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さすがはあたしが見込んだ子だよ

「暇だなあ……」

「暇ですね……」


 俺とメリッサは宿の窓からぼんやりと外を眺めていた。浮遊島に着いてから十日余り、特に何もすることが無く完全に暇を持て余している状態だ。最初の数日は楽しかった。初めて見るものも多かったし世界中から集まってくる商人達の露店を覗いているだけでも楽しめた。


 しかし、それに飽きてきてからが問題だった。ぱあっとやるだけのお金は無いし稼ぐ事も出来てない。なぜなら浮遊島という隔絶された特殊な環境に加えて各国の王族や貴族も何かと利用することが多いため非常に治安がよい。そのせいで冒険者ギルド自体も存在しないのでそもそもクエストを受ける事すらできなかった。一般の求人もあるにはあるが思っているようなものは無かった。おかげでただ退屈な日々を送るだけになっている。


 ぼんやり空を見ているとメリッサが話しかけてくる。


「そういえばスコットさん」

「ん?なんだ?」

「魔術がまた使えるようになったら、私にも付与魔術を教えてくれませんか?」

「んん…… そりゃ無理だなあ」

「やっぱり他人に教えたくありませんか?」

「そうじゃなくてな、付与魔術ってのは魔力の運用方法が他の魔術とは全然違うんだよ」

「そうなんですか?」

「ああ、そのせいで俺は普通の魔術を使う事はできないし、普通の魔術を使える奴は付与魔術を使えるようにはならないんだ」

「残念です……」


 そんな話をしていると部屋のドアが勢いよく開き、ツインテールを弾ませながら師匠が部屋に飛び込んできた。その無駄に元気な姿にイヤな予感がする。


「なあ!あたしたち三人でバンドやろうぜ!」


 師匠がキメ顔で言い放った言葉は俺の理解をはるかに超えたものだった。


「は?」


「だからバンドだよバンド!なんだいスコット、バンドが何かも知らないのかい?」

「そりゃバンド位は知ってるが、唐突すぎて意味が分からん」

「これだよこれ!賞金もでるんだぜ?」


 自慢気に押し付けて来た紙をみると、それはバンド大会の募集チラシだった。


「はいはい。解散」

「なんでさね?」

「よく見てみろよ。プロアマ問わず出場可って書いてあるじゃないか」


「やってみなきゃ分かんないだろう」

「わかるだろう!楽器なんて一度も触ったことない素人が出てどうする」

「覚えりゃいいさね」

「そんなに簡単に覚えられるなら誰も苦労せんわ。とにかくバンドは却下」


 俺の塩対応にがっくりと肩を落とす師匠。そのうえなぜかメリッサまで「やらないんですか……」とか残念そうに言ってる。もしかしてバンドをやりたかったのだろうか……


「じゃあ、楽器屋に見るだけでも見に行くか?」


「そうこなきゃな!」

「是非行きましょう!」


 俺はノリノリのメリッサと師匠を連れて楽器店を探しにいくのだった。


「いらっしゃいませ……」


 店員は微妙な挨拶をしてきた。武器こそ帯びていないとはいえ俺たちは一目で冒険者だと分かる風体をしている。普通冒険者が楽器を買うとは思わないだろうし、実際に買うつもりもないのだから仕方ない。


「思ってたよりいろんな種類の楽器があるんだな」

「すごいですね」

「あたしはドラムがやってみたかったんだよ」


 師匠は一目散にドラムの方へと向かっていく。その様子を見て売れるかもしれないと思ったのか、店員の態度がわずかに好意的なものになる。


「お客様、試奏なさいか?」

「もちろんさね!」

「いいんですか?」


 師匠はドラムの説明を熱心に聞きながら準備をしている。すうぅっと息を一つ吸うとドラムをたたき始める。


「ヒッ」

「………………」


 店内に響き渡るのはドラムというより、原初の血を呼び起こすような戦いのリズム。店員は青ざめている。師匠のドラムを聞いているとジャングルの中で部族の戦士に狩られる獣になった気分がしてくる。


「どうだった?」

「迫力はあったな」


 師匠が満面の笑みで嬉しそうに感想を聞いてきたのでとりあえず褒めておく。迫力があった事は間違いないしな。メリッサの方も準備ができたらしくギターを構えている。

 選曲がちょっとどうかと思うジャンルの音楽だったが、激しい早弾きのソロも完璧に弾きこなしギターが歌っているかのようだ。


「これは上手いな」

「さすがはあたしが見込んだ子だよ」


 音楽の才能がいつ見込まれたのか知らないが、メリッサの演奏は楽器店の店員も聞きほれるほど見事なものだった。


「どうでした?」

「楽器ができるなんてな。驚いたぞ」

「えへへ」


 メリッサの演奏にもしかしたらバンド大会もやれるんじゃないかなと思う。そんな淡い希望は提示された楽器の値段を知って現実に引き戻された。冷やかしだけというのも悪いし、メリッサと師匠に一つずつハーモニカを買う事にした。俺のおごりで先日の金貨の残りで支払う。


「いい暇つぶしにはなったな」

「そうですね。久しぶりにギターに触れて楽しかったです」

「絶対優勝できると思ったんだけどねえ」

「たとえ優勝できたとしても楽器代の足しにもならんぞ」


 万が一師匠の言うように優勝できたとする。しかし賞金では必要のなくなった楽器の買い取り価格との差額を埋める事すらできないだろう。だからといってギターやドラムを持って旅するわけにもいかない。ギターを弾きながら現れる冒険者とか想像するだけで寒気がするぜ。


 宿に戻る前に市場によって露店で浮遊島の名物となっている。リンゴを使った焼き菓子を食べる。たっぷりのリンゴにレーズン、それとレモン汁を加えパンの粉で練ってシナモンを効かせた具を、紙のように薄い生地で包んでこんがりと焼き上げたものだ。果物の酸味とシナモンの風味が甘いお菓子でありながらさっぱりとした後味で旨いのである。


 今日の露店のものはシナモンが少し強めであった。店ごとに味が違っていてそれを比較して回るのが意外と楽しいし、お金もかからないのがよい。俺は割と好きな感じだったがメリッサと師匠の舌にはもっと甘いものの方が良かったようだった。


「あそこの角にあったお店の方が美味しかったですね」

「だねえ。あのさっぱりとしてるのに濃厚な甘みが忘れられないねえ」

「そうか?俺は今日の甘さ控えめのも割と好きなんだが」

「ええー、スコットさんの味覚変ですよ」

「そうさね。今日のは最下位さね」


 ワイワイとお菓子談議に花を咲かせなが歩く。普段の旅では考えられないくらい平和な一日だった。これもすべてこの浮遊島の治安が良いおかげだ。このまま何もなく浮遊島を離れる日まで過ごせればいいのだが。


 宿に戻ると俺たちの帰りを待っている人物がいた。高価そうな服を身に着けたその男は大仰な動きで頭を下げる。


「スコット・クラーク様にメリッサ・ハルトマン様で間違いありませんね」

「ああそうだが。あんたは?」

「とある高貴なお方の使者として参りました。御同道をお願いいたします」

投稿を再開します。


まだまだ毎日更新がんばります。

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