私、頑張りますからお願いします
「わかった……、ゆっくり話し合おうじゃないか」
俺とメリッサは話し合うため近くの喫茶店に入る。俺はウエイトレスにチップを渡して奥の落ち着いて話せる席に案内してもらった。
なんだか俺たちの周りの席だけ混雑してきたが気にしない。おっさんはそんなことでいちいち動揺しないのだ。
「どうして俺にこだわるんだ?」
「スコットさんは優しいし、頼りになるし、そしてなにより私を冒険者仲間としてみてくれましたから」
確かに魔族に親類縁者を殺された人間はいくらでもいる。膠着状態とはいえ現在進行形で魔王軍との戦争状態も続いている。だが、魔族と人間のハーフもそれなりにいるし、魔族ってだけで差別するような人間はそんなに居ないはずだ。
「魔族なんて珍しいもんでもないだろう。この街に入ってからでも何人もみたぞ」
「ですが、冒険者の魔族となると話は別です。目の前で魔族に仲間を殺された人もたくさんいますから」
「あー……、なるほどな……」
俺の居たパーティーでは死人どころかケガをすることも無かったからすっぽりと抜けていた。魔王軍崩れの盗賊の討伐などで命を落とす冒険者も少なくないと聞いている。そりゃあ魔族ってだけで恨んでる奴も多いかもしれないなあ。
「家事は一通りなんでもできます。中でも料理は得意でみんなからもよく褒められてましたから」
「でもなあ、俺は一人で居たいんだよなあ……」
「私、頑張りますからお願いします」
そんなことを言われてもなあ。どうすれば上手く断れるんだろうか。メリッサを納得させつつ俺が引退できる方法を考える……
「じゃあ、こうしないか?俺は故郷のトサルフ村を目指している。そこに着くまでの間だけでよけばパーティーを組もうじゃないか」
「いいんですか!」
「ああ、いいよパーティーを組んでやる。何度も言うが村に着いたら即解散だからな」
「そこに着くまでかならず本当の仲間になりたい。解散したくないって思わせてみせますからねっ」
そう言って見せたメリッサの笑顔はとても輝いて見えた。それとは逆に、周りの席で聞き耳を立てていた野次馬たちは想像が外れていてがっかりと肩を落とすのだった。
宿を取り荷物を置いた俺とメリッサは、早速パーティー結成の届けを出すために冒険者ギルドへ行く。途中ですれ違う冒険者だけでなく、ギルドの係員ですらメリッサに対する敵意を隠そうとはしなかった。魔族ということをやたらと気にしていたのはこういう事だったのか。
「はい、これでパーティー結成の手続きは終了です。しかし、Cランクの魔族とSランク冒険者なんて変わった組み合わせですね」
ギルド職員は最後までメリッサに対する敵意を隠そうとはしない。なんなんだこのギルドは。
俺はメリッサにだけ聞こえるように「Sランクの俺とパーティーを組むんだろ?自信をもって堂々としていればいい」という。メリッサは俺の顔をまじまじと見た後うなずくと俯いていた顔を上げ歩き始めた。そうそう何も恥じることは無いんだ堂々としてればいい。
宿に戻る途中、俺は意を決してメリッサに気になっていた事を聞いてみた。
「ギルドに居た連中、知り合いなんだろ?いつもあんな感じなのか?」
「あー……。今日は特別だから」
「特別っていうと?」
「私みたいな嫌われ者が、この街に一人も居ないSランクのスコットさんとパーティーの申請に行ったから」
「やっかみか」
「だとおもう。この街にはAランクの人も数えるほどしかいないから」
メリッサは目に見えて落ち込んでいるようすだった。何とかしてやりたいという気持ちが湧き上がってくる。
「メリッサ、ちょっと立ち寄りたい場所ができた。先に宿屋に戻っててくれ」
「えっ?でも……」
「もう逃げたりしないさ。荷物は宿に置いたままだろ?」
俺は踵を返して来た方向へと戻っていく。メリッサはまだ少し不安そうにしていたが俺の言った通り宿の方へと歩き始めた。
――ギルドに戻った俺はクエスト掲示板の前に立っていた。あまり大きな街では無いのでクエストは少な目だがそれなりの数はあった。
その中から長く張り出されたままになっていたのだろう、日に焼けた一枚の用紙を選んだ。クエストの難易度はBと書いてある。Cランクと名ばかりのSランク付与術師にはちょうどいい依頼だ。
依頼を受けた事をギルド職員に告げるとさっさと出ていくことにする。こんなクソみたいな場所に長居はしたくない。
受けた依頼はこのあたりを荒らしまわっている盗賊団のボスを捕まえてくるというものだった。Bランクの割りには賞金が良いしメリッサに自信をつけてやるのにはもってこいの内容だと思う。
