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あの美人さんは元気にしてるかなーと……

 俺とメリッサは近くの村で昼食をとっていた。昨夜はひどい食事だったし朝も食べられなかったのでおよそ半日ぶりの食事だ。すきっ腹にスパイスの効いた料理のせいで食欲がいくらでもわいてくる。それはメリッサも同じのようで俺とメリッサはお互いの皿から料理を奪い合う戦いが勃発(ぼっぱつ)していた。


「わたしのお肉を無理に取らなくても、おかわりを注文すればいいじゃないですか」

「なに言ってんだ。メリッサだって俺の皿から鶏肉奪っただろう」


「あの、お客様なにか問題でも……?」


 あまりにワイワイやっていたせいか店員が様子をうかがいにやってきた。俺とメリッサはこれ幸いと店員に向かって言う。


「「同じメニューもう一セットもってきてくれ!!」」


 流石におかわりを食べ始めるころには余裕が出てきて、俺とメリッサは今後の事を話し合っていた。


「で、あいつらの本拠地ってどこなんだ?」

「どこなんでしょうね?」


 俺とメリッサの会話が全くかみ合っていない。何かがおかしい確認しておく必要がある。


「だから、メリッサはあいつらの本拠地を知ってて、そこへと向かってたんじゃないのか?」

「いえ、全然知らないですよ?」


「じゃあどこへ向かってたんだ?」

「スコットさんやアナスタシアさん達に迷惑を掛けないように、とにかく遠くへ行こうと思って」


 俺は両腕を組んで考える。メリッサの覚醒を狙っている連中が存在しているのはほぼ間違いないだろう。二度目の襲撃の時にメリッサを傷つけようとしたのを止めた事からも間違ってはいないはずだ。しかし奴らの本拠地が分からないとなるとこちらから乗り込んで解決するのは難しくなる。


「うーん、じゃあどうやって本拠地を見つけるかってところから考えないとダメって事だな」

「そうですね。地下組織みたいですから案内とか出てないでしょうし……」


 確かにメリッサの言う通り案内が出ていて即到着って訳にはいかないだろう。そうなると別の線から攻める必要がある。


「もしくはあの暗殺者達を捕まえて聞き出すかだな」

「でも、前は自殺しちゃいましたよ」

「やるってわかってれば止められるさ。口を割るかは別の話だが」

「難しそうですけど……。でも今はそれしかできそうにないですね」


 俺もこれが上手くいくとは思っていないし、暗殺者を捕まえる機会があるのかどうかもわからない。ぐだぐだと考えていても結論はでない。俺はメリッサが最後に食べようと取っておいたであろう鶏肉をフォークで取り素早く食べる。メリッサは好きなものは後から食べる派なのだ。ちなみに俺も師匠も好きなものは先に食べる派である。師匠との奪い合いの歴史で身に着いた悲しいさがだ。


「あっ!それ楽しみに取っておいたのに!!スコットさんひどいです」

「とにかく魔王領域のどこかな事は間違いないんだから、このまま魔王領域へと向かってみるか」


 こうして俺とメリッサの次の目的地は魔王領域ということに決定した。


 


 村を出て二日程経ったが、俺とメリッサはいまだに次の街までたどり着けていない。強化魔術で速度を上げればあっという間にたどり着くのだが、魔術を使わずに歩いているからだ。


 強化魔術を使っていないのにはもちろん理由がある。先生によると強化魔術を普段から使っていると、それに慣れきってしまい体が弱くなるという事だからだ。もしかしたらキリアン達のランクが下がってるのは俺のせいなのかもしれない。あいつら普段は全然訓練してなかったからな……。ま、どうでもいいか。


 この辺りは街と街の中間にあたる上に山間部でろくに農業もできないらしく全く人気ひとけがない。長年踏み固められた街道こそ草も生えておらず歩きやすいが、道端には雑草がびっしりと生えていて代り映えのしない退屈な風景が続いている。せめて遠くの山などが見えれば気分転換になるのだが見えるのは草と木と街道の土だけだ。ふと見ればメリッサも退屈そうに歩いている。


「いい天気ですね」

「そうだな」

「暗殺者も来ないですね」

「そうだな」


 暗殺者たちが襲いやすいようにあえて主要な街道から外れた道を通って旅しているのだが一向に現れる気配がない。襲って欲しくない時にはくるくせに来てほしい時にはこないとか勝手な連中だ。おかげで俺とメリッサは暇を持て余している。


「あの……。スコットさん?」

「そうだな」


 暇だとついメリッサの事を考えてしまう。この若さで過酷な運命を背負っている。可能な限り力になってやりたいし、助けてやりたいが本当に俺の力で大丈夫なのだろうか。万が一の時はメリッサの眼を覚まさせてやることができるだろうか。もし、最悪の状況になった時、俺はメリッサを……


「次の街ではわたしだけ美味しいもの食べて、スコットさんはご飯ぬきにしませんか?」

「そうだな」

「あの、わたしの話聞いてます?」

「そうだな」


 突然、腕を掴まれて思考の海から現実に引き戻される。見るとなにやらメリッサが怒っている……


「全然聞いてないじゃないですか!」

「すまん、色々と考え事をだな……」

「なにを考えてたんですか?」

「う、そのあれだ。そうそう、浮遊島であったあの美人さんは元気にしてるかなーと……」


 殴られた……。それもグーで。


「痛ってぇ!なんだよ。冗談だよ。本当は黒翼教団の事を考えてたんだよ」

「本当ですか?あやしいです」

「本当だって!いやな――」


 慌てて話をでっちあげる。もう一発殴られるとか勘弁してほしい。


「黒翼教団は地下組織なんだろうが、それなりの人数が所属しているわけだ」

「どうしてそうなるんですか?」

「暗殺者を使うにしても、育てるにしてもそれなりに金がかかるからな」

「あ、そうですね。それだけの寄付を集められるなら相当な人数の信徒がいるはずですね」


 適当な話題からでっちあげた話だが、これは意外といい線をついている気がする。


「なら、メリッサを見て黒翼の加護を持ってると気づく人間もそれなりに居るはずだ」

「なるほど、信徒なら知ってるはずですね」

「だろ?暗殺者の口を割らせるのは難しいかもしれないが、一般の信徒なら……」

「聞き出せるかもしれないですね。スコットさん凄いです」


 それから俺とメリッサは色々な意見を交わす。誰でも思いつきそうな方法から、突拍子もないとてもじゃないが実現不可能な方法まで色々と話し合う。良い感じで退屈しのぎになってくれている。


 いい加減アイディアが切れて、毛根に弱体魔法をかけてハゲにするぞって脅して喋らせるとかアホな事を言っている時だった。


 少し先からトボトボとこちらに向かって歩いてくる犬耳族の少年が見えた。犬耳族自体が数が少なく珍しい種族なのだが、それよりも俺を驚かせたのは少年の服にべったりと乾いた血がこびりついていた事だった。

初投稿作品です。


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