二人ともそこに正座!!
「もう我慢の限界です。二人にお話があります」
起き抜けにそう言われた俺と師匠は、その真剣な表情のメリッサに注目する。
「一度の食事代に金貨の単位で支払いなんて……わたしは初めてです」
「なんだそんなことか、あれだけの料理に酒だし普通だろ」
「そうだよ、ドラゴン肉の希少部位なんかを使った料理だったらもっとするさね」
「そういう事を言ってるんじゃないです!二人ともそこに正座!!」
あまりの剣幕に俺と師匠はついメリッサの言う通り正座してしまう。その様子をみてメリッサは満足そうに話を続ける。
「二人があんな勢いで飲み食いするせいで、路銀がもうありません」
「いやいや、まだ旅立って一週間だぞ。そんなすぐに無くなるわけないだろう」
「あたしが出した分も合わせて金貨十枚はあっただはずだよ」
「二人のせいでもうありません!どうしてそんなに無駄遣いばかりするんですか」
「久しぶりの旅なんだ、各地の美味い物堪能しないと罰があたっちまうよ」
「俺は悪くない、師匠の胃袋が底なしなせいだよ」
「なに言ってんだい!あたしと同じくらいはあんたも飲み食いしてるだろう」
「師匠が旨そうな酒や料理楽しんでるのに、指を咥えて見てるだけとかありえないだろ」
「あんたは弟子だから見てりゃいいんだよ。それと、師匠じゃなくておかーさんと呼べ!と言ってるだろ」
パンッとメリッサが手を叩く。俺と師匠は言い合いをやめてメリッサのほうへと向き直った。
「無駄遣いをやめてくださいと言ってるんです」
「すまなかった」
「わかったよ」
確かにメリッサの言う通り出費は抑えないとまずいだろう。師匠と旅する懐かしさと魔術が使えなくなったストレスで少しおかしくなっていたのかもしれない。
反省している俺とは違い師匠はあまり気にしていないようで、「こりゃあんた尻に敷かれるね」などとつまらないことを呟いている。メリッサは呆れたような表情をして俺と師匠に宣言する。
「そういうわけで、お金を稼がなければいけません」
クエストを受けることになった俺たちはピークポートのギルドに向かって歩く。ピークポートという名前の通り高山にある街で、浮遊島へと渡る飛空艇の出る港町として発展している。高山のせいで季節はまだ秋だというのに息が白い。
「次の浮遊島が来るまで後四日くらいだったか?」
「うん。確かそのはず」
「四日もあればそれなりに稼げるさね」
いくつかある浮遊島は大陸の上を一定の周期で回っている。エルフたちの故郷は魔王領域を挟んで大陸のほぼ反対側にある。そこへ向かうには浮遊島をつかって行くのが一番手っ取り早い。それに間に合うような良いクエストが出てるといいのだが。
どこの街でも大通りというのは商人でにぎわっているもので、この街でも例にもれず各地から集まってきた商人たちが軒を連ねていた。
「おい見ろスコット!珍しい酒を売ってるぞ!!」
「おお、ありゃ噂に聞く銘酒だな」
「ダメですからねっ!」
さっそく屋台に向かって歩き始めていた師匠だが、あっさりとメリッサに捕獲されてしまう。酒はあきらめた師匠だがすぐに別の屋台に目をつける。
「お!芋だ!焼き芋が売ってるぞ」
「焼き芋くらいならまあ」
三人分の焼き芋を抱えて戻ってきたメリッサは、俺と師匠にも栗の入った紙袋を渡してくれる。
「俺は芋はなあ……」
「そうか、じゃああたしが食べてやろう」
いうが早いや師匠は俺の持っていた紙袋をひったくる。師匠はもちろん俺が焼き芋苦手なのを知ってる。だから最初から二人分食べるつもりでメリッサには言わないで置いたのだろう。どこまで食い意地が張ってるんだこのちびっ子は
師匠は皮ごとがっつくように、メリッサはときどき翼をぱたぱたさせては、丁寧に皮をむいてからふうふうと冷ましながら焼き芋を食べている。こんなちょっとした食べ方にも性格の違いが見て取れるのは面白い。なんと、二つも食べたくせに焼き芋を食べ終えるのは師匠のほうが早かった。
ギルドは大通りから少し離れた場所にある。これもどこの街でも変わらない事で、地価が少しでも安い場所が選ばれる事が多い。俺たちはクエストが張り出されている掲示板の前へと向かう。さすがにこれだけの規模の大きな街だとクエストも多いようで、掲示板には沢山のクエストカードが貼りだされている。条件にあうようなクエストもいくつかは見つかりそうだ。
「お!これいいな。これにしよう」
