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パーティーをクビになったおっさんは、魔族少女と世界を巡る  作者: 内藤 京
第一章 おっさんは、故郷を目指す
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見事に全部発酵しちゃってますね……

 街を出て二日ほどして、俺は領主から押し付けられた漬物石の効果を知ることになった。


「なんだこりゃあ……」

「見事に全部発酵しちゃってますね……」


 漬物石と一緒に持っていた食料がすべて発酵してしまっていたのだ。生ものだけならまだしも干し肉ですらも残さず全部である。


「んぅー、どうやらこの漬物石から出てる瘴気が程よく物を発酵させてるみたいです」


 メリッサが探知系の魔術で検査した結果を教えてくれるが、今更そんなことを言われても食料がダメになってしまった事実は変わらない。


「まいったな」

「私がもってる分の食料は無事ですけど、二人だと全然たりないですね」


 取れる手段は二つある。一つ目は食べる量を減らしつつ先を急ぐ方法。もう一つは森や川で食料を補充しつつ旅する方法だ。


「どうする?先を急ぐか?」

「うーん、次の村か街までどのくらいの距離があるんだろ?」

「ううむ、どうだったか……大きな街まではかなり距離があるな」

「やったことは無いんだけど、採集とかしながらのほうがいいとおもう」

「急ぐ理由もないしそうするか」


 少し進んだところに手頃な林があったので、メリッサと二人で採集をする。採集をやったことが無いというのは事実のようで、メリッサは全く知識を持っていなかった。


「これ、食べられる?」

「それは食えない毒キノコだが、街で割といい値段で売れるぞ」

「じゃあ、こっちの木の実は?」

「それは焼くと美味い」

「へえー、詳しいんだ。なんかすごい」

 

 食べられる木の実の見分け方や、キノコの判別方法などを教えながら採集していく。なんでメリッサは食べられないキノコしか採ってこないのだろう……。様子を見ていると、なぜか食べられるキノコのすぐ隣に生えている毒キノコに手を伸ばしている。


「それはダメだ。その隣が食べられるやつ」

「えー、こっちのほうがカワイイのに」

「食べ物の判断理由に可愛いとかないだろう。見た目は関係ない」

「そんなことないよ。おいしそうとか、おいしくなさそうとかあるもん」

「それで、そんなに真っ赤で白い水玉のついてるようなキノコを選んでいると……」

「うん」

「キノコ類で派手な見た目のものは食べられないものが殆どだそ。覚えておくといい」

「そっか。わかった」


 答えたメリッサは、今度は地味なキノコを選んで集めてきた。が、採ってきたのはやはり食べられないキノコばかりだった……


「キノコはもういいから、この木の実を集めてきてくれ」


 ちょっとしょんぼりしているメリッサに、椎の実を一つ手渡してやる。栗の木があれば一番なのだが椎の仲間の樹木の実はアクが弱くて意外とおいしいのだ。


「同じ形のやつだね?いってくる」


 メリッサが木の実を集めている間に俺はキノコの分類をしていく。キノコ類は食べられるキノコにそっくりだが、実は毒キノコといったものも多くて面倒だ。食べられるもの、食べられないもの、食べられないが売れるものに分類していく。


「ただいま!いっぱいあったよ」

「多いな。それだけあれば目的地まで木の実はもう取らなくて済むだろう」

「ほんと?やった」


 嬉しそうに、外したマントを袋代わりに集めて来た木の実を見せるメリッサ。木の実と食べられるキノコはメリッサに持ってもらう。腐らない荷物とダメになっても問題のないキノコは俺が預かる。しかしこの漬物石、俺の体が発酵しはじめたりしないだろうな……気が付いたら半分ゾンビとか洒落にならないぞ。