明日の朝から出発するつもりで必要な品物を買い出しにいく。やはりギルドに近いと冒険者の客が多いのだろう。何軒かの雑貨屋を回ると必要なものをすべてそろえることができた。
宿に戻ると一階の食堂でメリッサは待っていた。前に一度逃げているから不安だったのだろうか、俺の姿を見つけるとにっこり微笑んで手を振ってくる。ペット用の犬種の犬みたいでちょっとかわいいと思ってしまった。
「寄りたいところってどこだったの?娼館?」
「あほか!ギルドによってクエスト受けて来たんだよ。明日の朝には出発するぞ」
「明日?まだ何も準備できてないよ」
「メリッサの分の荷物も一緒に買ってきてあるから安心しろ」
俺は買ってきた荷物の半分をメリッサに押し付けて部屋に戻る。しかし、娼館か……。寄ってくればよかったかなと少し後悔。
翌朝、俺とメリッサは街の門が開くのと同時に出発した。
「強化魔術をかけるぞ、前と違ってフルパワーだから目的地に着くまでに感覚を覚えておいてくれ」
「うん。やってみる」
メリッサと自分自身に強化魔術をかける。魔術が発動し、体がふっと軽くなったのを感じる。俺とメリッサは馬並みの速度で街道を走っていく。
雑貨屋で買い物がてらに仕入れた情報では、目的の盗賊団はそれなりの規模で堂々と砦を築いて居座っているらしい。
盗賊たちの砦は思った以上に攻めづらい強固なものだった。これなら軍もうかつに手を出せないのも納得だ。
兵糧攻めなどをすれば落とすこと自体は出来るはずだ。しかし、コストがかかりすぎる。結果として放置することになったということだろう。
「40人位は居るようだな。どうしたものか……」
「強化魔術が強力だから一対一なら楽に倒せそうだけど、まとめて来られるとなると絶対無理」
「だよなあ……。どうしたものか」
「スコットさんは弱体魔術もつかえるんだよね?それなら何とかなるんじゃないかな?」
「砦丸ごとに弱体魔術をかけるのか?できなくはないけど魔力がもつかどうか……」
「そりゃそっか。無茶言ってごめんなさい」
しかし、である。まるっと弱体魔術をかけてしまうのはいい考えのように思える。援軍が来る恐れもないわけだから魔力を残す必要もない。
「弱体魔術プランやってみるか。どのくらい弱体されてるか見てから突入するって事にしよう」
「不意を衝くなら即突入のほうがいいんじゃないの?」
「そりゃ確実に勝てるならそうだが、ダメだったらどうするんだよ?」
「その時はその時で、何とか逃げ出せばいいんじゃないかな」
「で、今度は二人で『ぴゃあああああああああ』て悲鳴をあげて逃げるのか?そういうのは一人でやってくれよ」
そう、おっさんは慎重なのだ。調子にのって突撃なんて若さゆえの過ちだと痛いほどわかっているのである。メリッサはゴブトレインの話に一瞬イヤそうな顔をしたが言いたいことは理解したようだ。
俺は砦全体を範囲として弱体魔術を放つ、魔力をごっそりと持っていかれる感覚に足もとがふらつきそうになる。
歩き回っている見張り役の動きがゆっくりになる。上手くかかってくれたようだった。しばらく様子を見ていると気づいたらしい盗賊たちが武器を片手に出てくるがやはりその動きはのんびりとしたもだった。
「大丈夫そうだな。いくか!」
俺はそういって飛び出していく。メリッサもついてくる。身体能力はメリッサのほうが上なせいで砦に着くころには追い抜かれていた。
「あまり先走るなよ。あと、できるだけ殺すな」
「わかってる!」
メリッサにの前に居る盗賊はメリッサに向かって槍を構えていた。
メリッサが綺麗な型で槍を払う。が、浅い!槍をはじくのは難しい!
『パキョッ』
そんな音を立てて槍を持った盗賊の腕はあらぬ方向へと曲がっていた。
盗賊とメリッサその両方が何が起こったのか理解できずにぽかんとしている。
メリッサは弱体化した骨が衝撃に耐えられなかったのだと気づいたようだ。
『ポキャッ、パキッ、ボコボコ……』
メリッサと俺はもはや無双状態でどんどんと盗賊たちをなぎ倒していく。
弱体魔術でここまで弱くなるんて……、不摂生な生活送ってるんだろうなあ……。俺は最近出てきている腹の肉を思い出して身震いする。
立っている盗賊のほうが少なくなったころ、そいつが表に出て来た。
「お前らなんだか知らんが、俺の手下達をかわいがってくれたようだな!」
見上げるほどの大男で巨大な両手剣を持っている。その顔はクエストカードに描かれていたものだ。
間違いない、この盗賊団の首魁の男。
シュババッ!!弱体魔術が掛かっているはずなのに、ものすごい勢いで両手剣を振り回す。
ギリギリで何とか躱す。これは強い!
