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パーティーをクビになったおっさんは、魔族少女と世界を巡る  作者: 内藤 京
第一章 おっさんは、故郷を目指す
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痛っ……

 スコットさんは意識を失ってしまった。スコットさんの左腕に刺さっているナイフを抜く。傷口の周りは既に黒っぽくなってる。きっと毒だ。すぐに毒消しの魔術を掛ける。だけど、私の使える解毒魔術は初歩のものでこれでちゃんと毒が消えてくれるか自信がない。


 こんなことならもっと一生懸命回復系の魔術を勉強しておくんだった……


 じんわりと涙がにじんでくるけど、泣いても何も解決しない。私しかスコットさんを助けられる人はいないんだから。


「そうだ」


 ピルスクの集落で貰った薬があったんだ。たしか鞄のこのあたりに…… あった!


 お爺さんに教えてもらった通り傷口に直接その粉薬を振りかける。そしてもう一度毒消しの魔術をかける。ほんの少しだけどスコットさんの傷口の色が普通に戻った気がする。苦しそうにしていた呼吸も落ちついて来たし、ほんの少しだけ安心できるかな。


「なんとかして運ばないと……」


 ぐるっと周りを見渡すと、ラッキーなことに竹藪があった。スコットさん死んじゃいそうだし全然ラッキーじゃないけど……


 竹を切ってきた私は、前にケガをした猟師さんをはこんだ時のことを思い出しながら簡易的な担架たんかを作る。スコットさんに教えてもらった通りにやるとちゃんとした担架ができあがった。


「よいしょっと」


 スコットさんを担架に乗せると担架を引きずって歩く。強化魔術がかかっていればスコットさんを担いで行けたのだろうけど、今はこれがせいいっぱい。早く街へ連れて行ってお医者さんに見せてあげないと。


「痛っ……」


 なるべくゆっくりと担架を下ろす。手にできたマメを回復魔術で治す。スコットさんの傷口にも解毒魔術をかけた。私程度の回復魔術がほんとうに効果があるのかは分からないけど、そうせずにはいられない。


 夜通し歩いて陽は完全に昇ったけどまだ村は見えてこない。でも、確実に近づいてはいるはずだしもうちょっとだけ頑張ってから休もう。もう何度目かわからないマメの治療をしていると、ガタゴトとなる馬車の音が聞こえて来た。


 馬車のもち主は行商人のマイクさんだった。同じくトサルフに向かうということで乗せて行ってくれるそうでうれしかった。


「困ってる時はお互い様だよ」

「本当にありがとうございます。」

「お礼は荷台の彼が助かった時に商品を買ってくれればそれで」


 馬車は今までのペースを取り戻すように軽快に進んでいく。他の旅人に出会う事は滅多にない田舎だというのに、馬車に出会えた幸運に私は心の底から感謝する。しばらくしてついに村が見えて来た。


 村に入ってすぐのところで畑仕事をしている人をみつけた。私は馬車から飛び降りて話しかける。


「すみません、アナスタシアさんの家。どこか分かりますか?」

「アナスタシアっていうと……ああ、あそこに見えるレンガつくりの大きな家見えるか?あれがそうだよ」

「ありがとうございます。もうひとつお願いしていいですか?お医者様をあの家に呼んでください」

「任せとけ」


 荷台の上で苦しそうにしているスコットさんをみて、街の人はこころよく引き受けてくれた。マイクさんはすぐに馬車を走らせスコットさんの家のほうへをはこんでくれる。



 ギイっと重そうな音を立てて扉が開いて出て来たのは十歳くらいに見えるちびっ子エルフだった。その子は荷台で寝ているスコットさんを見るとびっくりしたような表情をした。


「おい!スコットいったい何があったんだい!!」


 そのちびっ子エルフは荷台に駆け寄ると、スコットさんをお姫様抱っこで抱え上げると奥へ連れて行く。ベッドにスコットさんを寝かせる。間もなくお医者さんもやってきてスコットさんの様子をみてくれた。


「山場は超えてるみたいです、応急処置がよかった。あとは本人の体力次第ですね」


 よかった。スコットさん助かるんだ……今までずっと我慢してきたのに、安心したら涙が止まらなくなっちゃった。


 いつの間にか近くに立っていたちびっ子エルフちゃんが私をじっと見つめている。


「出来の悪い弟子が迷惑をかけたみたいですまない。スコットを助けてくれてありがとう」


 そう言ってぺこりと頭をさげた。


 スコットさんはそれから三日で目を覚ました。


――


 目を覚ますと俺はベッドの上にいた。ベッドサイドに置かれた椅子に座ったメリッサがベッドにもたれかかるようにして眠っている。はっきりとしない頭を振って記憶をたどる。確か暗殺者との戦いで毒の塗られたナイフを受けて……左腕の傷の在った場所を触ると、ずきりと痛むが傷自体はもう塞がっているようだった。


