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パーティーをクビになったおっさんは、魔族少女と世界を巡る  作者: 内藤 京
第一章 おっさんは、故郷を目指す
5/31

上から77、56、80……です

 結局のところ、俺たちより後には出場する人はいなかった。総勢七チーム、この中から二組が決勝戦に出場できるらしい。


「始まりました!チキチキクイズ大決戦!決勝戦に残れるチームはどこになるのか!?」


 司会が盛り上げようと必死に煽っている。クソガキチームは決勝進出間違いなしだし、俺とメリッサが張り切ってぶっちぎりの成績なせいで盛り上がらない。司会には申し訳ないが、出場料を払っている以上手を抜くわけにはいかない。


 予選が終わりこれから決勝戦という時になってやっと、見物人たちが増えて来た。


「決勝戦に勝ち残ったのは、この二チームです!」

「まず最初にご紹介するのは、クイズ界の小さな帝王ナノックとその叔父ダイジローチーム!」

「次はこの二人!盗賊退治の英雄、スコットさんとメリッサさんチーム!」

「そして特別審査員の領主様と奥様にも来ていただいております」


 全員揃って領主に向かって頭を下げる。案内された回答者用の席につく。


 司会者の脇には、横に歴史、教養、この街、雑学と縦に一〇、二〇、三〇、五〇と書かれたパネルがある。


「それではルールを説明します。このパネルはクイズのジャンルと点数を表しています」

「雑学の一〇点問題!という風に指定してもらいますが、一〇点問題を飛ばして一気に五〇点問題といったことはできません」

「次の問題の選択権は、前の問題に正解したほうのチームにあります」


 ふむふむ、クイズ大会というのは初めてだが分かりやすいルールでよかった。この街っていうジャンルは俺には不利だな。メリッサを頼るしかないだろう。


 手元にあるボタンを先に押したほうが解答権を得るという分かりやすい方式だ。


「では最初の問題の選択は領主様にしていだきましょう。よろしくお願いします」

「ふむ。では雑学の一〇でいこうかの」

「問題です。ドラゴンは現在確認されているのは全部で……」


 俺は圧倒的早さでボタンを押す。ピンポンッ!と音がなって目印の魔石が光る。えらく凝ったものを作る街だ。俺はキメ顔で回答する。


「三十二種類!」

「残念間違いです!」

「なぜだっ!」

「問題の続きです。全部で三十二種類ですが、その中で最強といわれてるのはどれでしょう?」


 隣の席でピンポンッと音がする。


「では、ナノック君答えをどうぞ」

「エンシエントドラゴン」

「正解です!一〇点獲得!続けて次の問題を選択してください」

「じゃあねー、教養の一〇点にしようかなー」


 笑顔で問題を選んだクソガキが俺に向かって、眼鏡をくぃっと上げながら言い放つ。


「あれれー?おじさんたち冒険者なのにこんな問題もわからないのー?」


 このクソガキいちいち煽ってくる。これも作戦なのだろう冷静さをなくしては俺たちの勝ちはない。心を沈めて次の問題を待つ。


「次の問題です。ずばり勇者の資質とはなんのことでしょう?」


 これは簡単だ。クソガキもボタンを押そうとしているが、メリッサのほうがはるかに早かった。冒険者の反射神経には村人では勝てない。