 強化魔術を漬物石の重さが気にならない程度にかけて先へと進む。陽は落ち始めているが、できれば飲み水の確保できる場所まで移動したいからな。


「スコットさんは、どうしてそんなに木の実やキノコに詳しいの?」

「師匠がな、森で修行しながらいろいろ教えてくれたんだよ。自給自足だったしな」

「師匠って、付与魔術エンチャントの師匠だよね?魔術の修行を森で修行するんだ」

「まあ、あの人は変わってるからな。それに付与魔術エンチャントは火や雷は出ないから森でも問題ない」

「なるほど。それなら森の中でも大丈夫だね」


 少し先にちょっとした川が流れているのが見えてきた。あそこまで行けば飲み水も確保できる。


 河原につくと、荷物を下ろしテントを張って野宿の準備を始める。こういったことは冒険者生活で手慣れたものだ、あっという間に料理の支度に移る。


「メリッサには師匠みたいのは居なかったのか?」

「剣と魔法をお父さんに習ったくらいかなあ」

「すまない」


 両親が健在ならこの若さで冒険者にはならないだろう。話したくない事を聞いてしまったかと思い謝る。が、返ってきた答えは「どうしてスコットさんがあやまるの?」だった。


「浮いてきた木の実は虫が入っていたりするから捨てるんだ。そこのほうに沈んでるのだけ食べる」

「なるほど、こうやって選別するんですねえ」


 沈んでいた木の実をスキレットに移し、ふたをして火にかけてしばらく待つ。待ち時間に木のつるで魚籠を作るっているとメリッサは珍しそうにそれ見ていた。


「その籠は何をするの?」

「干し肉もダメになっちまったからな。魚の餌になるものを入れて沈めておくと朝には魚が入ってるんだよ」

「魚用の罠なのね。今度私にも作り方教えてよ」

「暇なときにな」


 なんだかいろいろ教えてるいると、ちょっと楽しい気分になってくる。師匠もこんな気持ちだったのだろうか。


 そうこうしているうちに、火にかけているスキレットから木の実のはぜる音が聞こえて来た。火からおろし、しばらくそのまま熱を冷ます。


 殻を割って渋皮をむいて食べると、ほのかに甘く香ばしい香りが口の中に広がった。


「なにこれ、なんでこんなおいしいの?」

「ん、どういうことだ?」

「だって、ただの木の実だよ?こんなにおいしいなら、もっとみんな食べないのかなって」

「ああ、そういうことか。集めるのも結構大変だし一本の木から大した量採れるわけじゃないからな」

「ふうん、そういうものか」


 翌朝、魚籠を確認してみたが何も入ってはいなかった。当たり外れがあるのは仕方のないことだ。


 それから暫くは昼にちょろちょろと採集、夜には魚籠で魚を狙うという旅で予定よりかなり遅れて今日街に到着した。やはり作業をしながらの旅となると時間が掛かってしまうのは仕方ない。


 しつこくせがまれてメリッサに魚籠の編み方を教えたことは言うまでもないだろう。


――


「あ、あんたこのキノコ発酵してるじゃないか!」

「ああ、やっぱ発酵してると買い取りできないか」


 店主の思いのほか大きな声に驚かされる。例の漬物石と一緒に入れてたせいで、食べられないが買い取ってもらえるキノコも発酵してしまっている。


「発酵すると買い取りできないのか。仕事の邪魔をしてすまなかったな」


 店主にそう言って俺はカウンターの上に並べたキノコを手早く片付けにかかる。


「いやいや、そうじゃないんじゃ」

「ん?」

「キノコの有効成分を取り出すのに発酵している方がむしろやりやすいから、それはいいんじゃが」


 言いさして店主はあるキノコを手に取る。


「これ、このキノコじゃよ。うまく発酵してくれないせいで少ししか成分がとりだせないんじゃが」

「へえ、発酵しにくいキノコとかあるんだな」

「うむ。しかしこれは見事に発酵しておる。こんな風に安定して発酵させられると稼ぎがぐっと増えるのじゃが……」

「ほう」


 金の匂いがしてきたぞ。何か言いたそうなメリッサを手で制して店主に話しかける。


「発酵させた方法を教えると言ったら、このキノコの買い取り金額はどうなる?」

「キノコだけだとせいぜい銀貨二枚ほどじゃが……、ううむ……金貨一枚でどうじゃ?」

「そうか、邪魔したな」


 俺はカウンターの上に並べてあるキノコを仕舞うのを再開する。もちろんこれも駆け引きの一環である。


「わかった!金貨二枚、いや三枚だそう」

「本当か?それで手を打とう」


 俺は店主に漬物石を見せて説明する。店主が言うにはこの漬物石は瘴石というらしい。ダンジョン深層や火山などで割と見かけるものだが、これだけ大きいものは珍しいみたいだった。漬物石も引き取ってもらえれば最高だったのだが、領主からの褒美の品を買い取ってくれくれるはずもなく……


「ふうむ、瘴石がこんな風に使えるなんてな。いや助かったよ約束の金貨三枚じゃ」


 そういって店主は気前よく金貨をくれた。それも、凄いニッコニコな表情で。


「しかし、あの様子じゃもっと吹っ掛けられたかもなあ」

「林で集めた普通のキノコが金貨三枚だよ。十分すぎるよ」

「まあ、それもそうだな。半分わたしとく」


 俺はメリッサに金貨を一枚と大銀貨三枚を手渡す。


「ありがとう……」

「どうした?嬉しくないのか?」

「嬉しいんだけど、今まで金貨を貰えるような仕事なんてほとんどなかったから」

「ああ、ついこの間までCランクのソロだったもんな。Bランクになったんだし、これからは金貨仕事も増えるだろうよ」

「私自身は変わってないのに、スコットさんはやっぱり凄いなあ」

「見え透いたお世辞はよせ」

「お世辞じゃないよ。本当に尊敬してるんだから」


 メリッサはそういって頬を膨らませる。コウモリっぽい見た目の翼も大きく開いているので、本気で怒っているのだと分かる。俺も最近になって気づいたことだが、この翼を観察していればメリッサの感情は大体わかるのだ。例えば嬉しい時には無駄にパタパタしているし、真剣な時には完全に閉じている。飛べもしないのについている翼だが、これはこれで案外役に立っているのかもしれない。


 

 俺は宿屋の廊下でメリッサの入浴が終わるのを待っていた。入浴といっても風呂付の部屋ではなく一般の部屋だから、お湯を貰ってきて手拭で体を拭く程度だが。どうしてこうなったのかと言うとだ。

 

 思わぬ臨時収入もあったことだし、良い部屋を取って酒でも飲んでぱあっとやろうかと思っていた。なのに、「ダメです!そんなことしてるから、すぐにお金が無く なっちゃうんですよ」と、メリッサが強引に二人部屋を取ってしまったのだ。


「でもまあ、メリッサの言う通りなんだよな。俺たちも昔は節約を心がけてベッドすらない大部屋で雑魚寝とか当たり前だったもんなあ……」

「おかげで金貨も大銀貨もまるっと残ったわけだし、メリッサには感謝すべきかな」


 独り言はメリッサの「私がどうかしましたか?」という言葉で打ち切られる。


「お待たせしました。次はスコットさんのお風呂の順番ですよ」


 そういってメリッサは微笑むのだった。

初投稿作品です。


最低でも一区切りつくまでは毎日更新頑張りたいと思っています。


よろしくお願いします。

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