すごい!ぴかぴかなん!!
俺とメリッサはトニーに聞いた鬼羊の生息地へと来ていた。こいった動物にしては珍しく猟師などが狩ることも無いらしい。毛皮はそこそこ使えるが肉は臭くて食べられないらしいことと、気性が荒くタフな動物なのでかなりの危険を伴うというのが理由らしい。
強化魔術をフル活用して楽に来ることができたが、そうでなければたどり着くまで二、三日はかかるであろう険しい山の奥地にある生息地には話通りの巨大な羊がぽつりぽつりと居た。縄張りを持っているらしくお互いに縄張りを尊重しあって生きているらしい。
「想像以上に大きくて迫力ありますね……」
「本当におっきいん!」
「エルフの国に居た象よりでかいな……」
本当に気性が荒いようである程度近づいて縄張りの範囲に侵入すると威嚇してくる。倒せない事はないが無駄に殺す必要もないので縄張りに入らないように気を付けながら探す。
「揃いもそろって灰色しかいねーな」
「そうですねえ……」
結局、二百頭程の鬼羊を見て回ったのだが見分けをつけるのが大変な位同じような羊ばかりで七色どころか灰色以外のものは一頭もいなかった。
「ここには居ませんでしたね」
「居ないな…… あとは目撃情報のあったところを見るくらいか?」
「ダメ元ですからね。全部回って探すしかないですね」
「まあそうだな、金貨三枚とはいえ見つからない前提で探し回るのもつらいな……」
街の周りに広がる広大な牧草地。ここでも七色羊をみたという目撃談が結構ある。それは一定の範囲に集中している。もしかしてその範囲に生えている草の種類が影響しているのではないかと考えて見に来てみた。
「普通の草ばかりだな」
「特に他と違うような草は生えてないですね」
「もうお手上げだな」
「そうですねえ……あと四日あるのでがんばりましょう」
それから四日掛けて鬼羊の観察や、目撃情報のある場所の探索を続けたが結局何も見つからないまま時間だけが過ぎて行った。
そして今日がクエストの期限となる七日目。結局、七色羊は見つからなかったわけだ。もう三十年以上いろんな冒険者が七色羊を探したというのに見つかっていないのだから、都合よく見つかると考えたのが間違いだったのかもしれない。
俺たちはやはりこの家で飼われていたなら何かヒントがあるかもしれないと思いトニーの家の厩舎を見に来ていた。隠れて七色羊を飼育していた可能性を考えていたのだが、隠し部屋や特別な施設のようなものの痕跡はみつけられなかった。
「やっぱ見つからねえな」
「そうですね。ここにいる羊たちも普通の白黒灰色だけですもんね」
「えいっ、えいっ!」
ジェームズはまだ指輪を発動できないらしく練習している。みたところもうちょっとで魔力が形になりそうなところまで来ている。ま、子供には難しいかもな。
「そうじゃないんだ。こうやってギュと魔力をあつめて、こうダァッと飛ばす」
俺はジェームズに教えるために指先に魔力を集めてすぐそばにいた灰色羊にぶつける。魔力そのものをいくらぶつけても何の影響も及ぼさないので遠慮はしない。俺の指先から飛んで行った魔力が灰色羊にぶつかった瞬間。
「「あ……」」
俺は自分の眼を疑う。メリッサも同じように声を上げているのだから俺の見間違いではないのだろう。灰色羊に背を向けているジェームズは全く気付かなかったようで不思議そうにしている。
「どうしたのん?」
ジェームズは振り返るが先ほどと同じく三色の羊が群れが柵の中にいるだけであった。
「見たよな?」
「見ました!」
「もう一回やってみるか」
今度はさっきよりも大きな魔力を練って灰色の羊にぶつける。すると魔力が当たったところを中心にして灰色の毛並みがみるみるうちに七色に輝き始める。
「うお、やっぱり変わったぞ!」
「ついに見つけましたね!」
「すごい!ぴかぴかなん!!」
俺とメリッサが喜んでいる間に羊は元の色に戻っていた。そのあと、色々と試してみた結果分かったのは七色になるのは灰羊の中でも雄のみであること、色が変わっている間に毛を抜くと七色のままになること。普通に魔法をかけても色は変わらない事が分かった。
つまり灰羊に魔力を当てて色が変わっている間に素早く毛を刈る必要がある。これが七色羊を誰も見たことがないが毛が存在する理由だった。
俺とメリッサはトニーを連れてきて説明する。トニーは多少は魔法の心得があるらしく魔力をぶつける方法もすぐに習得した。
「まさか七色羊がずっと手元に居たなんて気づかなかったっす……」
タイミングよく刈り取った七色に輝く毛を手にトニーは呟く。
「まあそういう事だ。依頼は達成ということでいいな?」
「もちろんっすよ。ギルドにも七色羊は見つかったと報告しておくっす」
「報酬はギルドで受け取ればいいのか?」
「ギルドには金貨三枚だけ送っておくっす。成功報酬は明後日までに用意するっす」
俺たちはトニーの家で豪華な食事を御馳走になる。前回の食事より明らかに良い食材だし量も多い。
「これがお約束の白金貨っす。確認してほしいっす」
俺はトニーが差し出した革袋を受け取る。だが、何かがおかしい白金貨二十枚にしては重すぎるのだ。
「では、確認させてもらうぞ」
そういって俺は机の上に革袋の中身を出して枚数を数える。
「おい、白金貨が六十枚もあるんだが……」
「約束通り白金貨二十枚を三人分っすけど?」
「「えっ?!」」
俺とメリッサは固まってしまう。当然の事ながらパーティーで白金貨二十枚だと思っていたからだ。
「それとこれも渡しておくっす」
そういってトニーが手渡してきたのは材質は分からないが金属製の黒くて小さな板だった。板全体に羊飼いの図柄が細かく彫刻されている。
「これは?」
「それはうちのグループ全部で通用するカードっすね」
「というと?」
「羊飼いの○○っていう店は大体うちのグループっすから、そこで見せれば色々優遇してくれるはずっすよ」
羊飼いのってつく店ほとんど全部トニーのグループなのか……。ゴジョーカの街にもあったし浮遊島にもあったしエルフの街にもあったぞ……。というか無かった街を思い出せないくらいだ。
「羊飼いの〜ってなんかゴロが良いからみんな使ってるとかじゃなかったんですね」
「いちおう登録してあるからウチしかつかえないっすね」
こともなげに言うが羊飼い儲かりすぎじゃないか……。なるほど白金貨六十枚払うくらいなんでもないはずだ。俺とメリッサはスケールの違いに飲まれてしまって次に何をいうべきか見つけられないでいる。
「あ、そうそう。食事の時にしてた話っすけど……」
「見つかったのか?!」
家の恩人だからなんでも言ってくれといわれたので、黒翼教団の本拠地を探せないか頼んでいたのだ。これだけ大きなグループなら情報網にも期待ができる。
「いえ、まだっすね。とにかくベランメの街にあるのは確かなんすが……」
「それだけでも十分だ」
「とにかく調査は続けてるっすから、ベランメに着いたら羊飼いの憩亭って宿屋に寄ってほしいっす」
「なにからなにまで世話になるな」
俺たちの向かうべき場所はベランメにきまった。ジェームズを送り届けてから教団との最終決戦ができるはずだ。
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