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アナスタシアさんには内緒ですからね

「喋るスケルトンとは面白い。けど骨は骨さ、あたしに任せときな」


 そういうと師匠は大身鑓(おおみやり)を構える。


「子供相手に振るう剣など――」

「成仏するんだね!」


 言い終える前にスケルトンは粉砕される。文字通り粉になる何度斬りつければそんなことになるのか想像もできない。


「これだけ細かくしとけば流石に復活はしないさね」


 どや顔の師匠の後ろで骨が再生してスケルトンは復活する。いったいどういう事なんだ?


「騎士たるものが、子供に負けるなどあってはならんのだ……」

「じゃあ次は私が。決闘したいんだよね?このホネ」


 今度はメリッサが剣を抜いて構える。メリッサは決闘の手順を正確に行ってから斬りかかる。


「うわっ、弱っ……」


 崩れたスケルトンはまたしても組みあがり復活する。


「なんでー?ちゃんと決闘したじゃない?」

「女に弱いと言われるなど男しての面目が立たぬ……」


「じゃあ俺がいってみるか」


 師匠とメリッサが戦っているのを見て感じていた事だが、実際に戦うとはっきりと分かる。このスケルトン信じられないくらいに弱い。おそらく冒険者になりたての少年でも楽に勝てるだろう。俺も一応決闘の手順はきちんとやる。しかし、結果は同じですぐに復活してしまう。


 それから小一時間程思いつくことをいろいろとやってみたのだが結局スケルトンは成仏してくれなかった。


「こりゃキリがないな。一旦戻って作戦を練るか」



 軽く金貨十枚のはずがしくじった。三人でとぼとぼと歩いて宿に戻る。昼間でも息が白くなるような高山だというのに今は既に深夜である。ホネ退治に失敗してることもあって余計に寒さが身に染みる。それはみんな同じようでメリッサはもちろん、いつも元気爆発している師匠すらも背中を丸めている。


「あっ!スコットさんあれ」


 メリッサが指さす方をみると、ラアメンと書いた赤い提灯ちょうちんをだした露店が見える。まさかあのラアメンなのか?


「あのラアメンなのか?これだけ寒いと食べたくなるな」

「ですよね。私も食べたいです」

「なんだいそのラアメンってのは?あたしはそんなの食べたことないよ!」

「食っていくか」


 暖簾をくぐって露店をのぞいてみると、やはりウバースの街にいたラアメン屋の店主がいた。向こうも俺たちの事をおぼえていたようだ。


「奇遇だな!こんなところでウバースの英雄に再会できるなんて」

「俺達の事を覚えてるのか?」

「当然さ。故郷を救ってもらったお礼だ。なんでも好きなものを頼んでくれ!」


「なんでもいいのかい?なんだか旨そうな匂いがするねえ」

「おうよ!お嬢ちゃんたちも好きなのを食べていきな。もちろんお代はいらねえ!」


 実際には俺たちがやったのは、ヒフキドリ騒動を起こして火事場泥棒をしようとしてた連中を捕まえただけなんだが。まあ折角タダで良いと言ってくれているのだからここは好意にあまえておこう。


「このミソチャアシュウメンというのを貰おうか」

「私は前とおなじラアメンで」

「あたしはミソチャアシュウメンとラアメンどっちもだ!」


 相変わらずの手際の良さで次々とラアメンが完成されていく。こういった熟練された職人の手さばきというのはどれだけ見ていても飽きない。


「へい、おまち!エルフの姉さんは食べきれなかったら気にせず残しちまいなよ」

「相変わらずほれぼれする位に見事な調理だな」

「旦那、褒めてもなんもでませんぜ」


 挨拶もそこそこにして、チャアシュウメンをむさぼるように食べる。この寒空の下熱々と湯気を立てるチャアシュウメンはまさしく絶品だった。それはメリッサも同じのようで背中の翼がまるで昇天しようとしているかのようにパタパタし続けているし、師匠も目をキラキラさせてがつがつと食べている。


