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立派過ぎて入り辛いです……

 羊の街をでて二週間、無事に魔王領域の国境も超えた。この山を越えればまもなく到着するはずだ。狭い道を通って山を登り切り下りに差し掛かったところでついにベランメの街が見えた。


 ベランメの街は想像以上の規模を持った大都市だった。街の西側を流れる大きな川は向こう岸がかすんで見えるほどで、大量の舟が忙しく行きかっている。この物流の良さが街が発展している主な理由らしい。


「もの凄い街だな」


「こんなに大きな街、わたし初めてかもしれません」


「まずは羊飼いの憩亭へ行ってみるか」


「そのあとジェームズ君の身内探しですね」


 羊飼いの憩亭の場所を教えてくれた商人が怪訝けげんそうな表情を見せていた理由はすぐに分かった。大理石でできた王侯貴族や大商人しか泊まれないような宿だった。先日トニーから受け取った報酬があるから泊まれない事はないだろうが、どうせ金を使うなら酒か美味い物に使いたい。


「立派過ぎて入り辛いです……」


「俺たちが入って大丈夫なのか?すぐに追い出されそうだが……」


「でも、行くしかないですよね」


 覚悟を決めたのかメリッサは立派過ぎる建物に向かって歩いていく。仕方なく俺もついていくと受付には正装した支配人が立っている。追い出される前にトニーからもらったカードを見せる。


「あなた方が例の冒険者の方ですか、話は伺っております。本日からご宿泊という事でよろしいでしょうか?」


「いや、持ち合わせがそんなにないものでな。頼んでいた情報あるかだけ確認させてもらえないか?」


「カードをお持ちの方は宿泊無料となっております。後ほどお部屋の方へ書類をお届けいたします。」


「そういう訳にはいかなだろう。既にクエストの報酬は十分にもらってるからな」


「いえ、なんのおもてなしもせずに帰したとあっては当ホテルの恥になります。是非ともご宿泊を」


 支配人の話してる間に既に床に置いていた荷物をポーターが運び始めている。どうあってもここに泊まるしかないようだ。


「なんだか落ち着きませんね……」


「ああ、こんな部屋で眠れるのか不安だ」


 とんでもなく豪華な部屋で無駄に広く落ち着かない。これ一部屋で下手な家の一階部分丸ごとくらいの広さがあるぞ。


「ベッドすごい!ふかふかなん!!」


 ベッドの上で飛び跳ねて喜んでいるジェームズには悪いのだが、このあと送っていくのでこの部屋には泊まれない。ジェームズの祖父たちの家はここからほど近い所にあると貰った資料に書いてある。


 肝心の黒翼教団の場所に関しては、川沿いの労働者が多く住む場所のどこからしいという所までしかわからなかった。これでも随分と探す範囲が減ったのがありがたい。


「じゃあまず、ジェームズを送っていくか」


「そうですね」


 ジェームズの祖父たちの家は直ぐに見つけることができた。このあたりは労働者の多く住むエリアで子供たちが走り回っている。黒翼教団のアジトがあると予想される地域にも近いのでこのあと見に行ってみるつもりでもある。


 呼び鈴を鳴らすとすぐに犬耳族の老人が現れた。既に訃報は届いているようでジェームズを見つけるなり年老いた目は涙でいっぱいになる。


「わざわざ連れてきていただき、ありがとうございます」


「いえ、息子さん夫婦は残念でした……」


 俺はジェームズの分としてトニーがくれた白金貨の入った革袋を渡す。


「これは?」


「ここに来る途中で受けたクエストの報酬だ。ジェームズ君のおかげで解決できたようなものだしな」


「こんな大金よろしいのですか?」


「もちろんだ。ジェームズを育てるのにも金はかかるだろう受け取っておいてくれ」


 ジェームズの祖母は俺に向かって頭を下げる。結局老夫婦は俺たちが見えなくなるまで頭を下げ続けていた。



――――



「すごい活気ですね」


「そうだな、これは骨が折れそうだ」


 船の出入りも多いし、行きかう人の数はもっと多い。どこから手をつければいいのかも分からないくらいに活気のあるエリアだ。


「怪しい人なんていませんね」


「すぐ見つかるならもう分かってるだろうしな」


 一通り回ってみたが特に怪しい建物は見つからない。人物に関してはなにより行きかう人が多すぎてどうにもならない。


「あそこの露店で聞いてみるか」


「そうですね。おなかも空いてきましたし」


 もうずっとこの場所で商売をしているのだろう、何年も移動したような形跡がない露店ではケバブを売っていた。


「すまないが、この辺で怪しい人物を見たことは無いか?」


「答えてやってもいいが、まずは注文からだろ?見たところよそ者みたいだし羊と牛のドネルケバブを食べ比べってのがおすすめだな」


 そういって露店の主はにやっと白い歯を見せる。


「商売上手だな。じゃあ俺は羊にしてみるか。メリッサはどうする?」


「じゃあ、わたしは牛にしてみます。これで両方食べられますね」


「それと、飲み物も二つ頼む」


 店主は手際よく肉をそぎ落とし野菜と一緒にパンにはさむ。皿にのせて完成だ。


「で、どんな連中を探してるんだい?」


「大きな声では言えないんだが……」


 ケバブを受け取りながら店主にだけ聞こえる声で「黒翼教団のアジトがこの辺にあるらしい」と言うと、店主の顔がみるみると青ざめていく。


「その話は本当かい?長くここで商売してるがそんな話聞いたことないよ」


「そうか、嫌な事聞いてすまなかったな」


「それっぽい連中が居たら衛兵に届けてるさ」


 魔族の国においても黒翼信仰は禁忌とされていて非合法だ。店主の言う通り気づいて居たなら届け出ている。


 ケバブを食べ終わった俺とメリッサは宿屋で戻る。本格的な捜索は明日以降でいいだろう。


 宿屋に戻ると支配人から今届いたと一通の手紙が手渡された。その手紙には、ジェームズを誘拐した指定した場所へメリッサ一人で来るようにという事が書かれていた。


「スコットさん、ジェームズ君が……」


「助け出さないとな」


「わたし、書いてある通り一人で行きます」


「いや、ジェームズに渡してある付与した指輪を追跡する。不意打ちしたほうが助けやすいだろうからな」


 意識を集中させるとジェームズに渡した指輪の反応は、家の方ではなくさっきまで俺たちがいた地区の方にある。


「みつけたぞ、すぐに乗り込もう」

遅くなってしまい申し訳ありませんでした。

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