上段からの切り下げを受け流す。その隙をついてメリッサが突きを放つ。躱《かわ》《かわ》される。
ギリギリの攻防が続く。このままでは弱体魔術の効果時間が切れてしまう。
「くそっ!駆け出しとパーティーを追い出されるような役立たずじゃあ、ここまでかよっ!」
何とか体勢を立て直すが、今度はメリッサが吹き飛ばされ倒れこんでしまっている。何かいい方法はないのか。
確信は持てないがやってみるしかない。勝てるか分からないが最悪逃げる位の隙は作れるだろう。
「うおおおおおおっ!!!」
雄叫びを上げて突っ込んでいく俺に、盗賊の首魁は向き直る。
脳天をめがけて振り下ろすショートソードだが、盗賊の首魁は余裕の表情で攻撃をうける。
「バカめっ!そんな見え見えの攻撃などっ」
「バカはお前だっ!ライト!!」
俺は両目を硬くつむり、光の魔法を付与した指輪を発動させる。大量の魔力を流し込まれた指輪はまばゆい光を放って砕け散った。王都を出る時に幾つか作った指輪の一つだ。
目をつむっているにも関わらずものすごい眩しさを感じた位だから、それをまともに見つめた盗賊の首魁はたまったものではない。
「くそっ!何も見えねえ!目が目があああああっ」
両目を抑えてのたうち回る盗賊の首魁をメリッサと二人でボコるのはそこまで難しくはなかった。
それを見ていた盗賊たちは、すべてあきらめたのかあっさりと全員降伏した。
盗賊たちを弱体魔術を付与した縄で縛り上げ、クエスト達成報告専用のアイテムを使いギルドに報告を送る。
あとは、衛兵たちが引き取りに来るまでのんびりと待つだけとなった。明日の昼には到着するだろう。
料理が得意といっていたのは嘘では無かった。メリッサはその夜、砦にあった食糧でとても美味い料理をつくってくれた。
「これ、めちゃくちゃ美味いな……。俺も料理は得意なほうだがこんなのは作れないわ……」
「まあ、このくらいは朝飯前よ。夕食だけどっ」
自信満々のキメ顔にちょっとイラっとするが、それも許せるほどの料理だ。
「それはそうと、メリッサって十五歳なんだな」
手酌で酒を注ぎながら言う。ギルドでパーティー結成の書類を書いていたときから気になっていたのだ。
「そうだけどそれが何か?」
「いや、若いよなあと思ってな……」
「ん?もしかしてパパって呼んでほしいの?それともお父さんのほうがいい?」
「あほか!俺が冒険者になったのが十六の時で、Cランクに上がれたのが十八になってからだから」
俺はショットグラスの酒をあおって続ける。
「十五歳でCランクって凄いなと思ってな」
「ああ、そんなこと?これ《冒険者》で頑張るしか生きていけないんだから当然だよ」
それから暫くいろいろと話したが、酔ってた事もあってあまりよく覚えていない。
翌日の昼下がり、駆け付けて来た騎士団に盗賊たちを引き渡す。
「この度の働きご苦労であった。そなたらはラクカーンの街にもどるのか?」
「そのつもりですがなにか不都合でも?」
「いや、どこへ向かうのかだけ聞いておきたかったのだ」
よくわからないが、その場は騎士たちに任せて街へもどる。そうBランクのクエストを達成したことをメリッサと二人でギルドに報告する。それでこそメリッサに敵意を見せていた連中に実力を認めさせることもできる。そして、メリッサも自分に自信を持つことができるようになるはずだ。
そうすればきっとパーティーにも誘われるようになるだろうし、俺とのパーティーを解散してくれるかもしれない。
魔力も戻っていないので帰りは強化魔術をかけることもせずのんびりと歩いて帰る。
俺たちは街に入ってすぐ異変に気付く。ギルド長をはじめとするギルド職員、それに多くの冒険者が待っていた。俺たちはなにかヘマをしたのか?
「スコットさん、メリッサさんおかえりなさい!!」
全員が声をそろえて頭を下げる。いったい何がおこってるんだ?
「誰にもできなかった盗賊団の討伐を立った二人でやるとか、マジスゲーっす!」
「軍部による三度の討伐遠征でも落とせなかったってあいつらをどうやって!」
「領主様からも祝宴を設けるから出席せよとお達しが来てますよ!」
「メリッサさん今までさーせんでした!これからは姐御とよぶっす」
賞賛の言葉を口にする冒険者やギルド職員達。俺には何が起こってるのかさっぱり理解できない。メリッサは顔色を変えて俺の腰袋からクエストカードをひったくると食い入るように見ている。
「なんでこんなことになってるんだ?たかがBランクの盗賊団討伐だろ?」
「なに言ってるのよ!よく見なさいよこれSランクだよ!!」
そう言ってメリッサがクエストカードを見せつけてくる。よくみてみると汚れれてBに見えるが、確かにSランクって書いてある……
それから街を挙げてのお祭り騒ぎが三日三晩にわたって繰り広げられることになった。
初投稿作品です。面白いなと思って貰えると嬉しい。
毎日更新で頑張りたいと思っています。
気が向いたら応援よろしくお願いします。




