諦めてほしいんだが
魔術が使えない今仕掛けてくるなんて…… いくらなんでもタイミングが悪すぎる。化け物のように強い師匠が居てくれたからまだよかったが、俺とメリッサだけだとひとたまりもなかっただろう。
「ハッ!口ほどにもない連中だねえ」
師匠は大身鑓を変幻自在に操って五人の敵を責め立てる。師匠の鑓術は相手にすると鑓が伸縮しているような感覚を受ける。柄を手の内でうまく操る事で間合いを外すのである。斬り殺すだけでいいならもう決着はついていてもおかしくは無い。しかし殺さず捕らえようとしているせいで精彩を欠いてしまっている。
「今度こそスコットさんを守り切ってみせる」
メリッサも二人を相手に上手く立ち回っている。流石は毎日師匠と練習しているだけのことはある。俺は残る一人を相手にしているのだが俺の剣技ではなんとか防戦するのがやっとといったとろだ。ほんの少しでも気が逸れると負けてしまうだろう。
「チッ!あたしが斬られるだなんてな」
飛びのいた師匠が吐き捨てる様にいう。斬られたとはいっても左のツインテールの先を掠めただけなのだが、師匠にとってそれはあってはならない事だった。距離を取ったのにあわせて暗殺者たちは陣形を組みなおす。師匠を最大の脅威とみて先に倒すことにしたのだろう。
俺が相手をしている暗殺者も距離を取る為に飛び下がる。この一瞬の隙こそおれが待っていたタイミングだった。
「火事だ!!!!」
俺は大声で叫ぶ。素直に暗殺者だなんていったら怖がって誰も出てこなくなってしまう。しかし火事なら見に来ないわけにはいかない。そして暗殺者は目撃されるのが最も困るはずだった。
「チッ面倒なことを……」
片腕の暗殺者はそういうとほかの暗殺者と共に連携を極めた攻撃を繰り出してくる。息をつく暇もない見事な連携に流石の師匠も防戦一方となる。メリッサが師匠のサポートに向かい同じように連携を取って戦う。旅に出てからずっと師匠に剣技を教わっていただけあって暗殺者に劣らない連携を見せる師匠とメリッサ。じわじわと優勢になっていく。
俺が相手をしていた暗殺者が何かを投げる。それは俺に向かってではなく師匠とメリッサの方へと向かって飛んでいく。
「痛っ!」
がっくりと膝をつくメリッサ。この致命的な隙を手練れの暗殺者達が逃すはずはない。既にメリッサにむけて刀は突き出されようとしていた。ゆっくりと流れていくように感じる一瞬の中で今まさにメリッサの命は奪われようとしていた。俺がもっと剣が使えれば!俺が今強化魔術が使えれば!そんな後悔ばかりが脳裏をよぎる。
「止ッ!」
片腕の暗殺者の声でメリッサに止めを刺そうとしていた動きが一瞬止まり連携が崩れる。その一瞬の隙をついて師匠は二人の暗殺者を弾き飛ばす。弾き飛ばされた暗殺者二人は鑓の石突でしたたかに急所を突かれている為気を失ってしまっているようだ。
もうずいぶんと人の気配が近づいて来ている。時間切れを悟ったのだろう暗殺者達は倒れている二人を残したまま闇に吸い込まれるように消える。とにかくこれで情報が得られるはずだ。上手くとらえてくれた師匠には感謝だな。
「師匠のおかげで助かった」
「逃げられたのは面倒だねえ」
「どうして私を殺すのを止めたんでしょう?」
「どうなんだろうな。先に師匠を狙ってたからじゃないのか?」
「さあね。何を考えているかなんてわからんさね」
師匠の打撃に気を失っている暗殺者を手早く縛り上げ、隠し持っていた武器類をすべて取りあげる。集まってきた人たちに事情を説明し衛兵を呼んで貰うように頼んでいると。
「グッ……」
「カハッ」
うめき声をあげたかと思うとガクガクと震え始めた暗殺者達。俺たちが駆け寄った時には既に息絶えていた。暗殺者達は自決用の毒を口内に仕込んでいたらしい。手に入るはずだった情報を得ることはできなくなってしまった。二度も襲ってきたのだ。必ず三度目もあるだろう。気を引き締める必要がある。
