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パーティーをクビになったおっさんは、魔族少女と世界を巡る  作者: 内藤 京
第一章 おっさんは、故郷を目指す
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二位でも良いとか言ってたが優勝するぞ

「くそぅ……、金がねえ……」

「ええっ、一昨日もらったばかりじゃないですか。なんでもう無いんですか?」

「いや領主さんが『酒でも楽しんでくれ』って言ってたから、てっきり領主持ちだと思ってたんだが」

「おごりじゃなくて自腹だったと……」


 朝帰りで宿屋の質素な朝食を食べながら、女将とのやり取りを思い出す。

 あの手持がつきた事がわかった時の若女将の顔は今思い出しても腹が立つ。金の切れ目が縁の切れ目とばかりにさっさと追い出されたし。

 

「まあ、私も無いんだけどね」

「酒も飲まないのになんでだ?」

「装備を買い替えたし、それに……」


 メリッサはそういいながら腕輪を触る。金色の腕輪に冒険者ギルドの紋章が彫刻されている、Bランク冒険者の証だ。冒険者ギルドからの貸与品なのだが、持ち逃げも多く補償金として結構な金額を収める必要がある。なるほど、そりゃあ金がなくなるわけだ。


「そういやAランクに!って言われてたのに断っちまったんだな」

「うん、だってスコットさんの魔術のおかげだし、Aクラスなんて無理の無理無理カタツムリです」

「そうかねえ、俺の付与魔術なんて役立たずでパーティー首になるようなモノだからなあ」

「そんなことないです!スコットさんはすごいです」

「ほめてもなにもでないぞ、今日はどうするかなあ」

「祭は続いてるわけですし、一緒にいろいろ見て回りませんか?」

「そうだな、それもいいかもな」


 祭はまだ続いていた。もともとあった街の祭と時期が近かったのでまとめてやってしまおうということらしい。今思えば、予算を少しでも安くしたかったのだろう。ケチ領主の考えそうなことだ。


「お待たせ、じゃあいくか」


 冒険者ギルドの銀行業務窓口からお金を引き出してくると、まっていたメリッサに声をかける。お祭りを見るだけなのでアーマー類は身に着けず、カジュアルな上下にレイピアだけというラフな格好のメリッサは年相応のかわいらしさだ。


「まずはどこから行くか……」

「露店がいっぱい出てるらしいから、大通りを見に行きたい!」

「出てるらしいって、もう最終日だぞ。見に行かなかったのかよ」

「行ってないよ、だってパーティー(家族)だもん、一緒に行きたくって」

「そういうもんなのか?今までパーティーメンバーと一緒に買い物とかしたことなかったわ」

「スコットさんはもう見て回ったの?見たなら案内してほしいんだけどっ!」

「いや、俺も殆ど見てないよ。ずっと飲んでたからな」


 メリッサは俺の手をつかむと、大通りへと向かってどんどん歩いていく。しつけの悪い犬の散歩みたいになっているが、これはこれで楽しい。


「うへえ……なんだこの色。本当に食い物なのか?」

「このあたりの特産品のフルーツだね。色はアレだけどおいしいよ。食べてみよっか」


 メリッサは嬉しそうに青紫のフルーツを二つ注文する。甘いものは苦手だという暇もない。大通りに出てからというものずっとメリッサのターン状態だ。


 そんな調子で祭り気分を堪能していると、アクセサリーを扱う露店の前に差しかかった。メリッサの足がとまりじっとアクセサリーを見ている。年頃の女の子なわけだし、こういうものにも興味があるのだろう。