「魔法や剣に弓など、広範囲に渡ってある程度の適性を持っていて、その習得速度も速いという才能です」

「正解です!これで同点、次の問題の選択を!」

「じゃあ、歴史の一〇で」


 メリッサが歴史を選択した。俺はあまり詳しくはないのだが、自信があるのだろう。


「歴史の一〇点です、我が国の南西にある魔王領域。それを支配する魔王ですが三代目魔王の名前は?」

「モンテグラッパ!」

「正解!」


 これで二〇点になり俺たちがリードしたが、次の問題選択がまずかった。


「この街に関する一〇点問題です。酒屋のポムポムさんは子だくさんで知られていますが、正確には何人の子供がいるでしょう?」

「十三人!」


 クソガキが正解する。その後も一進一退の攻防が続く。


 俺が答え、メリッサが答え、クソガキが答える。クソガキの叔父のダイゴローとやらはペアで出場するための飾りらしくあくびをして鼻毛を抜いているだけだ。


 他のジャンルはどうにかなるが、この街に関する問題だけはダメだ。そうとう街の噂話に精通していないと答えられないような問題が多い。乾物屋の娘に最近振られた男なんてわからねえよ。


 そのことに気づいたのだろう、クソガキはよそ者の俺に不利なこの街に関する問題を中心に選んでいく。俺とメリッサもなんとかしようと別の問題を選ぶが、選択権を取られるときつくなる。


「では、この街に関する三〇点の問題です」

「領主様は今年二度浮気がバレて奥様に半殺しにされましたが、まだバレていない愛人の数は?」


 ピンポンッ!軽快な音と共に魔石が光る。余裕の表情で答えるクソガキ。


揚屋あげやの若女将のシドニーと、仕立て屋のマリー、それにメイドのキャシーの三人!」


 特別席に居る領主の顔がみるみる青ざめていく。隣に座る奥方の表情が消えているのが非常に怖い。もちろん正解だ。


 これでクソガキチームが一二〇点、俺たちは八〇点である。


「さあ、残念ながら最後の問題だ。どの問題にしますか?」

「しぶとかったけど、おじさんたちもこれでもう終わりだね。最後はこの街に関する問題の五〇点で!」


 クソガキが選んだ問題が読み上げられていく。


「おーっと、これは最新の情報に基づく問題ですね」

「では、問題です。一晩で街の英雄になったスコットさんとメリッサさんですが、メリッサさんのスリーサイズはいくつ?」


 さすがのクソガキもメリッサのサイズは分からないようでボタンを押せないでいる。もちろん俺もそんなのわからない。分かるのは……


 隣に目をやるとメリッサは恥ずかしそうに真っ赤になってプルプルと震えている。時間切れギリギリになってついにメリッサがボタンを押す。


「では、回答をどうぞ!」

「上から77、56、80……です」

「正解!!!!五〇点追加でスコット・メリッサチームの優勝だあ!」


 優勝確実と思われていたクソガキの敗北に、見ていた観客たちから割れんばかりの拍手と歓声が沸き上がる。


 敗北が確定し、涙目になったクソガキが俺を指さしながら叫ぶ。


「証拠はないけど、このおっさんはインチキしてる!!」


 その告発は誰の眼から見てもただの八つ当たりだったのだが、告発があった以上は調べなければならない。係員が俺とメリッサが不正をしていないか細かく持ち物等チェックする。まあ、当然何も出てこないわけだが。