「そういえば店主、ついに旅に出たんだな」

「旦那たちがウバースを救ってくれたと知って、俺っちも負けてられないと思いやして」

「なるほどなあ。俺たちは気に入ってるがラアメンの評判はどうなんだい?」

「俺っち自慢のラアメンですぜ?大評判でさあ」

「それはすごいな」

「これもすべて、二万を超えるヒフキドリの群れから街を守ってくれたおかげだ」


 変な噂の出所はお前かよ!このままじゃラアメンと共に世界中に変な噂を広められてしまう。


「いや!違うぞ。俺たちはヒフキドリとは戦っていない。泥棒を捕まえただけだ」

「へえ、そうだったんですかい」

「ああ、そんなヒフキドリとの戦いなんて無かった」

「あっしら市民は避難してましたからねえ」


「そういう事だ。変な噂を流すのは勘弁してくれ」

「でもまあ街を救ってくれたことは間違いないわけですし、ヒフキドリと戦ったって方がウケがいいんで!」

「だからダメだって!」

「だったらまあ一万羽位にしときまさあ」


 ダメだこのおやじ早く何とかしないと。助けを求めようと隣を見るが、メリッサは相変わらずラアメンに夢中で話を全然聞いていない。師匠の方は聞いてはいるようだが面白がってる様子だ。もう諦めるしかないんだろうか……


「あ、そうだ旦那達。これも試してみてもらえやせんかね?」

「なんだこれは?香ばしい香りが旨そうだな」

「新メニューのギョウザでさあ。なにかラアメンに合うものをといろいろ考えてやして」


 おやじが出してきたギョウザは白くて薄い小麦の皮でひき肉に野菜などをつめたものを焼いたシンプルな料理だった。説明通り酸味の利いたたれをつけて食べる。カリっとした皮のなかからとろりと肉汁が口の中に広がる。たれと野菜の甘味たっぷりの肉汁のバランスが絶品で、ラアメンにこの上なく合うと思えた。師匠もメリッサも試しているが同じ感想のようだった。


「あたしの知らない美味いものがまだあったなんてね。損した気分になるさね」

「気に入ってもらえたようでなによりでさあ。で、旦那たちこのメニューいけると思いますかい?」


 聞くまでもなく満場一致の「アリ」の判定だ。結局おかわりを要求して俺とメリッサは二皿、師匠に至っては五皿もギョウザを食べた。このおやじ本当にラアメンを世界中に広めそうだな……


 うまい食い物で機嫌を良くした俺たちは、幸せな気分で宿へと戻っていくのだった。




「忘れるところでした!あのホネさんどうしましょう?」

「あのホネ面倒くせえよなあ……」


 時間をかけて分かったことは『倒してもすぐ復活する』『しゃべる』『記憶はすぐなくなる』『満足のいく決闘を求めている』といったこと位だ。


「心を折っちまうのが手っ取り早いんだけどねえ。あたしでも無理だったからね」

「割とすぐ記憶が飛んじゃってましたからねえ。一回しか負けてないと思ってるんでしょう」


 復活するアンデッドを倒す方法はいくつかある。一つ目は復活しなくなるまで倒す。二つ目は復活する意思を折る。三つ目は現世への執着心を満足させる。だいたいこの三つが主流になっている。聖水などを使った浄化は一つ目の方法ということになる。


「満足のいくような決闘をさせてやるしかないのか?」


「まあそうさね」

「でしょうね」

「つまり、あたしとメリッサちゃんには出番がないってことさね」


「それじゃ俺一人で働く事になるじゃないか」

「あたしとメリッサちゃんは邪魔にならないようにショッピングでも楽しんでるさね」

「おい!それで報酬はどうなるんだ?」

「スコットさんたちが飲み食いしたせいなんですから、路銀にするに決まってるじゃないですか」

「そういうことさね。せいぜい上手く負けてやるんだね」


 こうして俺一人だけが面倒くさいことをやる羽目になってしまった。そのうえ失敗したら路銀が足りなくなるというおまけつきだ。せめてギルドの規制が緩和されて複数のクエスト同時受託ができる様になればなあ。今度提案してみよう。