そういって師匠は一枚のカードを掲示板からはがして見せびらかす。
「師匠それSランクパーティーのレイド向けって書いてあるじゃないか」
「ただのエンシエントドラゴンの討伐だろ?あたしならソロでもいけるさね」
「ええっいくら何でも無理なんじゃ?」
「金貨百枚超えだよ!こんなおいしい依頼あたしは見逃したくないね」
俺たちがわいわいと騒いでいると、いつの間にかやってきていたギルド職員が師匠の手からカードをひょいと取り上げる。職員はそのまま師匠の手の届かない高い位置にそれを貼りなおすと、かがんで師匠に目線を合わせて「お嬢ちゃん、いたずらしちゃダメですよー」と言った後、俺のほうへ向かって嫌味たらしく、
「いくらSランク冒険者の方でもギルドへこんな小さな子供を連れてくるのは感心しませんねえ」
と言い放った。師匠が肩をプルプルと震わせている。これはまずい!俺は師匠から守る様にギルド職員との間に割って入る。
「師匠!いくらなんでもダメです。落ち着いてください!」
「うるさい!そこをどけスコット!そいつ殺せない」
「殴るだけでもダメなのに何言ってるんですか!落ち着いてくださいって!!」
――五分後
「誠に申し訳ございませんでしたっ!!!!」
師匠を子ども扱いしたギルド職員は見事なまでの土下座を披露していた。
「わかればいいんだよ。じゃあ、その美味しい仕事いただいていくよ」
「いえ、それは無理です」
「なんでさね?」
「Sランクパーティーのレイド以外には依頼できない事になっていますので。こちらのクエストでいかがでしょう?」
そう言って代わりに出してきたカードを見る。そのカードには『Aランク スケルトン退治 金貨十枚』と書いてあった。
「たかがスケルトン退治で金貨十枚って多すぎないか?」
「そうですね。数がすごく多いとかなんですかね?」
「いえ、数は一匹だけなんですが厄介な相手でして……」
ギルド職員の説明によるとスケルトンは一匹だけなのだが、よっぽど強い未練があるらしく倒しても倒しても復活して困っているということだった。
「何の未練があるのか知らないが、復活できないくらい細切れにしてやればいいさね」
「では、こちらのクエストでお願いします」
クエスト受付窓口で手続きをする。受付のおばさん職員はむっすりとしたまま手続きをしていたが、申請用紙に書かれた俺たちの名前をみると驚いたような表情をみせた。
「え?あの有名なスコットさんとメリッサさんなんですか?本当に?」
「なにが有名なのか知らないが名前はあってるな」
「ヒフキドリの群れから街を守った英雄ですよね?!」
「確かにヒフキドリが関係する事件はあったが……」
「そんなに謙遜しなくても!二万を超えるヒフキドリの群れを一人で撃退したって聞きましたけど?!」
「いやいやいやいや、ヒフキドリなんて撃退してないからっ!」
「ご自分の手柄を自慢するどころか隠そうとするなんて!素敵っ!!」
魔除けの石像のような顔で頬をそめるおばさん職員。俺もメリッサも呆れて何も言えなくなってしまうのだった。
その夜、ギルドから渡された資料についていた地図をたよりにスケルトンの出るという屋敷へと向かう。その建物は街の中心部にほど近い一等地にあった。スケルトンが出るのでは建物は値段がつかないだろう。なるほど、報酬が良いのにも納得できる。
どうやら病気で死んだ騎士が、戦いの中で散りたかったという強い思いでスケルトンになってしまったらしい。満足のいく死に方に拘っているせいで普通にパーティーで倒したりすると納得できずに復活してしまうらしい。なんだろうボードゲームで負けるたびにもういっかい!と言い続けるおじさんみたいな感じだろうか。
師匠は言うまでもなくメリッサも暇さえあれば師匠に剣技を習っているおかげでメキメキと腕を上げている。そして俺も魔法が使える様に戻らないかもしれないという危機感から最近は剣や弓を必死に習得中である。一対一でも騎士のスケルトン程度ならなんとかなるだろう。
手入れができないせいで蜘蛛の巣まみれになっている館の中を探索していく。何部屋まわっただろうか元騎士の寝室だった場所にそいつはいた。
「決闘を始めよう……」
そう言うとスケルトンは俺たちに向かってゆっくりと剣を構えた。
初投稿作品です。
まだまだ毎日更新がんばります。
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