「すみません、これも仕事ですので……」


 謝りながらボディチェックをする係員がかわいそうになってくる。


 大人げないから見逃してやろうかと思っていたが、ここまでされては黙っていられない。


「インチキしてるのはお前のほうだろう?」

「な、なにを証拠にそんなことを言うんだ!」

「その眼鏡だよ!近視なら輪郭は内側に凹んで見えるし、遠視なら逆だ。なのにお前の眼鏡にはそれがない!」

「だったらなんだっていうんだよ!」

「そのレンズ、特殊な透明インクで書いてる文字を見るためのものだろう?」


 俺の言葉を聞いた係員が、素早くクソガキのかけていた眼鏡を取り上げる。この素早い動き、やっぱ嫌われてたんだなあこいつ。


「こ、これはっ!!本当だ!このガキ不正をしてたぞ!!」


 眼鏡を調べていた係員が声を上げる。集まってきた係員たちが順番に不正の証拠を確認する。


「本当だっ!ステージ全体に出そうな問題とその解答がかいてあるぞ!」

「どおりでステージの無い土の上でやるクイズ大会には出てこないはずだ」

「これで他のクイズ大会の出場者も増えるな!」


 クソガキは既に取り押さえられて連行されていった。クイズ大会の不正がどの程度の罪になるのかはわからないが、今まで稼いだ賞金はく奪位はされるだろう。


 表彰式も終わり帰ろうとしたとき、クイズ大会の実行委員長に呼び止められた。


「ありがとうございます。あの子の不正が暴かれたおかげで、これからはますます活発にクイズ大会を開いていけます」

「それはいいんだが、どんだけクイズ大会やりたいんだ?」

「えっ?クイズ以外に何をやるっていうんです?」

「いや他にも色々あるだろ?」

「例えば?」


 そう言われて俺は返答に困ってしまう。おそるおそる思いついた企画を提案してみる。


「み……みんなで踊るとか?」

「パリピ限定の祭りですか……?」

「なんかすまない……クイズ大会最高だな!」

「そうでしょう、そうでしょう!クイズ大会しかありませんって!」


 これからもこの街はクイズの街と発展していくのだろう。どうなるのかわからないが住民たちが納得してるなら問題はないはずだ。


「そういえば領主様が不正をあばいた褒美を下さるということで、後で屋敷に来るようにと言ってましたよ」


 奥方に引きずられながら帰って行った領主の姿を思い出す。ケチで有名なあの領主が褒美を出すとか……嫌な予感しかしないが行かないわけにもいかない。


 俺とメリッサは覚悟を決めて領主の館へと向かうのだった。



「この我が家に伝わる伝説の漬物石を褒美として取らせる」

「漬物石……ですか……?」

「御領主!それはなりませぬ。あの漬物石は初代が魔王討伐に向かった折に……」


 隣で澄ましていた執事が慌てた表情で領主に考え直すよう説得を始める。執事頑張れ!領主からもらったものなんて売り飛ばすわけにも、捨てるわけにもいかないからな……。漬物石を背負って長旅なんてごめんである。


「ええいやかましい!褒美に取らすといったら取らすのだ!」


 領主の一喝で漬物石を背負って旅をすることが確定したようだった。


「故郷への旅路の途中と聞いているが、わしが与えた漬物石がきっと旅の助けになってくれよう」


 わかってしまった。これ奥方にさんざん絞られた八つ当たりだ……。そりゃないぜ領主……。


「メリッサよ」

「はい、領主様」

「そなたにはこれを授けよう、盗賊たちがため込んでいた宝の中に混じっておったものだ」


 そういってメリッサに美しい装飾の施されたレイピアを渡す。今まで使っていたものとは比べ物にならないほど良いものだ。


「中身もあらためてみよ」

「はい」


 抜き放たれた刀身はこれまた見事なもので、どうしてこんなものを盗賊がもっていたのか分からない程の名品であった。俺の漬物石とは雲泥の差である。


「冒険者としてこれからも励むのだぞ」


 そういって俺とメリッサの両方と握手をかわす領主。メッサと握手をする瞬間メリッサの手になにやら紙を握らせるのを俺は見のがさなかった。


 領主の館から帰る際、メリッサに渡された『冒険者なんかよりいい暮らしさせてあげるからおじさんと付き合わない?』と書かれたメモを奥方に届けたのは言うまでもない。


 翌日、俺とメリッサは宿を引き払い俺の故郷への旅を再開することになった。これ以上この街に居ても仕方ないしな。メリッサに街を離れるのに未練はないのかと聞いてみたが、もともとこの街の人間ってわけじゃないからといわれてしまった。俺とのパーティーを解散して街に残るという選択肢は考えても居なかったようだ。


 俺は両肩にずっしりとのしかかる漬物石の重さに耐えながら歩き始めるのだった。

タイトルがいまいち気に入らなかったので変更しました。


毎日更新できるよう頑張ります。

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