 夜になり館へ向かう。勝ちを譲ってやれば満足するのではないか。そう考えていた俺は適当に打ち合った所で負けを宣言してみたり。役者のようにやられてみたりした。


 だが、これはスケルトンを怒らせるばかりで上手くいかなかった。演技するならもっとうまくやれとか言われるし腹の立つホネだ。意味もなく三百回位砕いておいた。


 俺はラアメンと新製品として正式にメニューにのったギョウザを食べてから宿へと帰る。宿に帰り着いた頃にはもう朝になっていた。部屋では師匠とメリッサは何やら楽しそうに今日どこを回るか相談している。だが、俺は夜に備えて寝る。


 勝ちを譲る作戦はうまくいかなかったので、今日はギリギリで俺が勝つという方法を試してみようかと考えている。夕方に起きてから師匠とメリッサに相談してみたところ、二人とも賛成してくれていたのでうまくいきそうな気がする。


 適当に何度か打ち合ったあと、スケルトンに止めを刺す。どうやら手抜きで打ち合っていたのがバレているようで怒っていた。


 今度はうまく演技をしてギリギリ感を出しながらスケルトンに止めを刺す。


「コレをモトメテイタ……」


 おっ。なかなかいい感じの反応じゃないかな。この調子で押していけばうまく成仏してくれそうだ。俺はスケルトンの攻撃パターンを徹底的に覚えて剣舞の型のようなものを作り上げていく。もう少しで納得してくれそうなのだがなかなかに難しい。


 結局スケルトンを退治できなかった俺は、チャアシュウメンとこれは外せないギョウザを食べてから宿へと帰る。宿に帰り着いた頃には昨日と同じくもう朝になっていた。師匠とメリッサは何やら楽しそうに昨日の買い物の成果を話している。だが、俺は夜に備えて寝る。


 昨日一日かけて、スケルトンの動きは完璧に覚えたつもりだった。しかし、なかなか思うように戦えない。無駄な時間がながれていく…… あと数時間で朝になり飛空艇に乗らなくてはいけない。本当のラストチャンス…… 俺は息を整え精神を集中する。


 メリッサから借りている細剣でスケルトンの攻撃をギリギリで受け流すが、躱しきれず頬に一筋の傷が生まれる。スケルトンは次の一撃を放つが俺はうまく飛びのいて避ける。大振りだった攻撃の隙をついて俺が鋭い突きを放つが間一髪スケルトンの肩をかすめるだけに終わる。


 永遠とも思える一瞬を争う斬り合いが続いていくが、その決闘にもついに決着がつく時が来た。スケルトンの放った渾身の突きを俺の剣は見事に逸らし、そのまま切先はスケルトンの心臓の在ったであろう場所に吸い込まれる。


 がっくりと膝をつくスケルトン。


「よき決闘であった……」


 そうつぶやくとスケルトンは音もたてずに崩れては、キラキラと光と放ちながら跡形もなく消えていく。クエスト完了だ。


 飛空艇のでる船着き場へ向かう途中にクエスト完了の報告に向かう。ギルドのカウンターにいたのは魔除けのおばさんではなく、土下座姿の美しい職員の方だった。


「えっ?本当にあのスケルトンを退治しちゃったんですか???」

「そうだよ。すっごい苦労したけどな」

「もう何年も退治できなくて、いっそのこと素人でも楽しめる魔物退治っていうアトラクションにしようって話もあったんですよ」

「そんな依頼を回したのか?」

「イエ!スコットサンナラキットタイジデキルトオモッテマシタヨ」


 そんなことは一つも思ってなかっただろうが報酬はきっちりいただくから問題は無い。メリッサは受け取った報酬の中から一枚の金貨をこっそりと俺に渡して耳打ちするように小さく言った。


「アナスタシアさんには内緒ですからね」

申し訳ありませんが年末年始に入りますので、次回更新は2019年1月5日を考えています。


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