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この忙しい時間に邪魔なんだよ

 こんなところで昨日の似顔絵が役に立つとは思わなかった。朝早くから働いている職業の人に見ていないか聞いて回る。普通の街のように城壁などが組まれていれば話が早いのだがロリヤンの街にはそれがない。門番に聞けばどちらの方向へ向かったのか分かるという風にはいかないのが厳しい。


「この似顔絵の娘なんだが見てないか?」

「知らないねえ」


「この似顔絵の娘なんだが――」

「この忙しい時間(とき)に邪魔なんだよ」


「おっさん女に逃げられたんだろ?見苦しいんだよ。うせろ」


 同じようなやり取りを何度しただろう。一向にメリッサを見たという人がいない。まるで霧や煙のごとく消え去ってしまったように感じる。もうメリッサを見つけるのは無理なのだろうか。


「ああ、この子なら難しい顔をして、あっちへ歩いて行ったよ」


 ついに一人の老婆がメリッサを見たと教えてくれた。老婆は魔王領域の方向を指さしていた。まさか一人で決着をつけようとでも考えているのだろうか。


 俺にはメリッサを探すための秘策がある。メリッサが持っている鋭利メチャキ・レールがかかっているあの細剣だ。ある程度の距離であれば剣に込められている術式を感知できる。しかし今のところは全く感じ取る事ができなかった。感知できる範囲の外まで移動してしまっているようだった。


 俺は急いでメリッサが向かったという方向を目指して走り出す。食料品などの買い出しは終わっていないがそれはメリッサも同じはずだ。追いついてからでいいし、いつかのように採集しながら旅をしても良い。とにかくメリッサに追いつくことが一番重要だ。


 強化魔術を使って一気に追いかけたいところなのだが、強化魔術を使ってしまうとメリッサの剣に掛かっている強化魔術を感じ取る事ができなくなる。小さなろうそくの明かりを探すのに、すぐそばでかがり火がごうごうと燃え盛っていたら見つけられなくなるのと同じだ。


 人を見かけるたびに似顔絵を見せて見かけていないか確認する。ほとんどの人は見ていないと答えるのだが、ごくまれに見たと言う人もいる。そのおかげで俺が進んでいる方向であっていることがわかる。日はすでに傾き始めている。


「しかし、まだ魔力が感じられないとは……。あのバカ娘どれだけ本気で逃げてるんだ」


 少しでも早く追いつくために歩き続けているのだが、一向に細剣にかけてある強化魔術の痕跡を感じることができない。もしかして、既にあの黒装束の連中に囚われて連れ去られてしまったのだろうか。不吉な考えが次々と頭によぎる。そろそろ野営の準備を始めるべき時間に差し掛かってきたその時。ついにメリッサの剣にかけた術式を感じることに成功した。


 また逃げられてしまっては元も子もない。俺ははやる心を抑えて魔力を目印にどんどん追いかけていく。もう夜になっているにも関わらずメリッサも歩き続けているようでなかなか距離は縮まらないが確実に近づいている。


「夜くらい休めよな。強情な娘だ」


 愚痴りつつも俺は嬉しさを感じていた。もうすぐメリッサに追いつくだろう。そしてついに魔力の反応がついに立ち止まる。ついに休む気になったかと思っていたら、反応は俺の方に向かって一気に動き始める。何か起こったのに違いない。


 俺は魔力の反応のする方へ一気に加速していく。


「ぴゃあああああああああああっ」


 メリッサの悲鳴が聞こえた。くそっまたあの暗殺者どもでも出たのか?間に合うのか?必死に走る。しかしそこで見たのはメリッサが大量の狼をトレインして走っているという前にも見たような光景だった。メリッサの剣技はかなりのものになっているが、狼の集団戦法相手では分が悪かったのだろう。


 あの時のメリッサと違うのは冒険者ランクが上がっていることと、この距離だとわからないがほんの少しだけだが背が伸びていたことだ。


 何をやってるんだあいつは……


 俺はあの時と同じように魔力を練って狼の群れに向かって魔術を放つ。


重力グラビティ!」


 あの時よりも目に見えて狼の動きは悪くなる。俺はそれを確認してメリッサに言う。


「メリッサ、早くこっちにこい!狼を倒すぞ」


 メリッサが草むらから街道へと出たのを確認すると、俺は用意していた強化魔術の鋭利メチャキ・レールを発動させる。自分の剣に向かってではない、狼たちの周りに生えている草を対象としてだ。


