ヒトだったころには戻れない
きみで作ったハンバーグ、あんまり美味しくなかったよ。やっぱりあの時の涙がよくなかったかな。お塩が切れてたから涙で代用したんだけど、少し無茶だったね。さっき調べて知ったんだけど、涙って感情で成分が変わるんだってね。きみならこの状況でも喜んでくれると思ったのにな。
まぁいいや、ぼくの技術の足りなさも原因だろうからね。料理って結構難しいんだよ?きみたちってすぐ暴れるし、ちょっとした拍子で死んじゃうし・・・。
あ!いま、さっさと絞めてから調理すればいいのにって思ったでしょ!それはなんか違うんだよな〜。だいたいさ、食材が同種なのに調理する前に殺しちゃうってナンセンスだと思わない?
ぼくの友達でもいるんだ、「先に絞めたほうが楽だよ」って的外れなこと言う奴がさ。でもさ、だったら、それって豚とか牛食べてるのと同じじゃない?
たしかに肉質は全然違うし、臭みだって独特だよ。だけどぼくに言わせれば、そんなのが楽しみたいんなら、猿とか猪食べればいいじゃんって思うんだ。わざわざ法を犯してまで楽しもうとすることじゃない。
・・・じゃあなんでぼくがヒトを食べてるのかって?
それはね、ヒトはぼくと同じ言葉を喋るからだよ。
ぼくと同じ立場で、ぼくと同じ構造をしていて、ぼくと同じ感情を持って、ぼくと同じように泣き叫ぶんだ。ぼくにはそれがどうにもたまらなくって、気づいたら癖になってた。
思えば色んな人を食べたなぁ。全く知らない幼児から身内の老人まで。それはそれは幅広く。
・・・ん?老人も食べられるのって?あぁ、まあ食べられないことはないよ、そこそこ美味しいし。ただちょっと食べる部分が少ないかなって感じ。ま、どうしても味は少し劣っちゃうから、主食としては食べないけどね。
でも多分、人肉マックなんてものがあったら、老人ホームなんか無くなっちゃうんじゃないのかな。なんて、ジョーダンジョーダン。
わかってくれたかな、ぼくのこだわり。だからぼくは削りながら食べる。きみの皮を裂いて肉を切って骨を折って刻んで捏ねて焼いて炒めて揚げて食べる。
あぁ、心配しないで。もし仮に、きみが死んじゃったとしたら、残りの部分に興味はないから、焼いて骨だけ遺族さんに届けてあげるからさ。そうしたらまた、来世で会おうね。
なにも絶望するような状況じゃないよ!
きみ自身、またはぼく自身、何が変わったわけじゃないんだからさ。唯一、きみの立場が「ヒト」から「食材」に変わっただけなんだよ。
きみがもう、ヒトだったころには戻れないってだけさ。