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海が見てみたいです

 俺とメリッサは係留されている一隻の帆船の前に立っていた。


「ここで間違いないんですよね」


「ああ、どうも船尾楼せんびろうの中みたいだな」


 ここまで分かればもう遠慮することは無い、俺は自分とメリッサに強化魔術をかけて準備する。


「準備はいいか。メリッサ」


「いつでも行けます」


 見つからないようにギリギリまで進むが、いかんせん見張りの人数が多い。ここからは強硬突破するしかない。


重力グラビティ!!」


弱体クジャンヒ!!」


 次から次へと教団信者らしき連中が武器を片手に出てくる。いったい何人の信者が集まっているんだ。


「きりが無いな」


「ジェームズ君を早く助けてあげないとっ」


 争いの音を聞きつけたのか、黒翼教団の神官はジェームズにナイフを突きつけながらスターンデッキに出てきた。


「どうやってこの場所を見つけたというのですか」


「付与魔術ってのは便利なものでな。アイテムを通してジェームズを追跡できるんだよ」


 神官はジェームズに目をやるが、指輪がそのアイテムだとは気づかないはずだ。なにせ付与魔術師は俺と先生しか居ないらしいからな。


「そんなことをしてもわたしは覚醒なんてしませんよ。諦めてジェームズ君を返してください」


 ジェームズに気をやるメリッサの様子をみた神官は醜い笑みを浮かべる。


「そうですか、ならばもうこれで覚醒してください!」


 そういって神官はナイフをジェームズに向かって振り下ろす。すんでのところでついにジェームズは指輪を発動した。これでもう振り下ろされたナイフはジェームズを傷つけることはできない。


「よし!よくやったジェームズ今助けてやるからな」


 俺とメリッサはほぼ当時にジェームズに向かって走り出す。


「くそっ面倒な!」


 神官は毒づくとジェームズを川へ突き落す。小さな水音を立ててジェームズの姿が見えなくなる。落ちた辺りに目をやるが見当たらないし、強化魔術を使っているせいで指輪の反応を追う事もできない。手詰まりの状態になる。


「わたしのせいで…… わたしのせいでまた……」


 パキパキ……


 メリッサの羊角が音を立てて形を変えていく。先生に聞いた通りの事が目の前で再現されている。このままでは間違いなく覚醒してしまう。なんとか正気を取り戻させる必要がある。


「落ち着けメリッサ!まだジェームズを助ける手段はまだあるはずだ!!」


「ゼッタイニユルサナイ」


 メリッサの口から出た声は既に異質なものとなっていた。


「くそ、迷ってる暇はないか」


 俺はメリッサに掛かっている強化魔術を全て解除して硬貨を使い拘束するが、そんなものは意に介さないように体を動かしている。


「やっと目覚めましたか黎明の黒翼!さあ私たち魔族の為に他の種族を滅ぼしてください」


 メリッサの中で膨大な魔力が生成されていく。制御しきれずあふれだす大量の魔力によって雑多な魔術が自然発生している。まるで嵐の中にいるような状態だ。


「メリッサ目を覚ませ!」


「ニクイニクイニクイ……」


 魔力がメリッサの中で指向性をもって練り上げられていく。その狙いの先には神官が立っている。あの神官が死のうが生きようが興味はないがメリッサに殺人をさせるわけにはいかない。


「チッ仕方ない」


 俺は神官に駆け寄り飛び掛かる。メリッサから放たれた魔力光線は遥か彼方に見えている山を削り取っていく。先ほどまで神官の居た場所は大きくえぐり取られていてぶすぶすを黒い煙を上げている。


「黎明の黒翼!どうして私を狙うのですか!」


「あれはそんなに都合の良いものじゃない。生きとし生けるもの全てを殺そうとする厄災だ」


「そ、そんな……」


 このまま好きに暴れられてしまっては船が沈むのも時間の問題だろう。最悪、メリッサの命を奪ってでも暴走は止める……。その覚悟はできていたはずだ……。


「メリッサ目を覚ませ」


「ニクイニクイ……」


 今度は俺に魔力が向かってくる。タイミングを見計らってなんとか避ける。くそっ……。もうやるしかないのか。メリッサを見ると角は鬼のように立っているし翼も大きくなっている。そのメリッサの肩越しに俺はあるものを見つける。


 俺がメリッサに駆け寄り強く抱きしめると、それを指さしながら叫ぶ。


「見ろ!ジェームズが助け出されいるぞ。メリッサは何も悪くない。もういいんだ」


 先生の話だと少しはメリッサ本来の意識もあるはずだった。そのほんの少しの意識があれを見て黒翼を抑えてくれることに賭けるしかない。もしこれでメリッサが正気を取り戻さなければ俺は鋭利の掛かったショートソードで全ての決着をつけなくてはならない。


「ア……アァ……」


 メリッサの体から力が抜けていくのが分かる。パキパキと角が音を立てている。


「スコットさん、わたし……」


「何も言うな。分かってる……」


 俺はメリッサから離れて神官の方へと歩いていく。


「ひぃ、知らなかったんだ」


「分かっただろう。二度とバカなことをしないように教典にでも書いておくんだな」


 メリッサの事を色々と詮索されるのは非常に面倒くさい。誘拐の件は諦めて舟で黒翼教団が活動しているという事だけ衛兵に報告して置くことにした。船も修理しないと動けない状態だし、しばらく内偵をすすめて教団は壊滅するだろう。


 ジェームズは何の後遺症もケガもなく無事に過ごしている。あの時、彼が助からなかったらメリッサが正気を取り戻せていたかどうかわからない。黒翼教団がメリッサを狙う事はもう二度とないだろう。


 姿を消したままの暗殺者達の事は気になるが、警戒を怠らないようにする以外にできることは無い。師匠や先生に報告するための手紙も買いたし、ベランメの街でやるべきことはもう残っていない。


 いつものように羽をパタパタさせながら屋台で買ったスィーツを食べているメリッサに聞く。


「次はどこへいこうか。行ってみたい場所とかあるか?」


「えーっと、わたし海が見てみたいです」

取り合えずひと段落付いたという事で、ここで完結という事にしたいと思います。


初投稿作品で色々と反省する点ばかりでした。

こんな稚拙な作品をここまで読んでくださった方にこころから感謝します。


次回はもう本当にガチガチのテンプレ作品を書いてみたいなと考えています。


もう一度、本当にありがとうございました。

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