えげつない書類だな
俺たちは朝一番にギルドでクエストを受けトニーの屋敷の前にやってきていた。
「やっぱデカいな」
「ですね……圧倒されちゃいます」
昨日とは別の使用人が出てきて昨日の食堂ではなく書斎のような部屋に通された。俺たちが部屋に入った時トニーは忙しそうに書類に目を通してはサインをしていた。見るからに高価なチークで出来た巨大な机には無造作に書類が積み上げられていた。
「来てくれたっすね。書類は用意してあるっす」
手渡された書類は三枚でご丁寧にもジェームズの分まで用意されていた。内容はいたって普通で七色羊をもし発見した場合でも秘密は守るという一般的なものだ。ただ普通の契約書と違うのはこの書類には特殊な呪いがかけられていて契約を破ると呪いによって死ぬようになっている。
「これはまた、えげつない書類だな」
「そうっすね。お金はかかるっすけど確実なんで」
「書いてる内容普通ですよ?」
メリッサは俺が何を言ってるのか理解していないようだった。
「メリッサこれは呪いの契約書だぞ。契約を破ると死ぬ呪いがかかっている」
「!? 呪いの契約書?聞いたことはありますけど見たのは初めてです」
「まあ、金も手間もかかるからな」
呪いの契約書には名前を書く必要がない、針で指をつついて血で指印を押すだけで完了だ。少し不愉快な魔力の流れを感じた後契約完了となる。メリッサもジェームズも同じように契約する。やはり小さいジェームズは少し痛そうにしていたが泣き出すような事はなかった。
「呪いは高位の神官なら解除できるんで、気になるようなら解いておけばいいっすよ」
「それじゃ、契約の意味がないんじゃ?」
「いや、そんなことは無いぞ。呪いを解くと契約に関する記憶も一緒に消えちまうからな」
トニーは横やりを入れる俺の言葉を肯定するようにうなずく。
「そういう事っす。呪いを解除すると七色羊に関するすべての記憶が無くなるっす」
「だな。じゃあ契約も終わったし話を聞かせてもらおうか」
「そうっすね。皆さんは羊についてどのくらい知っていますか?」
「うーん、食べると美味しい。それに毛を使って織物なんかをつくるっていうくらいでしょうか?」
トニーの質問にメリッサが答える。俺の知識も似たようなものだ。返答を聞いたトニーは苦笑している。
「本当に何もしらないんす。基本的なところから説明するっすわ。まず――」
よほど高度な教育をうけているのだろう。トニーの説明は的確で実にわかりやすいものだった。子供のジェームズでもバッチリ理解できている。
その内容はこうだ。まず一般的に飼育されている羊は黒羊白羊灰羊の三種類である。食肉として優劣はないが、羊毛の質はかなり違っていて太くて長い黒羊、少し細くて少し短い白羊、短くてものすごく細い灰羊。
硬くてしっかりしている黒羊の毛は寝具にむいている。白羊の毛は万能でなんにでも使えて、灰羊のものは細くて肌触りがよいのだが加工も大変で余り流通していないらしい。
「なるほどな。確かに黒いのと白いのは沢山いたな」
「でも灰色はあまりいなかったような?」
メリッサの言う通り灰色の羊はトニーが何頭か連れているのを見た位だった。俺たちの疑問に答える様にトニーが言った。
「そうっすね。灰羊は育てるのも大変なんで。あとは飼育用ではないんすけど鬼羊っすね」
「なんだ?その鬼羊ってのは」
「鬼羊っていうのは飼育用ではなくて山に居る羊っす。気性が荒くて狼を食い殺すこともあるデカい羊っすね」
「そんな話初めて聞いたぞ」
「このあたりにしか住んでないっすからね。で、この鬼羊が――」
トニーの話によると、鬼羊の毛の質が色羊の毛に似ているらしい。灰色羊のものも似ているので、この灰色羊と鬼羊が七色羊の謎を解くカギになるんじゃないかということだった。
「あとはこの資料を読んでみてください。じーさんの時代に働いてた人達の話もまとめてありますんで」
「それともう一つ聞きたいんだが、昨日のエルフの羊飼いは?」
「あいつは、一番の親友だった羊飼いっすよ。もう友情は完全に無くなっちゃったっすけど」
「ならもう安全なんだな?」
「そうっすね」
依頼人に死なれては報酬がもらえなくなるからな。気になる事は確認しておいた方が良い。昔キリアン達と村の近くに出たゴブリン退治の依頼を受けて、クエスト達成して戻るとイナゴの大群で村が全滅してたことがあったしな。
「じゃあ、その資料は持ち出し禁止っすからここで読んでいってくださいっす」
結構な量の資料があるので書斎の隅の方に用意されている椅子の所で目を通していく。俺とメリッサが回し読みしているとジェームズも受け取った資料を見ている。
「文字が読めるのか?」
「もちろん!さっぱりわからないん!」
やはり文字は読めないらしい。俺とメリッサの三倍以上の速さでページをめくっているからな。何となく真似をしてみたいだけなのだろう。資料を読み漁っている間にどうやら昼になったらしく給仕がドネルケバブを持ってきてくれた。パンに食材を挟んでいるおかげで食器も少なく手も汚れないので素晴らしい料理だ。そのうえとても美味い。
食事の後も俺とメリッサは資料を読み続けているが、ジェームズは飽きてしまったらしく俺のやった指輪を発動させようと奮闘している。しかし、その努力は資料を読み終わるまでに実ることは無かった。
資料から読み解けたことはそれほど多くなかった。それはじーさんの時代には確かに七色羊を飼っていたらしいということ。じーさんが亡くなった後どれだけ探しても七色羊は敷地内にはいなかったこと。それともう一つ七色羊の毛を見たものは多いが、七色羊そのものを見た人間はじーさん以外には居ないという事。
「なあ、メリッサどうおもう?」
「うーん、どうなんでしょう?羊そのものを見た人がおじいさんだけっていうのが気になりますね」
「だよなあ。誰も羊そのものを見てないっていうのは引っかかるよな」
俺とメリッサは考え込んでしまう。暫く考えたメリッサが言った内容は俺が考えていた可能性と同じものだった。
「もしかして普通の羊の毛を加工していたとかですかね?」
「それはないっす。どんなに漂泊しても色落ちしないっすし、染色も上手く乗らないんすよ」
それを聞いていたトニーが即座に否定する。まあ普通に最初に思いつきそうなことだし試していない方が不自然な位だな。
「と、いうことはやっぱり」
「鬼羊ってのを探しにいってみるしかないんだろうな」
初投稿作品です。
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