暗殺者の襲撃から何日か経った。意味があるのかはわからなかったがセキュリティの高い宿に移ったし、夜間の出歩きは一切していない。昼に出歩く場合でも常に三人で武器を携帯している。そういった対策が意味を成しているのかそれとも諦めたのかはわからないが、あれからは何事も起きずに過ごせている。
そんなある日王の使者だった執事風の男が訪ねてきた。前回は荷物持ちの下僕を連れていたのだが、今回はびっくりするくくらいの巨乳美女が傍に控えていた。相変わらず大仰な喋り方をする男だ。
「暗殺者に命を狙われたそうで。お見舞いを申し上げます」
「よく調べてるな」
「ええ、あのお方がご執心ですので」
「諦めてほしいんだが」
執事風の男は隣の巨乳美人にうなずくように合図する。
「キングちゃんから、スコットさんを満足させてあげる様に言われてきたの」
「満足というと?」
「あら?女が男を満足させる方法なんてひとつしかないでしょう?」
どうやらこの巨乳美女は超高級娼婦のようだった。態度を決めかねている俺に向かって執事風の男が表情一つ変えずに言う。
「あのお方からのお見舞いでございます。既に料金は支払ってございますので。ご堪能下さいませ」
メリッサがすごい勢いでやってきて俺とその超高級娼婦の間に割って入る。
「は?スコットさんにはそんなの必要ありませんから!帰ってください!」
「あら?それを決めるのはあなたじゃなくて彼でしょう?」
高級娼婦はメリッサを押しのけ俺の腕にだきつくと、圧倒的なボリュームの胸を押し付けてくる。
「ねえ、わたくしにご奉仕させてくださいますよねえ?」
久しぶりに味わう素晴らしい感触だ。メリッサは反対の腕を引いて引きはがそうとしている。
「絶対ダメです!許しませんからねっ!!」
「なんなのこの子。妬いてるのぉ?」
「ちち、違います!でも絶対にダメなんです!スコットさんも断ってください!」
メリッサが言いたいこともわかる。あの暗殺者は組織には属しているわけではなく、金で仕事を請け負っている様子だった。
「あの暗殺者達を送ってきたのがあんたの依頼主だって可能性も否定できないからな。名残惜しいが帰ってくれ」
本当にもったいない美人だが諦めるしかないだろう。
「あら、残念。お代はもういただいちゃってるから、気が向いたらお店の方にでもきてね。絶対に満足させてあげるわ」
高級娼婦はそういうとピンクの紙に店のロゴの入ったカードを手渡してきた。これは大切にとっておくことにする。執事風の男はまたいずれ近いうちにと言い残して帰っていた。できればもう関わり合いたくないのだがな。
――
俺たちはエルフの国へと向かう飛空艇に乗り込む。飛空艇のデザインも国によって特徴があり、やはりエルフ国のものは自然を感じさせるナチュラルなデザインになっていた。飛空艇のチケットを取り出そうと鞄を探す。チケットはすぐに見つかったのだが、娼婦のお姉ちゃんにもらったカードが見つからない。帰りに浮遊島を通る時にでも使おうと思っていたのになんという事だ……
「なあ、この前もらったあのピンクのカード見てないか?」
「ソンナノアッタンデスカー。ミタオボエガナイデスネ」
「なんだい、無くしちまったのか。昔からよく物を無くす男だねえ」
名残惜しいが無くしてしまったものは仕方ない。それよりも今は魔術をまた使えるようになることが重要だ。
飛空艇を降りて数日も歩けば俺たちが目指すエルフの首都ロリヤンへとたどり着けるだろう。目的地はもうすぐそこにある。
初投稿作品です。
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