「そういえば、盗賊のボスを倒した時のあの指輪ってスコットさんが作ったんですよね?」

「ああそうだ、それがどうかしたか?」

「あの、私にも一つ作ってもらえないかなと思いまして……」

「そりゃ別に構わないが。メリッサなら普通に魔術使った方が楽だとおもうぞ?」

「やった!ありがとうございます!!」


 俺の話も聞かずにメリッサは露店に駆け寄っていく。最初は気づかなかったがこの店、若女将と来た店じゃないか。


「いらっしゃいませ!今日は娘さんと来られたんですね。娘さんの年頃だとこのあたりのが似合うと思いますよ」

「今日はって?」


 メリッサの突っ込みに店主はしまったという顔をした。メリッサは俺のほうをゆっくりと振り返りかえる。


「へえ、前にも来たんだ?」

「ちょっと、寄っただけだよ。何も買ってないし」

「そうですそうです、あの時の女性が欲しがってた指輪はほら!ここにありますし!」


 店主はそういいながら一つの指輪を指し示す。それは確かにあの女将に買ってやった指輪に間違いなかった。くそ、女将め早速金に換えてやがる……。


「きっと娘さんにもプレゼントしてくれますよ!」

「にも?!」


 ダメだこの店主ガバガバすぎる……。メリッサの表情を確かめるのが怖い。俺は先手を打っておいた方がいいだろうと判断した。


「俺が買ってやるよ。どれにするか選ぶといい」

「ほんとに?!いいの?」

「ああ、構わないぞ」

「やったー」


 あっという間に機嫌を直したメリッサは店主の説明を熱心に聞きながら指輪を選んでいる。付与魔術を掛けるんだし銀製の安いのでいいから悩む必要なんてないだろうに……


「付与魔術を掛けるなら、銀製のものが良いぞ。そのほうが性能がよくなるからな」

「そうなんだ?うーん、でもこれがいい」


 そういってメリッサが選んだのは、ハート形にカットした小さな紅い石がついた細い金の指輪だった。価格は大したことは無いが付与魔術を掛けるのには向かない材質に意匠デザインだ。


「でも、これだと大した性能の物はできないぞ?」

「これでいいの!」


 俺は店主に代金を支払って指輪を受け取る。メリッサはにこにことしてその様子を眺めていた。


「で、これに何を付与してほしいんだ?」

「どんな効果があるの?」

「まあ日常生活系の魔術なら、たいてい何でもいけるぞ」

「うーん、どれでも良いかな」

「どれでもいいって……。じゃあどうするかな。そういやまだBランクなのかじゃあ開錠にするか?覚えてないだろ?」

「開錠って鍵をあけるあれ?」

「ほかに何があるんだよ。そうだよ、その鍵開け。防犯のためにSランク冒険者しか習えないからな」

「そんなの私にくれちゃっていいの?」

「教えるのはダメって言われてるけど、教えるわけじゃないしな。使えるとダンジョンとかで色々便利だぞ」

「じゃあそれにする」


 俺はさっそく魔力を練り上げて指輪に刻み込んでいく。付与魔術に特有の文字が指輪に刻まれていく。


「へえ、こうやって作るんだ」


 メリッサが興味深そうに見てるが、俺は魔力を練るのに集中しているので返事は出来ない。


 俺は出来上がった指輪をメリッサに渡してやる。メリッサは早速、うれしそうに指にはめる。


「スコットさん、ありがとう!大事にするね」

「大事にするもなにも、その指輪に込められた魔力量だと、そんなに何度か使うと消滅(ロスト)しちまうからな」

「大丈夫です!使わないで大事にするから!」


 使うつもりがないなら必要ないだろうという疑問を口に出す前にメリッサは歩き出してしまう。喜んでいるならまあいいかと俺はメリッサを追いかける。次に寄った東方から伝わったという鶏肉を揚げた料理を出す店では、メリッサが指輪のお礼だからといって奢ってくれた。


 大通りを抜けて街の中心部にある広場に着いた時、その声が耳にとびこんできた。


「チキチキクイズ大決戦!ただいま参加者募集中でーす!優勝賞金はなんと金貨五枚!!」


 そちらを見ると大きな立て看板に二名一組で参加可能、参加費用は銀貨二枚と書いてあるのが見えた。


「なあメリッサ、クイズは得意か?」

「え?まさかあれに出るつもりなんですか?」

「ああ、クイズは割と自信があるんだ。それに金貨五枚もほしいからな」

「それは確かに欲しいしクイズも苦手ではありませんけど……」

「けど?」

「きっとあの子も出場しますよ」


 そういってメリッサが指さす先には眼鏡をかけた子供が、保護者らしいちょび髭のおっさんと一緒に立っていた。


「あの子供がどうかしたのか?」

「この近隣の町でクイズ大会が行われるたびに優勝していく有名人なんですよ」

「へえ、子供なのに大したもんだな」

「あの子、見た目は子供だけど中身は大人なんじゃないかって言われてるくらいなんです」

「まあ、大丈夫だろ。二位の金貨3枚でも十分だしな」


 係員の所へいってエントリーの登録をする。出場料の銀貨を支払うと七と書かれた布を渡された。やはりメリッサの言う子供の影響だろうか、開始時間もせまっているというのに参加者はまだまだ少ないようだ。


 待機場所で待っていると、例の眼鏡をかけた子供が近くにやってきた。


「へえ、おじさんたちもクイズ大会に参加するんだー?ぼくたちライバルだね」

「ああ、そうだな。ボウズよろしく頼む」


 そういって俺は子供のあたまを撫でてやる。子供はこうしてやると喜ぶものだ。しかし、返ってきた反応は予想外のものだった。


「クイズでぼくに勝とうだなんて百年はやいよ。おじさんのその余裕がいつまで続くか見ものだね」


 そんな言葉を残して子供、いやクソガキは去って行った。なんなんだあのガキは……。隣をみるとメリッサもあまりの変貌ぶりに呆れている様子だ。


「メリッサ、二位でも良いとか言ってたが優勝するぞ」

「うん……、あの子だけには負けたくない」

初投稿作品です。


一区切りつくまでは毎日更新頑張りたいと思っています。


よろしくお願いします。

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