 ここは間違いなく俺の部屋だった場所だ。もう何年もたつというのに家を出たあの時のままになっていた。師匠、そのままにしておいてくれたんだな。メリッサが俺をここまで運んでくれたのだろうか……一人ではさぞ大変だっただろう……


 眠っているメリッサの藍色の髪をなでる。


「命を救ってくれたんだな……ありがとう」


 さらさらとした髪を撫でていると、部屋の扉が開き師匠が入ってきた。師匠は前にあった時と全く変わってなかった。エルフ族はある程度成長するとそのままの姿で長い時をすごす。普通は成人に近い姿で成長がとまるのだが、師匠はなぜかちびっ子の姿のままだ。


「スコット、やっとお目覚めかい」

「師匠にも迷惑をかけたようだ。すまない」

「あんたを助けるのに迷惑もなにもあるかい。それよりスコット。あたしの事はお母さんかママって呼べと何度言えば分かるんだい!」

「それは断固として断る」

「昔はおかーさん、おかーさんって呼んでくれたじゃないか」

「それは師匠と二人でずっと山に籠ってたせいで、常識を知らなかったからだ!おかげでみんなに散々笑われたんだからな」

「よそはよそ!うちはうち!恥ずかしがる必要はないだろ。おかーさんと呼べ!」


 いつの間に起きていたのかメリッサが声を押し殺して笑っている。こんな恥ずかしい話を聞かれるなんて最悪だ。


「もうだめ、面白すぎぃ」


 メリッサは声を上げて笑い出す。ひとしきり笑った後、


「台無しになっちゃったけど、本当に心配したんだからね」


 そういって飛びついてくるメリッサを受け止める。


「心配させてすまなかったな。ありがとう」


 心の底からお礼を言う。あの暗殺者と対峙して二人とも無事だったなんて本当に奇跡のようなものだ。



 それから二日でやっと俺は普通に動き回れるようになった。呼ばれて庭にでるといつになく真剣な表情の師匠が待っていた。


「どうかしましたか?」

「スコット、私に強化魔術をかけてみろ」

「そんなことですか。分かりました」


 いつも通り魔力を練ろうとするが違和感があってうまくいかない。当然、魔術も発動しなかった。


「な……、なんで……」

「やっぱりか……、魔力の流れが変だと思ったんだ。毒の後遺症だろうな」

「これは……治るのか……?」

「毒は完全に抜けているが、どうなるか分からん」


 それだけ言うと、師匠は家の中へと入っていってしまった。ただでさえ必要ないとパーティーを追放された俺だというのに、付与魔術まで失ってしまうなんて。力なくその場にうずくまってしまう。


 俺はふらふらと家からはなれトサルフの村を徘徊する。どの場所にも懐かしい記憶がある。気が付くと村の中心にある御神木の所へきていた。師匠がよくこの樹の魔力は心地いいといって連れてきてくれたことを思い出す。エルフの師匠とちがって俺には樹の魔力なんて感じられなかったがこの場所の雰囲気は好きだった。


 ぼんやりと風景を眺めているとメリッサが近づいてくるのが見えた。


「よくここが分かったな」

「アナスタシアさんが多分ここだろうって」

「なるほどな」


 事情を知っているのだろう、メリッサは何かを言いかけては言葉を飲み込む。しばらくしてやっと覚悟を決めたように言った。


「聞いたよ……魔術使えなくなったって」

「そうか、約束を覚えてるか?」

「うん?どんな約束だっけ?」

「パーティーを組むのは、トサルフに着くまでってやつだ」

「うん、それなら覚えてるけど」

「付与魔術も使えなくなっちまったし解散しよう」

「やだ!」


 拒否するメリッサの言葉に耳を疑う。何を言っているんだろう。役に立たない俺と行動する理由など何もないはずだ。


「なんでだ?付与魔術も使えない俺なんて何の役にもたたないだろ」

「家族だって言ったでしょ!役に立つとか、役に立たないとかないよ!」

「俺が嫌だ!足手まといになりたくない」

「じゃあスコットさんはBランクの私を足手まといだと思ってたの?」

「そんなことは無いが」

「一緒だよ。私もそんなことは思わない。困ったときは助け合うの」


 俺は不覚にも泣きそうになる。十何年求めていたのに手に入らなかった家族のようなパーティーを、俺はいつの間にか手に入れていたんだな。


「イチャイチャしてるところ悪いんだが、魔術また使える様になるかもしれないぞ」


 師匠があきれ顔でそういった。

ついに故郷に戻って、一章終了です。


次回からは第二章に突入します。


まだまだ毎日更新がんばります。

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