 俺は即座に重力の弱体を解除する。一気に動けるようになった狼は周りの草によって次々と切り刻まれていく。これが先生が教えてくれた本当の強化魔術の使い方。自分に強化、相手に弱体という固定概念こていがいねんにとらわれていた俺には衝撃だったが、よく考えてみればこういうふうに使うのが効率が良い。


 ものの数秒で片付いた狼の群れを見てメリッサは狐につままれたような表情をしている。


「スコットさん何をしたんですか?」

「いや、メリッサの剣にもかけてやった鋭利メチャキ・レールを雑草に掛けただけだけど?」

「だけ、とか言わないでください!大体なんでこんな場所にいるんですか!」

「家出したバカ娘を連れ戻しにきたんだよ」


 メリッサは俺をじっと見つめて……


 バッチーーーン


 思いっきりビンタしてきやがった。


「頭おかしいんじゃないですか?!」

折角せっかく迎えにきてやったのに殴る事は無いだろ!」


 痛む頬をさすりながら文句を言う。


「どうして追いかけて来たんですか!」

「おっさんは一度手に入れたものはなかなか手放さないぞ」


 両手をきつく握って、うつむきながらメリッサは言う。


「あれだけパーティー組むの渋ってたくせに!」

「そりゃいつの話だ?おっさんはもの忘れしやすくてな」


 俺はとぼけた風に答えた。メリッサはうつむいたままいる。


「わたしがどれだけ覚悟を決めて出てきたと思ってるんですか」

「おっさんは空気が読めなくてな」


 メリッサは俺を睨み付けて叫ぶ。


「おとーさんとおかーさんが死んだのもわたしのせいだったんですよ!!」

「そんなの関係あるかよ。俺は家族を見捨てない」


 俺もメリッサの言葉に全力で答える。メリッサはまたうつむいてしまう。


「そんなこと言って前死にかけたじゃないですか!」

「死んでないし、さっきの見ただろ。もうあんな連中になんて負けねえよ」


 メリッサは夜明け前の空のように綺麗な紺色の瞳いっぱいに涙をためて俺を見つめる。


「本当に……いいんですか? 付与魔術の先生が言ってたみたいに覚醒しちゃうかもしれませんよ?」

「ダメなら迎えになんてこねえよ。もし覚醒なんてした時は俺が全力止めてやる」


 メリッサは俺にすがって声を殺すようにして泣く。今までため込んできたものがあふれだしてきたのだろう。この歳で抱えるには重すぎる問題だ俺は泣き止むまで頭を撫でてやるくらいしかしてやれなかった。



 落ち着きを取り戻したメリッサと二人で野営の準備をする。幸いな事に狼肉ならいくらでもある。美味しいものでは無いが贅沢を言っている場合ではない。狼肉と食べられる野草を塩で味付けしたスープを作る。


「やっぱり狼肉なんておいしくないですね……」

「仕方ないさ。何の準備もせずに出てきたからな」


 狼肉は硬く独特のにおいもあって美味しくない。普段なら食べられたものではないのだろうがメリッサに追いついた安心感からか食べる事ができている。


「独りでどうするつもりだったんだ」

「覚醒しちゃえば、両親の仇も討てるかなとおもってました」


 仇を巻き込んで死ぬつもりだったのかこの娘は。俺がかけるべき言葉を見つけられずにいると


「でも、死んで終わりってふうには出来なくなっちゃいましたね」

「あたりまえだろ。メリッサが死んだら俺も師匠もずっと後悔することになるんだぞ」

「ごめんなさい」


 そういうとメリッサはまた黙り込んでしまう。いろんな考えが頭に浮かぶがやがて一つの結論に達する。俺は覚悟をきめて口を開いた。


「行先は決まったな」

「どこへ行くんですか?」

「さんざん娘を泣かしてくれた連中に落とし前をつけさせてやる」

初投稿作品です。


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