話をしているようだ。


「しかし、さっきのラアメンは美味かったな」

「うん、美味しかった」


 メリッサとラアメンの感想を話し合いながら、消耗品などの買い物をする。


「ラアメンが気に入ったなら、もう一つの街の名物も食べて行ったらどうだい?」

「さっき食べたばかりだからな。そんなに食えないよ」

「いやいや、もう一つのほうはお菓子みたいなものだからね。甘くて美味しいよ。娘さんも喜ぶよ」

「いや、メリッサは娘じゃないよ」

「じゃあ奥さんかい?こんなに若い嫁を貰うなんてあんた……」

「嫁でもないわ!」


 行く先々で娘だの嫁だのと誤解されている気がする。誤解されない方法はないものだろうか。


 結局、俺とメリッサはせっかくだからと、雑貨屋のおやじが教えてくれたデザートを食べに行ってみることにした。いつも教会にほど近い場所にある大きな宝石店のそばに屋台をだしているという話だ。目的の屋台はすぐに見つけることができた。


「混んでるな……」

「ですねえ……」

「どうする?諦めて帰るか?」

「どっちでもいいよ」


 諦めてもいいと口にしてはいるが、メリッサは目に見えて落ち込んでいる様子で翼までしょんぼりしている。この後にもどうせ予定は無いのだし並ぶのも悪くは無いのかもしれない。


「折角だし、並んでみるか?」

「ほんと!並ぶ並ぶ!!」


 さっきまでしょんぼりしていた翼をパタパタさせて喜んでいる。俺とメリッサは行列の最後に並らんで待つ。


「おまちどおさま」


 そういって差し出されたのは、フルーツの汁とミルクを混ぜ氷の魔法で凍らせたお菓子だった。俺はシンプルなミルクだけのものを、メリッサはすりおろした苺の入ったものを選んだ。


「確かに美味いな。この冷たさが不思議な感覚でいい」

「うん、甘くて冷たくて美味しいい」


 興味があるのかメリッサは俺の持っているミルクだけのものをじいっと見ている。


「こっちも食べてみるか?」


 そういって差し出してやると、メリッサは嬉しそうにお菓子をなめる。


「こっちは、こっちで美味しい!苺も食べてみる?」

「ふむ、どれどれ」


 メリッサの持っている苺の入ったものも食べさせてもらう。


「これはこれで、苺の酸味でさっぱりしてて美味しいな」

「でしょでしょ。すっごく美味しいの」

「行列ができるのも納得だ」

「ね。街から出る前に他の味も試してみたい」

「もう一度くらい寄ってみてもいいかもな」


 俺とメリッサはそんな他愛もない話をしながら買い物を続けていく。一通り必要なものを買い終わって宿に戻るころには辺りも暗くなりはじめていた。


「買い出しも終わったし、いつでも旅立てるがどうするか」

「この街ではクエストは受けないの?」

「掲示板はみたが、あまりいい依頼は出てなかったな」

「そっか、じゃあすぐにでも出発する?」

「どうするかなあ。昨日街に着いたばかりだし二、三日ゆっくりしていってもいいんだが」


 俺とメリッサが宿で食事をしていると、宿屋の扉が勢いよく開かれ男が転がり込むように入ってきた。その異様な状況に店内は静まり返る。入ってきた男は息を切らしながら喚く。


「すみません!スコット・クラークさんはこの中にいますか?」

初投稿作品です。




最低でも一区切りつくまでは毎日更新頑張りたいと思っています。




よろしくお願いします。

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